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2007.05.05

[フィナンシャル ジャパン] 小泉構造改革の舞台裏(前編)

フィナンシャル ジャパン」2007年5月号掲載 
竹中平蔵 前総務大臣、慶應義塾大学教授 + 木村 剛

「竹中大臣が不良債権処理で木村 剛氏を起用」。
2002年10月2日、このニュースが市場に伝わると銀行株が投げ売られ、平均株価は終値で9049円33銭とバブル崩壊後の最安値をつけた。
小泉改革のすべてはそこから始まった。

そのときに何か起きたのか

木村 小泉改革を振り返って、どう評価しますか。
竹中 じつは、そんなに特別なことはやっていないんですね。世界で専門家が共有している知識に基づいて、「普通のこと」をやっただけ。日本は、その普通のことをやっていなかったわけです。
木村 その「普通のこと」ができないのが日本なんですよ(笑)。
竹中 財政拡大だけで経済がよくなるわけはない。それにもかかわらず財政拡大ばかり続けて、結果的にそれが政治利権になってしまい、やめられなくなってしまった。それが1990年代でした。
木村 「失われた10年」ですね。正確には「自ら失ってしまった10年」だと思うんですが……。
竹中 不良債権問題も同じです。不良債権はできてしまったら、辛いけれども処理してバランスシートをきれいにするしかない。そのためには、資産査定をしっかりやって、必要だったら自己資本を充実して、ガバナンスを強化することが必要。これも当たり前のことをやっただけ。
木村 理論的にも、他国の先例と比較しても、明らかなことでした。
竹中 当たり前のことをやるだけなのに、政治的利害を持っている人たちが、あの手この手でラベルを貼って妨害しようとした。
木村 誤解も多かったですよね。初めはみんな「不良債権処理をやそのとき何が起きたのか
れ、やれ」と言っていたのに、いきなり「止めろ」という話になって、「行き過ぎだ」と言われたと思ったら、「骨抜き」だと批判されて、結局は「効き過ぎだ」と書かれた(笑)。
竹中 この国には、政策の専門家がほとんどいない。評論家ばかりなんですね。ムードだけで揶揄するばかり。政策論議なんてない。
木村 本当に冷静な政策分析がないですよね。不良債権問題に関していうと、「結局、景気が良くなったから解決したんだ」と強弁する識者が呆れるくらいに多い。
竹中 無謬性なんですよ。役人が典型なんですが、自分が間違っていたことを認められない。「不良債権処理をやったら、日本は大変なことになる」と言っていた人は、単純に間違っていた。認めたほうが潔いんだけれど、それができないんです。評論する立場の人は、何も責任を負っていないから、言いたい放題ですよ。
木村 どんなに間違っても、認めなければいいと思っている。
竹中 そういう識者を見ていると、日本はある意味で、言論の自由が保証された、のどかな、良い国だなぁと思いますね(笑)。
木村 経済評論と政策実行の間には、ものすごい距離があるのに、それをわかっていない。
竹中 例えば、庭造りのためには、植物学の知識が重要ですが、だからといって優れた植物学者が優れた庭師になるという保証はない。そういうことなんですよ。
木村 植物学者が造る庭は売れないだろうなぁ(笑)。
竹中 でも日本の経済政策においては、そういうことがずっとまかり通ってきた。庭を造るのが非常に難しい仕事であるのと同様に、政策をつくるのも非常に難しい。私は30年間政策を勉強した後に、閣内に5年5カ月いましたが、思った以上に政策は難しかった。

実行することの難しさ

木村 難しいと思われた理由はどういう点にありますか。
竹中 政策というのは非常にきめ細やかな実務の積み重ねなんです。厳密に言うと、法律的行為の集合体です。ただし、その組み合わせ方ひとつで政策は違ってくる。政策の方向性についてコメントするのは極めて簡単です。
木村 はっきり言って、少し勉強すれば、誰でもできますよね。
竹中 でも、その政策をどう具体的に実現していくかということになると、法律行為や実務の組み合わせになってくるので、相当の知恵がいる。
木村 法律的な知識、すなわち官僚知識の集大成を把握していないと、実戦では闘えませんからね。
竹中 日本では、遠くのほうから植物学者的に政策を眺めている人が大多数だから、役に立たない。金融改革のときも、助けてくれたのは志を持った実務家たちでした。金融論を専攻した人は大勢いたはずなんですが、政策を考える上では役に立たなかった。
木村 庭師がいない。
竹中 さらに言うと、政策というのは、白地のキャンバスに絵を描けるものではありません。年金改革が好例です。「理想的な年金制度を描け」というのであれば描きますよ。でも、現時点において既に年金をもらっている人がいる。だから、現在の年金制度を維持しながら、どのように理想形に変えていくかということを考えなくちゃいけない。これが難しい。
木村 それが庭師の仕事ですよね。自分が理想とする庭の中で仕事をするわけじゃない。与えられた庭の中で素晴らしい景観を造り出さなければならない。
竹中 本物の実務的な知恵と将来にわたる深い洞察が必要です。それなのに、机上の空論が多すぎる。
木村 それに実態の把握が重要ですよね。制度を変更したときに、どこに痛みが走って、どのような歪みが生じるのかという現実を把握していなければいけない。政策を論じるときは、そういう現実の社会を踏まえなければいけない。
竹中 政策には、「アジェンダ設定」「基本方針」「制度設計」「合意形成」という4つのプロセスがあります。この中でいちばん簡単なのは、「基本方針」を決めること。ところが、「アジェンダ設定」は難しい。というのは、最後の「合
意形成」に絡まってくるからです。合意形成が可能で、かつ国民が注目してくれて、しかもタイムリーでないといけない。
木村 だから、アジェンダは、魅力的なものを戦略的に設定しなければいけないんですよね。
竹中 そこがポイント。先行きに関する洞察だけでなく、国民の心理まで含めた、深い読みが必要です。そして、「制度設計」が本当に難関なんですね。
木村 ここを勝ち取るには、役人と闘わなければいけませんから。
竹中 終身雇用の中で、官僚組織は行政実務をすべて取り仕切って、そこに関する知識を独占してきました。だから、その官僚たちと闘うのは並大抵なことではありません。結局は、ガイドラインや法律で著されている「霞が関文学」に集約されるわけですから、その「霞が関文学」を批判するばかりでは、実際の政策はできない。
木村 どんなに嫌いでも、「霞が関文学」というリングで勝たないと、政策は実現しませんからね。
竹中 最後の「合意形成」の段階においては、3通りの合意が必要です。まず最初に、「政府の中での合意形成」が必要なんですが、これには苦労しました。それぞれ官僚がいて、官僚の裏に族議員がいますからね。
木村 それが終わっても、与党が待っていますしね。
竹中 そうです。その「政府と与党の合意形成」が2番目の合意です。政府と与党は違うのですが、議員内閣制の下では政府と与党が一体となって合意形成しないと意味がない。総理大臣が「閣議決定する」と言っても、現実問題として、自民党の総務会で了承されないと国会で通りませんから。
木村 政策を実現するためには、政治家の性癖やキーパーソンの現状、それに政局が本当に重要です。
竹中 そうです。そして3番目に、「国会での合意形成」です。野党が入ってきて、その背後には世論やマスコミがいる。それぞれが非常に独特の動き方をします。そういう中で、政策というものは、複雑な連立方程式を解いていくような筋道を辿るものなんです。
木村 私は、4つのプロセスの代わりに、「3つの段階」という表現で説明しています。まずは「政策をつくる段階」。竹中流に言うと「制度設計」です。残念ながら、この段階で官僚に勝てる識者はほとんどいません。
竹中 各分野で2~3人ですね。
木村 仮に制度設計で官僚に勝てたとしても、立法措置が必要な場合は、国会を通さなければならない。そのためには、与党を説得して、世論も味方につけなくてはいけない。ここでも官僚が族議員とともに邪魔をします。この「政策を通す段階」がこれまた大変です。そして最後が「政策を実行する段階」。官僚は本当に優秀なので、法律を通しても、運用の中で骨抜きにしてしまう場合が間々ある。この3段階のすべてで、官僚と闘って勝ち抜かないと、政策というものは実行されない。結構、辛くて長いプロセスですよね。
竹中 最大の辛さは、その辛さを誰も理解してくれないことでしょうね。いちばん辛い闘いをしているときに、マスコミは取り上げませんし、どちらかというと揶揄して邪魔するだけですからね。
木村 「金融再生プログラム」のときもそうでしたね。
竹中 「金融再生プログラム」が出たとき、マスコミは散々騒ぎましたが、実は、その後の金融検査マニュアルへの具体的な落とし込みが最も重要だった。
木村 でも、そこに注目していたマスコミは、ほとんどなかった。
竹中 その落とし込みを勝ち取らないと、不良債権は減らなかった。本当だったら、政策の翻訳家がいて、マスコミを通して国民に知らせてくれて、国民がそれをサポートするというプロセスがあれば最高でしたが・・・・・・。

マスコミの大罪

木村 でも、それをいまのマスコミに期待するのは酷でしょう。
竹中 マスコミは「経済政策」を報道するのではなくて、「経済事件」を報道しているんですね。だから、大事なことでも事件にならないと、まったく報道しません。
木村 実態としては、「経済事件」でもないですよ。報道するのは、「事件」とか「スキャンダル」とかばかり。お互い様ですが、竹中さんも、いろいろと勝手なことを書かれましたよね。
竹中 まったくそのとおり(笑)。
木村 竹中さんは「住民税を払っていない」という「けしからん」記事で、講談社と裁判で争い、最終的に最高裁で
勝ったのに、誰も報道してくれない(笑)。
竹中 そう。だから、友人を含めて、誰も知らないんだよね。
木村 私も、講談社を名誉毀損で訴えて、東京地裁で勝訴して、500万円の賠償金をもらえる判決をいただいたんですが、誰も気付いてくれない(笑)。
竹中 それに、裁判に勝っても、費用は相手持ちになりませんからね。裁判費用は向こうですが、弁護士費用は自分の負担です。私は、賠償額として120万円もらいましたが、弁護士費用はその10倍以上かかっていますから、完全な持ち出し。純粋に名誉のためでした。
木村 結局、書きたい放題ですよ。
竹中 言論の自由は、何ものにも替えがたいほど必要ですが、明らかにバランスが崩れています。
木村 本間正明前税制調査会長のスキャンダルのときにも感じたんですが、本質的な議論じゃないところで足を引っ張ります。問題の本質は、愛人がどうのこうのではなかった。普通なら家賃が月に数十万円するマンションを数万円で借りていたことです。本間氏を問題にするのであれば、公務員限定のお得なディスカウント価格を止めて、全員時価で支払うべきです。
竹中 同感ですね。もしくは、いますぐに公務員全員をそのマンションから追い出すべきです。
木村 公務員全員が問題になるはずなのに、そうならない。
竹中 変ですよね。とにかく辞めるまでは異様な騒ぎ方をする。それで、辞めたらOK。日本のマスコミはさらし者にする「見せしめ論」ですからね。
木村 魔女狩りですよね。
竹中 大騒ぎするだけ。本間先生はさらし者になりましたが、本間先生と同じ経済的便益を受けている公務員は何もお咎めなし。だから、本質的な問題は何も解決していないわけです。結局、さらし者をつくって、留飲を下げただけ。
木村 マスコミはいつも、「こいつ、偉そうにしやがって」から始まって、辞めさせたら、「ああ、気持ちよかった」みたいな感じ。
竹中 そしてまた、次の留飲を下げるためのターゲットを探す。
木村 そういう稚拙なマスコミが闊歩しているから、政策なんて誰もやる気が起きなくなる。
竹中 やる気をなくさせるというのが、彼らの最大の狙いなんですよ。抵抗勢力や、抵抗勢力と組んでいる官僚は、そういう情報をいっぱいマスコミに流しています。ほとんど嫌がらせですよね。
木村 でも、それって、本当だったら公務員法違反でしょ。
竹中 法律違反です。
木村 厳しく罰しないとまずいんじゃないですか。
竹中 そのとおりなんですが、罰する対象としての役人は、個人名としては知名度がない。その一方で、役職についている民間人はニュースバリューが大きい。だから狙われる。
木村 民間人が本当の意味で政策に近づくと必ずやられますよね。
竹中 みんなやられます(笑)。
木村 民間人として、社会保険庁長官になった村瀬清司氏も、不正免除事件のとき、マスコミに散々叩かれましたが、彼を責めたってしょうがないじゃないですか。
竹中 そのとおり。社会保険庁が悪いわけですからね。オリックスの宮内義彦氏がやられたり、キヤノンの御手洗富士夫氏がやられたりする。政策で何か正論を吐こうとすると、必ずやられます。結局、嫌がらせして、やる気をなくさせようとしているんです。現実問題として、じっと小さくなって、思い切った政策を実行しない大臣がたくさんいます。そういう人はマスコミにやられない。それにしても、最近のバッシングは「ショボイ」ですね。
木村 「ショボイ」というと。(続)

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