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2004.07.27
「悩める母親党」が投げかけたコト:政策論とポジティブ・コミュニケーション
皆さん、こんにちは。木村剛です。日本には、まだまだ「世の中を改善するために、望ましい政策を実現するために汗をかく」という実務的な発想が少ないような感じがします。「自分の言っていることが正しいのだから、その方向で世の中が変わるべきだ」という主張が多く見受けられるからです。まあ、自分の考えを述べるのは各人の自由ですし、それによってスッキリするという現実的な自己作用もあるでしょうから、決して悪いことではありません。言論の自由は保障されています。
しかし、それをあたかも「政策論」であるかのごとく勘違いすると、大きなミスにつながっていきます。「自分の言っていることが正しいのだから、その方向で世の中が変わるべきだ」と自分に向かって言っている分には良いのですが、「世の中が変わらないのは、世の中がおかしい」という論理になり、「自分と同じ意見でない人間が悪い」などという理屈にまで発展して、他人を批判し始めると支離滅裂になってきます。
残念ながら、ここで私は悲しい事実を断言しなければなりません――「正しい意見」ごときで、望ましい政策が実現し、世の中が改善されることなど絶対にないのです。
望ましい政策を実現して、本当に世の中を改善したいと心から願うのであれば、「正しい意見」を吐くだけではなくて、硬軟取り混ぜて多くの人を説得しながらサポーターを増やし、異なる意見の方にも「これくらいなら仕方ないかな」と思わせて反対しないようにお願いし、大きな世論を形成しなければなりません。その上で、法律を作る政治家や法律を運用する行政の方々の行動原理を理解し、彼らが協力してくれるような仕掛けを作って、具体的に達成できるような政策パッケージを用意する必要があります。そこまで準備できたらはじめて、世論をバックに政治家や行政の方々にお願いして、一つ一つ着実に歩を進めていくというステップに入れます――良くも悪くもそれが現実です。
そして、その各々のステップをクリアしていくのは、他の誰かではありません。その政策を実現したいと思う人が、自らサポーターを増やし、反対勢力を慰撫し、世論を創り上げ、政治と行政を動かさなければならないのです。これは「言うは易し行うは難し」の典型であって、ひたすら汗をかき、時には血を流し、涙する場面を乗り越えるために、リスクとダメージとコストを自ら背負って断行しなければならないのです。
わたしは「正しい意見」を公表した。だから、サポーターを増やし、反対勢力を慰撫し、世論を創り上げ、政治と行政を動かすのは、わたしじゃなくてあなたなんだよ――と言い張ったところで、本気で動いてくれる人間は100人のうち1人もいません。「正しい意見」の言い出しっぺが自らリスクとコストとダメージを背負って動き出さない限り、その政策は実現しないのです。
それを「世の中のせい」にするのは自由です。「意見が違う人のせい」にすることも自由です。先ほども申し上げたように、言論の自由は保障されています。如何に無責任で自分本位の意見であっても、それを展開するのは自由です――しかし、その主張は、世の中を動かすという政策論的な視点で見る限り、大きなマイナスはあっても、何のプラスもありません。
7月21日のゴーログ「『悩める母親党』をブログ上で旗揚げしよう!」にたくさんのトラックバックをいただき感謝しています。 ほぼ予想通りの反応でしたが、私としては、上述した政策論としての議論が少なかったことを残念に思っています。「悩める母親」問題を解決しないと、それ以上の改革にまで前進できないという現実論がご理解いただけなかったということなのでしょうが、ジェンダー問題を中心に語っている限り、政策論にまで世論を高めていくことは極めて難しいように感じました。
というのは、現実問題として、「悩める母親」じゃなくて、「父親も悩め!」という個々の人々の価値判断にまで踏み込むような主張を展開すればするほど、大きな世論は形成されないものだからです。そうなれば、結果的に政治も行政も動きません。政策も実現されません。だから、学童クラブの問題も片付かないのです。
本当に学童クラブの問題を解決したいのであれば、まずは、多くの人々に受け容れられやすいメッセージ――たとえば、「悩める母親を助けよう」という方向性――を共有することを目指すべきです。「本来、育児はどうあるべきか」などという大命題に入り込めば入り込むほど議論百出で、答が出る頃には多くの子供たちが被害にあってしまっていることでしょう。
少なくとも、「悩める母親」に救いの手を差し伸べようとしている人を批判することに何のメリットもない。政策を実現するためには、その方向性さえ共有できればいい。同一の価値観を持っていなくても、同一の方向を目指すものは「同志」なのです。
「正しい意見」を吐きさえすれば、世の中が改善されると思っている方々――本当に政策を実現しようとは考えていない人々――であれば、「俺の考えと違う」「私の方が正しい」と言い張っていればいい。でも、それは世の中を動かす政策論――政策を実現するための処方箋――ではないのです。政治や行政を本気で動かしたいと思うのであれば、その程度の常識はわきまえておいたほうが良いように思います。「私が望むように動かない政治や行政が悪い」と主張することは自由です。しかし、そう言い張っている限り、「政治や行政が私の望むように動いてくれる」ことは絶対にありません。
ちょっと考えてみれば分かることです。「悩める母親」でない人々が、「悩める母親」をサポートしようとしたときに、「お前の考え方はおかしい。悩める母親などという問題設定が気に食わない」などとからまれたら、サポートしようとする気力なんて、あっという間に失せてしまうとは思いませんか。「だったら勝手にすれば」と普通だったら思うでしょう。それでは、政治や行政を動かす世論にはなりえないのです。
そういう点で、「子供を産み育てる事を『悲劇』にしない為に政治家に届くような世論にまで高めてこーぜ。片隅で非難しているだけじゃ何も変わらんから、『週刊!木村剛』を利用しながら世論を創るってのにはニシオってば大賛成なんじゃ。が、『悩める母親党』っつーのはオシャレじゃねー」と指摘した「専業主婦の逆襲」さんのコメントは、「悩める母親党」というセンスのないネーミングをした私を強烈に揶揄・批判しながらも、「子供を産み育てる事を『悲劇』にしない」という新しいアジェンダを自ら設定しながら、ポジティブな議論の展開を誘うという、なかなかに絶妙の勘所を突いています。
改革の最大の抵抗勢力は、じつは改革派であるというケースは極めて多くみられます。
現実が「A」だとして、改革の目指す方向が「B」だとします。ところが多くの場合、「B」か「B’」か、それとも「B”」であるべきかというところで改革派同士が仲間割れを始めるのです。その結果、改革もどきの「A’」で終わってしまうのですね。だから私は、「ブログは、ネガティブ・バトルではなく、ポジティブ・コミュニケーションであるべきだ」と主張しているのです。
ひょっとすると、また過剰反応を巻き起こしてしまうかもしれませんが、じつは、この手の問題で「母親」というジェンダー用語で反発してしまう人たちが、現実的には、一番の抵抗勢力になってしまいがちなのです。「自分と同じ哲学を持たない限り許さない」という狭小な考え方は、政策論とは正反対の思考法です。政策論は「違う人間は違う価値観をもつ」という大前提の上で話を展開しなければなりません。「違う人間でも同じ価値観をもたなければならない」という発想には立たないのです。それは、洗脳の思想であり、恐怖政治です。少なくとも民主主義的な考え方ではありません。
要するに政策論とは、「違う考え方を持つあなたでも、これくらいは賛成してよね」という控えめで現実的な考え方のことなのです。だから、「悩める母親」をまず解決すべきだと私なぞは思うわけです。なんでもかんでも一挙に一片に解決できるというわけにはいきません。私たちは万能の神様ではないわけで、民主主義の枠組の中で解決するしか道は残されていないわけです。その現実に気付かない限り、誰も「悩める母親+悩める父親+悩める子供たち+悩める社会」の問題を真剣に解決しようとはしてくれないのではないかと私は危惧します。
「正しい意見」を吐くだけで――ブログで「正論らしきもの」を書くだけで――、世の中が良くなるのなら、いまごろ日本はパラダイスになっています。残念ながら、そうではありません。その現実を直視すべきです。
「まりさん」が必要としているのは、皆さんからの同情なのでしょうか。私は、「まりさん」が必要としているのは、同情ではなく、望ましい政策が実行される可能性を高めることなのではないか、と考えます。「悩める母親」にすら十分な救いの手を差し延べられない政府が「悩める子供たち」を救えるわけがないと、現実主義の私なぞは思ってしまいます。ましてや、「考え方の違う父親」のマインドセットを洗脳して根こそぎ替えてしまうことができる政策など、私には思いつくことすら出来ません。
ただ、「週刊!木村剛」の読者の中には、「私こそが育児の専門家だ」「私の方が子供の問題を分かっている」という人々がたくさんいらっしゃるみたいです。是非、是非、頑張ってください。私もモラルサポートは惜しみません。皆様自身の行動による問題解決を心より期待しております。
2004 07 27 [04. 経済政策を語ろう!] | 固定リンク
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