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2004.02.05

セールスは技術開発より難しい [ コラム ]

 皆さん、こんにちは。木村 剛です。
 ついこの間まで、多くの識者と呼ばれる人々が、日本経済に対する過度な悲観論をあおりたてていました。しかし、最近、景気回復を示す明るい材料が目に見えて増えており、こんな日本悲観論は大嘘だったことがはっきりしてきました。机上の空論しか語らない無責任な評論家エコノミストは、ビジネスの世界では何の役にも立たないということです。
 こんな状況を踏まえながら、このコーナーでは、日本の経済や金融などの動きについて、私、木村 剛が実務家の立場で日頃考えていることを書き連ねていきたいと思います。


青色LED訴訟、発明の対価は200億円(ITmediaニュース)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0401/30/news057.html


 ああ、今日もセールスは空振りだった。
 私は「コンサルティング」という商品を売っている会社の社長でもあるので、セールスの調子が悪い日は本当に気分が暗くなる。そんなとき、各新聞の一面を飾ったのが、青色発光ダイオード(LED)の発明を巡る訴訟に関する東京地裁判決だった。
 この判決は、「セールス」というものの本質を考えさせた。


2万円と200億円の基準


 同判決は、青色LEDの特許発明の利益を1208億円と算定し、その上で発明者である中村修二カリフォルニア大学教授の貢献度は50%を下らないとして「発明の対価」を604億円と認定した。このため、特許権を所有する日亜化学工業に対し、中村教授の請求通り200億円の支払いを命じている。青色LEDの特許発明は、中村教授が十分なスタッフが与えられていない状況下、ほぼ独力で成し遂げたもののようだ。それにもかかわらず、日亜化学工業が中村教授に支払ったのは、特許出願時1万円・登録時1万円のわずか「2万円」の報奨金に過ぎなかった。同社は、発明者の貢献度は多く見積もっても5%を上回らないと主張している。

 私は技術者ではないので、青色LEDの特許利益1208億円の妥当性についてコメントするつもりはない。しかし、日亜化学工業の主張はあまりに常識外れだろう。「2万円が常識だ」と言われたら、研究者や技術者は全くやる気が出ない。社員の真摯な努力に対して、たった「2万円」でお茶を濁し、発明から得られる利益は企業が独占するというのでは、開発に向けたモチベーションなど生じるはずもない。

技術とビジネスの現実


 ただし、「発明者の貢献度は50%」と言われると、逆にこれも本当かいなという疑念が浮かばないわけでもない。そもそも「技術」だけでは儲からないからである。モノを売るということは、技術だけではなく、マーケティングやロジスティクスなどの諸々の企業行動がすべて噛み合って、初めて成功するものだからだ。
 ジョン・ウェズリー・ハイヤットという人が貨車の車軸用にベアリングを発明したケースがそれを物語っている。当時の鉄道では車軸に油をしみ込ませたボロを詰めていたのだが、結局、ベアリングを導入するというところまでなかなか到達しなかった。実際、ハイヤットという発明家は鉄道にこだわっているうちに破産してしまったのだ。

 ところがGMを率いることになるアルフレッド・スローン氏は、ハイヤットのベアリング事業を父親に買いとらせて、鉄道ではなく自動車に売るように事業を転換した。2年後に自動車用ベアリングの事業を軌道に乗せるのだからものすごい。その後20年にわたって、ベアリング事業は利益を生み出す打ち出の小槌になったのだ。
 何とも皮肉なことだ。ハイヤット氏はベアリングの発明家であり創業者だ。ハイヤット氏がいなければ、スローン氏がベアリングで成功することは絶対にあり得なかった。しかし、ハイヤット氏は「鉄道」というマーケットにこだわって破産の憂き目に遭い、スローン氏は「自動車」という市場に目を付けて大成功を収めた。
 それがビジネスの現実である。


「貢献度50%」が意味するものとは?


 ソニーを創業した盛田昭夫氏が「この世に初めて出てきた商品には、当然ながらマーケットはない。したがって、新しい商品を開発するということは、同時にマーケットの開拓もしなければならない。そのマーケットの開拓とは、新
しい技術の開発と同様、いやそれ以上に難しい」と言っていたことを思い出す。
 新技術は、経営を成功させるための十分条件ではない。そして、新技術が活用されるマーケットは当初予想もされなかったフィールドであり得る。だからこそ、極めて皮肉なことだが、優れた技術者と優れた経営者を比較すると、同じ技術を扱いながらもその経営結果が大きく異なり得るのだ。技術が素晴らしければ成功するという保証など、世の中のどこにもない。

 被告の日亜化学工業は、判決後に「青色LED等の製品は多くの特許権やノウハウからなっているのに、判決はそれを見落とし他の多数の研究開発者及び企業の貢献を正当に評価していない」、さらに「原告(中村教授)のように、終身雇用・安定収入という企業の中で、破天荒とも言える巨額の成功報酬を請求することは、安定収入と巨額のリスク報酬の二重取りを求めるものだ」という声明を発表している。2万円しか払わなかった日亜化学工業に言われてもあまり説得力はないのだが、その主張の中に見落としてはならない点があることも事実である。

 少なくとも中村教授は、自ら資本を集め、自ら従業員を募り、資金繰りや労務に悩みながら、発明を製品化し、マーケティングし、セールス部隊を叱咤激励し、多種多様な商品をお客さまに自ら提供してきたわけではない。そう考えたときに、貢献度が50%という判断は少し度が過ぎていると感じる面がある。
 もっとも、この日亜化学工業の場合は、ひどい待遇や名誉毀損などに対する慰謝料相当分がかなり含まれているとみるべきだろう。その意味で、この判決は特殊事例だ。今後のベンチマークとして考えるべきではないだろう。

2004 02 05 [04. 経済政策を語ろう!] | 固定リンク

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