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2004.04.02

「広告の奴隷」から「広告の主人」へ [コラム]

 早いもので、「週刊!木村剛」を始めてからあっという間に2ヶ月が経過しました。一昨日には「木村剛とブロガーのオフサイド取引」という一大イベントも開催されましたし、ブログの威力と可能性を楽しんでいるというところでしょうか。
 今日は毎週お楽しみ(?)のコラムの日です。今回は、われわれが無意識に目にしている広告という存在にスポットを当てて考えてみたいと思います。

<電通、日本の総広告費と媒体別・業種別広告費を推定した「2003年(平成15年)日本の広告費」を発表 (日経プレスリリース)>http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=65252

 世の中には広告が溢れている。考えてみれば、好むと好まないとにかかわらず、われわれは生まれた時から死ぬ時まで広告というシャワーを浴びせられて生きているようなものだ。朝起きてテレビをつける。駅に行って電車に乗る。会社までの道を歩く。これだけでも、テレビCM、改札口で配られるチラシ、駅のポスター、電車の中吊り広告、ビルに掲げられた看板等、無意識のうちにそして否応なしに広告はわれわれの視界に入ってくる。
 さてこうした広告は、多くの人にとって、「招かれざる客」なのか、それとも、「喜ばしい来客」なのだろうか。

受動的な視聴者から能動的な視聴者へ

 ソニーの「スゴ録」というDVDレコーダーの売れ行きが好調らしい。デジタル家電全般の販売が好調なことに支えられている面もあるが、これは大容量ハードディスクを使って録画するため、最長200〜300時間もの番組録画ができ、幾つものテレビ番組を簡単に録画できる商品である。しかも、録画の方法が従来と異なり、予め好みのキーワードやジャンル、放送時間帯を設定しておくと、その条件に合う番組を電子番組表から探し出し、どんどん録画してくれるというものだ。

 私も何となくテレビをつけていて、見るつもりではなかったのに最後まで見てしまったというケースが多い。ただし、この「スゴ録」を使えば、テレビの見方も大きく変わってくる。視聴者は、自分が興味や関心を持つ番組のみが録画され、その中からさらに興味がある番組を絞ってみることができるようになる。当然のことながら、今まで何となく見られていた番組のテレビCMは視聴者の目にふれる機会は激減し、録画された番組に付随するテレビCMも消去されるか、とばされることが増えてくるに違いない。
 
 若いブロガーの方々にとっては耳慣れない言葉かもしれないが、「ながら族」という言葉がある。もともと「ながら族」は1958年の流行語で、テレビやラジオの音楽を聴きながら勉強をするのが習慣になった若者たちを指す言葉だった。テレビを見ながら新聞や雑誌を読むことも、「ながら族」に当たると思うが、最近では、テレビを見ながら携帯電話を使用したり、パソコンでインターネットにアクセスしたりする「ダブルスクリーン族」と呼ばれる人も多いらしい。テレビでは自分の興味ある番組や部分だけを見て、後はインターネットに時間を費やすというスタイルだ。こうなると、興味のないテレビCMが流れている時間などは、見ているのはテレビの画面ではなくインターネットの画面ということになってくる。このような変化は、従来、視聴者が受動的な立場にあったテレビというメディアに対して、視聴者が能動的に働き掛けるというポジションにシフトしつつあることを意味している。

広告業界は激変するか?

 このような視聴者の態度の変化を反映して、企業の広告の出し方も変わりはじめている。大手広告代理店である電通が2月に発表した「2003年 日本の広告費」によれば、昨年の日本の広告費は5兆6,841億円と、前年比▲0.3%の微減となっている。興味深いのは媒体別の内訳だ。じつは、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)向けの広告費は対前年比でほぼ横這いという状況の中で、インターネット広告費は前年比40%増となっている。インターネット広告費の額自体は、1,183億円と全体の2.1%にすぎないが、その伸びは他のメディアと比較して圧倒的に大きい。
 
 景気の回復とともに企業の広告費予算が増加する蓋然性もないではないが、企業は消費者態度の変化を反映し、より効果的な広告戦略を模索していくものと思われる。その場合に、インターネット広告は極めてユニークなポジショニングを押さえる可能性がある。インターネット広告は従来のマスコミ4媒体における広告と異なり、バナーの1クリックあたりの単価や、ホームページを訪れた人の中で何人がその企業の資料を請求したかといったコンバージョンレート等が簡単に算出できるため、投下した広告費に対する効果を比較的簡単に数値化しやすいという特徴があるからである。
 
 日本においても、2002年位からいわゆる「キーワード広告」と呼ばれる広告商品のサービスが始まっていると聞くが、これは例えば、ユーザーが「住宅」というキーワードで検索をかけると、「住宅」の検索結果の周囲にそのキーワードに関連したテキスト広告が表示されるというものである。これは、ユーザーが興味のあるキーワードと関連性のある広告が表示されるため、従来のバナー広告よりもクリック率が高いと言われている。
 
 ネット人口が増えるにつれて、こうしたインターネット広告の特質性が認識されるようになり、実際にマーケティングの効果が明確化されるようになってくると、企業の広告も大きく変貌していくのかもしれない。商品に興味がある人無い人を考慮せず大量に広告を露出するマスコミ4媒体における従来のスタイルから、ある程度ターゲットを絞って広告を露出し、広告効果を高めていく手法が主流に躍り出てくるのかもしれない。

「広告の奴隷」状態は続くのか?

 自分に必要な情報をピンポイントで見ていくという消費者の視聴態度と、なるべくターゲットを絞って広告を露出するという企業の広告への姿勢が進展していくとすると、今後の広告というビジネスが気になってくる。
 米国のクリントン前政権の「情報スーパーハイウェイ構想」に多大な影響を与えたと言われている人物にジョージ・ギルダー氏という専門家がいるが、彼の著書「テレコズム」(ソフトバンクパブリッシング株式会社、p404)に次のような記述がある。

テレビの衰退の法則
 高出力で選択肢の少ないテレビは滅びる。テレビは現在、無限に選択肢のあるインターネットの低出力帯域に取って代わられつつある。この法則は、広告に関する次のような結論をもたらす。すなわち、テレビ広告は、アドと言いながら実はプラスではなく、マイナスだということである。同様に、ほとんどのインターネットバナーもプラスではない。これらの広告はいずれ、情報豊かで、相互のやりとりが生まれるような、人々から望まれる広告に取って代わられる。インターネットは顧客に力を付与する。企業は今後、巧妙なレトリックやこざかしい手段で顧客に広告を読ませることはできなくなる。

 今や世界的に大きな広告会社となった、マッキャンエリクソン・ワールドワイドの創始者であるH.K.マッキャン氏は、会社創設の際に「TRUTH WELL TOLD(真の価値を伝達する)」ということを唱えていた。しかし現在、巷に溢れる広告は、肝心の商品の「真の価値」を伝達しているだろうか。もっと厳しく言えば、「真の価値」を持たない商品まで、消費者の無知蒙昧につけこむように不要なものを売りつける手段として、「広告」というものが使われていないだろうか。
 
 消費者が情報武装できなかった過去においては、そうした広告戦略でも企業は生きていけたのかもしれない。しかし、「インターネットは顧客に力を付与する」とジョージ・ギルダー氏が断言しているように、すでに消費者は玉石混交ではあるものの各種の情報で武装しつつある。BBSは玉石混交比率が高かったが、もし発信者が特定されるブログがその玉石混交状態における「玉比率」を大幅に改善することができたとするならば——特定のブログが「玉」であるという認知を受け、そのサイトの信用力が他のメディアと同格になってきたならば——、消費者は既存の広告以外に有力な情報源を持つこととなろう。

 消費者は無防備に「広告」という名の情報シャワーでずぶ濡れになっていた状態から脱しつつある。インターネット(もしかするとブログ?)の登場によって、その土砂降りを防ぐ傘を手にしつつあるのかもしれない。
 テレビというメディアは、かつてはじつに有効だった。今でこそ、ケーブルテレビやBS・CS放送、インターネット等、情報をリアルに伝達するメディアがたくさん出現してきたが、昔はテレビの数少ないチャンネルからどれを選択するかという状況であったため、そのチャンネルに対して大量に広告を投入すれば、多くの視聴者に商品を知らしめることができ、結果として売り上げを大幅増させることができたのである。

 しかし、今はそうではない。消費者は窮屈なテレビのチャンネル数から開放され、多くの情報チャンネルから実に簡単に自分に必要な情報を主体的に選択できるようになった。消費者は、必要のない広告に支配される「広告の奴隷」から、必要のある広告を選択する「広告の主人」へと変貌しつつある。「主人」となった消費者にとって、必要性を感じない広告に付き合う暇はない。
 「広告」という存在は、今後大きく変貌せざるを得ない宿命にある。

(追伸) 4/5(月)22:00-23:24 ニッポンの!突破宣言 ~現場からひっくり返せ~ 〔全国TXN(テレビ東京)系列〕にゲスト出演します。是非みなさん、見てください!

2004 04 02 [08. メディア/広告の将来を占う] | 固定リンク

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