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2004.04.16

「本」は大変革するか?[コラム]

 皆さん、こんにちは。今日は金曜日、コラムの日です。最近街角で、老若男女を問わず、携帯メールを書いたり読んだりしている人の姿を、ごく普通に見かけるようになりました。しかし数年前までは、電車の中や喫茶店では、本や雑誌を読んで時間を潰している人が多かったように思います。そこで本日は、出版ビジネスというものにスポットを当ててみたいと思います。

<まぐまぐなど3社がメルマガのオンデマンド出版サービスを開始(CNET Japan)>http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000047715,20065271,00.htm

 気に入った本を読みふけっているうちに、気が付いたら真夜中という経験がみなさんもあるのではないだろうか。何とはなく読みはじめたら、先が気になって最後まで読んでしまった小説や、次の発売日が待ち遠しくなるような雑誌など、「本」という媒体——紙媒体——は人を惹きつける魅力を持っている。私自身、「本」を読むのは職業病とでもいうべき中毒症にかかっており、斜め読みも含めて月に50冊以上は目を通している。

いま、その「本」の販売が減少傾向にある。

 全国出版協会・出版科学研究所によれば、書籍や雑誌の推定販売金額は1950年から40年間以上一貫して増加を続けていたが、1996年の2兆6563億円をピークに減少に転じ、2003年には2兆2278億円(1991年の水準)に落ち込んでいる。7年間で2割弱減少しているわけだ。
 この背景としては、インターネットの急速な普及をあげざるを得まい。簡単な情報取得は、紙媒体ではなく、インターネットの方が簡単にできるようになってしまった。実際、総務省の情報通信白書によれば、2002年末のインターネット利用人口は6942万人にのぼり、世帯普及率は81.4%に至っているという。
私は、ネットが「本」を代替するとは思っていない。
 「本」には、ネットが持っていない、ポータビリティや一覧性を持っているからだ。ただし、メディアにおけるデジタル化の急進展がひとつの切っ掛けとなって、わが国の出版ビジネスにおいて旧態依然としている部分が大変革する可能性は否定できないと思っている。

変わる出版ビジネスの形態

 実際、このようなデジタル化の波を受けて、出版業界も新たな形態を模索し始めている。昨年11月に講談社や新潮社は、ソニーや大日本印刷、凸版印刷等15社とパブリッシングリンクという新会社を設立し、4月から電子出版コンテンツの配信を中心とする会員制サービスを開始している。このサービスを通じて、会員は、「Timebook Town」というサイトから、出版コンテンツをパソコンにダウンロードすることができ、これを60日間読むことができるという——いわば「ネット上の貸本屋」である。
 また、こうした出版コンテンツを持ち歩くためのツールとして、ソニーが「LIBRIe(リブリエ)」、松下電器産業が「ΣBook(シグマブック)」という「読書専用端末」を販売しており、デジタル出版コンテンツを読みやすくしようとする動きも出てきている。

 そういう動きの中で、出版ビジネスにおける伝統的な流通システムも変容する兆しがでてきた。4月5日から、メールマガジンを運営しているまぐまぐは、著者の書いた原稿を書店の店頭で印刷して販売するオンデマンド出版「まぐまぐ文庫」を、野村総合研究所、コニカミノルタビジネスソリューションズと共同でスタートした。これは、まぐまぐが著者から原稿データを受け取って書店に送信し、書店は専用の印刷製本機で印刷・製本して販売するというもの。
 このサービスの特徴は、初期登録料36750円、維持費用63000円(半年毎)と極めて安価な費用で本が出版できる点と、原稿を起こしてから本が書店に並ぶまでの期間が約半月と非常にスピーディーだという点だ。従来、自費出版をしようとすると多額の費用がかかったが、このサービスを利用すれば手軽に本が出版できる。「まぐまぐ文庫」からはすでに20タイトルが発売され、今後毎月1回、新刊がリリースされる予定と聞く。

 書籍や雑誌は、出版社から、本の卸問屋である取次会社を経由して書店で販売されるのがこれまでの常識であった。しかし、「まぐまぐ文庫」は、取次会社を経由しないという中抜きを実行し、中間コストを抑えることに成功することになる——そして、このビジネスが万が一にも成功すると、後続者たちは陸続と出てくるだろう。
 実際、まだまだ小さな動きではあるが、書店への直接卸を行う出版社も出現しはじめている。池田晶子さんが著した「14歳からの哲学 考えるための教科書」の売れ行きが好調なトランスビューは、出版業界における従来の取引慣行にこだわらず、書店への直接卸を中心に営業を行っている。同社はトーハンや日販といった大手の取次会社と取引せずに、こまめに全国の書店を回り、自らの取引形態のメリットである「スピード納品」と「売れ筋書籍の版元在庫切れなし」をアピールし、成果を挙げているという。
 また、人気コピーライターの糸井重里氏も「オトナ語の謎。」と「言いまつがい」という自書を東京糸井重里事務所(糸井重里氏が経営する会社)を出版元にして、書店に直接卸している。出版ビジネスは、大きくその形態を変えなければならない時期にきているのではあるまいか。

「供給者論理」では行き詰まる

 ちなみに出版というビジネスは、日本標準産業分類において、「情報通信業」に分類されており、卸売・小売業とは区別されている。確かに、「本の中身」という情報コンテンツを広く行き渡らせるインフラという意味では、「情報通信業」と呼べるのかもしれない。しかし、客観的な第三者から、そのインフラにどれくらいの価値があるのか、という真摯な問いを発せられたとき、現在の「出版ビジネス」のインフラを支えている人々は、胸を張って正々堂々たる議論を展開することができるだろうか。
 もし、うつむき加減にぼそぼそとしか回答できないようであれば、「まぐまぐ文庫」や糸井重里氏などによる新しいチャレンジは、出版ビジネスを大きく変えていくかもしれない。ビジネスという観点からみれば、現在の出版ビジネスはかなり旧態依然とした面もあるからだ。それは、他の業界の動向をみれば明らかとなる。

 近年、「流通革命」という言葉がよく聞かれる。今でこそ、流通業界では、卸を通さない直販という形態が一般的に見られるようになってきたが、長い間、流通業界というのは規制に保護され、効率性の低い業種の典型と指摘され続けてきた。しかし、世の中の変化は、その状況を永続的にすることを認めなかった。卸という流通形態は変化を余儀なくされているのが実情だ。
 そうした中、出版業界は、依然として委託販売制と再販制の下で、卸を中心とした従来の慣行を頑なに維持しようとしている。委託販売制とは、出版社が取次会社を通じて書店に販売を委託するもので、委託された本が売れなければ返本は自由というルールである。再販制とは、出版社が決めた価格で出版物を販売することを義務づけたもので、文化・教養を広くいきわたらせる観点から、独占禁止法の適用除外とされている。
 ここで、これらの制度についての「べき論」を述べるつもりはない。
 しかし私は、こうした環境の下で、出版業界が「供給者の論理」に身も心もドップリと漬かってしまい、読者である「消費者の論理」を忘れつつあるとするならば、結果的に現在の出版ビジネスが衰退していくことは自明の理であるということだけは申し上げておきたい。というのも、最近特に読者を無視あるいは軽視した「本」の出版があまりにも多いからだ。
 取り敢えずたくさん出しておいて、そのうち1冊でも「バカの壁」みたいな大ヒットになればいい——という安直なスタンスが目に付きすぎる。しかも、ハードカバーで売れる本をソフトカバーにし、新書にして、文庫本にするという極めてイージーな値引き戦法に頼っている。
 そういうやり方が出版ビジネスにとってプラスであるわけがない。少なくとも、単純な値引き戦法が成功を保証してくれないことは、マクドナルドやユニクロが証明している。豊かになった日本経済においては、供給者が工夫に工夫を重ねて、知恵に知恵を絞って、常に新しい商品やサービスを開発して、ようやく商売というものが成り立つのである。
 出版ビジネスも例外ではない。
 読者のニーズを正確に把握することなく、値引きして大量生産・大量販売するという手法を繰り返しているだけだと、早晩、マクドナルドやユニクロの苦しみを味わうことになるだろう。そして、まぐまぐやトランスビュー、そして糸井重里氏などの新興勢力にビジネスチャンスを与えていくことになるのかもしれない。よしんば、彼らが成功しなくとも、さらに新しい勢力が進出してくる。
 出版ビジネスの行く先については、これから目が離せなくなるだろう。

2004 04 16 [08. メディア/広告の将来を占う] | 固定リンク

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