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2008.01.03
[フィナンシャル ジャパン] リーダーの条件③
「フィナンシャル ジャパン」1月号 巻頭企画
--リーダーの条件 安倍・小沢「投げ出し」騒動の本質
本宮ひろ志(漫画家)+伊藤達也(衆議院議員)+二宮清純(スポーツジャーナリスト)+木村 剛
「男」はどこに行ったのか
二宮 本宮作品の神髄は「男」ですよ。「男はかっこいい」ということが描かれている。僕はリーダーうんぬんの前に、なんだか「男」がいなくなったなと思うんです。
本宮 それは仕方がないんだよ。
二宮 そうなんですか(笑)。
本宮 仕方がないんだ。僕は1947年生まれです。うちのおふくろは僕と一緒に親父の悪口を言う。どういう意味かと言うと、つまり僕は母親の教育で育ったということです。
戦前までは明らかに男の教育です。「将来お前は軍人になれ。軍人がダメなら博士か大臣になれ」と言われた。その一方で女性は「それにかしずいて、いい子どもを産んで育てて、いい家庭を作れ」と教わる。でも戦争で負けて、結局、男が国をなくしちゃった。
だから戦後は女の教育です。男には「他人に迷惑をかけるな。優しい人間になれ」と。その一方で女性には「自立」を教えてきたんですから。
二宮 そうか。男を作らないような教育になっているわけですか。
本宮 そうそう。そういう教育を受けた僕たちの世代がさらに悪いんだ。つまり今度は、そういう子どもが子どもの「ノリ」で、自分たちの子どもを育てた。しかも男は仕事が忙しいと言って、教育放棄して、その場から逃げた。つまり、母親に育てられた強烈な女性が、一人で子育てしたわけ。さらに女の教育が行われた。これじゃあ、「男」なんて作りようがない。
リーダーはチャーミングであるべし
木村 スポーツ界にはリーダーらしいリーダーはいますか。
二宮 サッカーの川淵三郎氏(日本サッカー協会キャプテン)はリーダーだと思います。週刊誌なんかで「暴君」なんて書かれて、最近かなり批判されていますが、確かにあれは当たっている(笑)。でも、それ以上に川淵さんには勝負勘がある。
リーダーというのは、子分になった奴らが、「この人の下でケンカをやったら勝てるな」と思わせるような何かを持っているかどうかだと思うんです。
例えば「時期尚早だ」という批判を受けると川淵さんは「時期尚早だと言う奴は、100年経っても時期尚早だと言う」「前例がないと言う奴は、100年経っても前例がないと言う」と切り返す。「この人と何かを一緒に組んだら
面白いことができるんじゃないか」というものを見せてくれる。川淵さん以外にも、亡くなった仰木彬さん(プロ野球・オリックス・ブルーウェーブ元監督)も、面白かった。やることなすことチャーミングだった。「この人とだったら面白いことができる」「勝てそうな気がする」「なんか違う場所に連れて行ってくれる」みたいなものを持っている人がリーダーだと思います。要するに、人生の水先案内人ですね。
木村 福田首相はどうですか。「遊び」のあるチャーミングなリーダーですか。
伊藤 意外にね。福田さんなりのキャラがあるんじゃない(笑)。癒し系とはちょっと違うと思いますが、ここしばらく政治がガチャガチャしてしまったので、「もう少し落ち着いた政治をしてほしい」という声の中で誕生したリーダーだと思います。
しかし、これから先は福田さんの真価が問われます。いまの政治状況は、過去と照らし合わせても、やはり特異な状況なんです。つまり分断した政府というものが誕生したということです。衆議院の権力と参議院の権力というものが分断されていて、2つの権力が存在している。民意は「衆議院の権力と参議院の権力がよく話し合って、いい方向を導き出してくれ」ということを要求しています。
国民は自民党に対して「誠実に話し合う姿勢」を求める一方で、民主党に対しては、「法案に対する拒否権を握っているのだから責任感を持て対応しろ」という要求している。福田さんはそれに応えるためのリーダーとして誕生した、という感じがします。
本宮 今の日本は本当にバラバラでしょう。国家という概念や国民の意識も、まとまらなくなっていると思うんですよ。だから、テーマを細分化していかないと成り立たない。全部を一緒に考えていたら、どこに行けばいいのか、本当にわからなくなる。
『サラリーマン金太郎』はなぜ売れたのか
木村 そういうバラバラな時代だからこそ、多くの日本人がヒーローみたいなリーダーを求めていると思うんです。例えば『サラリーマン金太郎』がすごい人気になった背景には、そういうことがあると思うんです。それにしても、金
太郎はちょっとかっこよすぎませんか。
本宮 いや、あんなのが実際いたら、1週間もたないと思う。
全員 あはははは(笑)。
本宮 でもね、やはり「それってあってもいいじゃん」と思うんです。だから金太郎みたいな主人公を描く。ただし、テレビで言うところの視聴者に迎合してはダメです。確かに合わせたら人気は出る。だけど絶対にロングセラーにならない。だから、ちゃんと自分の中のハードルを越えたものを世の中に出さないといけないんです。それができていないと、絶対に自己嫌悪に陥る。
若い頃、野球作品を描いことがあるんです。スポーツをテーマにした作品と言えば、当時は『巨人の星』と『あしたのジョー』の2枚看板じゃないですか。本人としては、行き詰まってどうにもならなくなっているときに、その2作
品を抜いて、僕の作品が人気1位になった。でも本人としては自己嫌悪です。だから連載を「止めたい」と編集部に言った。そうしたら、編集長以下全員が僕のところにやって来て、「『あしたのジョー』と『巨人の星』を抜いて1位になったのに、なんで止めるんだ。お前は何を考えているんだ」と責めるんです。
でも僕は「ちょっと待ってほしい。あなたたちは、俺のこの作品が歴史に残ると思いますか」と反論した。仮に1位や2位が取れたとしても、『あしたのジョー』や『巨人の星』以上に名を残す作品になるわけがないと思ったからです。
木村 「読者に媚を売ってしまうとロングセラーにならない」ということは、先ほどの「遠くを見ていないと、まっすぐ走れない」というヨットレースの話と似ていますね。例えば媚びないということがリーダーの基本条件なんじゃな
いですか。
二宮 野球でいえば、メジャーリーグへの道を切り開いた野茂英雄なんかは一切媚びてないですよ。だからめちゃくちゃマスコミに叩かれた。野茂が渡ったアメリカは、勝ち組と負け組が入れ替わる社会です。今日の負け組が明日の勝ち組になり、その逆もある。しかし、私たちが住む日本では、格差社会の議論もそうですが、「一度落ちたらもうおしまい」みたいな話になっている。
人生なんて8勝7敗でいいじゃないですか。いや引き分けだったとしても、金星がひとつあればいい。みんながひとつの物差しで人生の価値を競い合おうとしている。だから格差という言葉に過剰反応してしまう。
そういう意味では安倍さんの「再チャレンジ」は、悪くなかったと思う。安倍さん自身も、今回は落ちたけれども、「もう1回俺はチャレンジする」と明確に意思表示したらいいと思います。
本宮 日本のテレビを筆頭とするメディアは次から次へといじめる相手を見つけては、自分こそ正義みたいにいじめるけれど、安倍さんはいじめる対象にならないぐらいにコケた。政治家として安倍さんは再登板を考えていると思いますか。
伊藤 うーん、再登板を考えて決断したというようには思えなかったですね。今回明らかになったことは、自民党の中でリーダーを選ぶ仕組みが、いままでとはだいぶ変わってしまったことだと思うんです。つまり、今までは派閥の激しい権力闘争を勝ち抜いた人間が総裁となり、総理大臣になった。タフなリーダーを作る仕組みがあったわけです。しかし小泉さんが「自民党をぶっ壊す」と言って、派閥の機能を低下させたことで、そういう競い合いの仕組みを失った。そこで登場した安倍さんには、何度も何度もチャレンジして権力を取りに行くとか、転んでもまた挑戦するとかいう気持ちはないんじゃないかな。
二宮 選挙の仕組みが小選挙区制になったことで、派閥の役割はほとんど終わったような気がするんですけど、今回の総裁選で、経世会の額賀福志郎さんは一度手を挙げたのに、結局出馬をとりやめて、福田支持に回りました。そして、気がついてみると財務大臣に留まっている。総裁候補としては、いささか物足りない感じがするん
ですが……。
伊藤 非常に答えにくい質問がきましたね(笑)。一番重要なことは、小選挙区制が導入されて10年が経ち、この制度がいよいよ定着したということです。ある意味では、政権交代が実現可能な時代に突入したということです。緊張感を持って民主党と競い合う体制を整えなければいけないのに、内向きなエネルギーしか働かない。旧来の発想で手をあげようとしても、天下を狙う流れは出来ません。だから福田さんは、単なる談合の中で誕生したリーダーではないですね。民意が対話を求める混迷した時期にふさわしい「知恵のあるリーダー」ということで選ばれたと思います。
福田vs.小沢のリーダー対決
木村 じつは福田さんはタフな人物だということですかね。では、タフで媚びないというのが仮にリーダーの条件だとしたら、民主党の小沢一郎代表はどうですか。
伊藤 鍛え抜かれていますよ。何度も修羅場をくぐり抜け、何度も失敗している。小沢さんは10回に1回、特大のホームランを打つんです。勝つ試合はめっぽう強いが、負ける試合はもうベタベタに負ける。今は逆バリ、逆バリで自民党の弱いところを徹底的に突いてきている。完全に小沢さんの勝ちパターンで攻めてきている。
正直に言って、敵ながら「アッパレ」だと思います。見事に構造改革の痛みを突いてきた。あの小沢さんが「生活者の立場に立って」って言うんですよ。新進党を作った時の小沢さんからは考えられないでしょう(笑)。
木村 新進党を作った当時の小沢さんは、どんなことを言っていたんですか。
伊藤 「日本は普通の国にならないといけない」と言っていました。タカ派的な強いリーダーのイメージがありました。ところが、今の小沢さんは「格差の中で傷ついた人たちに愛の手を差し伸べたい」「自分たちがそういうところに足を運び、その痛みを受け止めたうえで政治をやる」と訴え、参議院選挙を戦った。
本宮 でもね、小沢さんは細川政権のときに、何の前触れもなく「福祉目的税で7%だ」といきなり発表しちゃう人ですよ。ずっと後で振り返ってみたら、政局を荒らしただけの政治家にしか見えないかもしれない。あまり好きじゃないんだよね、僕は(笑)。田中派が108人とか、強いとか、言われたていたときに、小沢辰男さん(元厚生大臣)に世話になっていましてね。同じ小沢でも「いっちゃん」はただの若い衆にしか見えなかったな。
二宮 小沢さんがそこまで言っているんだから、自民党は西の横綱vs.東の横綱で勝負したほうがいいですよ。そう考えると、福田さんは大関ぐらいじゃないですか。やはり小泉さんが総裁として戻ってくる。その時が本当の“関ヶ原”でしょう。「大きな政府」vs.「小さな政府」とか、「官から民」vs.「官治政治」とか、対立軸をはっきりさせて、勝負したほうが国民にはわかりやすい。
僕は経済の専門家ではありませんが、中川秀直さん(元自民党幹事長)や竹中平蔵さん(元総務大臣)らの成長路線、財政規律重視の主張は、まだわかるんです。しかし、与謝野馨前幹事長や谷垣政調会長らの主張は“大きな政府”に戻るという意味に聞こえてしまう。これでは未来に大きなツケを残しますよ。同じ自民党なのに、これだけ意見が違っていていいのかと思います(笑)。
伊藤 それとまるっきり同じ構造が民主党にもあるんです。今後は政界再編が重要なテーマになると思います。
過去の「角福戦争」の再来のように言われて、田中角栄的な政治の小沢氏と福田首相のぶつかり合いに注目が集まっています。でも、本当はその先あるものが重要なんです。つまり、私たちのような中堅や若手が「修羅場をくぐれるのか」「勝負できるのか」ということが問われている。
木村 福田首相は対立軸を出すというよりは、対立軸を消す方向で対処していますね。今後はなんでも「丸飲み」でいくんですか。
伊藤 ボクシングのクリンチ作戦ね(笑)。
木村 「クリンチ」を繰り返す福田首相の指導の下で、日本はいい方向に進むんでしょうか。
伊藤 座談会の冒頭に、本宮さんが今の日本の政治状況を言い当てています。社会が非常に多元的になり、価値観が多様化した。そのなかで、二大政党制が本当に機能するのかということが問われています。こういう多元的な社会で、多様な価値観を政治の世界にうまく反映させるためには、もう少し比例代表制の比例の部分に重点を置くべきだと思うんです。
しかしその一方で、日本が直面している問題は、多様性のなかで解決するといよりも、まだ壊さなきゃいけない部分もあるし、戦わなければいけない部分がある。
例えば格差問題がそうです。アジアの中で、国際競争で負けたことが、格差の原因です。日本がアメリカのような競争社会になったから、格差が生まれたわけじゃない。これは国内問題ではないということです。
確かに「地方を救う」「弱者を守る」ことは正しい。しかし、国力が落ちていくなかで、果たして本当にそうできるのか。だから「できること」「できないこと」をはっきりと国民に言える政党や政治家、そしてリーダーが求められているんじゃないでしょうか。
木村 結局、銀次郎は強いから優しくなれるんですよね(笑)。優しくない人は絶対に強くなれないもの(笑)。
本宮 それは本当にそうだと思う。いつの時代でもそのままだよ。だから、さっき独裁者と言ったのも、根底には絶対的な正しさと優しさを持った独裁者ということですね。
木村 福田さんも小沢さんも、リーダーを目指す人たちには、まずは『硬派銀次郎』を読んで勉強してもらいましょう(笑)。
二宮 そう!、それが今日の座談会の結論ですね。
木村 皆さんお忙しい中、今日はどうもありがとうございました。
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