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2004.06.25

ネット・コミュニケーションとイエローストーン国立公園の悲劇[コラム]

 皆さん、こんにちは。木村剛です。本日は、午前10時に厚生労働省におもむき、公的年金に関する4991枚の生データを受領してこようと思っています。そのときの模様は、TV東京をはじめとする各社が撮影してくれることになっていますが、何と厚生労働省の一部の抵抗勢力は撮影を許可しないなどと息まいているようです。果てさてどうなりますでしょうか。某有力週刊誌においても取り上げていただく段取りもつけておりますので、お楽しみに。
さて本日は、毎週金曜日恒例となっておりますコラムの日です。遅ればせながら、今月初に長崎県佐世保市で起きた痛ましい小6女児死亡事件をとりあげて、思うところを書いてみたいと思います。

小6女児死亡事件記事>


 最近の子供たちは、お稽古事や塾通いなどでスケジュールが過密になり、昔と比べて自由時間が格段に少なくなったと言われている。そういう意味で、何らかの形で大人が介在する「擬似社交場」において一部始終監視されるという環境の中で育っているわけだ。子供たちは素直な「いい子」になることを幼少の頃から要求され、自ずと「いい子」を演技することを覚えていく。その結果、ひょっとすると、内なるストレスをこれまで以上に蓄積させているのかもしれない。昨今の情報化時代において、早くから高度な知識を吸収する子供たちは、益々早熟になり、思春期も低年齢化しているといわれている。
 いまの子供たちは、ただでさえ少なくなっている自由時間をインターネットやゲームなど在宅での活動に費やす傾向を強めているようにも思われる。私の子供時代のように、外で友だちと群れていたずらをし、取っ組み合いの喧嘩をするという光景もあまり見られなくなっているのかもしれない。
 ご存知のように、佐世保で起こった事件の原因として、インターネットにおけるチャットがクローズアップされている。確かに、ホームページのBBSや電子メールのやりとりなどにおける「顔の見えない」コミュニケーションにおいて、些細な行き違いをきっかけに、フレーミング(Flaming<炎上>)――相手を激昂させたり侮辱したりすることを目的とする誹謗中傷の応酬――が日常的にみられることは事実だ。表情が見えない、声が聞こえないというネット・コミュニケーションの環境が、人間が持つ攻撃性を必要以上に増幅している面はなかなか否定できない面がある。
 じつはこれは、他の場合でも同様で、素手で他人を殴る場合は、完全に死んでしまうまで殴り殺せる人は少ないという。というのは、自分の目の前で相手が戦意喪失になり、意識がなくなって抵抗力もなくなり、身体の力が抜けていくのを実感したり、泣きじゃくって許しを乞うている姿に哀れみを感じれば、なかなか最後のとどめを刺すことはできないからだ。しかし、核ミサイルの発射ボタンであれば、人を殺すというリアルな実感がないから、ボタンを押すのにそれほどの抵抗感はない。
 相手の痛みがわかりにくいと、人間の攻撃性は必要以上に増幅する可能性があるようだ。ネット・コミュニケーションにおける誹謗中傷や罵詈雑言の類もそういう面を持っている。人を傷つけるという行為の意味――他人の痛み――が分からないということが、さらなる攻撃を招来していく。その危険性については、ネット・コミュニケーションを利用する人々において、十分に認識されていく必要があると思う。

 とはいえ、佐世保の事件の原因をネット・コミュニケーションの責任に帰してしまうような一部の論調は、あまりにも短絡的だろう。少年犯罪の原因として、テレビやインターネットの影響をあげつらう向きもいるが、テレビやインターネットは媒体にすぎない。媒体そのものを悪いと決め付けて、問題の本質が解明できたかのように考えるのはいかがなものかという感じがする。
 そもそも、人間という生物――特に無垢な子供時代――は相当残酷なことを平気でしたりするものだ。虫の羽や胴体をちぎったりした経験は読者の皆さんだってあるのではないか。私だってある。しかし、かなり残酷な体験を重ねた上で、「これは良くないのでは・・・」という心の発露があって初めて、子供は心底「残酷」という概念を学んでいく。
 そういう意味で、常に大人が介在する「擬似社交場」で育てられた子供たちは、「残酷」という体験を十二分に心の中で消化することなく、「子供らしさ」を演じているのかもしれない。本来子供は自分のエゴを自由に発散する存在である。ところが、「擬似社交場」の中で「子供らしさ」という大人の価値観の中だけで純粋培養されてしまうと、「他人の  痛みを感じる」という学習を十分にしないまま身体だけが成長していってしまう。
 何でも情報が手に入るという恵まれた環境にいる最近の子供たちは、知識が豊富でまるで大人のような判断ができたりする。その実、精神的には年齢相応に成長していないという指摘も少なくない。それは、「他人の痛みを感じる」という実体験が不足していることと何かしらの関係があるのではないか。そういう免疫経験の少ない子供たちが、思春期に入りコンピュータを覚え、ネット・コミュニケーションにおける「言葉による攻撃」を初めて受けたときのダメージは、ひょっとすると私たちが想像しているよりも大きなケースがあるのかもしれない。
 アメリカのイエローストーン国立公園に関して、有名なパラドックスがある。イエローストーン国立公園を守るために、森林管理官が周辺で自然発火する山火事を人為的に阻止していたところ、山火事による新陳代謝をも阻止してしまったため、1988年に古い木々の落ち葉によって大規模な森林火災を引き起こしてしまったという事件のことだ。つまり、自然発生する小規模の山火事を人為的に抑えたがゆえに、結果的に大規模な山火事を招いたのである。
 過度な抑制は、抑制することできない最悪の事態を招くことがある――というイエローストーン・パラドックスは、いまどきの子供たちの行動に一脈通じた面があるのかもしれない。幼い頃に「他人の痛みを感じる」という実体験を積んでいない場合には、それが積もり積もって爆発したときには、われわれの予測を超える凄惨な事件を惹起するのではあるまいか。今回の事件がそれを象徴していると言い切るつもりはないが、リアルなコミュニケーションが希薄な中で、ネットにおけるバーチャルなコミュニケーションに没頭していた子供たちの間に起きた悲しい出来事として、色々と考えさせられることの多い事件ではあった。

2004 06 25 [08. メディア/広告の将来を占う] | 固定リンク

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