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2005.06.22

[フィナンシャルi] 誰のための人民元改革?

 人民元を巡る国際的な世論が一段と熱を帯びている。中国に向けられた、海外からのメッセージにこめられたキーワードの一つは「柔軟性」である。切り上げろというよりは、穏やかで便利な言葉である。問題は柔軟性の中身であるが、予想されるのは前日仲値比±0.3%と決められている値幅制限の緩和である。
 ただし、こうした制度変更が人民元の上昇を自動的に生むわけではないことには注意しなければならない。人民元騒ぎの帰趨を占う上で押さえるべきは、何より中国の為替市場の実態である。それは、多様な参加者による売買が価格を決めるという、一般にイメージされる市場の姿からは遠いところにあるのである。(児玉 卓)

 外国為替市場」とは、同国唯一の為替市場、外貨取引センターを指すが、そこでの月間出来高が中国の外貨準備の月間変動額とほぼパラレルに動いている。
 これは同国の為替市場が、市中銀行が企業等から受け入れた外貨を中央銀行である人民銀行に受け渡す場であること、言い換えれば政府が民間から外貨を吸い上げるための場であることを意味している。市場の参加者が極端に少なく、民間同士の売買は殆ど成立していない。買い手はほぼ専ら人民銀行である。人民銀行、従って、中国政府の価格支配力が圧倒的に強いということである。
 このような条件の下では、値幅制限を緩和しようが、変動相場制に移行しようが、レートが実際に動くかどうかは人民銀行次第となる他はない。こうした事情にもかかわらず、世の中には、人民元レートの硬直性は値幅制限など「制度」の結果だという誤解が流布している。
 これは中国政府にとっては実に都合のよいことである。例えば値幅制限を5%に拡大させることで、政府は「市場は柔軟性を獲得した、レートは市場の需給で決まるようになった」と公言することが可能となるからである。
 実際、為替市場改革は、中国政府にとって一石二鳥・三鳥の政策である。まず、前述の「誤解」を利用し、外圧を封じ込めることが出来る。政府管理下における「切り上げ」であれば、その幅に対して米国等からクレームがつくかもしれない。

 しかし今や政府は価格支配力をがっちり握りながらも、レートは市場に聞いてくれと突き放すことが可能になる。中国の経済政策は、すぐれて政治的利害調整の産物であり、また同国はこれまでの「漸進的実験主義」に自信をもっているから、当初の為替レート調整は小幅に留まるだろう。その際、調整が不十分という不満に対しては、「市場が求めた均衡の結果」という答えが用意されているのである。
 人民元レートを現行水準で維持することも容易であるが、それでは制度改革の効果がなかったという評価につながるから、ある程度の元高は演出しなければならない。しかも、昨今の外貨準備の異常な膨張ぶりなどから、人民元が過小評価されているという見方は政府内でも共通認識になっていよう。早晩為替レートを動かさざるを得ないのであれば、余りに窮屈な値幅制限は、政府にとっても邪魔である。
 一見すると中国は外圧等によって為替制度改革を迫られているかに見える。だが実際のところ、中国政府こそが改革の最大の受益者となり得るのである。

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略歴
児玉 卓(こだま たかし)
大和総研資本市場調査部主任研究員
1987年慶応義塾大学卒業、同年大和証券入社、債券部、大和ヨーロッパ(ロンドン)、大和総研経済調査部、大和総研香港などを経て現職

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に6月20日に掲載したものです。

2005 06 22 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク

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