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2005.05.25

[フィナンシャルi] 米国金融市場の動揺

 日本の大型連休の谷間にあたる5月6日に発表された米国の雇用統計は、米景気の基調が思いのほか底堅い様子を示した。4月の新規雇用者数は、市場予測の平均値であった18万人を大幅に上回る27.4万人の増加となった。そればかりか、2月や3月のデータも遡及して9.3万人上方修正された。確かに、シリコンサイクルの調整の影響で製造業の雇用は減少しているものの、全体として見れば米国経済は減速しつつも緩やかな拡大が続いている。(BNPパリバ証券会社 投資調査部長 チーフストラテジスト 島本 幸治)

 ところが、米国の金融市場を見ると、景気実態とは裏腹に、先行き不安感が膨らんでいる。株価の低迷が続いている他、ヘッジファンドの破綻の噂が絶えない。
 景気実態と金融市場がミスマッチを起こしているのは何故か。その背景を考える上では、米国の金融政策を振り返る必要がある。FRBは、2000年から始まったITバブル崩壊の影響を食い止めるために2001年に大幅な利下げを実施した。更に2004年の大統領選挙に向けて景気を刺激する目的もあり、複数年にわたり超金融緩和政策を継続した。
 その結果、ドルの過剰流動性が金融市場に供給され、金融市場はリスク選好を強めた。ヘッジファンドが乱立し、特に2003年以降は、世界の株価や事業債、商品市況、REIT、高金利通貨など多くのリスク資産の価格が押上げられた。
 その後FRBは、インフレが発生しバブルが膨張する事態を避けるべく、2004年後半から政策金利の中立化を進めている。もっとも、2004年後半は米国の「双子の赤字」問題が市場で脚光を浴びたこともあり、ドル安トレンドは継続した。それが2005年に入ってから、逆流を始めている。米国の金融引締めの累積的効果により、ドルの過剰流動性が収縮を始めたのだ。
 その結果、2002年から3年間続いたドル安トレンドはドル高トレンドへと転じつつあり、また、株価など世界のリスク資産は一様に不安定化している。こうしたなか、ヘッジファンドのパフォーマンスも軒並み悪化している。
 金融市場におけるリスク回避姿勢の強まりは、社債の価格下落などにも観測される。例えば、米国を象徴する大企業であるGMは、社債の格付けが投資不適格と評価され、市場に衝撃を与えた。ところが、GMの社債は価格が急落するなかで、株価は底堅く推移している。
 現在、米国ではM&Aがブームとなっている。これまでバランスシートの改善を進めてきた米企業は、その余剰資金を増配や自社株買いで株主に還元し始めているばかりか、買収や合併などの資本戦略も積極的になっている。今次局面における金融市場の混乱は、短期的には企業のファイナンス環境を悪化させるものの、企業の再編などを通じて、中期的には企業の体質強化を促す可能性がある。
 ドルの過剰流動性の収縮が、世界経済に与える影響を考える上で重要なのは、米国のマクロ景気そのものは底堅く、ドル相場が持ち直しているという事実である。世界経済はグローバライゼーションを背景とするディスインフレの状況にある。従って、よほどドルが急落でもしない限り、米国がスタグフレーションに至り世界恐慌に至る展開は想定し難い。
 現在の金融市場の動揺は、必ずしも景気の先行き不透明感を示すものではない。寧ろ、ミクロの新陳代謝を促すメカニズムに目を向けるべきであろう。


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島本 幸治 (しまもとこうじ)

BNPパリバ証券会社 投資調査部長 チーフストラテジスト
1990年 東京大学 教養学部 基礎科学科(理論物理専攻)卒業後、日本興業銀行に入行
91年、同行 証券投資室調査班に配属。イールドカーブを中心とする国内金融市場の分析を担当、96年、同行 調査部経済調査班に配属。シニアエコノミストとして日本のマクロ経済調査を担当、2000年3月より現職

日本アナリスト協会検定会員、週刊エコノミスト 2004年(2004年10月)アナリスト・エコノミスト ランキング債券ストラテジストの部 第1位、日経公社債情報 2005年(2005年3月)債券アナリスト・エコノミスト ランキング 債券アナリストの部 第2位(2年連続)、著作に、「企業金融面から見た設備投資動向」(IBJ98年8月号)「過剰設備廃棄論への批判的検討」(IBJ99年7月号)「円高の影響に関する三つの誤解」(IBJ99年11月号)など

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に5月16日に掲載したものです。

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