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2004.02.27
上場は「買収してもいいよ」という宣言である [ コラム ]
blog に関しては、理想的な草の根ジャーナリズムとして、「いずれ報道機関よりも影響力を持つようになる」という説もあるようですが、自分で ココログを始めてみて、その可能性と発展性を肌で感じるようになってきました。アップした直後から様々なトラックバックをいただくなど、月刊誌や週刊誌とは比較にならないスピードで双方向の情報のやりとりが行われるというダイナミズムは他のメディアにはありません。日々、トラックバックを頂いた方々のご意見を楽しく、かつ真剣に読ませて頂いています。
今日は、最近株式市場を賑わした「ソトー」をめぐる買収合戦の顛末について書いてみたいと思います。
「ソトー」買収劇(読売新聞)
http://newsflash.nifty.com/news/topics/merger/te__yomiuri_20040224ib25.htm
「ソトー」という企業の名前を聞いたことがおありだろうか。最近、日本経済新聞などのマスコミにおいて幾度となく紹介された毛織物染色加工の大手で、東証二部に上場している会社のことだ。
じつはソトーは、無借金経営のうえ総資産の半分以上を剰余金が占めているという優良企業。剰余金が多いという事実は、財務基盤が強いということを示す一方で、配当など株主への利益配分の余力があるということを物語っている。
このソトーという「宝物」に目をつけたのが、米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(以後「スティール」)である。スティールは昨年12月18日、ソトーに対し「明日、御社を公開買付します」と告げ、翌19日、日本経済新聞に「公開買付開始公告」を掲載した。いわゆる敵対的TOB(買収)を仕掛けたのだ。
低価で放置されていた株価
驚いたのはソトーの経営陣である。「突然の話で意図を測りかねている」と漏らした経営陣は大いに困惑し、大和証券グループのエヌ・アイ・エフ・ベンチャーズ(以後「NIF」)と組んで、マネジメント・バイアウト(経営陣による企業買収)という対抗策を打ち出した。
その後は、スティールとNIFの両陣営による買付価格の吊り上げ合戦が演じられた。昨年12月にスティールが公開買付を申し出た際の価格である1150円は、両陣営の相次ぐ価格吊り上げを経て、2月12日にはなんとスティール自身によって1550円にまで引き上げられた。なんと35%の株価引き上げである。それくらいソトーの株価は低値で放置されていたのだ。
事ここに及んで、ソトーはついに方針を転換する。
2004年3月期の年間配当を13円から200円に増やしたのだ。なんと15倍である。そして、2006年3月期までに1株当たり合計500円の株主への利益還元を実施することを決定した。ソトーによれば、「NIFがスティールの買付価格(1550円)を上回る水準に買付価格を引き上げれば、当社の中核事業の資産処分が将来必要になるおそれがあり、それでは安定的・継続的な事業はできない」というのが、配当引き上げの理由だという。
スティールは、ソトーの決定を「歓迎する」というコメントを発表。今回の敵対的TOBは成就せずに終了したが、TOB提案直前には890円だったソトー株は、2カ月後には2.3倍の2065円にまで急騰。スティールは配当増や株価高によって十分な利益を得ることとなった。
敵対的TOBに対するマスコミ報道の変貌
それにしても、今回の敵対的TOBは象徴的な出来事であったと思う。というのは、普段であれば、「ハゲタカ外資がやってきた」とか「外資乗っ取りの恐怖」などと煽り立てるわが国のマスコミが、極めて冷静な対応に終始したからだ。
スティールがソトーを買収する目的は必ずしも明確になっていないが、報道などでは、保有株式数を増やし株主としての発言権を高めることによって、利益配分などを求めることが狙いだったとされている。要するに、資産効率の低い企業に対して相応なリターンを求めるために、公開買付を行ったということのようだ。
教科書的に言えば、敵対的TOBは、非効率的な経営を行っている企業の経営者を交替させる機会となる点で社会的な意義があるといわれている。敵対的TOBを仕掛ける側が現在の株価にプレミアムをつけてまで買い付けを試みるのは、買収した後、その企業の資産をより効率的に運用する能力を有しているからと解釈し得るからだ。
これは、市場原理を貫徹するということに他ならない。
それにしても隔世の感がある。わが国では、敵対的TOBと言えば、80年代後半に起こった米国投資家ブーン・ピケンズ氏による小糸製作所に対するものや、仕手集団コーリン産業による蛇の目ミシン工業に対する敵対的買収を惹起させてきた。マーケットで株式を買い集めた後に、プレミアムを乗せてその会社に買い取りを求める恐喝者たちという評価が一般的だった。脅迫状(ブラックメール)を送りつける「グリーンメーラー」という称号もあるくらいで、評判は極めて悪かった。
近年のケースで見ても、2002年に元通産省官僚の村上世彰氏が率いるM&Aファンドが東京スタイルに対して大胆な株主提案を行った際に好意的な報道は皆無に近かった。しかし、村上氏が仕掛けたことは、じつは、今回のソトーのケースとほとんど同じなのである。貯めに貯めた剰余金を有効活用してこなかった東京スタイルに対して、1株12円50銭だった配当を1株500円にしろと迫ったのが村上氏であった。もしも当時村上氏の行動を批判したのであれば、今回のスティールも批判しなければ論理の一貫性に欠ける。
上場という行為は経営者の
エゴが許されない世界なのだ
その点からみても、今回のソトー買収劇に対するマスコミの報道振りの豹変には感慨を覚えざるを得ない。冷静に考えれば、企業に効率的な経営を迫るという意味で、敵対的TOBに一定の経済合理性は認められ得る。もしも、敵対的TOBが嫌なのであれば、本来上場などすべきではない。上場のことを「ゴー・パブリック(go public)」と言うが、まさしくそれは、会社を個人の所有物から公の所有物――すなわち、誰の所有物になってもよいもの――に変わったということを意味する。その意味で、上場という行為は「買収してもいいよ」という対外的な宣言を意味するのであり、「上場益は自分の懐にほしいけれど、経営権は渡さないよ」という経営者のエゴが許されない厳しい世界なのだ。
今回のソトー買収劇は、わが国でも、市場原理貫徹型の敵対的買収が一般的になっていくという予感を醸成しつつある。いずれ「ゴー・パブリック」ということが、一攫千金を意味するのではなく、会社の運命や経営権の所属を公に委ねる行為であることが理解されるようになっていくだろう。
「自分以外は誰も守ってくれない」というのが、市場原理の大原則である。そうなれば、個々の企業は、自ら敵対的買収への防衛策を構築しなければならない。経営陣が買収からわが身を護る方法はひとつしかない。それは、買収側が断念せざるを得ないような高い株価を維持するということだ。そうなっていけば、わが国の株式市場においても市場原理が貫徹するようになっていく――経営者は心したほうが良い。
2004 02 27 [04. 経済政策を語ろう!] | 固定リンク
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