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2006.11.18

[フィナンシャル ジャパン] 「戦略的曖昧さ」という安倍戦術は通用するのか?

フィナンシャル ジャパン」12月号掲載  
【伯楽諫言】 FJ編集長 木村 剛

 9月29日、安倍晋三首相は、所信表明演説を行った。あまり指摘されていないが、異例に長いものとなっている。所信表明というよりも、施政方針演説に近い長さだ。

 森喜朗元首相の所信表明演説は5040字。小泉純一郎前首相は6590字と3割程度増えたのだが、安倍首相はさらに3割程度長い8370字となった。
 無論、「長ければ良い」というものではない。問われるのは中身だ。どうも、さまざまな識者の意見を取り入れて重畳的に構成したものであるように感じられる。そのために、必要以上に長くなっているのだろう。
 AとBという異なる主張があった場合に、AもしくはBを選ぶのではなく、AとBを足して二で割るのでもない。対立する諸点をボヤカシながら、AとBをうまく重ね合わせるのが安倍戦法である。
 この戦法は、敵を作らないという意味で悪くはない。政策を通す力は、最後の最後は数の論理で決まるから、味方を増やすために必要な戦法でもある。とあえず、「自分の主張を受け入れてもらえた」と思うシンパが増殖するのは良いことだ。
 安倍首相がこの戦法を主軸に据えていくのであれば、「戦略的曖昧さ」という戦術が不可欠となる。曖昧にしておかなければ、AとBが喧嘩し始めて収拾がつかなくなるからだ。
 しかし、この戦術は、衆を集める作戦になり得ても、最終的な解決策にたどり着く戦略にはなりえない。いつまでも曖昧なままでは、攻撃する対象も、攻め入るための進路も、目標への到達度もわからないからだ。
 その点、小泉戦法は画期的だった。曖昧などころか、攻撃する対象を必要以上にプレイアップして、戦略的に対立軸を創り上げる。敢えて対立を激化させる中で、落着点を探り、一気呵成に目標に到達させるのだから、その威力たるや凄まじいの一言に尽きた。
 その対極が「戦略的曖昧さ」だ。この戦術は、序盤戦で手の内を見せたくないとき、あるいは究極の切り札を突きつける前段の煙幕としては有効。ただし、いつまでも、ダラダラと使用すべき戦術ではない。
 曖昧なままで煮え切らないリーダーに対する不満はいずれ爆発する。序盤に気を持たせたぶんだけ、強い反発を招くだろう。もしかすると、安倍首相は、そうなることを読み切っているので、「主張する外交」や「教育再生」という「長距離砲」を中核においているのかもしれない。「この成果が上がるまでには時間がかかる」というふうに言い訳しやすいからだ。
 もしも、そうだとすれば、戦局を大きく読み誤っていると言わざるを得まい。戦場において必要なのは、「長距離砲」ではなく、早期における小さな成功事例という「短距離砲」だからだ。国民の直感を軽視してはいけない。「主張する外交」や「教育再生」の重要性は理解しても、いつまでも成功事例が出てこなければ、早晩、「外交や教育を唱えているのは、何もしたくないからだ」という世論が澎湃として沸き起こるだろう。「美しい国」の「長距離砲」を磨くだけでなく、何を「短距離砲」として据えるのかという現実的な課題設定をしなければならない。泥臭くとも、まずは早期に小さな成功を勝ち取らなければならないのだ。まずは、抜本的な社会保険庁改革である。


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