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2004.09.03
[コラム] 能登空港は過疎地の星になれるか?
皆さん、こんにちは。木村剛です。本日はコラムの日です。ご存知の方も多いと思いますが、私は富山県出身(女優の野際陽子さんもそうです)で公私に亘り飛行機を利用して帰省することも多いのですが、富山に限らず、最近地方空港が閑散としているのを目にすることも多いように感じます。そのような状況の中で、わが郷里に近い能登空港が高い搭乗実績を上げ、航空会社から「販売促進協力金」まで得たことが話題になっています。
< 能登空港搭乗率保証制度における年間目標搭乗率70%の達成(速報値)及び能登空港開港1周年記念キャンペーンの展開等について >
本年7月、能登空港が開港1周年を迎えた。能登空港は、石川県が過疎解消を目的に国に建設を働きかけ、地方空港としては最後に新設が認められた空港である。そして現在、エアーニッポン(ANK)が羽田空港との間を1日に2往復している。開港後1年たった今、羽田-能登線の平均搭乗率は79.5%と、国内線では異例の高さを維持しているが、ANKはこの1年間の実績を認め、財団法人奥能登開発公社に対して「販売促進協力金」として9732万円を支払うことになったという。
能登は南部まで含めても人口が23万人。年々過疎化が進んでいる典型的な地方都市だ。観光産業を活性化させて過疎化を少しでも解消するために、地元国会議員が声を上げ、石川県や輪島市などの地方自治体も必死に陳情。やっとの思いで能登空港の建設を実現させた。しかし、開港までの道のりは決して平坦なものではなかった。実際、空港建設が実現した後は、路線誘致に苦しんだ経緯がある。
当初、石川県は、羽田だけではなく名古屋や大阪を含む1日7便の誘致を狙って各航空会社にアプローチしたが、最終的に名乗りをあげたのはANKの「羽田-能登間、1日1便」だけ。観光事業を活性化させるためにも「1日複数便の就航が不可欠だ」と県はANKに掛け合ったが、ANK側は利益確保が最優先とし、「1日1便」を譲らなかった。 そこで、石川県はANKに「搭乗率保証制度」を提案。1年間限定という条件で1日2往復の約束を取りつけることに成功したのは開港半年前のことだったという。
能登空港が締結した「搭乗率保証制度」
「搭乗率保証制度」とは、自治体と航空会社の間で年間の目標搭乗率を設定し、搭乗実績が目標を下回った場合に自治体が限度額内を航空会社に補償する一方で、上回った場合には航空会社が販売促進協力金として収入の一部を自治体に還元するという取り決めのことを指す。今回、日本で初めて能登空港がこの制度を導入した。
能登空港の場合、石川県は地元市町村とともに、2便のうち1便分に関して年間搭乗率が70%を割れば最大2億円を支払うことをANKに約束している。その概要は、午後2時に羽田を発つ2便目(ANK749便)の年間搭乗率の目標を70%以上に設定し、2便目の年間搭乗率が70%を下回った場合には、目標登場率によって得られる売上と実際の搭乗売上実績の差額を、2億円を上限として石川県と地元市町村が負担するというものだ。
具体的には、1席あたりの収入を1万6200円とすると、2億円は1万2345席分(2億円/1万6200円)の搭乗実績に当たる。就航した飛行機材は126席だから、1日1往復した場合の年間座席数は9万1980席(126席×2<往復>×365日)となる。この年間座席数から計算すると、2億円は年間座席数の13.5%(1万2345席/9万1980席)に相当する。「搭乗率保証制度」においては、13.5%分を自治体が保証することになるから、搭乗率が56.5%までならANKは70%の搭乗率分の収入を確保できることになる。
国土交通省のデータによれば、2003年度における路線別の平均搭乗率は62.3%。沖縄、宮古島、石垣島等の離島路線を除いて、70%を上回る搭乗率を確保している路線は少ない。そういう経営環境の中で「搭乗率保証制度」によって70%の搭乗率分の収入を保証されるのだから、ANKにとっても悪い話ではない。一方、能登空港を誘致する地方自治体サイドにとっては、自らかなり高いハードルを設置したことになる。
しかし開港後1年たって蓋を開けてみると、2003年度の羽田-能登線における平均搭乗率は81.7%と全国1位。ちなみに、国内線208路線のうち、80%を超えたのはこの羽田-能登線だけである。さらに、地方空港発着の羽田便で、離島以外で70%以上を確保した路線は、庄内便(71.1%)と北九州便(70.7%)のみである。このことからも、今回能登空港が達成した81.7%という平均搭乗率が、いかに高いかが分かるだろう。近隣の富山空港(64.7%)、小松空港(64.0%)と比較しても、圧倒的に高い。この実態を受けて、いまや「石川方式」という呼称まで定着しつつある。
平均搭乗率70%確保の裏側
もっとも、能登空港が高い搭乗率を達成できた背景には地域の並々ならぬ努力がある。
能登では、観光客を呼びこむため街並みを整備し、特産品を活かした街おこしが進められた。田舎での生活を体験する「グリーンツーリズム」を推進するため、農家の民家への改装を推奨するなど観光地として様々な整備を実施している。また、能登の魅力をPRするキャンペーンやイベントを開催し、都内にアンテナショップを開設するなど、域外に対する積極的なPR活動も続けている。
これらの施策であれば、他の多くの地方自治体にも見られるのだが、能登の努力はこれにとどまらない。地元19市町村は、地元住民に飛行機を使用することを斡旋するため、往復で1人当たり平均4000円の運賃助成金を支払っている。また、観光客を呼びこむためにも、旅行会社のみならず観光客に対しても運賃助成金を支払う制度を設けている。
また、開港に当たっての能登空港にとって大きな課題は、空港と街とをつなぐ二次交通の不便さであったが、能登空港は地元のタクシー会社の協力を取り付けて解決する。地元のタクシー会社は、9人制の乗合いジャンボタクシーである「能登空港ふるさとタクシー」を創設し、輪島や金沢など能登地域の5つのブロック内を、航空ダイヤに合わせて運行。料金についても、通常は和倉温泉まで一般のタクシーで約1万4000円かかるところを1人1000円と路線バス並みの安さに設定している。タクシー会社の赤字は、バス利用総合対策事業として国等から補填されるかたちだ。このように、能登空港の成功の裏側には、官民あげての地元の協力が存在する。
地方空港経営のあるべき姿
日本全国の国内ローカル線は、厳しい経営を強いられている。北陸中日新聞の調べでは、1997年以降に航空各社が運休・廃止した国内路線は83路線となっている。また、羽田-山形線は山形新幹線との競合で採算が悪化しANAが撤退したが、山形県が空港着工料を値下げすることでJASが代替参入した経緯がある。松本-福岡線では、JASが使用している飛行機材の小型化を提案したところ、長野県が旅客獲得キャンペーンで支援することで折り合いをつけるなど、地方空港の実情はかなり苦しいものとなっている。
しかし、現時点における能登空港の成功をみれば、地元自治体と地元住民が一丸となって努力すれば、高い搭乗率を確保する道もあることが示されたようにも思う。無論、この成功が永続するかどうかは分からないし、結局のところ、精査してみれば、キャンペーンや運賃補助によって相当の赤字を垂れ流しているのかもしれない。
ただし、「過疎化が進んでいる」とか「空港からのアクセスが悪い」とか「新幹線と競合してしまうため高い搭乗率を確保できない」などという言い訳が、「言い訳」にすぎないことは明らかとなった。高い搭乗率を確保するための知恵は、絞れば絞るだけ出てくるものだ。できない言い訳を並べ立てるだけなら、大学で少し勉強すれば誰でも出来る。 過疎化という難問を解消し、人の出入りを活発にするために、空港を建設し航空便を誘致するという大事業を思い立ち、それを実現させたのであれば、それに倍する血と汗と涙を事業の成功のために注ぐべきだ。大した努力もしないで搭乗実績が上がらないというのでは、何のために空港を作るために苦労したかもわからないではないか。
開港して1年経った今、7月7日より羽田-能登線の目標平均搭乗率は、70%から63%に引き下げられることになった。これは、4月1日から、使用する飛行機材が126人乗りから170人乗りに変更されたことに伴った措置だという。その結果、目標値は下がったように見えるが、それを達成するために必要な乗客数は1年目より2万7000人分増えることになっている。そのため、開港2年目は、能登空港にとって1年目より厳しい条件となる。
石川県では、首都圏において能登空港開港1周年キャンペーンを実施し、俳優の仲代達矢さんをイメージキャラクターとして、ポスター、雑誌等の展開をすることとしている。もちろん、地方財政によってすべてを補うことには限界があるが、観光客を誘致するには、カネに加えて知恵が必要だ。私としては、能登空港が地域一丸となって色々と知恵を出しつつ、がんばって全国一高い搭乗率を維持してほしいと願っているが、そのためにはこれまでに倍する努力と工夫が必要になってくるだろう。
どのような組織体においても、業績の主要因は経営自身にある。経済環境の責任にするのであれば経営にタッチすべきではない。空港誘致などトライしなければよいのだ。ましてや需要不足などという戯言で経営蹉跌や業績不振の原因をごまかすべきでもない。
俗にいう不良債権問題に関する「大手30社問題」が、とどのつまり、ミクロの経営問題であって、マクロの経済問題ではなかったことを思い出すべきだろう。その頃はやったデフレの責任に帰する議論は、結局のところ、状況を改善するという点に関して何の価値もなかった。
地方空港であっても経営は不可欠だ。無論、マクロ的な限界にぶち当たることはある。しかし、足下の経営問題をまずは解決すべきである。
そして、まっとうな経営努力は概して報われるものだ。なぜなら、通常の場合、経営改善の余地は限りなく広がっているからである。
2004 09 03 [04. 経済政策を語ろう!] | 固定リンク
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