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2007.05.19

[フィナンシャル ジャパン] 格闘技人気を根底で支えるのはフィクションと紙一重の「超人伝説」

フィナンシャル ジャパン」2007年5月号掲載 
「勝者の実学」 スポーツジャーナリスト 二宮清純氏

 人気拡大のためには有名人をリングに上げるのが最も手っ取り早い。しかし度を過ぎるとシラけてしまう。これは両刃の剣だ。
 格闘技のK—1がタレント発掘のため、「K—1ジャパン戦士育成プロジェクト」を立ち上げた。第1回トライアウトには元プロ野球の強打者やお笑い芸人も参加した。
 谷川貞治K—1イベントプロデューサーは、ほかのジャンルからの人材発掘に熱心で、プロ野球のオリックスを自由契約になった中村紀洋(その後、中日に入団)にも声をかけていた。
 しかし2億円とも噂された契約金で身を投じた元大相撲の横綱・曙の惨状が示すように、ほかのジャンルでトップを極めたからといってすぐ第一線で活躍できるほど、この世界は甘くない。曙はK—1通算12戦1勝11敗。口さがないファンからは「マケボノ」と呼ばれている。
 俳優の金子賢に至っては、ついに白星をひとつも上げることなく(3戦3敗)引退した。K—1の総合格闘技HERO,Sの前田日明スーパーバイザーから「オマエなんぞが出てくる場所じゃない。オレが現役だったら半殺しにしてやるよ。芸能人のステータスを上げるために出られたのではたまらない」と罵倒されたのは記憶に新しい。
 金子賢の参戦がK—1人気の向上にどれだけ貢献したのか定かではないが、曙とは違った意味で彼もまたピエロのように映った。
 格闘技にはある種の「神秘」が必要である。非日常の風景といってもいいだろう。
 たとえば極真空手の創始者である大山倍達の拳はゴッドハンドと呼ばれ、牛をも一撃で仕留めたという。事実かどうかは知らないが、少年の頃に読んだ『空手バカ一代』(梶原一騎原作)にはそう描かれていた。
 これも同じく梶原一騎の原作だが、キックボクシングのスター、沢村忠を主人公にした劇画『キックの鬼』にムエタイ(タイ式ボクシング)の練習風景が描かれていた。
 将来のムエタイ戦士を目指す貧しい少年が登場し、川の中に入っていくなりキックを連射し、次々とサカナを岸にハネ上げるというシーンがあった。
 もちろんフィクションなのだが、ムエタイの強さと恐ろしさを伝えるには、十分すぎるほどの1コマだった。
 昨年10月に他界した大木金太郎(本名キム・イル)といえば、頭突きで一世を風靡した力道山門下のプロレスラーである。現役時代はジャイアント馬場やアントニオ猪木に次ぐ人気を誇っていた。 師匠の力道山から「頭を石のように硬くしろ!」と命じられた大木は、縄を巻いた柱に、一日に何百回も頭を打ちつけた。時には鉄柱に頭突きを見舞い、額が割れて病院に急行したこともあったというのだから、これはもう狂気の沙汰である。
 自著『伝説のパッチギ王』の中で大木はこう述べている。
 「先生(力道山)はゴルフのパターで額の鍛錬度をチェックした。ゴルフのパターでコンコンと叩きながら私の額がスイカのようによく熟しているのか、熟していないのかを確認した。嘘みたいな話だが本当だ」
 このように格闘技を根底の部分で支えているのは「超人伝説」である。その部分だけはしっかりおさえておかないと、熱気はあっという間に冷めてしまう。ショーとしての完成度なら長州小力の「西口プロレス」にどこも及ばないのだから。

2007 05 19 [13. フィナンシャル ジャパン] | 固定リンク

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