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2006.12.23

[フィナンシャル ジャパン] 不提訴理由書の効用

 「フィナンシャル ジャパン」2007年1月号掲載 
 【会社法がわかれば商売がわかる!】 (中央大学法科大学院教授 野村 修也)

 不提訴理由書の書き方が話題になっている。役員が会社に対して損害賠償責任を負う場合には、馴れ合い訴訟を避けるため、代表取締役ではなく監査役が訴訟を提起することになっている。しかし、監査役とて、もともとは社長によって指名されているので、役員を訴えるのには、心理的なプレッシャーがある。
 そこで、監査役が役員の責任を追及しようとしないときは、六カ月前から引き続き株式を有する株主は、訴えの提起を監査役に請求し、その後六〇日が経過してもなお監査役が訴えを提起しない場合には、代表訴訟を提起できる仕組みになっている。
 新会社法で新設された不提訴理由書の制度は、監査役がなぜ役員の責任を追及しなかったのか、その理由を、内部調査を踏まえてとりまとめるもので、当事者の請求に基づき裁判所に提出される仕組みだ。監査役が職
責を果たしたと言うためには、ある程度詳しく書く必要があるが、訴訟上の争点がはっきりしない段階で、詳細な報告書をとりまとめると、敵に塩を送る結果にもなりかねない。
 わが国の場合、代表訴訟の「代表」とは、会社の代理人として訴訟を起こすという意味であって、アメリカのように株主の「代表」という意味を含まない。そのため、当該株主が、株主全体の代表者としてふさわしいかといった要件(アメリカでは、これを「適格代表の法理」という。)は問題にならない。その結果、わが国の場合には、企業不祥事によって株価が下落した後に安値で株式を取得した株主でも、六カ月の保有要件さえ満たせば、代表訴訟を提起できる。真の被害者である不祥事前の株主が、責任追及の必要性を感じていない場合でも、訴訟の提起を止めることはできない。
 中には、マスコミ等が不祥事を大きく取り上げているのを見て、一種の売名行為として代表訴訟を悪用する輩も見られる。さらには、会社の評判を落とすことを主たる目的としたり、訴えの取り下げをちらつかせることで、被告である取締役から不正に金品を引き出そうとする者もいる。
 そこで、新会社法は、代表訴訟の提起が、自己又は第三者の利益を図るものであったり、もっぱら会社に損害を加える目的であったりした場合には、審議の中身に入る前に、訴訟を却下できることにした。
 しかし、経済界には、これでは不充分という声も聞かれる。経済界は当初、アメリカに見られる訴訟委員会に類似した制度の導入を求めていた。会社の内部に、社外取締役を主要なメンバーとする訴訟委員会を設けた上で、同委員会が役員への責任追及を不要と判断した場合には、裁判所はその判断を尊重して、株主の提起した代表訴訟を却下するというものである。
 不提訴理由書の制度は、株主からの訴訟提起の要請を六〇日間棚ざらしにしてきた従来の実務から見れば、確かに規制の強化に映るが、見方によっては、訴訟委員会制度への布石と言えなくもない。制度を骨抜きにすることなく有効に活用することこそが、次のステップへの試金石であることを忘れるべきではないだろう。


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