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2007.05.12

[フィナンシャル ジャパン] ベネッセにみる「社長」に求められるもの

フィナンシャル ジャパン」2007年5月号掲載 
【ミクロが変える経済】 経済ジャーナリスト 財部誠一氏

 『週刊新潮』に不倫現場を押さえられたベネッセコーポレーションの森本昌義社長の退任が決まった。その直前、森本氏にインタビューをしていた私は少なからずショックを受けた。記事の中身からも、社長と社長室長との
不倫関係は社内からのリークであることは明らかだった。あれだけの実績を残しながら、なぜ、もっと謙虚に経営者として生きることができなかったのか。愕然とした。
 ベネッセの前身は福武書店である。1955年に福武哲彦氏が岡山県で創業し、「進研ゼミ」という画期的な通信教育のビジネスモデルを構築して、業界ナンバーワンとなった。86年に息子の總一郎氏が社長を継承。典型的なオーナー企業である。少子化のなかでも進研ゼミは会員数を伸ばし、2000年は420万人にまでふくれあがった。ところが、まるで突然変異でも起こしたかのように、会員数が激減し始めた。「ゆとり教育」に対して危機感をいだく親が急増していたにもかかわらず、その不安に気づくことができず、従来のビジネスモデルを続けていたことが原因であった。進研ゼミは、全国一律で教科書に準拠した内容であることがウリだったが、ゆとり教育で学校教育そのものへの不安が広がるや、親たちのニーズは必然的に多様化にむかった。しかし、もっと高いレベルの教材が欲しいと思っても、進研ゼミにはそれに応える商品がなかった。420万人いた会員は03年4月には370万人まで減少。損益分岐点である340万人がすぐそこに迫っていた。
 そんな状況下で、創業家の二代目社長である福武總一郎氏は森本氏を社長として招聘した。大変な英断だ。オーナー経営者が赤字に陥る前に、自ら一線を退いて社長を譲るなどということは、できそうでできるものではない。その思いに森本氏は見事に応えた。ベネッセの主力ビジネスである進研ゼミの会員数は再び上昇に転じて、会社全体の利益も大きく好転。03年3月期に160億円だった経常利益は、07年3月期には320億円(予想)に倍増するとみられている。
 そこで森本氏がとった手法は「コーポレートガバンス(企業統治)と意思決定のプロセスの透明化」だった。
 「ガバナンスと意思決定プロセスの透明化というのは、パソコンにたとえるとOS(オペレーションシステム)で、個々のビジネスはアプリケーションソフトです。OSがしっかりしていなければ、アプリケーションソフトもきちんと動作しないのと一緒です」
 ベネッセは典型的なオーナー企業だった。福武氏が「やる」と言えばやるし、「もうやめた」と言えばその事業はそこで終わる。社長の言葉が「絶対」だった。そこに教育ビジネスとは無縁の森本氏が落下傘で降りてきた。森本氏にすれば「進研ゼミ」をいかに立て直すかといった個別、具体的な事業の見直しも重要だが、それ以上に大切なことはガバナンスと意思決定プロセスの透明化によって、会社を本質的に強くすることだった。
それを見事に実現したのに、森本氏は自身のガバナンスができずに、社長業とは別のところで社員の信頼を失ってしまった。ふと、伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長が言った言葉を思い出した。
 「聖人君子が社長になるわけではない。社長でいる間だけは聖人君子でなければならない」

2007 05 12 [13. フィナンシャル ジャパン] | 固定リンク

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