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2008.01.02
[フィナンシャル ジャパン] リーダーの条件②
「フィナンシャル ジャパン」1月号 巻頭企画
--リーダーの条件 安倍・小沢「投げ出し」騒動の本質
本宮ひろ志(漫画家)+伊藤達也(衆議院議員)+二宮清純(スポーツジャーナリスト)+木村 剛
「田中的な政治」を壊した男
木村 本宮さんが田中角栄と並んでリーダーの一人に挙げた小泉純一郎とはどういう人物ですか。
伊藤 田中角栄氏と別の意味で、小泉純一郎という人間は存在感のあるリーダーだったと思います。今話を聞いていて興味深いなと思ったのは、小泉氏の政治的なテーマが「田中的な政治」というものをぶち壊すという点にあったことですね。「経世会をもう粉々にする」ということに、非常に闘志を燃やしていたと思います。
木村 大嫌いだったわけですね。もう「政策もなにも関係ない」みたいな感じですか(笑)。
伊藤 それに「郵政民営化」という長年の目標を重ね合わせていったというのが小泉政治です。
木村 小泉首相は田中角栄氏のようなトップダウン型ですか。
伊藤 小泉さんは首相になってから、どんどん変わっていったと思います。就任当初は、誰も小泉純一郎という政治家がああいう感じでリーダーシップを発揮するとは思っていなかったと思います。
2001年の第19回参議院選挙で大勝した後、小泉首相は強烈なリーダーシップを発揮するのではないかと思われていましたが、不良債権処理問題にしても、特殊法人の廃止・合理化といった問題にしても、意外にリーダーシップを発揮しませんでした。その後1年間は、小泉批判がかなり噴出した。「戦略がない」「政策の順位がつけ
られない」「支えるチームがない」と言われ続けた。しかし、小泉首相は、そう批判に晒されながらも、戦い方を覚え、支えるチームも生まれ、郵政民営化に向けてひとつずつ着実に手を打ちながら、政局を回していった。
リーダーとしての小泉首相の最大の特徴は、テレビ時代のリーダーだということです。ワンフレーズ・ポリティクスに代表されるような、誰の目から見ても、非常にわかりやすい政治を展開した。テレビという装置を使い、見事なまでに悪者と戦う正義の味方というような単純な図式を作りだし、国民の支持を取りつけました。亀井静香氏(元建設大臣)や野中広務氏(元自民党幹事長)は、小泉首相の政策に反対する「悪者役」にピッタリとはまってしまい、改革派である小泉首相が真っ向から闘うというイメージが国民の間に広がった。「政治というものは面白いものなんだ」と、国民の関心と支持を獲得しながら、リーダーシップを発揮する。これまでの自民党にはない新しい政治のスタイルを確立しました。
本宮 例えば田中角栄さんは、どさくさに紛れて、「ちょっとオッサン」なんて言いながら、手で触れられるようなムードがあるんです。小泉さんも、触ったりできそうな雰囲気はありますか。「チョンチョンチョン」と指でつつけるみたいな……(笑)。
伊藤 そうですね。非常に愛嬌のある、チャーミングな人物ですよ。
アントニオ猪木と小泉首相の類似点
二宮 小泉首相の一番の発明品は「抵抗勢力」という言葉でしょう。「なんで世の中が変わらないんだ」という気持ちが国民の間に鬱積しているときに、「抵抗勢力」という言葉を持ち出し、仮想敵を目の前に出現させた。僕はそのとき、「アントニオ猪木の手法と一緒だ」と思った(笑)。
アントニオ猪木はタイガー・ジェット・シンとか、スタン・ハンセンとか、敵をいっぱい作って自分をベビーフェースに仕立て上げた。亀井さんなんか、サングラス掛けたら、悪役にぴったりじゃないですか(笑)。小泉首相も敵対する政治家たちをヒールとして「小泉劇場」に登場させた。実はアントニオ猪木のほうが、ゲンコツで殴ったりして、悪いことしているんですよ(笑)。しかし、外見からして相手のほうが悪役だから、反則が問題にならない。
僕は田中角栄氏と小泉純一郎氏はタイプが違うと思っています。田中氏は新潟から出てきて、敵と味方は分けたけれども、「お前らみんな、俺のところに来いや」みたいな親分タイプだった。一方で小泉氏は親分というよりも、維新の志士のような、ある種、革命家タイプだと思いました。
本宮 話は変わるんですが、僕は今、ヨットレースを題材とした作品を描いています。皆さんも知っていると思うけれども、「アメリカズカップ」という国際的なヨットレースがあります。この参加者は、それぞれの国の威信を賭けて
闘っている。まさに世界最高峰のヨットレースです。そういうところでの外国人連中の激しい競争を見ていると、ものすごいリーダーシップと強烈な意思がないと、絶対に勝てないと思う。
だから、日本人がそこで勝つためには、相当なものがないとダメだと思うんです。それを可能にするリーダーをどうやったら描けるかなという感じで悪戦苦闘しています。
取材のためにヨットを走らせることがありますが、遠くに目標を定めていないとまっすぐ走れない。目先の波とか風とかに合わせていたら、どこへ行くか、もうわからないんです。人間も一緒で、遠くに目標を持たないとまっすぐ
に進めない。それがわかっているはずなのに、人間という生きものは目先のことしか考えてないし、それに左右されすぎてしまう。僕に言わせれば、今の日本社会はそんな状態です。
二宮 『俺の空』だったと思うんですが、「砂漠のなかで、何もないところに立たされたときに、どっちに水があるか、わかる奴とわからない奴がいる」という話が出てきたんです。
名前は忘れましたが、インテリ的な男が「お前にはそれがわからない。安田一平にはそれがわかるんだ」と言われ、ショックを受けるんです。僕はそれを読んで「なるほど、そういうものなのか」と妙に感動した(笑)。
やはりリーダーは「先見力」ですよ。「こっちに行けば幸せになれる」というように先が読める人がリーダーになるんです。
本宮 本当の意味でのリーダーって、本気で10人を動かせる人間だと思うんです。それ以上の人数になると「組織」が出来てしまう。総理大臣も国会の決定がないと、何もできないじゃないですか。だから、本当は総理大臣はリーダーと呼べないかもしれないと思うときがある。
俺、政治家になるんだったら、独裁者以外になりたくない。
全員 あはははは(一同爆笑)。
本宮 政治というのは、本当は独裁体制でしかあり得ないと思いますよ。
木村 田中さんも小泉さんも独裁的だったということですか。
本宮 リーダーの匂いが極めて強く漂ってくるということでいえば、独裁的な面がすごく強かったんじゃないですか。
木村 そうなると、安倍さんはそれが足りなかったということですか。独裁的なムードはなかったですよね。
伊藤 「誠実」「いい人」という言葉に表れているように、安倍さんの人柄が前面に出ていたと思います。独裁的ではないけれども、自分のキャラクターを活かしたリーダー像を作り上げようとしたんだと思います。ただし、先ほどのヨットレースの話から考えれば、安倍首相は目先のことに捉われるのではなく、自分の理念を前面に出して、それを実現するための長距離砲を撃とうとした。理念型の政治家を目指したという点からも、や
はりリーダーだったと言えるんじゃないですかね。
木村 「憲法改正」や「教育」という、ものすごい長距離砲の弾を用意しましたね。
伊藤 しかし、いまの政治は足元を大切にしていないと、そこで足をすくわれてしまうんです。民主党の前原誠司氏が約1年半前に「メール事件」が原因で代表を辞任しました。その失敗と同じようなことが、安倍首相の周囲で起きてしまった。手柄争いや勇み足、問題解決力のなさ、百戦練磨の参謀を欠き、経験不足から、どんどん悪い方向に進んでしまった。それが非常に残念でした。
本宮 皆さんにとってリーダーらしい政治家って誰ですか。
二宮 僕はもし「好きな政治家を挙げろ」と言われたら、本宮さんが挙げた田中角栄と小泉純一郎の2人です。
「国土の均衡ある発展」を最大の政策目標にして、日本的社会主義体制を築いたのは田中角栄氏だと思います。そして、それをぶち壊したのが小泉純一郎氏ですよ。郵便局のネットワークを使った集票の仕組みも道路建設で地方にお金を落とす仕組みも、田中角栄が作ったものじゃないですか。小泉首相の「郵政民営化」や「道路公団民営化」とは、これらをぶち壊すことだった。しかし、確実に言えることは、この二人のエネルギーのすごさ。
「加藤の乱」が起きたとき、加藤紘一氏が死ぬ気で勝負をかけていたら、総理・総裁になっていたと、私は今でも思っています。でも勝負をかけきれなかった。砂漠の中で先が読めないインテリのように
見えた。
勝負どころで1歩を踏み出せるかどうか、踏み出してからの加速力がリーダーには必要なんです。恐らく加藤さんは頭がいいから、戦いながら票読みをして「これじゃあ、何票差で負けるじゃないか」と不安になり、最後の一歩
が踏み出せなかったんじゃないかな。その結果、派閥は分裂してしまい、総理大臣への道は断たれてしまった。負ける人間というのは、目先の足し算、引き算ばかりをやっている。
そんな時代にはなって欲しくないが、もしリーダーが「俺は戦争する」と決断したら、国民は戦争に駆り出される。それも、ある意味、その時代に生きた国民の運命ですが、悪いけれども、加藤さんや安倍さんと一緒に私は戦争がしたくない。きっと負けるから(笑)。
木村 確かに、良し悪しは別にして、リーダーにはエネルギーが必要だと思います。しかも内側に秘めたエネルギーじゃなくて、外から見てもわかるようなエネルギーを持っていないと、他人を引っ張っていくことはできない。
でも、安倍首相にそのエネルギーを感じたかというと、残念ながら、なかったように思う。「本宮世代」の人間としてはあまりに物足りない。『硬派銀次郎』にしても、『男一匹ガキ大将』にしても、本宮さんの作品の主人公にはエネルギーがある(笑)。
伊藤 安倍さんのことを語るには、与党の一員としては、まず最初にお詫びしたい。そのうえで、ぜひわかってほしいことは、1 年で判断するのはちょっと酷だったということです。小泉さんだって、1年目はもうボロボロに批判されていたんですから。
木村 でも、小泉さんは言われても辞めなかったじゃないですか。
伊藤 確かに小泉さんは、そこから道を開きました。意志あるところに自分の道と運を開いたと思います。しかし、安倍さんは参議院選挙での負け方がきつかった。
本宮 ボロ負けした原因はなんですか。
伊藤 国民との信頼関係を作ることに失敗したということだと思います。まず年金問題です。初動の対応がまずかった。あれほどの問題が起きたのに、「大丈夫だ」と言ってしまった。「あんなにひどい社会保険庁なんだから、きっとほかにも問題があるだろう」とみんなが思っているのに、「大丈夫だ」と簡単に言ってしまったため、逆に多くの国民が不安を感じた。そしてもう一つは、「この問題は民主党の菅さん(菅直人民主党代表代行。96年の第一次橋本内閣の厚生大臣)にも責任がある」と発言したことでしょう。あそこで安倍さんの誠実なイメージが傷ついたと思います。
二宮 そう!、それです。あれはリーダーが一番やっちゃいけないことです。あのとき僕は、ものすごくガッカリした。安倍さんは国のトップですよ。それを「菅さんも悪い」と責任転嫁した。あれはものすごく情けなかった。「すべ
ての責任は私にある。よって私がすべてを解決する」と言うべきだった。
伊藤 だから、安倍さんの誠実なリーダー像というのが完全に揺らいでしまった。そこに「政治とカネ」の問題が噴出した。さらに、「美しくない閣僚の発言」が出て、最後に「絆創膏大臣」でとどめを刺された(笑)。
国民の怒りは爆発して、参議院選挙は大敗です。
本宮 そういう理由で国の流れが決まっちゃうところが、日本とはじつに面白い国だと思う(笑)。でも、僕には「全部ブン投げて、その場からいなくなりたい」という安倍さんの気持ちもわかったなあ……(笑)。まあ、国民にして
みれば「ええっ」と驚くしかなかったけれどね(笑)。
しかし、田中角栄が作ったり、小泉純一郎が壊したりできたのは、「その時代だったから」という要素が強い。高度経済成長の時代に壊すことはできなかったし、成熟社会になった今だからこそ、小泉さんは壊すことができた。
逆に今の時代に作れる人がいたら、そいつは間違いなくリーダーです。しかし、安倍さんにはできなかった。
木村 安倍さんも一応作ろうとしたわけでしょう。
伊藤 作ろうとしました。
木村 でも、いったい何を作ろうとしたかは見えなかった。
伊藤 かれが用意した弾は長距離砲すぎました。「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」とか、国民の心に響かなかったということでしょう。だから、もう少し、みんなの心がつかめるようなテーマを設定したうえで、理想主義の旗を掲げるべきだったという感じはします。
本宮 でも、今の時代は理想的なアドバルーンを上げても、現実に目の前に流れている風や波があまりにも一定じゃないから、理想の旗を立てようがないと思うんです。「ネットカフェ難民」がいる一方で、「ITバブル長者」がい
るような時代でしょ。
くだらない話だけど、学生時代に全然モテない女の子が色気づいて化粧をし出すと、一斉に男が騙されて声を掛ける。女の子は声を掛けられるのが初めてだから、うれしくって、声を掛けてきた順についてっちゃう。これが「お化粧デビュー」(笑)。同じように男には「成金デビュー」というのがある。合コンばかりやっている「ヒルズ族」みたいなのがいるでしょ。彼らの話を聞いてみると「お前はれを自慢するのをやめろよ。金がなかったら誰もついて来ないぞ」と思う(笑)。
そんな彼らも新興企業のトップだったりするわけでしょ。一応リーダーということなんだろうけど、僕に言わせるとリーダーじゃないね。(続く)
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