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2004.03.26

外科手術の前には処方箋を書け! [コラム]

 このところ公的年金問題で[ゴーログ]を騒がせていますが、今週の定例[コラム]では、公的年金における財源不足に対する税源として脚光を浴びている消費税の問題を採り上げてみたいと思います。というのは、本年4月からスタートする「総額表示方式」について論じてみたいと思うからです。

<消費税総額表示 消費者4割が割高感(goo ニュース)>http://news.goo.ne.jp/news/sankei/keizai/20040320/KEIZ-0320-01-03-01.html

 私の手元に、何冊かの本がある。裏表紙を見ると、「定価」として、「1700円(税別)」とか「本体1800円+税」という形で値段が表示されている。私はこれらの本を購入したときに、本体の値段とそれに見合う消費税を支払った。1989年4月、当時の竹下自民党内閣の下で消費税が導入されて以来、われわれ消費者はこの手の表示にはかなり慣れてきているのではないだろうか。ところがそんな状態の中で、この4月1日から消費税に関して、「何を今さら」ともいえる制度が実施される。消費税の「総額表示方式」だ。

取って付けたような「ぎこちなさ」

 財務省のHPを見ると、「消費税における総額表示方式の概要」というトピックスが掲載されている。「総額表示」とは、消費者に対する「値札」や「広告」などにおいて価格を表示する場合に、消費税相当額を含んだ支払総額の表示を義務付けるものだ。総額表示方式の導入に関して、財務省は、こう説明している。
 

現在主流の「税抜価格表示」では、レジで請求されるまで最終的にいくら支払えばいいのか分かりにくく、また、同一の商品やサービスでありながら「税抜価格表示」と「税込価格表示」が混在しているため価格の比較がしづらいといった状況が生じています。
  「総額表示の義務付け」は、このような状況を解消するために、消費者が値札等を見れば「消費税相当額を含む支払総額」が一目で分かるようにするためのものです。
 「総額表示」が実施されることにより、消費者は、いくら支払えばその商品やサービスが購入できるか、値札や広告を見ただけで簡単に分かるようになりますし、価格の比較も容易になります。これにより、これまで価格表示によって生じていた煩わしさが解消され、消費税に対する国民の理解を深めていただくことにつながると考えます。

 この説明を見た瞬間、タイムスリップをしたような錯覚を感じた。というのは、かつて散々議論されたテーマだからだ。
 確かに、コンビニやスーパーで買い物をした際に、レジで消費税額を上乗せされて「おカネが足りないのではないか」と内心ヒヤリとした経験がないとはいわない。しかし、1989年に消費税が導入されてから15年、1997年に税率が5%に引き上げられてから7年も経過している現時点において、「値札等を見れば『消費税相当額を含む支払総額』が一目で分かるようにするため」に総額表示方式を導入しますと言われても、取って付けたような「ぎこちなさ」を感じるのは私だけではないだろう。
 今のようなご時世で、財務省のいうように、「現在主流の『税抜価格表示』では、レジで請求されるまで最終的にいくら支払えばいいのか分かりにくく、また、同一の商品やサービスでありながら『税抜価格表示』と『税込価格表示』が混在しているため価格の比較がしづらいといった状況が生じている」と感じる消費者がどれだけいるのだろうか。

新しいようで古い「総額表示」の議論

 じつは、この総額表示についての議論は、消費税が導入されたときに激しく戦わされたものでもある。新しいようで古い議論なのだ。 
 財務省は、総額表示は消費者の煩わしさを解消し、国民の理解を深めることにつながると言うが、消費税が導入された当初に政府税制調査会(政府税調)が実施した消費税に関するヒアリングでは、大半の消費者団体や個人は、支払った税がはっきりする外税方式を支持していた。また、事業者も「値付けが難しくなる」等の理由で、流通業者を中心に総額表示に慎重な見方が多かった。
 結局、1989年11月24日の政府税調中間報告では、総額表示について、「消費者にとってどのような表示が便利か有益かという観点からすれば、個々の商品の最終的な支払総額が何らかの形で表示されることも一法」と述べるにとどまり、「税額表示は基本的には各事業者が自主的に選択すべきもの」として、表示方式を法律で統一・強制することを否定。この間、じつは主流の学者たちは、「外税方式にすれば、税に対する国民の意識が高まる」として、一貫して外税方式を推していた。
 ところが、今回の総額表示方式の導入を方向づけた、2002年11月19日の政府税調の答申においては、「消費者の便宜のため、価格の総額表示(含む税額明記)が促進されるよう配慮していく必要がある」という一文がしれっと入っている。1997年の税率引き上げ以降、政府税調の答申や報告書類では、全く触れられていなかった総額表示が、「消費者の便宜のため」という取って付けたような理由で、2002年に突然顔を出しているのである。そして、4月からの総額表示義務化においては、いつの間にか政府税調答申にあった「含む税額明記」というかっこ書きも消えてしまった。

真の問題は、総額表示化自体にはない

 こうなると、これまで長期間に亘って、外税方式を通じて消費税の負担を明示していたのは一体全体何だったのかという気がする。このタイミングで、総額表示を義務づけることが、本当に消費者の便宜に適うのだろうか。
 関東圏に展開する家電量販店のノジマは、1月に前倒しで総額表示を実施し、ほぼ全品の税込み価格を従来の本体価格に据え置いた。すなわち、実質、消費税分5%の値下げだが、売上は5%以上落ち込んだという。同社の野島社長は「消費者は税抜き価格と思い込み、値下げに気づかない人が多い」とコメントしたと報じられているが、これは、まさに総額表示によって「消費税相当額を含む支払総額」が一目で分からなくなったという事例だ。1月という時期が早すぎたという点はあるにせよ、現行制度を変更することで、皮肉にも値下げされているにもかかわらず消費者が敬遠するという、「消費者の便宜」とは逆の効果があらわれている。
 マスコミの論調をみると、総じて、総額表示の義務化に反対しているようだ。確かに、ここまで財務省のやり方の胡散臭さが透けて見えてしまうと反対したくもなろう。もっとも、「総額表示によって国民が消費税負担を広く負担しあうという関係が見えなくなるから問題だ」と論じたところで、この問題の本質には迫りきれない。
 例えば、消費税と同じ間接税である酒税を例にとろう。疲れた身体を癒すために、一本220円の缶ビールをグイッと飲み干した時に、「自分はいま80円弱の酒税を払った」と認識する人はまずいないのではないだろうか。つまり、消費税の総額表示化に反対するのであれば、酒税が総額表示(しかも、税額を明記せず)であることに対しても、反対の立場を取らなければならない。しかし、酒税の外税方式を唱え続けているマスコミがいるなどということを聞いたことはない。
 結局のところ、問題は総額表示自身にはない。要するに、総額表示という手法を用いて、消費者に税負担感を抱かせることなく、将来税負担を引き上げていきたいという意向を財務省が持っているということをどう評価するのか——そこに尽きるだろう。総額表示方式の導入が「消費税を国民の目から隠す増税地ならし作戦だ」などという短絡的な議論を何回も蒸し返したところで何の解決にもならない。
 むしろこれを良い機会と捉え、わが国が陥ってしまっている財政赤字問題の深刻さを直視し、この3日間連続で[ゴーログ]において解説した公的年金の惨状についても、どう処方箋を書いていくのかということを真剣に議論したほうがいい。その処方箋を書く過程において、結論として「過去の清算をするためには消費税引き上げしかない」という回答が出た場合には、外税方式であろうが総額表示方式であろうが、いずれにしても受け入れざるを得ないだろう。したがって、よしんば今回の総額表示化が「増税地ならし作戦」であったとしても、冷静に見ると、そのこと自体はヒステリーを起こして騒ぎ立てるほどのことでもないのである。
 じつは、総額表示化に関する一番の問題は、財政赤字問題の処方箋を書かずして、増税という外科手術の準備をしているようにみえるということにある。ちゃんとした処方箋があって、その結果としての致し方ない増税であれば、腹は立つけれど納得のしようがあるかもしれない。しかし、まともに処方箋を描くつもりがないくせに、軽い気持ちで増税だけしようというのでは納得のしようがない。
増税論の前に必要なのは、財政赤字問題の処方箋をどう描くかということである。処方箋のない行き当たりばったりの外科手術は患者の病状を一段と悪化させかねない。

2004 03 26 [04. 経済政策を語ろう!] | 固定リンク

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