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2007.05.06
[フィナンシャル ジャパン] 小泉構造改革の舞台裏(後編)
「フィナンシャル ジャパン」2007年5月号掲載
竹中平蔵 前総務大臣、慶應義塾大学教授 + 木村 剛
竹中 政治家同士で情報戦をやる場合は、本当に首を取りにいくから、ものすごい緊張感がある。でも、週刊誌にスキャンダルを売るというのは、いかにも役人的。単なる嫌がらせなんですよ。「ショボイなぁ。やるならもっとやれ」
と言ったことがあります(笑)。
木村 竹中さんはそうかもしれないけれど、普通の人だとシュンとなりますよ。だから、頭のいい人は政策なんてやらなくなる。
竹中 最大の問題は、ちゃんとした人ほど、政策の世界に近づきたくなくなるということなんです。
木村 そういう意味では、本間氏の後釜を探すドタバタ劇が印象的でした。誰も火中の栗を拾わなかった。そういう肚がない人たちが、偉そうに政策を語っていることがよくわかりました(笑)。
竹中 本当ですね。
木村 でも彼らは賢い。気持ちはよくわかりますから、あんまり非難できません(笑)。でも、それでは、世の中は変えられない。そういう意味では、本間氏の後を継いだ香西 泰氏は本当に素晴らしい方だと改めて尊敬しました。
竹中 香西先生は人物・識見ともに申し分のない方ですが、よくお引き受けになられたと思います。
木村 不良債権問題のときの「竹中チーム」でも、香西氏の存在はものすごく大きかったですね。
竹中 さまざまな意見がある中で、香西先生が、「まあ、竹中さんが頑張ろうとしているんだから、みんなで応援しましょうよ」とまとめてくださったのを鮮明に覚えています。
木村 政策というのは、大義のために小異を捨てなくちゃいけない。それを香西氏は体現したと思います。政策で、それを実践できる人は本当に少ないですからね。
竹中 結局は「志」なんです。いま求められているのは、志のネットワークなんですよ。
木村 だいたい「改革派」と自称する人に限って、小異にこだわって分裂しちゃいますからね。
竹中 改革派は常に分裂します。改革者はみな不幸になる(笑)。それこそが、抵抗勢力と官僚の思うつぼなんですよ。
木村 いまは、その「思うつぼ」に、はまっていませんか。
竹中 はまっていますね。一連のスキャンダルで、民間委員や大臣も「次は自分がやられるんじゃないか」とビクビクしていますね。
木村 このままだと、小泉改革で前進した部分が、全部巻き戻されてしまうんじゃないですか。
安部政権の評価
竹中 現在のところ、改革は続いています。安倍首相が明確に改革の旗を掲げて、前には進んでいる。ただし、至るところに「綻び」が出ているんですね。経済がなまじ強くなっているので、「綻び」が3~4カ所に出ても、すぐに経済は悪くならない。でも、これが怖い。気がついたときには、元に戻っていた。いやもっと悪くなっていた、ということもあり得ますから。
木村 本当に進んでいますか。
竹中 例えば、この間の予算編成は評価できると思います。でも、社会保険庁改革をはじめとして、「綻び」がどんどん出てきている。だから、その「綻び」をなくせるかどうかがポイントですね。
木村 「綻び」のひとつにグレーゾーン金利の撤廃があります。本当に影響が大きくなりつつある。銀行が貸金業者に貸さないから、貸金業者は零細企業から貸しはがしを始めている。竹中 確かに、最も大きな「綻び」の一つが、グレーゾーン金利の撤廃です。海外に行くたびに、「日本の政府は、なぜあんなことをしたんだ」と非難されます。経済というのは正直なもので、変なことをやると必ずその反発が出る。金利というのは、お金を貸し借りするときの価格ですから、政府が無理やり価格を下げたら、単純明快なことが起こります。
木村 供給が減りますよね。
竹中 リスクに見合った金利が取れないなら、誰も貸しません。すると、お金が回らなくなる中小企業が出てくる。あるいは、リスクを顧みずに、ヤミ金に走る人たちが出てくる。これは、実施してはいけない政策の典型なんです。しかし、多重債務者を救うという大義名分に隠れて、経済の本質的な議論をしなかった。
木村 本当に薄っぺらい感情論だけで決めてしまった。
竹中 経済財政諮問会議はこれについて、議論すらしなかった。諮問会議は改革のエンジンなのに、いまはガソリンがない。このままでは、エンジンブレーキになってしまう。
木村 経済財政諮問会議が怠慢なんですか。
竹中 怠慢かどうかはともかくとして、今の経済財政諮問会議は十分な力を発揮していません。やっぱり、波風立てるぐらいでないとダメです。だけど、波風を立てたくないんでしょう。波風を立てると叩かれますから。でも、それでは本来の機能は果たせません。
格差論の嘘
木村 それにしても、「静かな社会主義化」が進んでいるような感じがします。「格差論」がその典型ですよね。
竹中 格差は、まず実態を把握すべきです。「現状はデータがないからよくわからない。だからしっかり調べましょう」ということです。データは多様ですから、都合のいいところだけつまみ食いして、政治キャンペーンに使ってい
る人が多い。いまの「格差論」は、政策論じゃなくて、政治キャンペーンに堕しています。
木村 確かにそうですね。
竹中 政治キャンペーンとして見た場合、社会主義と資本主義の2通りの考え方がある。社会主義のキャンペーンは、所得の高い人の足を引っ張るわけです。英首相だったサッチャーが言いましたが、「金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない」というのは真理です。もし社会主義的な格差論を唱えたいのであれば、言論の自由は保障されていますから、大いに言えばいい。ただし、国民に理解されやすいように「私は社会主義者です」と自己紹介してほしい。
木村 まったく同感ですね。そういう格差論を唱えるんだったら、「日本は社会主義国になるべきだ」と主張すべきなんですよ。
竹中 私は、社会主義的な格差論には反対です。その一方で、資本主義としては、格差論の本質は「貧困論」なんです。所得の低い人たちをどう底上げしていくか。経済がダイナミックに動いている中で、そういう貧困の問題を取り上げるには、まずは、貧困の実態を調査しなくちゃいけない。以前から指摘しているんですが、政府はまだ調査を開始しないですね。
木村 そういう具体的な施策が必要なのに、「この豊かで自由な経済を維持しながら、問題もなく、格差をなくしてみせる」と主張する詐欺師的な識者があまりにも多い。本当に空々しいと思いますね。
竹中 国民も、そのことは感じ始めているんじゃないでしょうか。
木村 昔は、ロバート・オーウェンや有島武郎が、私財を投じたり、自分の農地を開放したりして、実現しようとした。彼らは失敗したけれど、尊敬に値すると思います。ところが、いまの格差論者たちは、自分は何もしないで、口先で主張するだけで、ユートピアが実現するかのごとき幻想を振り撒いている。4つのプロセスも、3つの段階も、何もない。口先だけでパラダイスになるなら、今ごろ日本はパラダイスです。
竹中 そういう人たちのやり方は、常にラベルを貼って問答無用にするんです。私の場合、「市場原理主義者」と言われました。でも、市場原理主義者なんて、これまで一度も会ったことがない。「市場ですべてが解決する」なんていう人は、普通いないですよ。
木村 法律も、私的所有権も、裁判所も、警察も要らないのなら、市場原理主義じゃなくて、暴力原理主義になっちゃいますよ(笑)。
竹中 それなのに私のことを「市場重視主義者」だと言うわけです。だから私は、「そのとおり。私は市場重視主義者だ。それじゃ、あなたは市場軽視主義者なんですね」と問い返すと、今度は何も言えない。その程度の人たちなんです。そういう卑怯なラベリングが横行しているんですよ。
木村 それにしても、竹中さんが安倍内閣をかなりポジティブに見ていることは少し意外でした。
竹中 私が認識する限り、政界で改革をやってくれそうな人は安倍首相以外にいません。彼に頑張ってもらう以外に、改革を進める方法はないんです。ただし、そのためには安倍首相を支える人たちがもっと頑張らないとダメです。揉め事から逃げちゃダメですよ。
木村 残念ながら、これまでは逃げ続けてきましたよね。
竹中 揉めることによって、国民が初めて、アジェンダを知るんです。問題の所在を知るんです。そこで揉めて、正論を戦わせることによって、国民はどちらが正しいかを理解します。そうしたら、国民の内閣に対する支持率も上がるんです。支持率が下がってきた一つの理由は、大臣や補佐官が揉め事を避けてきたからです。ぜひそこを直してほしい。安倍首相が辞めてほかの人になると、改革は全面的に止まります。
木村 完全な逆戻りが始まる。
竹中 もう堂々と始まりますね。
木村 どうなりますか。
竹中 政治家は、やはりお金を使いたいんです。お金を使うことで、自分の影響力を行使したい。だから、財政が緩みます。それに、大きな政府というのは、短期的には心地よい。負担はすぐには来ませんからね。でも、一度緩むと、それを絞るのは至難の業です。
木村 その気配はありますか。
竹中 いまはありませんが、安倍政権に「もしも」のことがあると、一気に出てくると思います。
今何が求められているのか
木村 そうなると、霞が関と永田町で、何が本当に起こっているのかを、多くの人たちに伝える必要があるのではないですか。
竹中 そうです。そのためにも、政策の専門家である「ポリシーウォッチャー」が必要です。今後私の仕事は、自分自身がポリシーウォッチャーになり、かつポリシーウォッチャーを育てていくことだと思っています。日本の問題は、政策情報、つまり「庭師の知恵」が全部官僚に独占されていて、民間人が持っていないことです。
木村 しかも官僚は、マスコミにリークして、民間人に嫌がらせまでします(笑)。
竹中 政府を民間から厳しく見て、評価すべきところは評価する一方で、問題点はちゃんと見抜くような専門家が絶対に必要なんです。そういう社会的インフラを作りたい。それがないと、国民は政策を監視できません。米国だと、1000人単位でいるんですが。
木村 具体的にはどういうことをされるのですか。
竹中 定期的に情報を伝えていくことがベースです。「ポリシーウォッチとはこういうことをするんだ」ということを、行動を通して示したい。新聞に載らない生の情報を伝えていきたいですね。
木村 最近の例で言うと……。
竹中 社保庁改革の内容を仔細に見ると、官僚が「技術」で捻じ曲げている。社会保険庁の権限を国税庁に「移管」することになっていたのに、いつの間にか「委託」になっていた。「移管」は権限の委譲を伴うのですが、「委託」は伴わない。「委託」だと、委託者の自由に委ねられるんですね。
木村 相変わらず、官僚はウマいですね。
竹中 経済学者の加藤寛先生をヘッドに迎え、信頼できる数少ない政策専門家のチームを組成しました。「これがポリシーウォッチだ」というものを出したいですね。
木村 イメージとしては、「日本版ブルッキングス研究所」ですか。
竹中 米国を例に取ると、まずは、経済政策情報で有名な「スミック=メドレー・リポート」や、元大統領補佐官のリンゼイ氏が書いている「リンゼイ・リポート」が参考になります。希望者を募って、選りすぐりの情報をプライベートに有料で提供する。いずれは、ブルッキングス研究所のように寄付金で運営資金をまかない、パブリックに発信していくことも必要になると思っています。
木村 経済政策に関する「竹中リポート」のような極秘情報が、毎週プライベートに配信されるようになるわけですね。
竹中 それが第一歩です。それを読んだ上で、新聞やテレビを見ていただくと、その裏側を10倍は深く読めると確信しています。植物学者ではなくて庭師の立場で発信していきたいと思っています。
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