2006.09.30

[フィナンシャル i] 小泉改革と「ビッグウォッシュ効果」

 一般に株価は景気循環と連動するとされる。確かに、2002年頃まで理屈通り両者の連動が続いていたが、02年以降、その関係は大きく崩れた。景気は回復しながら株価は大幅に下がり続け、一時、日経平均は8000円割れにまで低下した。この時期は債券市場で10年金利が0.4%台まで低下した世界金融史上も未曾有の局面だった。
(みずほ証券 投資戦略部長 高田 創)

 今日、景気拡大が続くなか、今年11月には戦後最長の景気拡大期間「いざなぎ景気」(1960年代後半)超えまでが議論されるが、その出発点は02年1月だった。
 しかし、景気回復が始まっていた02年以降も株価下落が続いた。銀行グループの一員として金融市場に向き合っていた筆者は、「これから先どうなるのだろうか」との思いを抱いたことを思い出す。
 当時は、バブル崩壊後の調整のシワが最も寄った時期であり、不良債権処理に伴う資本の毀損から、銀行は株式売却を迫られ、それがリスク管理上、一段の売りを促すスパイラル状況に陥った。
 年金は代行返上等の換金売りが需給を悪化させ、企業も固定資産に係る減損会計に伴い特別損失を計上しながら株・不動産を売却し、実体経済回復のなかの株価下落をもたらす「悲観バブル」状況だった。
 01年に発足した小泉政権が金融と産業と一体とする不良債権処理推進を旗印としたことは、ハードランディング的なイメージをもたらしたが、結果的に一般企業が一気に損出しを行い、その後の急回復を狙う「ビッグウォッシュ効果」となった。
 郵政改革を中心に「改革」のイメージを強めることで外国人投資家の投資マインドを高め、資産価格上昇のきっかけを作ったと評価できよう。
 国内では資本の毀損に伴い「悲観バブル」に陥ったなか、リスクテイクを行いうる投資家は、00年代初当初は資本の消失を免れた外国人投資家と、政府・日銀を含めた公的セクターに国内の一部ファンドに限られていた。
 小泉政権による構造改革が外に向いた対応に終始したのは、資本の保有を外国人投資家に依存せざるを得なかったことによるとも考えられる。
 02年以降の「悲観バブル」が異常な局面であったとすれば、その後の株価上昇はあくまでも従来のトレンドラインに戻りつつある動きとみることもでき、中長期的観点でみて株価は上昇基調にあると考えられる。
 一方、06年半ば以降の株価伸び悩みは、依然として新たな株式保有構造が確立できていないなか、外国人投資家に過度に依存したことによる市場の不安定さが露呈したものともいえる。さらに、02年以降の循環的経済環境は世界的に見ても天井を付け来年にかけて調整をもたらすリスクも持つ。
 小泉改革の5年間は構造調整のビッグウォッシュの時期として後世からも評価されようが、長い景気は世界的にもピークを付けつつあること、新たな株式の保有構造・ガバナンス等、新政権に残された宿題も多いことには留意が必要であろう。

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高田 創 (たかだ・はじめ)
1982年東大経卒、日本興業銀行(現みずほFG)入行。86年オックスフォード大修士課程修了(開発経済学)、2000年みずほ証券投資戦略部長チーフストラテジスト。著書に「日本のプライベートエクイティ」(日本経済新聞社、共著)、「国債暴落」(中央公論新社、共著)、「銀行の戦略転換」(東洋経済新報社、共著)。

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2006 09 30 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.09.23

[フィナンシャルi] 「金融CSR」と「CSR金融」

 「金融CSR」と「CSR金融」。
 これは単なる語呂合わせではなく、最近のわが国における金融機関のCSR(企業の社会的責任)にかかわる状況を表している。
(ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員 川村雅彦)

 すなわち、「金融CSR」とは金融機関が自ら行うCSR経営を意味し、「CSR金融」とはCSRを促進するために金融商品・サービスを金融機関が提供することを意味する。

 日本のCSR活動は環境から入った、といっていい。かつて環境問題が企業の経営課題として議論され始めた頃、金融機関は環境問題から最も遠い存在であると、自他共に認識していた。それは金融機関がCO2や産業廃棄物、有害物質など環境負荷の直接的な排出量は少なく、オフィスの紙・ごみ・電気くらいだと考えられたからである。
 しかし、環境問題に限らず、金融機関は経済・社会の血流とも言えるカネを仲介することにより、経済・社会をあるべき姿へ誘導できる可能性をもつことが次第に認識されるようになってきた。それゆえ、日本の先進的な金融機関は環境問題だけでなく社会的課題への係りを意識した行動を始めたのである。
 欧米、特に欧州の金融機関では積極的かつ先進的な取組が行われており、「持続可能な社会の実現のために、金融機関は何ができるのか?」という問題意識と期待が醸成されている。
 2003年には欧米の金融機関を中心に「赤道原則」が採択されたが、これは一定規模以上のプロジェクト・ファイナンスを行う際に、社会面・環境面の影響評価を行い、終了後もモニタリングや是正措置を行うことを金融機関同士で合意した自主協定である。現在では本邦銀行も数行が採択している。
 この背景には、地球の有限性や貧困問題を強く認識した国際機関やNPOなどによる世界的な地球社会の持続可能性への取組の強化・拡大がある。特に、持続可能な社会に向けたUNEP・FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)が1992年に開始されたことの影響が大きいといわれている。
 最近では、本年4月の国連のアナン事務総長のもと、UNEP・FIとグローバル・コンパクト(人権・労働・環境・汚職防止の原則)が「責任ある投資の原則」を発表した。これにも本邦金融機関6社が署名した。
 
 一方、わが国の金融機関ではバブル崩壊後の不良債権処理が一段落したことにより、新しい事業展開のひとつとして、環境やCSRをキーワードとする金融商品や金融サービスの開発と顧客開拓を開始したのである。
 しかし、現状では金融CSRとCSR金融が混同されており、例えば投資信託の一種であるSRI(社会的責任投資)や環境配慮型金融商品の開発・販売をもって「金融CSR」の実践と理解するところがある。
 それはあくまで「CSR金融=金融ビジネス」であり、金融機関自身のリスク管理(内部統制を含む)やステークホルダー価値の向上、さらに労働・人権や少子高齢化問題などの社会的課題を本業プロセスにおいてどう解決するかという「金融CSR」とは異なるものである。
 それゆえ、今後のわが国の金融機関が両者をバランスよく実践することに期待したい。

責任ある投資の原則(Principles for Responsible Investment)の要旨
1.環境・社会・ガバナンスを投資分析や意思決定に組み込む。
2.環境・社会・ガバナンスについて株主所有の方針や取組に組み込む。
3.投資先の環境・社会・ガバナンスについて適切な開示を求める。
4.本原則を資産運用業界が受け入れ、実践するよう働きかける。
5.本原則が効果的に実践されるよう共に協力する。
6.本原則に関する活動やその進捗について報告する。 

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川村雅彦(かわむら・まさひこ)
1976年九州大学大学院修士課程修了(土木系)。三井海洋開発でプロジェクト・マネジメントに従事した後、88年にニッセイ基礎研究所入社。都市問題、環境経営、環境格付、CSR、SRIを中心に調査研究に従事。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は9月18日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 09 23 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.09.09

[フィナンシャル i] 1-2年高成長持続

 2006年第2四半期(4-6月)の実質GDP(国内総生産)は前期比(年率)0.8%増と減速したが、個人消費、設備投資、住宅投資という「内需御三家」の合計は前期比同4.2%増とむしろ加速しているほか、前年比では+3%台が4四半期連続している。
(JPモルガン証券 経済・債券調査部長 チーフエコノミスト マネージングディレクター 菅野雅明)

 「内需御三家」の内訳を見ると、個人消費がやや弱めだが、設備投資は極めて堅調だ。本年入り後の設備投資は2期連続して前期比年率2桁増である。問題はこうした設備投資の強さの持続性だが、筆者は、以下の理由により今後1-2年は力強い成長が続く可能性が高いと考える。

 第1は、企業の豊富なフリーキャッシュフローだ。日本企業はバランスシート調整が一段落したことから債務返済に充当してきた資金を設備投資に振り向けることが可能になってきた。設備投資を増加しても使い切れない資金は、配当増加、自社株購入、さらにはM&A資金として使われ始めている。
 第2は銀行貸出の増加だ。銀行貸出は実質的に昨年後半から増加に転じたが、その後も銀行の貸出し態度は積極化しているので、中小企業の設備投資には追い風である。
 第3は設備投資案件の増加だ。規制緩和の進展に加え、投資採算が金融面から大幅に改善している。現在の資産利益率(ROA)は4-5%と80年代後半に次ぐ高さだが、当時と決定的に異なるのは企業の資本コストの低さだ。当時は6%前後で推移していた長期金利は、現在は2%を下回っており、投資採算が大幅に改善された。
 第4は日銀の金融緩和政策だ。日銀はゼロ金利を解除したが、現在の実質政策金利はゼロ近辺という低さだ。デフレから脱却しつつあるとはいえインフレ懸念からは程遠い状況下、日銀は、今後も利上げを「ゆっくりと行う」方針にあるので、長期金利が急騰するリスクは小さい。
 第5は、世界的な設備投資ブームの広がりだ。アジア諸国に加え、住宅投資が急減速している米国でも設備投資は堅調だし、ようやく景気回復が本格化してきた欧州でも企業行動は積極化している。その共通した要因は、企業活動の国際化に伴うビジネスチャンスの拡大に加え、各国中央銀行が利上げ途上にあるとは言え、実質政策金利水準は依然歴史的な中立水準を下回っており潤沢な流動性供給が続いていることだ。

 一方、設備投資が過熱するリスクも当面は低い。日本企業は、2001―02年の不況期に大量の生産設備の除却を行ったので、生産設備能力の観点からは、2桁の設備投資増が続いてもあと1―2年は過剰設備にはならないと考えられる。
 リスクは海外経済だ。米国あるいは中国経済の失速、原油価格の急騰などのリスクには今後も注意が怠れない。
 同時に、海外景気が失速を回避できたとしても、将来、日本の設備投資が過熱化するリスクにも注意が必要だ。設備投資が個人消費の伸びを上回って長期間増加すると、いずれ過剰設備、供給過剰の問題が顕現化する。 
 設備投資の過熱を防ぐ最良の手段は、早期かつ緩やかな利上げしかない。その役目は日本銀行に託されている。日本銀行は、当面の景気下振れを回避しつつ中長期的な過剰設備投資を抑制すると言う困難な課題に直面している。
 「先を見越した金融政策」に対する国民の信認を得るためには、日銀の景気・物価予測に関する積極的な情報開示が求まられている。

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菅野雅明(かんの・まさあき)
東京大学経済学部卒、シカゴ大学大学院経済学修士号取得。1974年日本銀行入行、調査統計局経済統計課長、同参事。日本経済研究センター主任研究員を経て、99年JPモルガン証券入社。総務省統計局審議会委員(2001-04年)、内閣府統計制度改革検討委員会委員(05-06年)のほか、財務省関税・外国為替等審議会専門委員。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は9月4日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 09 09 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.09.02

[フィナンシャル i] マネーサプライ低迷の背景

 一般に、景気が良ければ株価は上昇し、債券価格は下落(金利は上昇)する。つまり通常の景気循環のなかで、債券相場と株式相場には逆相関の関係がある。
 ところが、今夏の金融市場の特徴として、債券と株式が共に堅調していることを指摘出来る。
(BNPパリバ証券 証券投資調査部長 チーフストラテジスト 島本幸治)

 その直接的な背景としては、米国でインフレ懸念が大きく後退した事を挙げられる。特に8月15日に発表された7月コアPPI(生産者物価指数)が前月比▲0.3%と、市場のプラス予測に反して、9ヶ月振りのマイナスになったのが効いた。

 米国PPIのなかでインフレ安定が目立っているのは、自動車や電気機器など耐久消費財である。また、同様の傾向が世界各国で顕在化している。
 世界経済は未だにグローバル化や市場化による恩恵を享受しており、最終インフレは安定している。こうしたなか、構造的とも言えるディスインフレが出発点となり、長期金利の安定を通じて、資本市場全体をサポートする状況にある。そして現在も、ディスインフレのトレンドに転機が訪れるどころか、一段と煮詰まって行く展開にある。
 日本ではインフレ指標のみならず、マネーサプライまで伸び悩んでいる。7月のマネーサプライは、代表的指標であるM2+CD(現金、要求払い預金、譲渡性預金など)が前年同月比+0.5%と、13年振りの低い伸びに留まった。もっとも、7月の貸出資金吸収動向を見ると、民間銀行の貸出残高が前年比+2.2%と、10年振りの高い伸びを記録している。
 M&A(企業の合併・買収)など企業の資金需要は高まっており、もはや信用収縮は読み取れない。貸出が増加基調を強めるなかでマネーサプライは低迷するといった、一見あべこべの現象は何故発生しているのか。

 マネーサプライの低迷は「流動性の罠」から開放される過程で発生している過渡的現象と見て良いだろう。M2+CDの伸び率が低下している背景には、経済がデフレから脱却したことで、預金から実物投資やM2+CD外の金融商品へとマネーがシフトしていることが影響している。
 特に企業は、増益率の低下がキャッシュフローの伸びを制約するなかで、設備投資を積極化させている。国際競争の激化や「資本の論理」の強化が、余剰資金の滞留を許容しなくなったと言っても良い。
 さらに最近では、量的緩和解除やゼロ金利解除に伴う預金から金銭信託や投資信託などへの資金シフトもM2+CDの低迷に拍車をかけている。その結果、広義流動性の伸び率はM2+CDの伸び率を大幅に上回って推移している。
 つまり、現在の「マネーサプライが伸び悩むなかでの貸出増加」という現象は、「長期金利が安定するなかでの株価上昇」という現象と関連する面がある。グローバル化の進展により最終インフレは安定しており、マネーの膨張が加速する気配もない。
 他方、国際競争の激化や株主からのプレッシャーが企業の積極経営を促しており、資金需要の増大や株価への好影響をもたらしている。
 マネーサプライの低迷も、現在の株高・債券高と整合的と言える。

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島本 幸治 (しまもとこうじ) BNPパリバ証券会社 投資調査部長 チーフストラテジスト
1990年 東京大学卒業後、日本興業銀行に入行。91年 同行証券投資室調査班に配属。96年、同行調査部経済調査班に配属。シニアエコノミストとして日本のマクロ経済調査を担当、2000年3月より現職。週刊エコノミスト 04年(04年10月)アナリスト・エコノミスト ランキング債券ストラテジストの部 第1位、日経公社債情報 05年(05年3月)債券アナリスト・エコノミスト ランキング債券アナリストの部 第2位(2年連続)。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は8月28日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

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2006.08.26

[フィナンシャル i] 自信を取り戻しつつある株式市場

 先般発表されたGDP統計では4-6月期の日本経済の予想外に大幅な減速が示されたが、民間内需自体の基調は堅調で、先行きは年率3~4%の成長ペースに復帰の見込みである。とりわけ、目先は設備投資の好調が見込まれ、企業部門主導の回復の構図が鮮明となろう。
(モルガン・スタンレー証券株式会社 エコノミスト 佐藤 健裕)

 設備投資は、これまで押し込められていたペントアップ(累積)需要のため、すでに年初から年率10%超の高い伸びが続いている。先行きも少なくとも年内いっぱいは年率10%近い成長が続く見通しである。
 日銀短観や日本政策投資銀行の設備投資調査等によれば、製造業では自動車に代わりIT(情報技術)、素材関連の設備投資が新たな牽引役となることが見込まれるほか、非製造業では通信、エネルギー等産業インフラ関連で大型の更新需要が見えている。
 エネルギー価格の高騰や先行きの労働力不足を見越して、省エネ投資や省力化投資といった新たなタイプの需要も旺盛で、当初の内閣府見通しを大幅に上回った4-6月期の機械受注や7-9月期の受注見通しも強気の見方をサポートしている。
 また、4-6月期の企業決算に示唆されたように、エネルギー・原材料価格の高騰でもこの中間決算期以降も堅調な民間内需を受けて、業績見通しの上方修正継続が見込まれる。
 こうした企業動向を受け、株式市場は足許自信を取り戻しつつあり、秋口にかけTOPIX(東証株価指数)1700に向け市場はリターン・リバーサル(比較的短期間の株価の動きをとらえる投資戦術)を演じよう。
 一方、債券市場は7月14日の日本のゼロ金利解除と8月8日のFOMC(連邦公開市場委員会)における米利上げ打ち止めでいったん悪材料出尽くしとなったが、夏場以降の内外経済指標が持ち直せば、早期利上げ期待が再燃し、秋口にかけ日本の長期金利は再び2%台乗せをうかがう展開となろう。
 政策面では、国内需要デフレータが2四半期連続プラスとなり、名目と実質GDPの逆転も限界的に解消したことで、小泉首相退任の花道としてのデフレ脱却宣言実施の可能性は残る。ただし、昨年夏場の脱踊り場宣言とは異なり儀礼的なものに過ぎず、経済・市場的にはノーイベントであろう。
 一方、懸案の消費税率引き上げは、税収増による財政事情好転や来年夏場の参院選といった政治日程を理由に、最短でも2009年度となる見込みである。リスクは参院選で与党が苦戦すること、またそのため次の総選挙実施が任期一杯の09年央にずれ込むことである。

 金融政策面では、米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを休止するなか、日本のGDP公表当日の定例会見で、福井俊彦日銀総裁は今後の利上げのパスについて一切言質も与えなかった。マクロ的にも、設備投資の高い伸びの割に賃金の伸びが相対的に安定することから、単位労働コストは構造的に上昇しにくく、物価の安定が続くと見込む。このため日銀は半期に1回程度のペースで政策金利の中立化をゆっくりと続ける見込む。
 なお、本格的な増税の遅れは、日銀にプラスに作用する面もある。実質実効ベースで大幅な円安となっていることも追い風で、足許の景気減速でも日銀の裁量余地が拡大している面もある。よって、慎重なペースとはいえ、利上げのタイムスパンは意外と長引き、政策金利は最終的に2008年にかけ1%台半ばに達すると見込まれる。
 もっとも、その場合でも、政策金利は中立水準とされる2%台後半~3%を下回り続けることに変わりはなく、日本の金融環境は引き続き緩和気味に推移する見込みである。

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佐藤 健裕(さとう・たけひろ)
1985年京都大学経済学部卒業。住友銀行に入行後、同行の市場営業部門、および日本総合研究所でマーケット・エコノミストとして経済・市場予測に携わる。99年10月、モルガン・スタンレー証券に入社。グローバル・エコノミクス・チームの一員として、日本経済および日銀ウォッチ、市場予測を担当。


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2006.08.19

[フィナンシャル i] BRICs近代化→日本の格差拡大

 2000年以降、中国、インドなどいわゆるBRICsが高度成長時代に入った。アジアの高成長は「収斂仮説」で説明できる。
(三菱UFJ証券チーフエコノミスト 水野和夫)

 収斂仮説とは、ある条件を満たせば、生活水準の低い国は平均して豊な国よりも速く成長し、初期の貧しいときの所得水準に影響を受けず、最終的には先進国の生活水準の7割から9割に収斂していくというのである。
 ある条件とは、地理的条件や技術革新などである。IT革命とグローバリゼーションがそれを満たすようになったから、アジアの近代化が始まったのである。

 近代資本主義が成立して以来、この仮説は妥当性を有している。1600年当時最も豊な国はイタリア、スペインであり、貧しい国は米国であったが、1870年には米国は170年前の豊な国に追いついた。英国の覇権がピークを迎えた1870年に貧しかった日本は、1995年には先進国ベスト5に仲間入りした。
 重工業中心の産業革命が19世紀後半に欧州大陸や日本で起きて、1970年代前半には大量生産・大量消費社会がピークを迎えた。その後、さまざまな矛盾が露呈したが、1990年代になってIT革命とグローバリゼーションで資本主義が質的変貌を遂げた。
 95年時点で貧しい国は中国、インドなどいわゆるBRICsである。成長の「収斂仮説」によれば、数十年後には中国の生活水準は同じ時期に予想される先進国の所得の7割に追いつくことになる。
 初期時点で豊な国においてはすでに資本が十分蓄積されており、低成長かつ超低金利の時代が実現している。
 95年以降最も豊な国である日本が400年ぶりの超低金利時代に突入していった基本的背景は、過去のイタリアやオランダ、そしてイギリスと同じである。超低金利を実現した国が後発国の金利よりも高くなると、超低金利国は衰退に向かう。16世紀前半に超低金利国イタリアの金利がオランダの金利よりも高くなって数年後にイタリアは歴史の中心から消えた。
 現在、日本の長期金利は2.0%以下で推移しているが、04年には5%あった中国の長期金利は3.0%前後まで低下し日本に接近してきた。インフレ志向的な政策は国の長期停滞に手を貸すだけである。
 
 アジアが近代化し、成長の「収斂仮説」が成り立ちつつある一方で、これまで成長から取り残されてきた貧しい国が数多く存在する。グローバリゼーションリが経済的な国境を取り払ってしまった結果、先進国内に成長から取り残される産業セクター、雇用者が存在するようになった。
 90年代半ば以降、日本の格差問題が目だってきたのは、こうした背景がある。人間には能力差があるから格差はあって当然と言えることができたのは、均質性が保証されていた近代の仕組み内であって、時期的には95年以前のことである。
 今後、公立小中学校の児童・生徒の就学援助率が高いことに象徴されるように入り口の段階で格差が起きると、政治がそれを取り除く努力をしなければ、「インドを貧乏にしたから英国は豊になれた」というインドの教訓が日本に当てはまり、日本の生活水準が長期にわたって低下してしまう。すでに地方や中小企業、非製造業にその兆候が出始めているのである。

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水野和夫(みずの・かずお)
早大政経卒、早大大学院経済学研究科修士終了。80年八千代証券に入社。以降、市場調査業務に従事。
著書に『100年デフレ』(日本経済新聞社)、『虚構の景気回復』(中央公論新社)がある。

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2006.08.12

[フィナンシャルi] 内部統制成功への勘所

 5月に会社法が施行され、すべての企業に内部統制の確立を求めている。また、財務報告に関する内部統制を求める法律として金融商品取引法も制定された。
 これら法律が強く求める内部統制は定着するのだろうか。
(牧野総合法律事務所弁護士 牧野二郎)

 まず、内部統制というのは、企業の多様な事業活動の全般を概観して、違法な業務や危険な業務が行われないように、常に点検し、健全性を保つことを目的としている。企業が健全であれば、成長し、収益も拡大し、社会に貢献する存在となる。
 ポイントは違法な業務や危険な業務、あるいは隠れて行う不法な行為などをきちんと見据えてこれを排斥する体制が出来ているかという点である。
 では企業ではどのように健全化を計ればいいのでしょうか。現在、多くの論者が口をそろえて言うのが、米国で生み出され、SOX法(企業会計改革法)の基礎となったCOSOフレームワークであり、COSOキューブのことであり、それを導入することを至上課題とするものです。細分化された点検項目に沿って、企業の監査だけではなく、業務健全化のための指導も行うという主張だ。
 COSOの考え方は、米国の業務形態や労働市場を基礎におき、米国型の業務や労働を点検できるものとして編み出されたもの。従って、わが国にそのまま適用できるかどうかは疑問もある。
 わが国でも先進的にこれにり組んでいる企業もあるが、もともと業務構造が標準化されているようだ。
 さて、わが国の多くの企業にとって内部統制実現の勘所はなにか、ということである。わが国の労働はいまだ標準化されず、人に依存している。終身雇用制が頑強に残っているのも、わが国の労働形態が人に依存し、客観的業務に標準化されていないからなのだ。
 経験や熟練度は普遍化せず、すべてその人、業務を遂行した人に強く付属して、その人の経験、勘として貴重なものとして尊ばれる。事業上の経験や知見、成功事例、ノウハウなどまでも人に帰属し、業務を評価するのではなく、人を評価してしまう。
 これでは、企業で培った経験や知見、貴重な情報が人に属し、企業全体で共有されない。
 危険を察知する能力や、危険に対処する方法、さまざまな知見は、企業を健全化するためには必須のもの。

 では、これをどのように共有化するか、ということである。
 そこで、勘所として押さえるべきこと、それは、きわめて単純なことだが、「記録すること」である。どのようなことでもいいから、すべてを記録することを意味している。記録することで、漠然とした経験が意識化され、客観化される。そして点検や、監査の際の対象として現れることになる。
 記録しなければ、共有もなく、伝承もなく、また、批判されず、監査もされません。記録されない業務は、ブラックボックスであり、監査の利かない泥沼になる。
 必要なことは、業務内容を記録することで、よき経験は共有し、伝承すること。その反対に、危険な行為は点検され、監査され、除去され改善される対象となる。
 こうして、すべての行為、業務を記録することが、内部統制を成功させるための最大のポイントになるのです。意識化するためにも、問題を顕在化するためにも、記録することが重要なのである。
 内部統制を成功させるポイント、勘所は、まず業務を記録すること、すべての作業を記録することに始まる、と理解していただきたい。


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牧野二郎(まきの・じろう)
中央大学法学部法律学科卒業。1983年弁護士登録。
個人情報保護、営業秘密などの情報保護の分野から、
内部統制システムの構築にいたるまで、企業の情報管理を得意分野とする。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は7月31日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

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2006.08.05

[フィナンシャル i] 利上げピッチは意外と遅い

 7月14日の日銀の政策決定会合で、ゼロ金利政策の解除が決定された。実に2000年8月(速水総裁下でのゼロ金利解除)以来、約6年ぶりの利上げであり、やっと日本も利上げ局面となりそうだ。
(ニッセイ基礎研究所経済調査部門シニアエコノミスト 矢嶋康次) 

 市場では、次の利上げ時期に焦点が移ることとなるが、もう少し長めのスパンではどのような利上げ局面をイメージしておけばよいのだろうか。
 昨今の報道では、消費税の引き上げ実施が08年から09年にずれ込みそうで、金融政策上は06-08年度にかけて自由度が高まりそうだ。日銀としてはできるだけ早期に市場に存在する過剰流動性を縮小させ、バブルの再来を回避したいというのが本音だ。08年にかけて中立金利とされる2.5%程度への引き上げを実現させたいところだろう。
 単純には06年10-12月期から09年1-3月は、10四半期あり、1回の0.25%の利上げで2.5%に誘導水準を上げるとすれば、9回利上げを実施することになる。
 過去の利上げ局面では約1年で公定歩合が3%引き上げられており、四半期1回0.25%
利上げペースは1年で1%引き上げとなり引き上げ幅で見れば、過去に比べて1/3以下の極めて緩やかなペースである。
 中立金利への回帰、さらに米国の01年以降の利上げもほぼこのペースで行われてきたこともあり、日本の市場参加者も四半期に1回程度というのがこれからも常に意識される利上げペースとなるだろう。
 しかし、今後の景気サイクル等を考えると、このピッチよりも早まる可能性よりは、相当程度スローダウンする可能性が高い。その最大の要因が米国経済、とくに利下げシナリオの可能性が高いことにある。
 
 過去の日米の金融政策の動きを見ると、米国が利下げ局面に転じるような状況になると、その前後、日本も緩和へと動いている。米国が利上げも利下げもしない状況でも、基本的には日本が利上げといったことも少ない。  米国が利下げという状況では、米国経済が潜在成長率を大きく下回る状況になっている可能性が高い。さらにその状況で日本が利上げを実施すれば急激な円高を誘発しかねない。金融政策は基本的にはしばらく様子見ということになるはずである。
 米国経済の復活、日本への波及など、その後の展開を見極める期間が必要になってくるだろう。
 米国の06年1-3月期のGDPは前期比年率プラス5.3%と上振れをみせたが、4-6月期以降は原油価格の高騰・利上げの抑制効果等の影響が強まり、減速を強めそうである。雇用統計が弱めの数値が出てきているが、原油高の影響がコアインフレにも出てきており、8月FOMCでも追加利上げを行うとの見方が大勢になりつつある。
 利上げにより景気がオーバーキルされるリスクが格段に高まっており、4-6月期以降の成長率が大幅な悪化となる可能性が高い。
 市場では、FOMCの政策について、先行き利下げに転じるとの見方はまだ少数派だが、景気悪化となれば、市場ではFOMCが06年末以降、利下げを行うとの思惑が高まり、実際、利下げの可能性も高まると見られる。
 そうなると06年度後半から07年にかけて日銀はまったく動けなくなり、結果として利上げピッチは上記よりさらにスローダウンし、消費税引き上げ前に中立金利を達成するのは難しいのではないかと予想している。

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矢嶋康次(やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所経済調査部門シニアエコノミスト
1992年東京工業大学工学部卒業。2001年青山学院大学国際政治経済学研究科国際ビジネス専攻修士課程修了。04年より早稲田大学政治経済学部非常勤講師を兼務。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は7月24日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 08 05 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.07.29

[フィナンシャル i] 求められる企業の内部統制

 昨今、内部統制という言葉を経済誌の記事やセミナーのタイトルで目にすることが多くなった。
(大和総研・経営戦略研究所主任研究員 大村岳雄)

 内部統制とは、「ある組織や事業体が、業務を適正かつ効率的に行うために企業内に構築される体制・プロセスのこと」である。

 内部統制が注目されるようになった背景には、2004年に企業の粉飾決算や虚偽記載など有価証券報告書に関わる不祥事が相次いだことがある。有価証券報告書は、企業の通信簿であり、資本市場を通じて株主から調達した資金をいかに活用して、どのような事業活動を通じて収益をあげたかについて株主を中心としたステークホルダーに報告する書類である。この書類が信頼に足るものでなければ、資本市場そのものの存在意義が揺らぎかねない。
 そこで、金融庁は05年に企業会計審議会の下に内部統制部会を設け、ほぼ1年をかけて財務報告に係る内部統制の評価・監査基準案をまとめ、この6月に金融商品取引法の一部として法制化された。
 経営者は、同法により信頼のおける財務報告が作成されるような内部統制をその企業に構築し、適切に運用されているかについて評価することが求められることとなった。08年4月1日以降に始まる事業年度からの適用予定で、有価証券報告書での開示対象となっている。
この法律は、米国で01年12月エンロンが倒産したことを契機に、02年7月に法制化されたサーベンス・オックスリー法(SOX法)を参考にしていることから、日本版SOX法とも呼ばれている。

 日本版SOX法が注目されているのは、財務報告に係る内部統制の文書化、これらをITにより統制することを求められているだけでなく、先行する米国でこの内部統制システムの構築にかなりの時間とコストを要したと言われているからである。まだ、具体的な実施基準が示されていないため、評価の対象範囲をどこまで絞り込めば良いのか、子会社や事業所はどこまで含めればいいのか、など取り組みに躊躇している企業が多いのも現実である。財務報告とは限定されているものの、連結ベースが対象であり、全社的な内部統制も評価及び監査の対象とされていることから、全社的な視点は欠かせない。
 内部統制システムの構築という点では、この5月に施行された会社法でも要請されている。これまで委員会等設置会社にのみ課されていた内部統制システムの構築が全ての大企業(資本金5億円以上または負債200億円以上)に対して義務付けられた。
 具体的には、「業務の適正を確保するための体制」として情報管理体制、リスク管理体制、コンプライアンス体制、グループ管理体制など9つの点について体制の整備を求めている。そして、これらの内容を今年度の事業報告書に開示することとなっている。
 
 企業としては、全社的な視点で内部統制システムを構築することが求められているわけで、そうすることによって投資家の信頼を確保でき、資本市場を通じて企業価値が高まるのであれば、内部統制の体制整備や文書化に係るコストも報われよう。
 また、投資家としても、企業不祥事が相次ぐ中、それらを未然に防ごうと努力している企業の姿勢を開示情報から得られるようになるわけで、企業の選別を行う上で、財務面とは異なった新たな評価基準を持つことが可能になったといえよう。

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大村岳雄(おおむら・たけお)
大和証券入社、経済調査部・香港駐在・通産省出向、総合企画室、日本証券業協会出向を経て、2003年から大和総研・経営戦略研究所 主任研究員兼上席次長、リスクマネジメント・内部統制の調査・研究を担当。
参考となるレポートは、http://www.dir.co.jp/consulting/report/strategy/06051701strategy.htmlに記載。

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2006 07 29 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.07.08

[フィナンシャルi] 鉄鋼業界 劇的復活の理由

 数年前まで「斜陽産業」の印象が強かった鉄鋼、石油、機械等の重厚長大産業が、2004年度、2005年度と力強く利益を拡大させている。
 重厚長大産業はなぜ復活したのか。本稿では、「ゴーンショック」後、泥沼の値引き合戦に陥り、内需不振・輸出頭打ち・市況低迷の三重苦にあえぎながら、劇的な業績回復を果たした鉄鋼業界を事例に、復活の理由を考えたい。
(東レ経営研究所 産業経済調査部産業アナリスト 永井知美)

 鉄鋼業界が息を吹き返す契機となったのは、中国需要の爆発的な増加である。国内鋼材需要の回復、リストラや業界再編による競争力向上といった要因も業績回復を後押しした。
 だが、鉄鋼業界復活の要因はこれだけではない。中国の生産急増により、世界全体では鋼材は既に供給過剰である。それでも日本の大手鉄鋼メーカーが高水準の利益を維持しているのは、中国等後発国メーカーには生産が難しく、依然需給がタイトな自動車向け鋼板、シームレスパイプ、電磁鋼板等高い技術を要する高級鋼材に強みを持っているためである。
 長らく「斜陽産業」と揶揄されてきた日本の鉄鋼業界だが、技術水準は高い。中国が、主に小規模メーカーによる低級品を中心に近年急激に生産を拡大したのに対して、日本の大手4社は高級鋼材に主眼を置いている。
 自動車向け鋼板を例にとると、大手4社に近い水準の製品を作れるのは、Posco(韓国)、上海宝鋼集団(中国)、アルセロール(ルクセンブルグ)、USスチール(米国)等一部メーカーにとどまり、大量・安定供給となると、日本メーカーの独壇場となってくる。
 自動車鋼板等の高級鋼材は、部品を組み立てればできる製品とは違って、上流設備から下流設備まで一貫で成分調整、加熱・冷却、圧下などの品質管理をしないと製造できず、一朝一夕には真似できない。単純な外観とは裏腹にきわめて高度な技術の集積なのである。

 日本メーカーの高い技術力の背景には、高付加価値志向と研究開発に対する熱心な取り組みに加え、ユーザーとの緊密な連携がある。
 日本には自動車、電機、造船等、世界でもトップレベルの製造業が存在し、しかもそうしたユーザーが「世界一うるさい」顧客である。単なる売りっぱなしではなく、要求水準の高いユーザーに鍛えられることによって製品の質が向上するという好循環が生まれている。
 また、現場が自主的に品質向上や生産性向上などの工夫を重ねている点も大きい。中国の鉄鋼メーカー従業員はマニュアルに書いてあることは実行するものの、日本レベルの自主改善運動に到達するまでには、まだまだ時間がかかる。

 世界の鉄鋼需給は、汎用品の先行きは中国の大増産もあり予断を許さないが、自動車用鋼板等高級鋼材はいまだ需給タイトである。日本の大手各社は、今後も技術的優位は保てると見て、そろって高付加価値路線を志向している。
 ユーザーとの連携強化、全社的な品質・生産性向上により優位を保ち続けることは十分に可能であると考える。
その一方で、世界の鉄鋼業界は、最大手ミッタル・スチール(オランダ)が2位のアルセロールの敵対的買収を開始、これに反発するアルセロールが12位のセベルスターリ(ロシア)との合併を目指すなど、再編の動きが活発化している。
 こうした世界的再編の動きとどう向き合うか、海外展開を進めるユーザーへの供給体制をどう構築するかが、今後の日本大手鉄鋼メーカーの課題といえるだろう。

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ながい・ともみ
 東京大学文学部卒。山一証券経済研究所外国企業調査部で主に欧米医薬品・化学業界の調査を担当した後、翻訳業を経て、1999年から東レ経営研究所。産業アナリストとして鉄鋼業界、化学業界、通信業界等の調査・分析を担当。金融庁企業会計審議会委員。


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2006 07 08 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.07.01

[フィナンシャル i] 証券投資もコンビに感覚

 「貯蓄から投資へ」
 この流れをより確実なものにすることを期待され、2004年4月に証券仲介業制度が施行された。これにより、個人でも法人でも証券仲介業を行うことが可能となって2年以上が経過した。
 また、銀行等の金融機関の証券仲介業への参入も同年12月より認められ、すでに何行かでスタートしている。
 (日興コーディアル証券IFAビジネス部ファンドアナリスト 村井律子)

 そもそも証券仲介業とはどういった制度なのだろうか。
 それまでは、証券の取引は基本的に証券会社だけがその窓口となってきた。しかし、この証券仲介業制度の制定によって、証券会社と業務委託契約を結び、内閣総理大臣の登録を受けることで、だれでも投資家と証券会社の取引の仲介が可能となったのだ。
 現在では、銀行、税理士、会計士、コンビニエンスストア、カード会社、賃貸不動産会社、インターネットの検索サイト等々の幅広い業種が証券仲介業者として証券業界に進出してきている。
 当初は、証券販売の経験の乏しい者に金融商品の勧誘販売をさせて投資家保護が守られるのか、また、証券仲介業者にもその所属証券会社にもリスクが大きいなど、さまざまな懸念点・疑問点が議論されていたが、これまでのところ顧客満足度はかなり高いという調査結果になっている。
 毎日行くコンビニで国債が買えたり、毎日アクセスする検索サイトで投資信託が買えたりと、証券投資の窓口が身近なところに広がってきたことで、これまで投資になじみのなかった層にも証券投資というものが身近なものになってきたことのメリットの方が大きいように思われる。

 税理士・会計士・保険代理店等がフェイス・ツゥー・フェイスでアドバイスを提供する独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)による証券仲介業も増えている。彼らは顧客と対面してその顧客の投資目的の達成に必要なアドバイスを行う。
 その強みは、金融機関に属していないので、会社の方針に左右されずに、自分が自分の顧客のために良いと思うアドバイスができることだ。
 また、顧客側から見ると、日頃からお付き合いし信頼している税理士からアドバイスが得られることは、資産運用がぐっと身近になる効果もあるだろう。
 資産運用が日本に未だ根付いていない要因のひとつは身近なものになっていないことだろう。資産運用の必要性は何となく感じていながらも、何からどのように始めていいのか分からないために一歩踏み出せないでいる人も多いと思われる。
 価値観やライフスタイルが多様化している現代においては、資産運用のニーズも多様化している。証券仲介業制度によって、さまざまな業種から、さまざまな形態で証券仲介業へ参入することは、個人投資家が自分のニーズや好みに合った証券の相談窓口に出会う機会が増えることであり、敷居の高さを感じることなく、必要性を感じた時に気軽に証券市場に参加できる方向に進むことと期待できる。
 証券仲介業がさらに広がれば、日本の証券投資の裾野も広がり、日本人の個人資産の貯金への偏りを解消する一助ともなるだろう。
 長い目で見ても、この証券仲介業制度は日本の金融界にとって重要な役割を担うものと大いに期待している。

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村井律子(むらいりつこ)
日興コーディアル証券 IFAビジネス部 ファンド・アナリスト。
1991年中央大学卒業。1998年米国にて経営学修士(MBA)取得後、米系証券会社にてファンド・リサーチを担当し、2001年10月から現職。
IFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)を通じて、一般投資家に投資信託を中心に資産形成についての情報、アドバイスを提供。
専門的な話をできるだけ分かりやすく伝えることを第一に、投資の考え方の普及に努めている。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は6月19日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

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2006.06.24

[フィナンシャル i] マンション購入 大きな節目

 2006年3月、日銀は5年半続いた量的緩和政策を解除し、本来の金利誘導による景気政策への転換を宣言した。(株式会社東京カンテイ 市場調査室長 中山 登志朗)

 当面はゼロ金利政策が維持されるが、長期金利は解除後早々に上昇が始まり、金融機関は住宅ローン金利を引き上げつつある。
 フラット35の平均金利も3.23%(5月末現在)まで上昇している。
 本稿はこのような金利先高状況を受け、団塊ジュニア世代(平均34歳)のマンション購入を想定し、年収600万円を基準とした場合に、住宅ローン金利の上昇が首都圏の購入可能エリアをどのように変化させるのかをシミュレートしたものである。
 なお、価格の2割を頭金として準備し、年間のローン返済額が年収の25%以内に収まる“健全な住宅購入”を前提として購入可能エリアを算出している。

 首都圏の新築マンションは、2001年から2005年までの全駅の平均価格が4,050万円である。現行の変動金利2.375%では年収600万円の場合、4,454万円以下の物件が年収の25%以内の返済で購入可能である。
 この条件による試算では、東京23区の外側地域であれば概ね新築マンションが購入可能となる。南西に延びる東急田園都市線や東急東横線では、都内と神奈川県の境である多摩川が、購入可能と困難の境を成している。 例えば、東急田園都市線の「二子玉川」(5,528万円)と「二子新地」(3,771万円)の間、東急東横線では「新丸子」(4,455万円)と「武蔵小杉」(4,403万円)の間に境界線がある。
 また埼玉県方面では分譲価格が安くなるため、「田端~上野」間でも購入可能となる。千葉県方面では、「両国」(4,117万円)、「森下」(4,235万円)、「木場」(3,980万円)に購入可能/困難の境界がある。
 金利が3.00%に上昇すると、購入可能額は4,059万円と約400万円低下する。金利負担分が増加し、相対的に真水部分である購入可能額が減少するためである。さらに金利が4.00%に上昇すると、購入可能額は3,529万円と現状から約1,000万円も低くなる。このように金利の上昇は購入可能額の低下に直結しており、購入可能エリアを市街地から遠方にするか、駅から離れた物件を探すか、専有面積のやや小さい物件を探すなど、購入条件の下方修正を余儀なくされる。
 ただし、金利2.375%→5.00%の上昇による沿線ごとの移動距離は、総武線32.0km、京王線31.5 kmに対して、小田急小田原線10.7 km、西武池袋線12.1 km、東武東上線12.8 kmと違いが明らかである。これは沿線ごとの価格水準や距離圏ごとの価格差が異なることに起因する。沿線平均では金利1%の上昇につき3.7km郊外方面に購入可能駅が遠のくこととなる。

 実際に金利が上昇すれば、マンション市場では駆け込み購入が増加し始める。まだ金利が低水準のうちに購入しようという考えが強まるからである。現行金利の適用がある完成在庫がここのところ急激に減少しているのもこの心理的要因によるものである。ただし金利がさらに上昇して5.00%を超えるような状況になれば、反対に購入を見送るケースが増加することが予測される。
 一方で、新築マンションに拘らなければ居住条件の選択肢は広がり、中古流通市場が広域で活性化する可能性もある。
 このように金利の上昇一つとっても購入条件は大きく変化する。地価上昇や消費税改定論議も含め、マンション購入は今大きな節目の時期を迎えていると言えるだろう。

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中山 登志朗(なかやま としあき)
株式会社東京カンテイ 市場調査室長 主任研究員。
不動産市況全般の調査・分析を担当。市況レポート“Kantei eye”編集長。
今回のコラムの詳細データはhttp://www.kantei.ne.jp/に掲載


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2006.06.17

[フィナンシャルi]個人マネーが次代の活力

 最近、団塊の世代の資産運用が脚光を浴びている。金融機関の立場からは、この世代の退職金を含む金融資産を「いかに取り込むかが焦点だ。
(ありがとう投信 代表取締役 村山甲三郎)

 しかし、顧客の立場からは「自己責任」を強調され、「リスク」がありますと何度も言われる窓口での「説明」に違和感を感じる人も多いようだ。もちろん「自己責任」も「リスク」も分かるのだが、それを前面に出して説明しようとする金融機関の姿勢の背後に、何か別のものを感じ取る人もいるようだ。
 資産運用の目的で金融機関の窓口に行く一般の人が、そこで直面するのは変動する市場そのもののはずだ。今までは貯金や預金が金融資産のすべてであった人たちにとっては、それはなじみのない世界だから、当然緊張して恐怖感を感じてもおかしくはありません。
 それに対する金融機関の説明が十分なものであるかどうかは、これから多くの人々が「運用」を通じて「市場」と向き合わざるを得ない時代が進めばおのずと明らかになってくると思う。

 こんなことをいうのも、いろいろな個人の方と運用に関するお話をさせていただく機会が多いせいだろう。弊社を訪れて運用に関する相談をされる方は若い人も多いが、やはり団塊の世代の方たちが中心になる。
 そうした折には、「市場の4つの要素」について思いをめぐらせることがある。4つの要素とは「力」、「頭」「心理」それと「思い」だ。
 市場は「売り」と「買い」がぶつかる場所だから、当然「力」のあるものが勝つ。また世の中にはとてつもなく頭の良い人がいるから、市場でもその「頭」を活用して利益をあげる人もたくさんいる。
 「力」にも「頭」にも縁がない一般の人でも市場に参加して自分の資産の価値が大きく上下する経験をすれば、市場が恐怖や欲望の「心理」の場所であることはすぐに理解できると思う。
 それでは最後の「思い」とは何か? 
 はっきり定義するのは難しいのですが、「どういう気持ちで自分の大切な資金を市場運用に投じるのか?」という設問への各人の答え、のようなものと考えている。
 長期投資を続けるときには「思い」の支えが必要だ。それがあってはじめて「力」や「頭」、「恐怖の心理」に打ち勝って、市場での運用を続けられるのだ。長期投資に欠かせない忍耐力も「思いの強さ」が支えてくれる。

 その意味では、弊社に来られる方たちの、これから長期投資で資産形成に向かおうとしている「腰の据わり方」を見ていると実に頼もしい限りだ。マスコミが書き立てるライブドア騒ぎにもデイトレーディングの狂騒も実は多くの人たちには関係がない。
 50兆円といわれる団塊世代の退職金を含めて1500兆円を越える個人の金融資産がしっかりとした「長期投資」に向かうことが日本の次の時代の活力を生む道だと、弊社のような小さな会社にあってもしみじみ実感できるので、正に日々「ありがたい」と感じながら仕事をしている。

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村山甲三郎(むらやま こうざぶろう)
1952年東京都青梅市生まれ。一橋大学卒。米国コーネル大学経営学修士。邦銀勤務の後、1985年からゴールドマンサックス証券で外国債券営業部長、1994年からCIBCウッドガンディー証券で営業本部長。1999年から米国運用会社の在日代表を務め、2004年ありがとう投信の設立に参加、代表取締役兼運用責任者。

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2006.06.10

[フィナンシャルi] トウモロコシの需給逼迫

 ブッシュ大統領は1月31日の一般教書演説で「先進エネルギー構想」を発表した。エタノールなど新技術を利用した代替エネルギーの開発を促進することで、2025年までに中東からの原油輸入を75%以上削減するという内容だ。
(丸紅経済研究所 所長 柴田明夫)

 すでに米国では05年8月に成立した包括エネルギー法で、燃焼時の環境汚染が少ない燃料の国内供給量を増やすため、ガソリンと混合するエタノールの増産を義務付けている。
 これを受けエタノール生産量も、2000年の16億ガロン(1ガロンは約3.8リットル)から05年には40億ガロンに拡大し、ブラジル(サトウキビが原料)を抜き世界最大のエタノール生産国になった。バイオ燃料の業界団体である再生可能燃料協会(RFA)によると、エタノールの生産は06年に51億ガロン、07年60億ガロンと引き続き急増する見通しだ。すでに、米国内で消費される自動車ガソリンの内、エタノールの混入率は30%に達している。また、先の包括エネルギー法では、2012年のエタノールの生産量は75億ガロンを超えることが決められている。
エタノール需要の急増により、米国では、その原料であるトウモロコシ需要が急増している。
 ちなみに、エタノール1ガロン生産するのに必要なトウモロコシは0.35ブッシェルであり、75億ガロンでは、25~26億ブッシェルとなる計算だ。米農務省の06/07年度需給報告(06年5月12日発表)によると、米国のトウモロコシ需要のうちのエタノール向けは、96年度の4.29億ブッシェルから21.50億ブッシェルへと、この10年間で5倍に拡大し、輸出需要に並んでいる。
 こうした、米国エタノール需要の拡大により、世界のトウモロコシ需給が急速にタイト化しつつある。特に、今後2~3年を見た場合には、世界最大のトウモロコシ輸出国である米国の輸出余力が大きく低下することが懸念される。かつて、米国のトウモロコシ需要の中で、飼料用と産業用(FSI)を加えた内需の比率は約75%に対し、輸出すなわち外需は25%前後であった。しかし、エタノール需要が倍増するとなると近い将来、内需で9割が使われ、輸出に回せるのは1割程度という時代が訪れることになる。その結果、国際市場では、需給がタイト化すると同時に、米国の生産のわずかな増減であっても、それが輸出市場には増幅する形で輸出量の変化をもたらし、相場の大きなかく乱要因となる。
 すでに、その兆候が現われている。米国農務省(USDA)の農産物需給報告(06年5月10日発表)によると、06/07年度のトウモロコシ期末在庫率は、9.8%と前年度の20.2%から一気に半減する見通しだ。
 加えて、中国でも旺盛な飼料用需要に工業用エタノール需要が急増し、国内在庫がひっ迫してきたことから、今年3月以降、トウモロコシの輸出を停止。昨年の輸出量500万トンから、早晩、中国はトウモロコシの純輸入国に転じる可能性すら高まっている。
 この結果、世界の06/07年度のトウモロコシ期末在庫も20年ぶりの低水準に落ち込む見通しだ。急速な需給タイト化を映して、シカゴのトウモロコシ相場も、年初の1ブッシェル=2ドル前後から5月末現在2ドル台後半にジワリと下値を切上げている。トウモロコシ市場は、急騰前夜にあると言えそうだ。

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柴田明夫(しばた・あきお)丸紅株式会社 経済研究所 所長

丸紅経済研究所所長。1976年東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。鉄鋼第一本部、調査部を経て、2000年に業務部(丸紅経済研究所)産業調査チーム長。02年に同研究所主席研究員。03年から現職に。経済企画庁「環境・エネルギー・食料問題研究会」委員、農林水産省「食料・農業・農村政策審議会」臨時委員などを歴任。近著に「ヨーロッパ経済論」(共著)ミネルヴァ書房、「商社の新実像」(共著)日刊工業新聞社、「資源インフレ」日経新聞社。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は5月29日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

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0775506
 全国有力書店におきまして、「フィナンシャル ジャパン」2006年7月号は5月20日発売です。
今月の第1特集は、バブル期の株式投信の運用残高を超えるほどの投資信託ブームの中で、カモにならない投資の鉄則や投資信託の選び方や株式パフォーマンス、だまされない投資知識を得るためのセミナーなど、賢い投資家になるための投資最新事情の特集を組んでいます。
また第2特集では、革命ともいえるウェブの進化によって私たちの身の回りで、そしてビジネスの世界ではどのような変化がもたらされているか。その変化に伴い、どのようなネット企業が勝ち残るのか、ビジネスのキーワードなども織り込みながら、ネット企業に投資する前に知っておきたい情報をまとめています。
特集以外でも、今注目をされている独立系投信会社のさわかみ投信の澤上社長とレオス・キャピタルワークスの藤野社長の運用スタンスのほか、今後の日本経済を左右する経済産業省の「新経済成長戦略」についての解説、前三重県知事の北川正恭氏と映画化された『県庁の星』の作家桂望実氏の対談、またプロゴルファー 深堀圭一郎氏とゴルフ解説者 佐渡充高氏とスポーツジャーナリストの二宮清純氏の鼎談「ゴルフの経済学」、「今の日本はソ連の崩壊時によく似ている」と語る、「国策捜査」でその存在を知らしめた外務省元主任分析官の佐藤優氏の、「ソ連崩壊と日本格差社会」 など盛りだくさんの内容となっています。

2006 06 10 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.06.03

[フィナンシャルi] 「ロボット」が暴走する先物市場

 3月初めから騰勢を強めていた日本株相場は連休から急落し、為替相場も円高・ドル安が急ピッチで進んだ。
(草野グローバルフロンティア代表取締役 草野豊己)

 この一連の動きを主導したのが、ヘッジファンドの運用戦略のひとつ、コモデテイー・トレーデイング・アドバイザーズ (以下CTA)だ。
 CTAは、現物市場には一切投資せず、先物・オプション市場だけに限定するというヘッジファンドの中でも特異な存在だ。株式や債券との逆相関性があることから、欧米の年金や大学基金による積極的な投資によって、運用資産も1350億ドルを超えている。世界中の先物・オプションをヘッジではなく、まさに投資 の対象として激しい売買を繰り広げ、日本でも株式や債券の先物売買を活性化させている。
 
 その運用スタイルには、テクニカル分析の運用モデルが発信するトレーディングシグナルに従って人間の意志とは無関係に売買する「システム型」、市場の需給関係やマクロ経済などのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析による人間の自由裁量に基づいて売買する「自由裁量型」、システム型と自由裁量型を絡めて売買する「混合型」の3種類がある。
 内訳はシステム型:67%、混合型:19%、自由裁量型:14%と大半がファンダメンタルズを無視したシステム型での売買だけに、ファンダメンタルズを重視する従来の伝統的な方法ではCTAの投資行動を正確に予測することができない。
 米商品先物取引委員会は、生産者などの商業部門とCTAなど投機筋の非商業部門に分類した建玉状況を発表しているが、非商業部門の建玉の総建玉に占める割合は拡大を続けているし、ネット (売り持ちと買い持ちの差し引き) の動きと先物価格の短期的な動きが連動する局面も非常に多くなってきた。
 商品先物の中では最大級と言われる原油先物の総建玉は、5月2日現在で約109万枚(1枚の取引単位は1000バーレル)で、時価総額はわずか780億ドル(5月2日の1ドル=113.4円で換算すると8兆8千億円)に過ぎない。流動性や市場規模が著しく劣る商品先物市場だけに、CTAの影響力は一段と大きくなっている。流動性や市場規模が著しく劣る商品先物市場へのCTAの影響力は一段と大きくなっている。
 外国人投資家の委託売買シェアは、日本株の株式市場では5割に近い。しかし、先物市場ではCTAの売買を中心に8割をも超え、CTAの絶大な影響力は、先物経由で現物市場にまで拡大している。
 
 グリーンスパン前FRB(連邦準備制度理事会)議長は、「グローバリーゼーションの進展により、世界の株式市場と債券市場は一体感を強めている」と指摘した。今では株式、債券だけではく、これまで無関係だった市場が相互に影響を与え合うという相対的な相場に変わってきた。
 コンピューターが24時間体制で世界中の先物市場を監視し、運用チャンスを見つけると自動的に売買し、取引結果を受け取るとポジション管理を始め、利食いチャンスを見つけると自動的に反対売買する仕組みが、CTAの中で最も運用成績が優れる「ロボット・トレーディング」だ。人間が誰一人として介在せず、ミリセカンド(千分の一秒)単位の電子取引を駆使して売買するロボットが先物市場で暴走しはじめた。
 ファンダメンタルズを無視した売買による先物市場の乱高下が実体経済に大きな影響を与え、金融当局の政策まで制約する。日本でも始まったロボットの暴走を、投機筋の仕掛けということで片付ける市場関係者の後講釈はいつまで続くのか。

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草野豊己<さの・とよみ>
神戸大学を卒業。HSBC証券日本株営業統括ダイレクター、クレディアグリコル・インドスエズ証券(現カリヨン証券)取締役副支店長を歴任。草野グローバルフロンティア代表。クロスマーケットから外国人投資家動向を分析するオーソリティ。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は5月22日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

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0775506
 全国有力書店におきまして、「フィナンシャル ジャパン」2006年7月号は5月20日発売です。
今月の第1特集は、バブル期の株式投信の運用残高を超えるほどの投資信託ブームの中で、カモにならない投資の鉄則や投資信託の選び方や株式パフォーマンス、だまされない投資知識を得るためのセミナーなど、賢い投資家になるための投資最新事情の特集を組んでいます。
また第2特集では、革命ともいえるウェブの進化によって私たちの身の回りで、そしてビジネスの世界ではどのような変化がもたらされているか。その変化に伴い、どのようなネット企業が勝ち残るのか、ビジネスのキーワードなども織り込みながら、ネット企業に投資する前に知っておきたい情報をまとめています。
特集以外でも、今注目をされている独立系投信会社のさわかみ投信の澤上社長とレオス・キャピタルワークスの藤野社長の運用スタンスのほか、今後の日本経済を左右する経済産業省の「新経済成長戦略」についての解説、前三重県知事の北川正恭氏と映画化された『県庁の星』の作家桂望実氏の対談、またプロゴルファー 深堀圭一郎氏とゴルフ解説者 佐渡充高氏とスポーツジャーナリストの二宮清純氏の鼎談「ゴルフの経済学」、「今の日本はソ連の崩壊時によく似ている」と語る、「国策捜査」でその存在を知らしめた外務省元主任分析官の佐藤優氏の、「ソ連崩壊と日本格差社会」 など盛りだくさんの内容となっています。

2006 06 03 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.05.27

[フィナンシャルi] 投信選び 3つのポイント

 投資信託(投信)とは、文字通り「投資」を「信託」することである。最終的な運用は運用会社のファンドマネジャーに託すとしても、「どの投信を選ぶか」という肝心のところまでを誰かに託してはいけない。
(モーニングスター株式会社 代表取締役COO 朝倉智也)

 メディアに掲載される広告や、金融機関の営業マンのセールストークに刺激され、すぐに飛びつくのではなく、その投信が本当に自分にふさわしいものかどうかを、しっかりと見極めなければいけない。

投信選びのポイントは、次の3つにまとめられる。
 ① パフォーマンス(リスクとリターン)
 ② コスト
 ③ ファンドマネジャー(運用会社)

■ パフォーマンス
 投信選びの原則は、「リターンが同じならリスクが低いほうを選び、リスクが同じならリターンが高いほうを選ぶ」ことだ。たとえば、年間10%のリターンをあげる投信が2つあって、一方のリスクが10%、もう片方のリスクが8%であれば、後者を選んだほうがいいことはすぐにわかる。しかし実際には、比較したい投信のリターンとリスクの数字はまちまちだ。
 そこで、複数の投信を比較しやすくするために、リターンの数字をリスクの数字で割る。この数字は、「シャープレシオ」といい、その投信がどれだけ効率よく運用されているかを表し、数字が大きいほど効率性が高いことを表す。
 大切なのは、リターンの高さだけに注目するのではなく、リスクをいかに抑えて、効率よくリターンをあげているかを見ることである。

■ コスト
 投信にかかる2つの主要なコストは、購入時にかかるコスト(販売手数料)と購入後に毎年かかるコスト(信託報酬)だが、当然、これらのコストは低いにこしたことはない。
 特に信託報酬は、毎年かかるコストであり、長期間運用する場合は影響が大きく、出来る限り低い投信を選ぶのが大切だ。信託報酬の額は、将来のパフォーマンスの良し悪しを決める、きわめて重要なポイントである。また、販売手数料は、同じ投信でも販売金融機関によって違うので、ここでもその投信をいちばん安い手数料で提供している販売会社を探すのが賢明だ。

■ ファンドマネジャー(運用会社)
 投信を選ぶ際には、過去のパフォーマンスもさることながら、ファンドマネジャーの運用経験や運用するファンドの担当年数などが重要になる。ファンドマネジャーの運用経験は、長ければ長いにこしたことはない。
 ただ残念なことに、現在の日本では、ファンドマネジャーに関する情報は、めったに目論見書に記載されていない。ファンドマネジャー、運用会社の良し悪しを判断する材料として、運用会社の純資産残高は一つの目安になる。会社全体の純資産残高が大きいことは、大きな資産を運用し、経験が豊富な運用会社でもあり、それだけ経験も実力も備えたファンドマネジャーがそろっていると考えられるからだ。


 どれほど難しそうに見えるパズルにも解き方のコツがあるように、投信選びにだってコツはある。「みんなが買っているから」「営業マンにすすめられたから」という理由だけの投信選びから抜け出し、そろそろ私たちも、自分自身で投信の良し悪しを見分ける力を身につけるべき時が来ている。
 最適な投信を見つけ出す方法は、拙著「投資信託選びでいちばん知りたいこと」(ランダムハウス講談社刊)で紹介しているので、参照していただきたい。


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朝倉智也(あさくら・ともや)
モーニングスター株式会社代表取締役COO。
慶應義塾大学文学部卒。米国イリノイ大学経営学修士号取得(MBA)。北海道拓殖銀行、メリルリンチ証券会社、ソフトバンク株式会社を経て、モーニングスター株式会社設立に参画。現職に至る。第三者の投信評価機関として、つねに中立的・客観的な投資情報の提供を行い、個人投資家の的確な資産形成に努める。近著「投資信託選びでいちばん知りたいこと」

2006 05 27 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.05.20

[フィナンシャル i] 2020年に家計貯蓄率ゼロ時代!? 

 家計貯蓄率が低いことが米国の経常収支の大幅赤字の原因となっており、国際的な不均衡の背景であることは、4月のG7でも指摘されている通りだ。

 これまで米国の家計貯蓄率が低い一方で日本の家計貯蓄率は高く、これが日米間の経常収支の不均衡の原因で日米の家計貯蓄率をどうやって是正するかという議論が続いてきた。
 ところが内閣府が発表している国民経済計算を見ると、2004年度の日本の家計貯蓄率は2.7%にまで低下しており、04年の米国の1.8%と大差はない。
 05年の家計調査でみると、世帯主が65歳以上で無職の世帯では貯蓄率はマイナス17.8%で、引退して年金生活をおくっている高齢者はかなりの貯蓄取崩を行っている。

 日本の高齢化率は05年には20%に達しており、長期的に続く日本の家計貯蓄率低下は、高齢化で貯蓄取り崩しを行う高齢者が増えたことの影響が大きい。
 もっとも00年以降の家計貯蓄率の急低下には、超低金利、失業率の上昇などの一時的な要因もあるので、デフレ脱却で金利上昇が見込まれるなど当面は家計貯蓄率が上昇する要素が多い。しかし日本の高齢化は今後も続き2050年には35.7%に達すると見られているので、一時的な上昇はあっても2020年頃には家計貯蓄率はほぼゼロになると予想される。
 よく知られているように、国内の企業、政府、家計の各部門の貯蓄と投資のバランスを合計すると、経常収支に一致する。
 同じように家計貯蓄率が大幅に低下しているにも関わらず、米国の経常収支が赤字で日本の経常収支がかなりの黒字を維持しているのは、日本の企業部門の貯蓄投資バランスが大幅な黒字となっているためである。
 これは日本企業が過剰債務問題の解消のために、債務の返済をおこなってきたからだ。日本経済はほぼデフレから脱却し、過剰債務問題も改善しており、今後は設備投資の積極化や、配当の増加などによって、企業の貯蓄投資バランスの黒字は縮小していくだろう。
 そうした中で財政赤字が続けば、将来日本の家計貯蓄率がゼロになると経常収支は赤字化するはずだ。

 家計貯蓄率がゼロに低下していくにしたがって、日本経済の姿はこれまでとは大きく変わっていくだろう。例えば、日本経済は輸出主導で経済成長が続いてきたが、外需はむしろ成長を抑制する方向に働く。経常収支がゼロになるまでは、日本の対外資産は増加を続けるので海外から受け取る財産所得も増加を続ける。このため経常収支の黒字のうちで利子、配当などの所得収支の黒字は増加を続け、貿易・サービス収支はかなり早い段階で赤字になるはずだ。
 1ドル360円の時代から続いてきた円高の流れもいずれは変わる可能性が高い。
 また、これまで財政赤字は国内の貯蓄で賄うことができたが、国内の貯蓄が減少していけば、海外からの資金に頼らなければ大量の国債発行は続けられなくなる。長期金利が上昇して利払い負担が増加するなど、財政赤字の問題も現在よりもさらに深刻化する恐れが大きい。
 家計貯蓄率低下の影響はこれまでは過剰債務削減の動きで隠されているが、今後は次第に顕在化してくるだろう。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は5月8日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 05 20 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.05.13

[フィナンシャルi]  不明瞭なタックスヘイブン税制

 昨年から、中国・華南地方で委託生産をしている日本企業と税務当局との間で対立が生じている。
 (古橋&アソシエイツ代表・税理士 古橋隆之)

 日本企業による香港子会社経由の中国加工貿易の取引形態には、中国企業に原材料、物品、サンプルなどを無償支給し、加工した製品を引き取って輸出する「来料加工」と、原材料、物品、などを有償支給し完成品価格で輸出する「進料加工」とがある。
 この「来料加工」に対して、香港子会社にタックスヘイブン対策税制が適用され、例えば船井電機は、2002年から04年までの3年間で、香港子会社の利益を船井電機そのもの所得とみなすタックスヘイブン税制の適用により393億円の申告漏れ、追徴額165億円の更正処分を受けた。これに対して船井電機は大阪国税局に不服申し立てをしている。SMK、スミダコーポレイションも同様の「来料加工」で不服申し立てをしている。
 香港の法人税率は17.5%と、日本の法人実効税率40.87%の半分以下であり、事業活動の「コスト」でもある税金を削減する際の子会社等の設置候補国・地域となる。しかしタックスヘイブン対策税制によって、日本企業の子会社などが税金の安い国・地域で生産販売などをして貯めた利益に、日本国が課税できるようになっている。
 具体的には、海外子会社などがある国の税負担率が25%以下で、日本の居住者および内国法人によってその子会社の株式の50%超が直接・間接に保有され、かつ日本の居住者や内国法人の株式の保有割合が5%以上の場合です。適用除外もあり、製造業なら実体がある現地工場を持つとか、卸業ならグループ企業外との取引が総取引の50%超であれば、適用はない。
 「来料加工」がどうしてタックスヘイブン税制の適用になるかは、次の理由による。
 日本企業の香港子会社が中国・華南にある第三者の中国企業に、「来料加工」で製造委託する。まず、この香港子会社の業種が問題で、製造問屋として卸売業に当てはまるなら、タックスヘイブン税制の適用除外の非関連者基準により、売り上げか仕入れのどちらか一方の50%超が非関連者との取引なら、タックスヘイブン税制の適用除外になる。
 一方、第三者の中国企業はこの香港子会社から生産管理や労務管理の指導を受け、資本関係は別とはいえ、両社が一体として製造業を営んでいるとの見方もできます。そうする香港子会社の業種が製造業になり、香港は中国の行政上、独立行政地区ですので、工場が本店所在地である香港にないことになり、タックスヘイブン税制の適用除外にはならないことになってしまう。日本の国税当局の考え方は後者の方だ。
 現在の日本のタックスヘイブン税制では、こうしたケースで所在地国基準と非関連者基準のどちらが適用されかについて明確な基準はない。
 企業活動はボーダレス、税金は国境が一杯の典型例だが、納税者の予測可能性を高める規定が望まれるところだ。

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古橋隆之(ふるはし・たかゆき)古橋&アソシエイツ代表・税理士 
早稲田大学法学部卒、南山大学法学部修士。現新日本アーンスト&ヤング税理士法人を経て独立。英国国立ウエールズ大学経営大学院MBA(日本語)プログラム助教授「国際税務戦略」担当。著書は『海外納税のすすめ』『通勤大学財務コース 金利・利息』(監修)など。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は5月1日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 05 13 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.04.29

[フィナンシャルi] BRICs並みの高成長を目指す南ア

 ポストBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として、南アフリカが注目されている。
 2005年の実質経済成長率が4.9%となるなど、現在、南ア経済は拡大基調で推移しており、豊富な天然資源を武器に中長期的にも高成長が期待される。
(BRICs経済研究所 代表 門倉貴史)

 南ア政府は、現在もてはやされているBRICsに強いライバル意識を持っており、中長期的な経済成長率を6%まで高めることを目標としている。
 南アでは1994年に人種隔離政策(アパルトヘイト)が廃止され、黒人の雇用機会が少しずつ増えてきていることなどから、全人口の75%を占める黒人から中産階級が台頭しつつある。最近では年間10万人のペースで黒人の中産階級が誕生しているという。所得水準が向上し、豊かになった黒人が居住用の住宅を購入する動きが強まっている。

 最近の住宅建築許可件数の内訳をみると、2005年は床面積80㎡以上の戸建て住宅が前年比12.2%増、床面積80㎡以下の戸建て住宅が同6.4%増と、いずれも小幅な伸びにとどまった。一方、マンションなどの集合住宅は同+34.0%と大幅な伸びを示し、これが全体の住宅需要を大きく押し上げた。
 集合住宅の需要が急拡大している背景には、治安の問題がある。南アでは殺人や強盗といった凶悪犯罪が多数発生するため、セキュリティーシステムの整った集合住宅に住むほうが郊外の戸建て住宅に住むよりも安全であるといわれる。
 また、原材料価格の高騰に伴う建築コストの上昇などによって、価格水準の高い戸建て住宅から価格水準の低い集合住宅にシフトしているという事情もあるようだ。
 06年3月の住宅価格指数が前年比13.7%増にとどまるなど、不動産価格の伸びは足元で鈍化しつつあるが、①南アフリカの住宅価格が国際的にみてなお低い水準にあること②住宅ローン金利が歴史的に低い水準にあること③黒人中産階級が増えていることなどから、住宅需要は06年も堅調に推移するとみられる。
 アブサ銀行では、実需の拡大を反映して06年の住宅価格が前年比10-12%上昇すると予測している。

 短期的な景気の先行きについて、懸念されるのは通貨ランドの上昇だ。
 国際的な資源価格の上昇を背景に、資源埋蔵量の多い南アに多額の海外投資マネーが流入していることがランド高の主要因となっている。ランドの対ドル為替レートは、02年に入ってから上昇傾向で推移しており、直近の06年3月は1ドル=6.24ランドとなった。01年12月の最安値(1ドル=11.68ランド)と比べると46.5%も上昇している。
 ランドの上昇は製造業の輸出競争力の低下につながっており、国内の製造業からは、通貨高を抑制するために利下げの実施を求める声があがっている。
 ただ、政策金利は7.0%と、国際的にみれば非常に高い水準にあるが、南アの歴史のなかでは最も低い水準となっており、これ以上の利下げはインフレを誘発することになりかねない。
 中央銀行は、金融政策について難しい舵取りを迫られているといえるだろう。

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門倉貴史(かどくら・たかし)BRICs経済研究所 代表 
1995年慶應義塾大学経済学部卒業後、浜銀総合研究所入社。日本経済研究センター、シンガポールの東南アジア研究所への出向を経て、2002年4月-2005年6月まで第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト。05年7月より現職。主な著書に「図説 BRICs経済」(日本経済新聞社)、「手にとるようにわかるインド」(かんき出版)、「インドが中国に勝つ」(洋泉社)など。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は4月24日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 04 29 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.04.22

[フィナンシャルi] インドは中国を越えられるか

 近年、経済成長が目覚ましく、しかも人口大国であるインドへの関心が高まっている。だが、中国と比較すれば、多くの点でインドの魅力は見劣りしてみえる。
(慶應義塾大学総合政策学部教授 白井早由里)

 中国は1978年に対外開放政策を開始したが、それ以来、外資系企業の参入によって輸出型製造部門が成長し、今では東アジア域内で生産ネットワークの拠点を形成するまでになっている。
 
 対照的に、インドは中国に大きく遅れて91年から本格的な対外経済開放政策を始めているが、経済特区を設けてインフラを集中的に整備し、税制面でも外資を優遇してこなかったため、直接投資の流入額は中国の10分の1程度にとどまっている。本格的な経済特区の開設を促す法律は今年2月に施行されたばかりである。
 この結果、中国の国内総生産や1人当たり所得はインドの2倍以上もあり、潜在的な消費市場の大きさは比較にならない。マクロ経済状況も良好で、財政赤字はインドより小さく、潤沢な貯蓄に支えられて国内金利も低い。 
 貿易収支でも、赤字のインドに対して、中国は大幅な貿易黒字を記録し、しかも日本を抜いて世界第3位の貿易大国である。また、インドはかねてから情報通信(IT)部門および関連サービスに対する評価が高いが、インターネット利用者、パソコン台数、携帯電話利用者数いずれにおいても中国とは4倍以上の開きがある。
 つまり、インドのIT産業は欧米諸国のアウトソーシング先であり、ゲームソフト、コンテンツ、電子商取引などIT関連サービスの国内市場は小さい。質はともかくとして、居住者による国内特許申請者数でも年間4万件以上ある中国に比べてインドは約300件に過ぎず、一般に受ける印象と比べ研究開発活動は活発とは言えない。
 それにもかかわらず、何故インドに注目すべきなのか。重要な点は、インドでは優れた民間地場企業が多く育っており、しかもそれらを資金面から支える比較的健全な銀行・株式市場が存在していることである。
 対照的に、中国では一党独裁体制の維持という政治的理由から今日でも国有企業を支援し続け、民間の地場企業の育成よりも外資系企業を誘致することで経済発展を目指している。1980年代末から実施した国有企業改革では中小企業を淘汰し、戦略的分野において大規模で利益率の高い国有企業だけを残して大規模化・多国籍化を図っている。地方政府による関与も大きく、生産能力過剰の一因となっている。
 
 こうした政策は特権をもつ政府・企業・市民とそうでない者との間に不公平感を高めている。しかも、政策は頻繁に変わり、その説明責任や知的財産権などの法的整備でもインドより遅れをとっている。海賊版の氾濫は中国の方がはるかに深刻だ。
 世界経済史を振り返ってみても、民間企業よりも国有企業を優遇した国で持続的な高い成長を実現した国はない。そうした政策が長期的にみて政治的安定性、経済効率、あるいは外資系企業の安定的な収益確保に及ぼす影響は計り知れない。
 インフラ不足と労働者保護的色彩に難があるインドではあるが、海外戦略を企てる経営者が念頭においておくべきプラスの点であろう。

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白井早由里(しらい・さゆり)
1987年慶應義塾大学卒業、89年同大学経済学研究科修士課程修了、93年コロンビア大博士課程修了。経済学博士。93年―98年国際通貨基金(IMF)エコノミスト。1998年9月慶應義塾大学助教授。2006年4月より現職。
主な著書に『マクロ開発経済学―対外援助の新潮流』(有斐閣)、『人民元と中国経済』(日本経済新聞社)など。


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2006 04 22 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.04.15

[フィナンシャルi] 05年海外直接投資50%の大幅増

 これまでわれわれが直接投資統計として長年用いてきた財務省の届け出ベースの統計は2004年度をもって廃止され、05年度から国際収支ベースの統計が用いられるようになった。その結果、04年度までは件数と金額で捉えることが出来た直接投資は、金額のみとなり、四半期ベースのデータが比較的早く入手できる。
(海外投融資情報財団調査部上席主任研究員 岩見元子)

 なお、国際収支統計上、日本の対外直接投資(資金の流出)はマイナスで表されていることに注意する必要がある。
 一方、国際収支統計は直接投資を「資金の受払額」として集計しているため、「資金の流入」に当たる投資の回収などが投資を上回った場合にはプラスとなり、直接投資額としてはマイナスの数値が計上される場合がある。
 最近、日本銀行が発表した05年の国際収支統計上の対外直接投資額(10月~12月は推計値)は、前年比約50.8%と大幅に増加し、5兆円に達した。この5兆円という規模は、1990年に7.3兆円という過去最高額を記録して以来の大きな金額である。長い構造調整期を脱した日本企業が、内外景気の回復に伴い積極的な設備投資活動を展開する中で海外投資が増えている様子がうかがえる。
 ちなみに、日本政策投資銀行が昨年6月に実施した設備投資調査によると、日本企業、特に製造業企業の05年度の設備投資計画は20%という高い伸びが見込まれたうえに、海外設備投資比率が49%と半分に迫る高い割合であった。
 05年の地域別の直接投資を見ると、アジアが最大で全体の35.6%、次いで北米が29.1%、欧州が16.3%という構成になっている。アジア地域への投資の増加率は57.4%と高く、全体に占める構成比は前年に比べて1.5%ポイント上昇した。国別の投資額は、前年に引き続いて米国が最大、中国が第二位であり、第三位には前年のオランダに代わってケイマン諸島が浮上した。

 アジアでは、対中国直接投資の伸びが14.3%と低かったのに対して、ASEAN(東南アジア諸国連合)への投資が83.7%と大きく増加した点が注目される。中国への投資は、00年以降、一貫して増加傾向をたどっているが、03年の新型肺炎(SARS)騒ぎから05年春の反日デモに至るマイナス要因によって高い増加率に歯止めがかかり、海外投資を考える企業の間に「中国プラス1」という考え方が出てきた。
 「プラス1」の対象となったのがASEAN、なかでもタイとベトナムである。タイでは自動車関連企業、ベトナムでは労働集約的な衣料、電機・電子関連企業の投資が増えている。最近注目されているインドへの投資も前年比約2倍に増加した。
 北米地域への投資も平均以上の79.2%という高い伸びを見た。これは、04年に米国への投資が大きく減少した反動とみることもできるが、05年の米国の景気回復に伴う投資増加といった方がよいだろう。
 一方、欧州、中でもEU(欧州連合)への投資の伸びは前年比9.0%増と振るわなかった。EUの「深化と拡大」という90年代末から続いた投資促進要因が一段落したことがその理由であると考えられる。しかし、絶対額は低いものの、東欧・ロシアへの投資は63.2%増加している。ロシアは日本企業にとって未知の市場であり、投資環境が整い、先行する企業の成功話が伝わるようになれば直接投資も増えるだろう。
 その他の地域をみると、中南米と中東への投資の伸びが大きく、最近の石油価格高騰を背景としたエネルギーをはじめとする資源開発関連投資の増加と、タックスヘイブンの利用がうかがえる。

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いわみ・もとこ
国際基督教大学教養学部社会科学科卒。日本長期信用銀行、長銀総合研究所を経て、1998年から現職。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は4月3日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 04 15 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.04.08

[フィナンシャルi] 個人投資家も「資産設計」の発想を

 資産設計とは2005年に出版した拙書「資産設計塾」(自由国民社刊)で紹介している個人投資家が実践できる運用手法である。これは多くの個人投資家が行っている「単なる投資」とは異なる。
(株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長 内藤忍)

 具体的な配分比率は書籍で詳しく紹介しているので省略するが、銘柄選択、投資タイミングよりもアセットアロケーション(分散投資)に重点を置いた長期運用である。これは機関投資家が行うバランス型の年金運用を応用したものであり、株式だけではなく債券、外貨、不動産といった個人投資家がアクセス可能な商品を組み込んで具体性があることが特長だ。そしてもう1つの特長は目標値を「いつまでにいくら」と具体的に数値化しそこに向かうための最短距離を考えるという発想になっていることだ。


 個人投資家にとってはお金を殖やすこと自体は目的ではない。お金とは人生の夢・目標を実現するための手段に過ぎない。
 ところが多くの個人投資家は手段をいつの間にか目的にしてしまっているのが現状だ。書店で売られている多くの書籍が「誰でも」「簡単に」「1億円作る」といったタイトルになっている。
 しかし1億円をどうやって作るのかの具体的方法や1億円がいつまでに何をするために必要か、から説いているものはほとんどない。

 資産設計に関するセミナーの参加者に聞いてみると、多くの日本の個人投資家は市場平均を下回る運用リターンしか実現できていないことに驚かされる。個人投資家には勉強が必要なことを説き、例えば市場平均に勝てないならインデックス運用を行うべき、といった話をすると目からウロコが落ちたという感想をアンケートに記入してくる人が多い。
 運用知識も無いまま、何となく自分で取引をはじめ結果的に大きな損失を出してしまった人は想像以上に多いのである。
 このような個人投資家を生み出されたのはお金の話をタブー視する文化的背景、資産が預金中心で金銭教育がまったくなされていなかったことが原因である。しかし身近な銘柄投資という口当たりの良い説明をマネー誌などで行っている「マネーの専門家」にも責任がある。「知っている銘柄」「自分が好きな会社」といった安易な銘柄選択を言われるままに行い、ナゼ上がらないのかと個人投資家は悩んでいる。そんな身近な投資で誰でもリターンが出せるほど運用は甘いものではない。

 運用で成功の確率を高めるためには金融に関する正しい知識を体系的に学ぶことが必要である。そんな思いを実現するために昨年11月に株式会社マネックス・ユニバーシティを立ち上げた。マネックス証券で昨年だけでも延べ3万人の個人投資家を動員した実績をベースに、セミナー・勉強会だけではなくネット上で学習できるEラーニングとしても投資コンテンツを提供する。
 投資は才能ではなく技術。真面目に勉強すれば誰でも成功に近づくことができると信じている。
 ネット証券が金融市場という道路を走るスーパーカーだとすれば、次に必要になるのはお金の教習所である。株式市場に大量に流れ込んでいる若葉マークのドライバーに教えるべきことは、いくら儲かるという「リターン」ではなく最悪の場合どうなるかという「リスク」である。

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内藤 忍(ないとう・しのぶ)
東京大学経済学部卒、MITスローンスクール修士(MBA)。信託銀行、外資系投資顧問会社、マネックス証券株式会社を経て現職。早稲田大学オープンカレッジ講師、「日経マネー」「フィナンシャル ジャパン」などの雑誌コラムも担当。『内藤忍の資産設計塾』『内藤忍のお金持ちになる投資成功ノート』など。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は3月27日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 04 08 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.04.01

[フィナンシャルi] 証券監査委 体制強化急げ

 1月16日に、証券取引法違反で強制捜査を受けたライブドアは、今月13日に東京地検特捜部に告発、翌14日に東京地検が追起訴するという事態となった。
(日本証券経済研究所理事兼主任研究員 佐賀卓雄)

  強制捜査後調査で、創業時からの急激な成長が、大幅な株式分割やそれにM&A(企業の買収・合併)を絡ませた株価の上昇や、投資事業組合を利用した利益の付け替えなど、時価総額の増加を目的にした手法によるところが大きいことが明らかになっている。
 利益操作、相場操縦、また粉飾決算などは、言うまでもなく証券取引法によって禁止されている行為である。そして、証券取引を監視し、不正行為を摘発する役割を果たしているのが証券取引等監視委員会(以下、監視委員会と略)である。しかし、監視委員会は今回の件では表立って活動することはなかった。
 監視委員会はしばしばアメリカの証券取引委員会(SEC)と比較されるが、その人員や権限は大きく見劣りしている。
 人員の面では、SECが3,865人(2005年9月)に対して、監視委員会は440人、これに金融庁の市場監視関係の人員112人を加えても総勢552人(05年3月)である。
 それだけではない。SECのスタッフの過半は、弁護士、および会計士で構成されており、極めて専門性の高い集団である。アメリカの場合、デリバティブ取引についてはSECとは別に商品先物取引委員会(CFTC)が管轄しており、515人の人員である。さらに、全米50州には証券局があり、州内での証券取引の監視を行っている。
 もっとも、両国の証券市場の規模、証券会社、および従業員の数などが違うので、監視機関の人員の絶対数は必ずしも参考にはならないことも指摘しておく必要がある。
 むしろ、問題は組織としての独立性やその権限である。SECは大統領が指名した委員長と4名の委員から構成される。それに対して、監視委員会の委員長と2名の委員は内閣総理大臣により任命され、独立してその職権を行使できるとされてはいるものの、委員会自体は金融庁の外局であり、その権限も金融庁や検察庁への勧告に止まり、自ら罰則を科することはできない。 
 例えていうと、野球の試合で、セーフかアウトかの判定を監督(金融庁)と審判(監視委員会)が相談して決めているようなものである。これでは、時の総理大臣や金融担当大臣などが肩入れしている人物を摘発することは困難であろう。これに対して、SECは規則制定権や、刑事から民事まで、ほとんどあらゆる権限を付与されている。
 今回明らかとなった、株式分割や単元株制度などの証券取引システムの不備を早急に改善していくことが必要なことはいうまでもない。しかし、この間の金融システム改革が参入や業務について、事前規制型から原則自由を建前とする事後監視型行政への移行を進めてきたのにともない、監視コストの増加は避けられないであろう。
 証券取引の透明性を高め、証券市場への信頼性を取り戻すためには、監視体制を強化することが不可欠である。
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佐賀卓雄(さがたかお) 日本証券経済研究所理事兼主任研究員。早稲田大学大学院法学研究科、立教大学経済学部国際企業環境コース(非常勤講師)。大阪市立大学大学院博士課程中退。小樽商科大学助教授、大阪市立大学教授を経て95年4月より現職。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は3月20日にフジサンケイビジネスアイに掲載されたものです。

2006 04 01 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.03.25

[フィナンシャル i] 10年後、3%の黒字目標

 年初以降、経済財政諮問会議で6月末のとりまとめに向けて「歳出・歳入一体改革」の議論が進んでいる。そこで大きなポイントになっているのが、将来の金利と成長率の関係である。
 なぜ、財政改革を考える上で、金利と成長率の関係が重要になるのか。
 (経済産業研究所 上席研究員 鶴 光太郎)

 財政改革で最も重要な視点は、一国の債務が「雪だるま式」に増えていくことをくい止めること、つまり、財政の持続可能性確保である。そのためには債務の伸び率を一国の「身の丈」(国内総生産=GDP)伸び率と同じか それ以下に抑える必要がある。
 債務残高GDP比率でみると、分子の債務残高は翌年、金利分(%)必ず増加する一方、分母のGDPも成長率分(%)増加する。したがって、金利が成長率を上回る場合、債務残高の伸びの方が高くなり、そのままではどんどん債務残高比率は上昇してしまう。
 したがって、債務残高比率上昇をストップ・反転させるためには、分母のGDPの伸びを上回って増加した利払い部分を相殺するだけ政府は黒字(利払いを除いた基礎収支黒字)を稼がなければならない。
 つまり、財政の持続可能性を担保するような基礎収支黒字比率目標は、(名目金利―名目成長率)×債務残高比率と等しくなる。
 例えば、金利が成長率よりも2%上回るとすると、日本の債務残高はGDPの1.5倍程度なので、債務残高上昇をストップさせる基礎収支黒字比率は2×1.5=3%程度となる。
 政府は、すでに2010年代初頭における基礎収支黒字化を政策的にコミットしている。しかし、基礎収支が黒字化するだけでは債務残高比率の上昇がストップするとは限らないことは明らかである。金利が成長率を中長期的に上回る状況が続けば、ある一定水準の基礎収支黒字比率が必要となるためである。
 それでは基礎収支黒字目標設定のためにはどれくらいの名目金利・名目成長率格差を見込むのが妥当であろうか。
 日本を含めた先進諸国の状況をみると1970年代以前では成長率が金利を上回るケースが多いが、金融自由化が進展した80年代以降ではどの国も概ね金利が成長率を上回り、平均してみれば金利・成長率格差はほぼ1~2%の範囲にある。
 また、実質金利と実質成長率で比較する場合でも、近年では先進国間で3%程度に収斂する傾向がある一方、日本の潜在成長率は1~2%との見方が一般的である。
 このように考えても、金利・成長率格差は、1~2%の範囲となる。したがって、2010年代初頭(2011年度)に基礎収支黒字化を達成した後も、今から10年先の2015年度あたりを目処に基礎収支黒字比率3%弱という目標設定を今回の「歳出・歳入一体改革」の大きな柱にすることが重要である。
 もちろん、金利、成長率を中長期的に予測することは難しい。基礎収支黒字目標を決める金利と成長率の差分は尚更だ。このため、政策当局はある程度の幅を持たせながらもトップ・ダウンでプルーデントな(慎重な)金利・成長率格差の前提を決めなければならない。
 その意味で、財政改革は「折り返し地点」(基礎収支黒字化)はあるが「終着点」(基礎収支黒字比率目標)は自分で決めるような「マラソン」といえる。楽観的な金利・成長率格差を仮定すれば、いくらでも目指す財政健全化目標を引き下げることができる。
 しかし、甘い目標を立てて「マラソン」は終わりと思った時、予測が外れたため「終着点」はまだ先だと聞かされればそれ以上走れなくなるのは明白だ。
 財政改革において、もし、金利=成長率のような楽観的前提に固執するような論者がいたとすれば、その人は金利が相対的に高まれば崩壊してしまう「持続性偽装改革」を提案する「形を変えた抵抗勢力」と批判されても仕方ないであろう。起こり得るシナリオよりも一段、慎重なシナリオを前提にすることこそ財政改革の「王道」である。


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鶴 光太郎(つる こうたろう)
1984年東大理学部数学科卒。英オックスフォード大学博士号(経済学)。慶應義塾大学大学院商学研究科特別招聘教授。著書に『日本的市場経済システム:強みと弱みの検証』、『日本の財政改革』(共著)など。


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2006 03 25 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.03.18

[フィナンシャル i] 性善説に支えられた相互会社

 不適切な保険金等の不払いで経営全般の抜本的な見直しを求められている明治安田生命が、契約者の代表である総代の一部を立候補で選び、経営チェック機能を強めると発表した。
(格付投資情報センター シニアアナリスト 植村信保)

 保険会社の組織形態には営利法人である「株式会社」の他に、株主が存在せず、社員(=契約者)の相互組織である「相互会社」がある。現在、生命保険会社のうち明治安田生命など6社が相互会社である。
 相互会社では社員自治によって事業を運営し、剰余金の処分や定款の変更など、会社としての重要な意思決定は総代会で行う。本来は社員総会を開催するところだが、社員数があまりに多いため、総代会を開催している。

 株式会社と相互会社ではそれぞれに優劣がある。
 株式会社では市場や親会社など株主による一定の経営チェック機能が働くという利点がある。太陽生命と大同生命(現在は両社ともT&Dホールディング傘下)は、数年前に相互会社から株式会社に組織変更したが、上場会社となったこともあって情報開示が進み、新たな経営指標の公表にも踏み切っている。
 他方、相互会社には株主が存在しないため、株主と契約者の間で利益相反がないというメリットがある。株式会社では契約者への配当と株主還元のバランスがどうしても問題となるため、契約者への還元ルールを明確にしておかなければならない。
 ただ、株主が存在しないからといって、相互会社の経営者が社員(=契約者)の利益を最優先するとは限らない。破綻した相互会社のトップが親族企業に多額の融資を行い、会社に損失を与えたという事例もある。経営者が契約者の利益を最優先するかどうかは、突き詰めれば経営者の良心に依存している。
 しかも、社員が会社の運営に参加するといっても、そもそも契約者には自分が社員自治の担い手という意識はない。社員の代表である総代にしても、「総代たるにふさわしい見識を有する人」といった選考基準があるとはいえ、選ばれた総代が社員全体の利益を考えて行動する保証はどこにもない。これは総代の立候補制を導入しても本質的には変わらない。
 もちろん、日本の株主総会に経営チェック機能があるのかという疑問もあるのだが、総代の良識頼みである総代会制度とは仕組みが決定的に違う。
要するに、相互会社の経営は経営者の良心と総代の良識といった「性善説」に支えられているのである。

 相互会社のもう一つのメリットは、株式会社よりも構造上、契約者に利益を還元しやすいことだ。しかし、近年は業績不振で配当が実質的に支払われない契約が大半を占めるうえ、そもそも運用成果の一部しか配当還元がない商品が販売の主流になっている。予定利率が引き上げ(=保険料の値下げ)になっても、すでに加入している契約者へのメリットはない。
 それでも相互会社を続けるというのであれば、経営者・契約者の情報格差を徹底的になくす必要がある。株式会社以上に事業運営や経営内容をガラス張りにする、契約者サイドに立った外部の専門家による経営チェック体制を採るなどの取り組みが求められよう。
 今回の明治安田生命の改革が、経営をどう帰るかに注目したい。

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植村信保(うえむら・のぶやす)
格付投資情報センター(R&I)シニアアナリスト。
1990年東京大学卒業。安田火災海上保険(現:損害保険ジャパン)入社。
生損保を中心に金融機関の格付けを担当している。
著書に『生保のビジネスモデルが変わる』(東洋経済新報社、03年)などがある。

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2006 03 18 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.03.04

[フィナンシャルi] 量的緩和政策解除 市場心理に異変

つい最近まで、日銀の量的緩和解除を前向きに捉えていた市場心理に異変が生じている。
(モルガン・スタンレー証券会社 エコノミスト 佐藤 健裕)

 株式市場では、7ヵ月連続で日本株を買い越してきた外人投資家の勢いが鈍ってきた。その背景として、日本株の割高感に加え、日米金融政策の先行き不透明感とともに過剰流動性(金余り)収縮への懸念が広がっているようだ。
 実際、日本では消費者物価指数(生鮮食品を除くコア)の前年比プラス幅が拡大するとの見方が強まるなか、利上げ時期の予想が再び前倒しとなってきた。
 米国でも、好調な労働需給や賃金の上昇加速に加え、新旧FRB(連邦準備制度理事会)議長交代というイベントが先行き不透明感を高めている。とりわけ、史上類を見ない政策の幕引きを図る日銀による余剰マネーの吸収が世界経済にもたらす影響について、海外投資家の関心は高い。

 ただし、私は過剰流動性収縮といっても、それはあくまで日本の話、かつ一時的なもので、目先の株式、債券、ドル・円における押し目はむしろ買いの好機とみている。理由は以下の通りである。
 第一に、量的緩和解除を契機に日本の過剰流動性が収縮する面はあながち否定できない。しかし、そもそも、それがグローバルに資産市場を刺激し続けてきたかどうかという疑問はある。投資家は、日本の金利上昇に伴う円キャリー・トレードの巻き戻しを懸念している。
 しかし、邦銀の信用力が格段に向上し、円を対価に外貨を調達する必然性が薄れるなか、邦銀はもはや90年代後半のようなヘッジファンドのキャリー・トレードのための円資金の供給源ではなくなっている。
 つまり、量的緩和解除が、98年のようなキャリー・トレードの巻き戻しにより世界経済を揺るがす公算は低い。また、量的緩和に伴う日銀の流動性供給も世界的規模の過剰流動性の源泉とは看做し難く、解除の影響は局所的なものにとどまろう。
 第二に、過剰流動性の主役である新興国の過剰貯蓄は、日米の若干の利上げでも直ちに取り崩される性質のものではない。過剰貯蓄の発信源はそもそも米資産インフレであり、そこから染み出したリスク許容度の高いマネーが原油をはじめ商品市況を潤し、新興国の過剰貯蓄となって米債券市場に還流している。
 このメカニズムは、米FFレートが5%となっても覆ることはなかろう。新興国の過剰貯蓄が米長期金利上昇を抑制し、それが一段の過剰貯蓄を生み出す好循環は自己実現的に続くとみている。

 第三に、量的緩和が解除されても、年内スムーズに利上げできるかどうかは依然予断を許さない。これは、規制緩和や歳出削減の影響から、一般物価には様々な下落圧力がかかり続け、来年度以降の消費者物価指数コアが日銀シナリオ通りに上振れるとは限らないためである。来年度後半の消費者物価コアは前年比ゼロ%近辺で足踏みとなる可能性さえあり、その場合はインフレ目標設定に向けた政治的圧力も再び強まろう。
 導入当初は金融仲介機能がマヒ状態のなかでさほど効果のなかった量的緩和は、貸出増加とともに実体経済や金融市場への「染み出し効果」を示し始め、また、デフレ改善に伴う実質金利低下もあり、その効果は意外に高まったと評価できる。解除は、確かにそうした好循環に水を差す可能性があろう。
 しかし、案ずるには及ばない。解除後も日銀は翌日物金利が過度に跳ね上がらないよう、潤沢な流動性供給に努めるであろうし、新興国の過剰貯蓄という過剰流動性の真の主役はまだまだ健在である。

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佐藤 健裕(さとう たけひろ)
京都大学経済学部卒、1985年4月住友銀行に入行後、市場営業部門および日本総合研究所でマーケットエコノミストとして経済・市場予測に携わる。99年10月から現職。


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2006.02.18

[フィナンシャルi] 債券市場の悲観論修正のとき

 内閣府が1月に公表した2004年度(2000年基準)の家計貯蓄率は、2.8%と1949年以来55年ぶりの低水準を記録した。旧基準である95年基準ではいったん貯蓄率の低下が止まったかに見えたが、新基準による改定値では70年半ば以降続いている右下がりのトレンドがまだ続いていたようだ。
(ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 矢嶋康次)

国内貯蓄が消える?

 貯蓄率の低下は言うまでもなく高齢化の進展の影響が大きい。高齢化はこの先さらに進展するため、家計部門の貯蓄超過(資金余剰)幅が縮小を続けていずれはマイナスに転じるという可能性も高まってきた。
 家計部門と並んで、98年度以降大きな黒字を出してきた非金融法人部門も債務の削減を行う必要がなくなり、今後は大幅な黒字は縮小していくだろう。10年くらいのタームで見ると豊富な国内貯蓄は減少し、日本のIS(投資と貯蓄)バランスは大きく変化するだろう。
 ニッセイ基礎研究所では、2020年ごろには国内貯蓄よりも投資が上回り、日本の経常収支が赤字に転落すると見込んでいる。
 経常赤字といった状況になると、国の財政赤字の縮小が順調に進まなければ長期金利の急騰というリスクがより高まる。
 米国のようにあれだけ巨額な双子の赤字があっても、長期金利は低下しているではないかという反論もあるだろう。しかし、日本の円がドルのように基軸通貨たる地位を獲得できるかは疑問であり、はたまたグリーンスパン氏(連邦準備制度理事会前議長)のような偉大な存在に依存できるような状況でもあるまい。
 今年はいよいよデフレ脱却が果たせそうだ。それと歩調を合わせて、金融・財政政策ともに異常な状態からノーマルな状態に向けて動き出すことになる。

見方が異なる

 金融政策についていえば、それは、現在の量的金融政策から金利政策への復帰、その後の引き締め(利上げ)を意味し、国の財政政策では、切り込んだ歳出削減とともにどうしても消費税引き上げの実施が必要になってこよう。
 消費税率の引き上げについては、今後10年くらいの間に5%程度の消費税の引き上げは避けられないとの見方が大半ではないか。
 債券市場では、ブレークイーブン・インフレ率(名目金利と物価連動国債の実質金利の差)は0.7%程度。いくら物価連動国債の流動性が極めて低く、市場参加者の期待が反映されていないといっても(5%を10年で割った0.5%については消費税の要因)、0.2%が物価上昇要因であるなど期待インフレ率がほぼゼロとは、あまりにも低すぎる。
 このように株価がこれだけ楽観的になっている一方で、長期金利の見方は悲観的すぎる。おそらく日銀の情報発信がうまく機能し、量的金融緩和後のゼロ金利期間が相当長いとの見方が強く浸透している面もあるが、金融、財政の引締めがデフレぎりぎりといった低成長を余儀なくするといった悲観的な見方が根底にはあるように思える。
 財政金融政策のノーマルな状態への移行は極めて難しい。しかし、三つの過剰問題・デフレを克服し、今や日本経済は債券市場がイメージする悲観的な将来像よりも格段にいいはずだ。
 市場では春先にも量的金融緩和が解除されるとの見方が強まっている。デフレ脱却が実現し、実際解除の運びとなれば債券市場の将来の見方も修正され、期待インフレ率の上昇で長期金利は上昇すると予想している。
 そうすることで、今年は、株価が一旦調整し、債券市場と株式市場に対する見方の違いが修正されるとみている。


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矢嶋 康次 (やじま やすひで)

92年東京工業大学工学部卒業。2001年青山学院大学国際政治経済学研究科国際ビジネス専修修士課程終了。日本生命保険を経て現在、ニッセイ基礎研究所経済調査部門シニアエコノミスト。04年から早稲田大学誠治経済学部非常勤講師を兼務。主な著書に「期待形成の異質性とマクロ経済政策」(共著)などがある。


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2006.02.11

[フィナンシャルi] 気づきによる組織風土改革

 大学院で次の様な課題で学生が議論をして発表する授業を行った。
 3年間で県庁の組織風土を変えるために、まず初年度1年間で何をするかまとめて発表しなさい。県庁は3千人の職員、10部、100課の組織とします。あなた方学生は、組織風土改革の担当者を命じられた、40歳の県庁職員。全員がその立場で2班に分かれて40分間それぞれ議論をして結論を発表しなさい。
(早稲田大学大学院 教授 北川正恭)


【A班の発表】
初年度1年間は組織風土改革のための理念と達成方法を確立するため、調査研究を実施します。そのためアンケートやベスト・プラクティスのベンチ・マーキングを行います。2年目に実行、3年目に成果と検証を行います。

【B班の発表】
初年度は各部長に依頼して各部からやる気のある職員2名ずつ出してもらってプロジェクトチームをつくります。1年間で何をやるかコンセプトを固めて、実行体制を組むべく各部に戻して、各課ごとに組織風土改革に2年目から実施に移して3年目に成果、検証をします。

階層制度の打破

 この発表をそれぞれの班が批評します。
 「A班は初年度1年間を調査研究というが、事業によっては調査なしですぐに実施に移して1カ月で出来る事業もあるはずだ。年度という単位で仕事をするという常識(馬鹿)の壁で仕事をしている。又、全庁一律で仕事をするという常識の壁の中の仕事の仕方である。何でもできるところからどんどんやれば良いのである。」
 「B班は組織風土の改革であるにもかかわらず、既存の部や課を見直さず、それがあることが前提(事実前提)で改革を進めようとしている。又部長に依頼してヒエラルキー(階層制度)を所与のものとしている。即ち各部、各課があって、部長がトップにいて、その中での改革は当然抜本的な組織風土改革にならないのではないか。」
 この批評に加えて、組織風土改革を経験し、改革を上手くマネジメントをするための勉強をしている知識がある者が意見をいいます。
 「私も、この指とまれの応募形式のプロジェクトチームをつくって改革をしました。応募してきたのは圧倒的に女性でした。回を重ねて、熱心に参加し、行動に移そうとしたのも女性でした。まず県庁が男社会で、縦割りでヒエラルキー組織になっているのを気づき、そこから直すのが肝だと思います。従来の立場という鎧を着て、立場の証明を競い合う話し合いではなく、お互いが本音のゼロベースで話し合いができる形、雰囲気にするために、対面式の会議形式から円卓形式にして、役職名でなく、個人名で呼びあって、まず自己紹介から始めたら、その場の一体感ができあがり、価値(目標)から、どうしたら抜本的な組織風土改革ができるか、と言う価値前提の会議になりました。改革は理論も必要ですが、形から変える発想も必要だと思います」
 制度や組織が根をおろして安定すると改革しようとする気づきは起こりにくくなる。気づけというだけでは無理で、必然的に気づける仕掛けが必要になる。今までの選挙とは、地盤、看板、鞄だとの思い込みから公約は片隅に押しやられて、破られる約束の代名詞のような扱いを受けてきた。
 その公約を選挙後、検証可能なものにすれば、公約のもつ重みは格段に上がると思い、私は今までのあいまいなスローガンの羅列の公約から、数値、期限、財源の入った体系的な公約「マニフェスト」を提唱した。さいわい、統一地方選挙、総選挙もマニフェスト型選挙になり、マニフェストは流行語大賞にもなった。
 公職選挙法でマニフェストは配布できないと気づき、それならば、公選法改正をしようとなり一部改正された。ホームページを選挙中は動かせないと気づいて、今それの法律改正の運動が始まっている。

政権公約は道具

 選挙が候補者のお願い型から約束型に変わってきて、政策中心の選挙に変わりつつあり、政治家に求められる資質が変化してきた。選挙のあり方が変わると政治のあり方が変わるということに国民が気づき始めた。マニフェストは気づきの道具なのである。
 理論なき実践は暴挙。実践なき理論は空虚。理論が実践を支え、実践が次なる理論を生んでいくという、理論と実践の組み合わせの妙によって、実質的で大きな改革は進んでいく。事実前提の積み上げ式の組織改革は日常の努力として必要だが、抜本的な大改革には価値前提の非日常の決断がトップ・リーダーには求められる。

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北川 正恭 (きたがわ まさやす)

早稲田大学第一商学部卒。衆院議員4期、三重県知事2期を務めた後、2003年より現職。
「生活者起点」を掲げ、行政改革や情報公開を進め、地方分権の旗手となる。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提唱。61歳。三重県出身。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に2006年1月30日に掲載したものです。

2006 02 11 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.01.28

[フィナンシャルi] 波乱相場"質への逃避”濃厚に

 ライブドア問題は、突風のように兜町を直撃した。昨年のジェイコム株誤発注騒動以来、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を無視して買い上げる「超過熱」状態が続いていた。特に、企業実態や業績と乖離した株価形成が行われてきた東証マザーズなどの新興市場へのダメージは大きかった。
 今回のライブドア問題は、改めて市場参加者に、投資リスクのコントロールが、いかに重要であるかを覚醒させたものと思われる。当面の株式市場は、騰落のボラティリティー(変動率)が高い状況を余儀なくされよう。
(三菱UFJ証券 投資情報部長 藤戸則弘)

 さて、こうした波乱展開となると、投資の基本である「好業績銘柄を買う」傾向が強くなる。いびつな価格形成が行われている銘柄よりは、グローバル・スタンダードの観点から評価される優良銘柄へのシフトが濃厚となる。「フライト・トゥ・クォリティー(質への逃避)」は、一般に価格変動リスクの高い株式から債券への資金シフトを指す言葉であるが、今後は株式の中での「フライト・トゥ・クォリティー」が起こることになろう。

 そうした観点から注目したいのは、ハイテク企業である。米国ハイテク企業の業績は好調であり、昨年10~12月期13%増に続き今年1~3月期15%増と二けた増益を持続する模様だ(S&P500種テクノロジー企業)。
 また中期的な展望としては、マイクロソフトの新しい基本ソフト(OS)「ウィンドウズ・ビスタ」が今年後半に登場する予定であり、新たなハイテクの設備投資が加速するとの見方がある。
 「ビスタ」は「ウィンドウズ95」以来の画期的な製品であるが、十分活用するためには、高性能CPU(中央演算処理装置)と従来比で2倍以上の動作速度のDRAM(記憶保持操作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)を搭載したパソコンが必要との観測もある。つまり、ビスタが新たな半導体需要を喚起する可能性が高いわけである。 インテルの10~12月期決算は、やや失望されるものであったが、これは半導体需要の減退を示唆しているものではない。
 同業のAMDは素晴らしい決算であり、サーバー向けのデュアル・コアCPUではAMDがインテルを圧倒している。インテルの戦略ミスが決算の明暗を分けたものと思われる。
 一方の旗頭であるアップルの成長が加速している。スティーブ・ジョブズ最高経営責任者は、10~12月期の売上高予想を、従来の47億ドルから57億ドルに上方修正すると発表した。牽引したのは携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」で、販売台数は1,400万台と前年同期比で約3倍に拡大した。世界的な「売れ筋商品」を持つアップルの業績は飛躍期を迎えている。

 「ハイテク株ラリー」の波は、海を越えて日本にも到達したが、それに呼応するかのように、デジタル家電のトップ企業が相次いで大増産計画を発表した。それぞれ松下電産1,800億円、シャープ2,000億円、富士通が1,200億円の投資を行う、等々の大規模な投資である。市場は、改めてデジタル製品の需要の巨大さを確認し、大増産計画を発表した企業に、いずれも「買い」で反応した。
 セット・メーカー以上に増産メリットを享受できるのは、部品・部材メーカーである。例えば、液晶パネル等を大増産するためには、膨大な部品が必要となる。品質に世界的な定評のある日本の部品・部材企業には、世界的なニーズが高まることになろう。
 「乱に利あり」という格言からは、ハイテク企業に注目したい。

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藤戸 則弘 (ふじと のりひろ)
1979年早大卒。約20年間、生命保険会社で資産運用業務に従事。99年国際証券(現三菱UFJ証券)入社、現在は投資情報部長兼シニア投資ストラテジスト。
ファンタメンタルズをベースに株式需要、テクニカル分析を加味した投資分析を行う。大阪府出身49歳


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に2006年1月23日に掲載したものです。


2006 01 28 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.01.21

[フィナンシャルi] 06年度予算 真の実力は?

 2006年度予算について、国債発行を30兆円未満に抑え、プライマリー・バランス(利払い費を除いた財政収支)が05年度の15兆9000億円の赤字から4兆7000億円も改善し、マスメディアからも高い評価が与えられている。もちろん、筆者もこれらと同様に高い評価を与えている。しかし、この調子で改革を続けていけば、10年代初頭の同収支黒字化は実現できるというのはあまりに楽観的にすぎるように思われる。
(中央大学法学部教授 富田俊基)

 06年度予算が05年度予算から4兆7000億円も同収支が改善しているが、このうち歳入増による部分が4兆2000億円で、歳出減は5000億円にすぎない。さらに歳入増のうち、定率減税の廃止やIT(情報技術)政策減税の見直しによるものが1兆8000億円、税の自然増収が2兆円であった。歳出面では、基礎年金国庫負担引き上げと児童手当拡充を含め、社会保障の自然増が1兆1000億円あった一方、税源移譲された補助金削減額を除いて、他の歳出を1兆6000億円削減している。削減の主要な対象は、地方交付税など9000億円、医療制度改革で3000億円、公共事業2000億円であった。06年度予算の姿が良くなったのは、1兆6000億円の歳出削減の寄与もさることながら、それを上回る規模で税制改正が実施されるからである。
 来年度以降の歳出について展望しておこう。
 交付税の削減は目標であった地方の財源不足額の解消にまだ1兆4000億円を残しており、07年度には必ずその解消を図るべきだ。交付税は最近3年は毎年1兆円規模のペースで削減が続いてきたが、このペースを08年度以降も続けるためには、交付税の法定税率の見直しが必要となる。
 社会保障関係費は、文字通り国を挙げて医療保険制度の改革が議論されたが、削減額は3000億兆円で社会保障費の高齢化に伴う自然増に遙かに及ばなかった。
 また公共事業予算は、06年度7兆2000億円で、大規模な景気対策が行われてきた1990年度の水準を下回った。新たな削減目標の設定をどこに求めるべきか。
 このように考えると、05年度から06年度にかけての同収支の改善テンポを今後も続けることができるか否か楽観できない。
 さらに、税収と利払い費の関係も今後ますます楽観できる情勢にはない。06年度の税収46兆円に対して、国債発行額は借換債108兆円を含めて138兆円と、税収の3倍にも達する。これまでに発行された国債が次々に満期を迎えるが、償還財源がないので100兆円を超える借換国債を発行しているのである。
 成長率と金利の関係について、経済財政諮問会議でも熱心な議論が行われているようだが、国債発行額が税収をはるかに上回っていることに、もっと留意すべきである。
 このように05年度から06年度にかけてのプライマリー収支の改善テンポを今後も長期にわたって続けることは容易ではない。06年度予算を踏まえて、将来に向けて気を抜くことなく強い危機感を持って、歳出・歳入一体の改革の検討を進める必要がある。

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富田俊基 (とみた としき)

関西学院大学経済学部卒、71年野村総合研究所入社。ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、96年研究理事。2005年中央大学法学部教授。経済学博士。国債投資家懇談会委員、財政制度等審議会財政制度分科会・財政投融資分科会臨時委員、特殊法人等改革推進本部参与。京都府出身、58歳


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に2006年1月16日に掲載したものです。

2006 01 21 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.01.14

[フィナンシャルi] BRICs 06年も拡大基調

 BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)四カ国の経済は、今年も好調に推移すると見込まれる。
(BRICs経済研究所 代表 門倉貴史)

●ブラジル 
 ブラジルは、金融引き締めの影響で2005年前半の景気が低迷したが、05年後半は世界景気の再拡大を受けた輸出の増加と内需拡大が重なり成長が加速している。05年の実質成長率は前年比+3.6%になったとみられる。 06年は、中国を中心に世界の鉄鋼・農産物需要が拡大するなか、一次産品の輸出が増加傾向で推移するとみられる。また、金融緩和により内需も堅調に推移するため、実質成長率は前年比+4.4%まで高まろう。

●ロシア
 ロシア経済は、石油の供給能力拡大が遅れたことなどから05年前半に成長率が鈍化したが、原油高や石油供給能力の高まりを追い風として05年後半には成長が再加速している。05年の実質成長率は前年比+6.1%となった模様だ。
 06年を展望すると、有力新興国の根強い需要と供給不安を背景に、原油価格は1バレル=60ドル前後の高水準で推移する公算が大きい。ただし、05年と比べた伸びは鈍化するため、原油価格上昇による限界的な景気押し上げ効果は弱まるだろう。実質経済成長率は前年比+5.7%に減速するとみられる。

●インド
 インド経済は好調に推移している。高成長の牽引役は、消費や投資といった国内需要だ。これまで景気の足を引っ張っていた農業部門も05年度(05年4月~06年3月)はモンスーン時の降雨量が潤沢であったことなどから、生産が上向きつつある。
 インドは経済活動に占める農業の割合が高く、農業部門の就労者は全就労者の6割を占める。天候不順で降雨量が不足すると、農業部門の所得低下が個人消費の減速を招いて、景気が悪化することが多かったが、足元ではそうした懸念は小さくなっている。
 05年度の実質経済成長率は、前年比+7.7%と04年度(同+7.1%)から大きく高まろう。06年度は、①インフラ整備による投資の拡大、②先進国企業のインドのソフトウエア企業へのアウトソーシング増加、③外資規制緩和策による外国資本の流入などを背景に成長が加速するとみられる。 モンスーン時の降雨量が潤沢であれば、実質経済成長率は前年比+8.0%を達成しよう。

●中国
 最後に中国経済は、内需と外需がともに大きく拡大しており、05年の実質国内総生産(GDP)は前年比+9.4%と3年連続で9%台の高成長を達成したとみられる。
 06年については、景気過熱を抑制するための金融引き締め政策が継続されるものの、北京オリンピックや上海万博に向けてインフラ整備などが加速するため、企業の投資は高い伸びで推移すると見込まれる。個人消費も雇用・所得環境が引き続き良好に推移するなか、10%を超える伸びが期待できる。
 一方、中国当局は人民元改革の一貫として、年内に人民元を対ドルで2~4%程度切り上げるとみられ、この影響で輸出の伸びは鈍化し、外需の成長への寄与は低下する公算が大きい。外需の伸びは鈍化するものの内需が高い伸びを示すことから、実質経済成長率は前年比+9.1%と高成長路線が続く見通しだ。
 4カ国ともマクロ経済が総じて堅調に推移するため、06年のBRICs全体の平均成長率は+7.3%と3年連続で7%台の高成長となろう。

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門倉貴史(かどくら たかし) BRICs経済研究所 代表

慶應義塾大学経済学部卒業、1995年浜銀総合研究所入社。日本経済研究センター、シンガポールの東南アジア研究所、第一生命経済研究所主任エコノミストを経て05年7月より現職。神奈川県出身、34歳。


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2006 01 14 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2006.01.07

[フィナンシャルi] PER拡大での株価上昇

 近年、資本市場を分析するにあたって、投資家を生物の集団のように捉える考え方が登場している。具体的には、①投資家の行動は自らの経験に影響される、②集団としての投資家は生存するためには「エサ」が必要であり、③投資家集団の数は「エサ」の需給に影響を与える、といった諸要素を考慮して資本市場を分析する。
(楽天証券経済研究所 客員研究員 山崎元)

 現在の株価水準の分析にこのような考え方を適用するとどうなるか。
 先ず、投資家集団の「経験」の変化が重要になる。一九九〇年から二〇〇三年にかけての長きに亘るバブル崩壊の弱気相場を経験した時点で、株式投資を経験していた投資家の相当数は、「株式はリスクのあるものだ」、「株式投資は損をし易いものだ」と刷り込まれる経験をしている。
 これに対して、その後二年半の時の好調なマーケットと共に経過した時間の経過によって、過去の経験が緩和されると共に、投資家の新旧交代・新陳代謝が進んだ。
 仮に株式投資家の平均的な投資家寿命を二五年とすると(プロはもっと短いかも知れない)、二年半分の人口が引退し、二年半分の人口が新たに参入して、一〇%くらい中身が入れ替わっているが、前者は悲観的であり、後者は楽観的だ。
 これに加えて、投資家集団全体の経験がこの二年半でリスクへの警戒を解く方向に作用しているし、市場の活況もあって新しい参加者はもっと増えているはずだ。
 種としての株式投資家にとっての本源的な「エサ」は投資可能な株価水準であり、投資のチャンスである。
利益の割引現在価値をベースにした理論株価は下記に示した式のように計算される。

                 一株利益
理論株価= ―――――――――――――――――――
           (金利+リスクプレミアム)-利益成長率

※金利が1.5%、リスクプレミアムが5%、利益成長率が1.5%なら、分母は(0.015+0.05)-0.015=0.05となり、理論株価は一株利益の二〇倍になる(PERが二〇倍)。

 仮に、金利を一.五%、長期利益成長率を名目GDP並でやはり一.五%と見た場合、たとえばリスクプレミアムが六%ならPERは一六.六倍となる。ここで、リスクに対して楽観的になった投資家がリスクプレミアムを五%に下げるとPERは二〇倍、四%に下げるとPERは二五倍となる。
 特にここ半年くらいの利益見通しの上方修正というよりはPERの拡大によって説明されるような株価上昇には、このような投資家集団のメンバー交代とリスク感覚の変化によるリスクプレミアムの縮小が効いていると思われる。
 幸い、まだ、集団としての投資家はエサを食い尽くすには至っていないので、これからまだ増える(特に金額が)余地がある。投資の理論的な分析では、リスクプレミアムは安定的というよりも、かなりの振れ幅をもって時間と共に変動するものだと考えるべきなのだろう。
 次の問題は、目下のリスクプレミアムの縮小がどこまで続くかということになる。八〇年代のバブルの頃はこれがマイナスまで進み、加えて金融の引き締めで、利益よりも金利の方が優勢になって、いわば兵糧攻めされて株価は維持できなくなった。
 個人的には、現在の市場のムードがかなり「バブル的」ではあっても、せいぜい三%くらいまでを限界にしておくのがいいと思うが、本格的なバブルとなるとリスクプレミアムは〇%に向かう。
 将来の心配はともかくとして、現在「リスクプレミアムが縮小傾向にあって、まだ縮小する余裕がある」ということが、来年前半にかけて日本株について強気の見方を維持したい理由の一つだ。

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山崎 元 (やまざき はじめ)
1981年東大経済学部卒。三菱商事、住友信託、メリルリンチ証券、UFJ総研など、資産運用関係を専門に12社を経て現職。著書に「ファンドマネジメント」(きんざい)など。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に2005年12月26日に掲載したものです。

2006 01 07 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.12.24

[フィナンシャルi] 存在感を増す監査法人

 11月18日、三洋電機は、2006年3月期の連結最終赤字が過去最悪の2330億円に達したことを受け、2007年度までの中期経営計画を発表した。過去最大だった2005年3月期の1715億円という赤字を軽々と超えるダメージだ。

 各紙の報道では、どちらかと言えば、松下電器産業、シャープと並び称されてきた三洋電機が、ついに「総合家電メーカー」という看板を下ろすということに焦点を当て、国内の薄型テレビからの撤退検討や半導体事業の縮小、白物家電での他社との提携などを詳細に記していた。ただ仔細にみると、大和證券SMBCグループ、ゴールドマン・サックスグループ、三井住友銀行を引き受け先とした2000~3000億円規模の第三者割当増資を柱とする中期経営計画がまとまるまでには、かなりのドラマが展開したようだ。あまり知られていないが、そこには、株主の代理人である監査法人が絡んでいた。
 そもそも、三洋電機による連結業績の下方修正は、9月に続いて2回目。赤字額は前回予想より約930億円も膨らんでしまう。売上高は前期比1.8%減の2兆4400億円で、営業利益は170億円の赤字見通し。井植敏雄社長兼最高執行責任者(COO)は「在庫や固定資産の評価を厳密にし、負の流れを断ち切った」と語ったが、なぜ2カ月も経たないうちに、下方修正にまで追い込まれたのかについて多くを語ってはいない。
 関係者の話を総合すると、外部監査人である中央青山監査法人は、9月下旬に公表された決算修正予想に同意を与えていなかったのだという。というのも、「10月半ばまで、まともな会社の再建計画がなかった」(関係者)からだ。実際、今夏ぐらいから監査法人は、三洋電機に対して「ゴーイングコンサーンの問題があるかもしれない」と指摘していたフシがある。要するに、「会社として存続できない可能性がある」と言っていたわけだ。
 監査法人は、三洋電機に対し、「処理を積み残すことがないように」と念を押していたらしい。キチンとした再建計画がなければ、適正意見――独立した外部監査人から見た上で「問題ない」という所見――が出せなくなるからだ。
 監査法人から厳しい通告を受けた井植社長は、ようやく真剣になって再建計画を検討し始める。その計画の中で、今回の増資案がでてきたようだ。
 しかし、増資案が出てくるだけでは、監査法人の追及の手は緩まなかった。経営者に雇われているのではなく、株主の代理人として機能しなければならないからだ。増資案を公表するだけでは、増資が確定したとは言えないので、そのままでは、ゴーイングコンサーンに関する疑念が残ってしまう。このため、中間決算の発表については、11月下旬まで延期するように指導が為されたという。
 ゴーイングコンサーンに関する疑念が残ってしまうと、最悪の場合、「財務諸表が不適正である」という意見が公表されかねない。そうなれば、上場企業としては「欠陥企業」としての烙印を押されてしまうことになる。
 このため、焦った三洋電機の経営陣は、再建計画のとりまとめに奔走する。増資を柱にまとまった再建計画が出来上がってはじめて、ようやくゴーイングコンサーンの疑念は薄らいだ。ただ、払底されているわけではない。そこで監査法人は、「企業の存続にかかわるリスクがでてきている」ということをディスクローズした上で、「適正」という監査意見を出すことで決着がついたようだ。
不 祥事続きで何かと風当たりが強くなっている監査法人業界だが、監査法人自体も変わろうと七転八倒している最中だ。今後、監査法人の存在感は増していくに違いない。企業と監査法人の関係も変わっていかざるを得ないのではないか。(FJ編集部)

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に12月19日に掲載したものです。

2005 12 24 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.12.10

[フィナンシャルi] 長期金利 不安定な展開

 長期金利の居所が定まらず、不安定な展開を続けている。今年の夏あたりから世界景気の踊り場脱出が鮮明となり、長期金利は上昇を始めた。
 6月末に1.2%割れの水準にあった10年国債利回りは、11月上旬には一時1.6%まで上昇した。その過程で、来春の量的緩和解除は織り込まれたといってよい。
(BNPパリバ証券 投資調査部長 島本幸治)

 ただし、11月中旬以降は政府・与党から日銀の金融引締めを牽制する発言が相次いだことで、長期金利は反転して低下している。日銀が永田町の政策論争に巻き込まれるのではないかという警戒感が台頭しているためだ。
 圧倒的多数を有する政権が、法改正までほのめかして、中央銀行による金融引締めを抑え込む。こうした、乱暴なポリシーミックスが先進国で許容されている背景に、長期金利の安定が挙げられる。
 特に近年は、先進各国の長期金利水準が歴史的な低位安定を続けており、グリーンスパンですら「謎(conundrum)」と匙を投げたこともある。
 このメカニズムの背景には、世界経済のグローバル化が進んでおり各国のインフレが安定していることに加えて、先進国では少子高齢化が進展により期待成長率が低下していることが影響している。
 例えば、経済の潜在成長率を反映すると言われる物価連動債の利回りを見ると、先進各国で軒並み低下ている様子が見て取れる。
 現在、多くの先進国は少子高齢化の問題を抱えている。 
 中国でさえ高齢化の問題に直面することになる。
 一般に、先進国経済が成熟し人口が高齢化すると、年金や生命保険など長期資金の運用ニーズが拡大する。一方で、人口伸び率が低下することで、国内に設備投資や住宅投資のニーズが減少する。
 こうした中、「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)」など新興経済国への投資も不可欠になる。
 また、政府が社会保障にかかわるリスクを民間へと転化する場合、民間部門で負債と資産のデュレーション(債券などの償還までの残存期間)を近づける「マッチング運用」のニーズが高まる。
 その結果、人口高齢化に伴う長期資金の運用ニーズ拡大と、国内長期資金調達の枯渇がもたらす長期債の需給逼迫現象が発生している。その最たる例が、物価連動債の利回り低下と言える。
 長期金利の安定が続く限り、日銀のリフレーション政策(インフレになっていない状況下で行われる景気安定策)は許容される。当面は、超金融緩和状態が継続する可能性が高い。長期に渡る超金融緩和政策は、不動産や株式などリスク資産の価格上昇を促すことになろう。
 ただし、中長期的に展望すると、高齢化の進展は貯蓄の取り崩しを通じて、国内資金余剰の減少をもたらすことになる。
 その際には、長期金利の決定要因のなかで「期待インフレ率」や「リスクプレミアム」が膨らむことになる。今後は、円相場の下落が実体経済に与える影響、とりわけインフレ率への波及が注目される。

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島本 幸治 (しまもと こうじ)
BNPパリバ証券 投資調査部長
東京大学教養学部卒、1990年日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)に入行し、シニアエコノミストとしてマクロ経済調査を担当。2000年3月から現職。週刊エコノミストの04年(10月)アナリスト・エコノミスト・ランキング債券ストラテジストの部1位。


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2005 12 10 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.12.03

[フィナンシャルi] 農地改革で攻めの交渉を

 わが国の農産物価格は高い関税によって海外の安い農産物から守られています。米で800%の関税、ということは米価は国際価格の9倍だということです。国内の価格を引き下げなければ、世界貿易機関(WTO)交渉で関税も引き下げられない。
(経済産業研究所 上席研究員 山下一仁)

 先月末、政府は、農家への保証価格と国内の市場価格との差を補填するため麦や大豆に出されている補助金をWTOで削減しなくてもよい補助金である「直接支払い」に転換することとし、また、その対象農家を一定規模以上の担い手に限定して構造改革を推進するという農政改革を決定した。この改革は高く評価すべきものだ。
 圧倒的多数を占める零細な兼業農家に支持されてきた農協が、農業だけで生計を立てようとする担い手に政策対象を限定することを選別政策と称して半世紀も反対しつづけてきたからだ。農政は初めてその壁を突き破ったといえる。
 また、欧州連合(EU)は価格を大幅に引き下げ、農家に対する直接支払いで補うという農政改革を行っている。価格が下がるので、EUは、農産物の関税を今回のWTO交渉で上限(上限関税率)となろうとしている100%まで引き下げることが可能だ。
 しかし、農政改革を行なったのに、なぜ日本はWTO交渉で関税の大幅な引下げや上限関税率の受入れが困難なのだろうか。
 それは、EUと違い、コメを含め、関税や価格の引き下げに対応するための直接支払いは実施されないからだ。米価を下げれば、コストの高い零細な兼業農家は農地を貸し出している。担い手に対して地代負担を軽減する効果を持つ直接支払いを交付すれば、農地は担い手に集まり、規模拡大によるコスト・ダウンが進み、価格はさらに下がる。
 コメだけでなく、他の農産物についても、価格を下げなければ、改革の効果も不十分になるうえ、WTO交渉にも対応できません。ここでも高い農産物価格を維持して肥料、農薬、機械を農家に高く販売したい農協の抵抗がある。
 米国、EU、ブラジル等ほとんどの国が100%の上限関税率の設定に合意している。認められる例外も関税の削減率についてのもので、上限関税率の例外ではない。先んじて農政改革を行っているEUでさえ、関税をさらに引き下げるよう求められている。この中で、上限関税率反対を主張する日本は交渉の輪から外れている。
 農業を保護することと、どのような手段で保護するかは別の問題だ。関税や価格はあくまで手段にすぎない。日本が米国やEUの農政に転換すれば、関税引下げにも対応でき、農業分野でも日本の得意とする他の分野でも攻めの交渉ができる。
 1兆円の財政負担が必要だとしても、現在高い価格で消費者が負担している額は4兆円ほどなので、国民経済の負担は軽減される。農林水産省も必要なものは堂々と主張すべきだ。農業団体に配慮し、ウルグァイ・ラウンドのように米だけ上限関税率の例外にすることも考えられますが、これでは米価は下がらず構造改革につながらないうえ、代償として低税率での輸入枠の拡大が要求されるので食料自給率も下がってしまう。
 WTO交渉で消極的な対応を行い、また、農業のさらなる衰退を招くのか、あるいは、農業も守り、消費者に安い食料を供給するとともに、通商国家としてのリーダーシップを発揮するという大きな国家戦略に立つのか。中川昭一農林水産相、小泉純一郎首相の政治的リーダーシップに期待したい。

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山下一仁 (やました・かずひと) 経済産業研究所 上席研究員 
東大法卒、1977年農林省入省。ガット(貿易・関税の一般協定)室長、地域振興課長などを経て現職。


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2005 12 03 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.11.19

[フィナンシャル i ] 量的緩和からゼロ金利への復帰

 2001年3月に量的緩和政策が導入されてから5年近くが経過しようとしている。
 日本銀行は量的緩和の導入時に、消費者物価(除く生鮮食品)が前年比マイナスの間は解除しないことを宣言した。その物価もそろそろ前年比プラスの領域に入ってくることが見込まれ、量的緩和解除は間近との観測も出ている。
(UFJ総合研究所 主任研究員 小林真一郎)

 そうした中、福井日銀総裁は、「量的緩和政策の効果については、短期金利がゼロ%であることによる効果が次第に中心的な役割を占めるようになってきている」(10月12日の金融政策決定会合後の記者会見)として、量的緩和は実態的にゼロ金利政策に近づいている旨の発言をしている。
 しかし、量的緩和政策に対する一般的な解釈は、金利がゼロまで下がってしまうと、通常の金利政策では、もはやそれ以上の緩和を実施することができないので量的緩和を行ったというものである。
 量的緩和政策を解除した後に残るゼロ金利政策は、金融緩和効果を持つものなのか。そうであれば、これまでも金利メカニズムが働いて金融緩和効果は出ていたのだろうか。
 ゼロ金利政策の効果を考えるにあたっては、二つのポイントが重要である。
 ひとつは、物価の下落が収まることによって実質金利(名目金利-物価上昇率)が低下し、受動的ながら金融緩和効果が強まっていたことである。もうひとつは、業種によって直面する物価は異なるため、業種ごとに実質金利が異なるということである。
 各業種の直面する物価とは、売上高に影響を与える販売価格であると考えられる。そこで、販売価格の動きを最も反映していると思われる物価指標を業種ごとに選び、それを貸出残高の構成比に合わせて加重平均し合成物価指数を作成した。
 こうして名目の貸出金利(たとえば長期プライムレートなど)を用いて実質金利を算出すると、金利は低下しており、特に製造業で低下が顕著である。これは、製造業の販売価格動向を反映すると考えられる国内企業物価が上昇しているためである。
 実質金利が低下すると、企業はお金を借りやすくなったと感じる。日銀短観の中の貸出態度判断DIは、金融機関の貸出態度が「緩い」と感じる企業の割合から「厳しい」と感じる企業の割合を引いた値である。この数字がプラスであれば金融機関の貸出態度が緩く、お金が借りやすいと感じている企業の方が多いことになる。
 この貸出態度判断DIの5年移動平均をとって、それと企業の借り入れ金額(設備資金)の前年比の動きを比較してみた。5年移動平均をとるのは、平均的な借入期間が5年程度であるので、過去5年間の貸出態度判断が企業の借入残高に影響していると考えたからである。
 すると、貸出態度判断の変化が若干の時間差をもって借入残高に影響していることがうかがえる。実質金利の変化は企業の借入意欲を高めることによって資金需要に影響してくるようである。
 量的緩和政策からゼロ金利政策への復帰は、金融調節の操作目標の変更に過ぎず、直接的には金融政策の変更を意味しない。しかし、ゼロ金利の状態であっても金利メカニズムが働いていたならば、金利を捜査目標とするゼロ金利政策への復帰は意味がある。
 消費者物価を含めて企業の直面する物価が上昇する中でゼロ金利を維持することは、実質金利の低下を通じて企業の資金需要を高めると考えられるためである。

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小林 真一郎 (こばやし しんいちろう) 
UFJ総合研究所 主任研究員 
一橋大学社会学部卒。1990年日本長期信用銀行入行。投資顧問会社を経て、99年三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)入社。調査部で国内マクロ経済調査(企業部門、金融・財政部門)を担当。

(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に11月14日に掲載したものです。

2005 11 19 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.11.12

[フィナンシャル i ] 視野に入った消費税引き上げ

 現在議論されている来年度税制改正では、定率減税の廃止に代表される、国民の税負担の増加を伴う改正が決定される可能性が高まってきた。
 このような制度改正が実施される背景には、深刻な我が国の財政赤字の存在がある。
 財政破綻を回避するために、政府は「2010年代初頭における国と地方のプライマリーバランス黒字の達成」を目標に掲げているが、それを歳出の削減だけで達成するのは難しい。財政再建に向けては、増税により、税収の増加を図っていくことも避けられなくなっている。
(ニッセイ基礎研究所 研究員 篠原哲)

 しかし、少子高齢化が進展するなかでは、所得税の主な担い手である現役世代の割合は、相対的に減少していく。このため、今後も所得税の増税によって財政赤字の縮小を図っていけば、現役世代一人当たりの負担は、従来と比較して過大になることが懸念される。世代間の公平性に配慮し、かつ安定的に税収を拡大させていくためには、国民全員が「広く薄く」負担する、消費税の増税も求められてくる。
 また、自民党の財政改革研究会による「消費税の社会保障目的税化」の提言にも代表されるように、社会保障給付の財源として、消費税率の引き上げを求める声も大きい。
 年金・医療などの社会保障給付費は、今後さらに増加することが予想される。財源を担う現役世代の負担が過大にならないようにするには、年金などを受給する高齢世代にも、消費税の負担という形で給付財源の一部を負担してもらう、という枠組みも必要になるものと考えられる。
 ただし、消費税率を引き上げていくうえでは、そのタイミングと規模をどのように考えるかが最大の論点となろう。消費税は1%の引き上げでも、約2.5兆円の大規模な増税となり、実質GDPを▲0.38%押し下げると試算される。 このため、そのときの経済状況に配慮しないまま、一度に数パーセントもの大幅な引き上げを実施すれば、急激な景気や消費の悪化を招く危険性もある。景気の回復が続き、デフレからの脱却も実現すれば、2008年度には2%の税率引き上げが可能になるものと考えられるが、その場合でも、税率の引き上げ幅をそれ以上大きくすれば、今度は経済成長がマイナスに陥るリスクが高まることが想定される。
 さらに、今後は所得税や社会保険料などについても、負担増を伴う制度改正が実施される予定であるが、消費税率の引き上げに際しては、これらの制度改正との兼ね合いをどのように考えていくかという点も重要になる。前回、消費税の税率が引き上げられた97年度には、消費税以外にも厚生年金保険料の引き上げや、特別減税の廃止などが実施され、制度改正による負担増は約9兆円にまで膨れ上がった。
 このように、今後も政府の各部門が、個別にそれぞれの制度改正を実施していくと、それらを合計した国民の負担は大きく膨れ上がり、結果として景気や消費の落ち込みを大きなものとしてしまう可能性も否定できない。
 これらの問題を考慮すると、消費税率の引き上げに向けては、プライマリーバランスの黒字化の達成時期という観点のみにとどまらず、経済状況や消費動向への影響にも配慮するとともに、社会保障制度などの他の制度改正による影響も踏まえて、引き上げの時期と規模を考えていくことが重要である。

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篠原哲(しのはら さとし) ニッセイ基礎研究所 研究員
慶応大学卒、1998年日本生命保険入社、財務省財務総合政策研究所を経て2002年7月から現職。
日本経済、財政・社会保障などを担当。


(追伸)「週刊!木村剛」は、金融経済月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に10月31日に掲載したものです。
  

2005 11 12 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.11.05

[フィナンシャル i ] 債券市場でも銀行復権の兆し

 最近銀行の株価が上昇しているが、債券市場でも銀行復権の兆しがみられる。銀行の発行する債券のスプレッド(国債との利回り格差)が、過去5年で最低の水準にまで低下しているのである。
 スプレッドは市場がみる企業の信用力(将来の債務不履行の可能性)を反映しており、その低下は信用力の改善を意味する。もっとも現在の水準は不良債権の減少や金融不安の落ち着きという要因だけでは説明が難しく、政府支援の期待もあるとみられる。
 金融システムが平時モードへと移行し、市場のチェック機能の重要性が増す中で、市場規律が働かなくなっているとすれば問題である。
(スタンダード&プアーズ マネジングディレクター 根本直子)

 銀行の発行する債券には、金融債、普通社債、劣後債などがあるが、そのスプレッドは基本的に銀行の財務リスクを反映し、「市場の警告」として一定の役割を果たしてきた。例えば90年代後半、金融債の流通市場でスプレッドが大幅に拡大した長期信用銀行と日本債券信用銀行は最終的に国有化された。
 債券の中でも劣後債は清算時において預金や一般債権に劣後すること、一定の条件で利払いの繰り延べがなされる場合もあること、などから、銀行の財務リスクとの連関性がより強い。
 不良債権の増加などに伴い99年から01年にかけて劣後債のスプレッドは拡大した。しかし、03年以降、スプレッドは縮小しており、また銀行間の格差も少なくなっている。例えば03年の初めに0.5-3%であった大手行のスプレッドは現在0.35-0.7%となっている。これは、銀行の財務内容の改善だけでは説明しにくい。
 同じ格付けの事業債と比べて銀行債の縮小幅が大きく、また米銀との比較でも優先債と劣後債の格差が小さくなっているからである。りそな銀の国有化(03年5月)では、配当可能利益がマイナスとなり、契約上は永久劣後債の利払い繰り延べができる状況であったにもかかわらす、利払いは継続された。
 足利銀の国有化(03年12月)では、永久劣後債は償還されている。そうした中で、比較的不良債権の多い中規模以下の地銀についても、劣後債のスプレッド縮小が著しい。これは金融緩和が継続する中、投資家が多少でも利ざやの取れる投資機会を求めており、銀行は劣後債も含めて政府が守るだろうという期待があるからではないか。
 07年3月から適用される新バーゼル規制は、情報開示の充実と市場の規律による銀行の健全性確保がを目指しており、欧米では劣後債スプレッドなど市場の指標を銀行監督に取り入れる準備が進められている。
 以上の推測が正しければ日本において、市場の指標が市場規律の導入に役立つかは疑問が残る。指標としてのスプレッドを機能させるには、平時における銀行保護の方針を明確にし、護送船団方式への回帰がないことを市場に伝えることが重要だ。
 劣後債のように、規制上銀行の自己資本の一部とされている債券については、社外流出を避けるための利払い繰り延べや、破綻時の損失負担の可能性も排除すべきではない。同時に、社債市場の健全な発展のため、より広範な銀行による継続的な債券の発行が必要であろう。


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根本直子(ねもと なおこ) スタンダード&プアーズ マネジングディレクター 

早稲田大学法学部卒。シカゴ大経営大学院でMBA取得。1983年日銀入行。調査統計局などを経て94年スタンダード&プアーズ入社。日本、韓国の銀行などの格付けを担当。金融審議会委員などを歴任。著書に「日本の金融業界2005」(東洋経済新報社)など。

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2005 11 05 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.10.22

[フィナンシャル i] 国際比較で見る公務員人件費

 小泉首相が政府規模の大胆な縮減を唱え、公務員人件費の削減が注目すべき政策課題となっている。政府をどれだけ効率化できるかは、今後の国民負担を左右する。国際比較によって、公務員人件費の現状を捉えてみたい。
(大和総研 主任研究員 鈴木準)

 まず、国・地方の公務員人件費総額を、国民総生産(GDP)比や民間を含む雇用者報酬比でみると、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で日本が最低である。つまり、この比較から日本の公務員人件費が過大とはいえない。考えられる要因は、公務員数が少ないか、一人当たりの人件費が低いか、あるいはその両方である。
 統計を見る限り、日本の公務員数は諸外国よりもかなり少ない。公務員制度を所管する総務省の資料によると、人口千人当たりの公的部門職員数は、日本三五人に対し、ドイツ五八人、英国七三人、米国八一人、フランス九六人である。
 また、国際標準産業分類における「公務及び国防、強制社会保障事業」に従事する就業者数を人口当たりで比較すると、日本はOECD諸国の中で5番目に少なく、最も多い米国の半分以下である。仮に日米政府とも同程度のサービスを提供しているとすれば、日本の公務員は極めて生産性が高く、効率的だということになる。
 もちろん、各国固有の事情を把握し、政府の範囲を十分整合的に定義した公務員数比較は容易でない。また、公的な規制・監督業務や徴税業務が民間に委ねられている度合いを、既述の比較では調整していない。わが国には税の源泉徴収制度が広範にあるし、多様な行政分野での外部化の程度は、国によりまちまちだろう。
 そして、全体として少数だとしても、過剰な部門がありうる。このように日本が少ないとはいい切れないが、国際比較によって人数が「多すぎる」ともいえないだろう。
 では、一人当たり人件費(賃金)はどうか。各国の生活水準がそもそも異なるし、為替換算の方法にも影響されるため、賃金の国際比較も難しい。そこで、公務員一人当たり雇用者報酬が、公務員以外のそれの何倍かを求めてみた。
 すると、日本はOECD諸国の中で2番目に高いことが分かった。日本は二・一〇倍である。民間雇用者には様々な職業や雇用形態が含まれるため、何倍であれば適正かは簡単にいえないが、平均は一・三七倍である。単純計算では、公務員賃金を三五%引き下げないと、日本は平均倍率にならない。
 ただし、日本の公務員の生産性が高いのなら、それだけ賃金が高くてもよい。図から明らかなように、公務員数の少ない(多い)国では、公務員賃金が高い(低い)傾向がある。就職先としての根強い公務員人気などを考えると、公務員の優秀さが直感されるところもあり、それゆえ日本の公務員数は少なく済んでいるのかもしれない。
 だが、日本の官民格差は図の傾向線からも2割程度上ぶれている。これは公務員賃金を十五%引き下げれば、官民格差が傾向線上に回帰することに相当する。賃金の官民格差だけでなく人数の少なさを考慮しても、公務員賃金は1割強高い可能性があるだろう。
 一般に、民間賃金に準拠させる制度により公務員賃金は決まっている。何らかの理由でその制度がうまく機能しなければ、公務員賃金は合理的な水準から乖離する。日本の場合は上方にぶれが生じており、コスト高の政府となっていることがうかがわれる。公務員人件費の削減は、人数と賃金の両面から取り組む必要があるが、軸足は後者におくべきではないか。

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鈴木準(すずき・ひとし)1966年福島県生まれ。東京都立大学法学部卒。1990年㈱大和総研入社。経済調査部にて法律制度・税制、経済政策、景気動向の調査担当を経て、2004年より資本市場調査部にて中長期経済見通し、経済構造分析を担当。

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2005 10 22 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.10.15

「フィナンシャル i 」 求められる賢い資金の使い方

 最近、銀行の貸出残高の落ち込みが緩和しつつある。日本銀行が発表している貸出資金吸収動向の銀行の貸出残高は、8月に前年比-2.2%にまで縮小した。前年比での落ち込みは92ヶ月連続ではあるが、マイナス幅は緩やかに縮小しつつあり、不良債権処理によるオフバランス化などの特殊要因を除いたベースでは前年比+0.2%と増加に転じている。
(UFJ総合研究所主任研究員 小林真一郎)

 こうした背景には、景気回復によって企業の借入需要が回復してきたことがあると考えてもいいのだろうか。銀行の貸出には、企業向けのほか、住宅ローンなど個人への貸出や地方自治体への貸出も含まれている。そこで、法人企業統計(年報)を使って、企業の資金需要の動向を見てみよう。
 これによると、たしかに企業(全産業・全規模で金融を除く)の資金需要は、景気の回復に伴って2002年度を底に2003、2004年度と2年連続で高まっていることがわかる。設備投資や投融資の合計である長期の資金需要が順調に増加していることに加え、これまで低迷が続いていた短期の資金需要が増加に転じている。
 短期資金需要とは、流動資産の増減に伴って必要となる資金であり、在庫投資、企業間の信用取引、短期保有の有価証券などの増減によって変動し、余剰分が現預金などの手元流動性となる。これまで企業は、在庫および余分な手元流動性を圧縮することで、運転資金の借り入れを圧縮させてきた。それが最近は、販売増加に伴って在庫圧縮の動きが一服してきたことに加え、物の動きが活発化してきたため、手元資金を増やす必要がでてきたようである。
 それでは、企業はこうした資金需要に対し、どうやって資金を手当てしているのだろうか。同じく法人企業統計で企業の資金調達の状況をみると、外部資金調達が相変わらず減少し、内部資金調達が増加していることがわかる。
 外部資金調達とは、社債発行、金融機関からの借り入れ、株式発行によるものである。企業の債務圧縮努力により、足元でも減少に歯止めがかかっていない。一方、内部資金調達は、当期利益(配当、役員報酬、税金の支払い後)に減価償却を加えて求められる。企業は、資金需要の増加に対し、業績改善によって増加した利益を充てているのである。

 企業は財務体質を強化させるために、外部調達を減らすと同時に、内部留保を増やして自己資本比率を高めてきた。しかし、体質の強化もかなり進んできており、そろそろ貯めるばかりでなく上手なお金の使い方も考えるべきであろう。
  たとえば、利益を債務の返済に回すのではなく、株価を高め企業買収のリスクを減らすために配当金の積み増しに回すという手段がある。また、最近活発化している自己株式の買取償却を増やしていくことも考えられよう。
さらに、外部資金を有効に活用することも重要である。企業の格付けや株価を引き上げていくためには、自己資本利益率(ROE)の上昇が必要であるが、外部調達を増やして財務レバレッジを引き上げるとROEの上昇につながる。
 企業は業績回復によって手に入れた潤沢な資金を、これまでの債務返済に優先的に充当する使うやり方から、いかに有効に活用するかを考えていくべきである。企業の姿勢が変化してくれば、企業の銀行借入にとっても増加の要因になってくる。


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UFJ総合研究所主任研究員
小林真一郎(こばやししんいちろう)

1990年一橋大学社会学部卒。
日本長期信用銀行、投資顧問会社を経て、1999年三和総合研究所(現UFJ総合研究所)入社。調査部にて国内マクロ経済調査(企業部門、金融・財政部門)を担当。


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2005 10 15 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.10.08

[フィナンシャル i ] ハリケーンであぶり出された米国のアキレス腱

 米メキシコ湾岸を相次いで襲った2つの超大型ハリケーン「カトリーナ」と「リタ」は、エネルギー問題のみならず米国の抱えたアキレス腱を炙り出す形となった。
 エネルギーに関しては、この地域には、米原油生産(日量548万バレル)の3割弱、石油精製能力(同1700万バレル)の5割弱、原油輸入量(同1075万バレル)の約6割、天然ガス生産の約2割が集中。その9割前後の操業がストップしたことから原油・天然ガス・石油製品の価格が急騰。米国産標準油種WTI原油価格は、一時70.85ドルの史上最高値を更新した。
(丸紅経済研究所 副所長 柴田明夫)

 これに対し、米政府は9月2日、戦略石油備蓄(SPR)の放出を決定。国際エネルギー機関(IEA)も加盟26カ国に協力を要請。日本も、民間の石油備蓄義務日数を3日引下げる形で、日量24万バレル(30日間で730万バレル)の民間備蓄放出を決定した。全体の放出規模は、日量200万バレルの30日分で計6000万バレル(内、米国が3000万バレル)である。なお、これは世界の石油需要(日量約8400万バレル)の2.4%に過ぎないものの、市場鎮静化に向けた世界規模でのメッセージに、さしもの原油価格も60ドル台前半まで値を沈めた。
 問題はその効果の持続性である。特に、石油需要が最盛期を迎える10-12月期をにらんだ場合、供給不安は拭い切れない。高い原油価格にもかかわらず、世界の石油需要は旺盛である。また、SPRの放出はそのエネルギー安全保障戦略の性格上、いずれその取り崩した分を積み増す必要がある。
 中長期的に見た場合、世界的な規模での在庫積み増しは今後の原油相場の押し上げ要因となる。こうみると、SPR放出は、一時的に市場に安心感を与える「アナウンスメント効果」はあったものの、原油の供給増加がもたらす「ファンダメンタルズ効果」には限りがあり、年末に向けて原油は再び70ドルを試す可能性が大きい。
 一方、「カトリーナ」は、原油市場を混乱に陥れた以上に、米国の社会的病巣を抉り出す一つのきっかけになった。9・11テロ依頼、米国民にとってブッシュ大統領のイメージは、「国家的な危機に対して敢然と立ち向かう頼りになる大統領」という点にあった。しかし、今回のカトリーナへの対応では、国民の失望を誘ってしまった。
 そればかりではない。「カトリーナ」は、現在、米国社会が抱えた、「イラク派兵、ガソリン不足、貧富格差」という3つの問題を改めて浮き彫りにした。ブッシュは、汚名挽回のため、「復興に向けた指導力」を発揮することで国民の信頼を取り戻そうとしている。 
 しかし、2000億ドルともいわれる復興費用は、05年度の財政赤字予想3300億ドルを大幅に拡大させることになる。問題はその財源であり、時限的な「特別増税」や富裕層を対象としたブッシュ減税の一時停止、歳出削減、国債発行などが考えられる。
 だが、中間選挙を来年に控えた共和党にとって増税や歳出削減は難しく、結果的に復興費用は、国債発行によって賄なわれる可能性が高い。その場合、米国の財政赤字は、史上最大であった04年度の4128億ドルを大幅に上回り、長期金利上昇の引き金となりかねない。

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丸紅株式会社 経済研究所 副所長 柴田明夫(しばたあきお)
丸紅経済研究所副所長。1976年東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。2000年に業務部(丸紅経済研究所)産業調査チーム長。02年に同研究所主席研究員。03年から現職に。経済企画庁 「環境・エネルギー・食料問題研究会」委員、農林水産省「食料需給予測部会・海外農産物小委員会」委員などを歴任。

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2005.10.01

[フィナンシャルi] 量的緩和の解除 正常化へ動き出す

 都市部の地価は反転上昇し、東京証券取引所では売買高が過去最高を更新した。銀行貸出も底を打ちつつある。
 環境は急速に変化しているが、それでも日本銀行は依然として「経済危機対応」の金融政策を全開状態で継続している。西村清彦日銀政策委員は4月に「量的緩和策というのは、はっきり申し上げてモルヒネである」と的確に表現していた。痛み止めであるモルヒネを、危機が去った現在も日銀は大量投与している。
(東短リサーチ取締役チーフエコノミスト 加藤出)

 最近、日銀政策委員が量的緩和策の解除に前向きな発言を行い始めた。バブル警戒のための本格的金融引き締めを行う必要性は未だ低いが、せめて危機対応モードの金融政策を正常化に一段階近づけ、規律が最低限働く状態に戻す必要はある。モルヒネの継続で恐ろしいのは中毒である。
 とはいえ、日銀が量的緩和策を解除したところで、先行きの経済情勢を考慮すれば利上げ幅は小幅にとどまるだろう。一時的なオーバーシュートを除けば、国債金利が急騰する確率は低いと思われる。

 海の向こうを見れば、米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年6月から短期金利を11回、計2.75%も引き上げた。しかし、10年国債の金利は逆に4.70%台から4.20%台に低下している。財政赤字プレミアムが急拡大しない限り、適切な金融政策が将来のインフレの芽を摘んでいれば、長期金利は上昇しない。 
 米国で不動産バブルに減速感が出てきたのはようやく最近のことだ。日銀の当面の利上げ幅はFRBに比べれば遥かに小さいだろし、銀行の預金金利の上昇も微々たるものだろう。よって、日本でも資産市場に流入する資金が急に細ることはないだろう。 
 日銀政策委員は、今まさに量的緩和策の具体的な解除方法を検討し始めたところだろう。原油価格高騰が世界経済を減速させるリスクなど不穏な要因も存在しているが、出口政策を推測してみよう。
 消費者物価指数前年比(除く生鮮食料品)は、11月末発表分からゼロ%或いは若干のプラスに浮上すると日銀は予測している。最終的に日銀が解除条件の達成を宣言するタイミングは、2006年4月末の金融政策決定会合か?
 翌日から日銀は当座預金残高の減額に着手する。債券市場および財務省に配慮して国債買入オペは減らさないだろう。短期資金供給オペを緩やかに減らしながら、期間が極めて短い資金吸収オペを大規模に実行すると思われる。

 当座預金が20兆円を割れた頃から外銀などのオーバーナイト調達金利が時々上昇するだろう。2~3ヶ月かけて当座預金が10兆円前後まで減ったところで、オーバーナイト金利の誘導目標を設定すると思われる(その後は微調整しながら準備預金所要額である6兆円に近づける)。その際の日銀の先行きのインフレ予想によって金利誘導目標は異なるが、0.15~0.25%程度と予想している。
 筆者のところには、勉強会を開いて欲しいという金融機関からの以来が最近急増している。量的緩和策導入から既に4年半が経過した。銀行などの短期金融市場のディーラーの半数以上は、セロ金利以外の市場の経験を有していない。金利が存在する世界に向けて、金融機関もリハビリを進めて行く必要があるのだ。
 当面の注目は、10月末に日銀が公表する「経済・物価の将来展望とリスク評価」だ。解除に向けた意志がどの程度なのか、汲み取れるだろう。

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加藤出(かとう・いずる) 東短リサーチ取締役チーフエコノミスト 
横浜国立大学卒業後、1988年東京短資入社。短期金融市場の現場でブローカーを勤めながら、東短リサーチ研究員を兼務。2002年2月より現職。主な著書に「日銀は死んだのか?」(日本経済新聞)、「メジャーリーグとだだちゃ豆で読み解く金融市場」(ダイヤモンド社)。

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2005.09.24

[フィナンシャル i ] 企業の金余り 銀行を悩ませる

 日銀の「貸出・資金吸収動向」によれば、今年7月、流動化や償却による特殊要因を除いた銀行の貸出残高は調査を開始した1998年10月以来初めて前年同月比プラスを記録した。しかし、増加に寄与しているのは住宅ローンであり、主力の企業向け貸出残高は依然として減少が続いている。
加賀林陽介 日本政策投資銀行 調査部調査役

 企業サイドの資金需要について考えると、足もとの設備投資動向は堅調である。名目国内総生産(GDP)ベースでは、2003年度、2004年度と2年連続で増加し、各種設備投資調査の結果をみると05年度についても増加となる可能性が高い。この設備投資の3年連続の増加と、一方で銀行の企業向け貸出残高減少という乖離はどこから生じているのか。
 財務省「法人企業統計季報」によれば、設備投資が堅調に増加を続けてきたものの、足元の05年4-6月期でも設備投資対キャッシュフロー比率は0.65程度に留まる。設備投資が堅調といっても、それ以上に利益が改善しており、高い設備投資の伸びはそれ以上に高いキャッシュフローの伸びの範囲内で収まってきたということだ。
 企業の財務体質改善は進み、全規模全産業でみた自己資本比率でも30%を超える高水準にあるが、こんな状況でも企業は必要な投資を削ってまで財務体質の改善を望んでいるのであろうか。
 日本政策投資銀行が昨年11月に行った意識調査によれば、有利子負債の圧縮を継続する企業のうち3分の1の企業は望ましい投資を行ったうえで金が余っているという結果が出た。
 また、最近の設備投資の内容をみていると、新たな工場・ラインを一から新設するのではなく、既存設備に手を加える投資のウェイトが高まっている印象を受ける。
 既存設備をうまく活用して出来る限り設備コストを抑制しているという感触を持っている。投資を削っているというよりはむしろ、企業が金をかけずにうまく競争力を保つ術を磨いていると考えるのは言い過ぎだろうか。
 少し視点を変えて、米国や英国など、先進国の企業部門の資金過不足をみると、キャッシュフローが投資を大幅に上回って資金余剰となっている日本以外でも、資金余剰で推移している国が多い。
 1-3%台の経済成長に収斂する中で、必要とされる資本ストックと既存の資本ストックに大きな乖離が生じないせいであろう。
 悲観的な見方をすれば、現在足もとで日本企業の設備投資が好調なのは1990年代後半の金融危機に端を発した設備投資抑制の反動に依るところが大きく、これが出尽くした後、国内の1%台の期待成長率の中では、資金制約ではなく投資先の枯渇がボトルネックとなり、設備投資がキャッシュフローに追いつくことは当面ないのではないか。
 こうした企業の投資とキャッシュフローのバランスを銀行の貸出と考え合わせると、結局、銀行は収益確保の多くを、従来型の企業貸出に対してそれほど依存できない状況が続くのではないかと思われる。
 フィー(手数料)ビジネスの拡大や消費者向けローン、中小企業向けビジネスローンの展開など、銀行業の新たなビジネスモデルの模索は続くことになる。貸倒リスクをきちんと金利に反映させるという地道な努力の継続も必要であろう。一時の金融危機は脱してなお、銀行員にとって悩ましい時代は続きそうだ。

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加賀林陽介 (かがばやしようすけ ) 日本政策投資銀行 調査部調査役
1973年北海道生まれ。
1996年京都大学経済学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。
旧経企庁・内閣府派遣等を経て、2004年3月より現職。

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2005 09 24 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.09.18

[フィナンシャル ジャパン ] 全世界的ムーブメント「LOHAS(ロハス)」に注目!

フィナンシャル ジャパン」 9月号一部抜粋 <(次の一手) 西川りゅうじん氏>

愛知万博に並ぶ上期ヒット商品?

 日経流通新聞が2005年上期のヒット商品番付を発表した。東の横綱は富裕層向けサービス、西の横綱は生鮮100円コンビニ、東の大関が愛知万博、そして西の大関がLOHASとなった。
 このLOHAS(ロハス)という言葉をご存じだろうか? LOHASとは、Lifestyles Of Health And Sustainabilityの略で、健康と環境の持続可能性を志向するライフスタイルのことだ。

 1998年にアメリカの社会学者、ポール・レイ氏らによる全米15万人を対象にした調査によって明らかになった新しい生活観で、マーケティング上のコンセプトであると同時に全世界的な社会的ムーブメントでもある。全米のLOHAS人口は約6000万人で成人の約3割を占めるといわれる。知的な富裕層が多く、LOHAS的価値観を持つ企業の商品を購入し、新商品を最初に試してみる好奇心を持つ。また、同じ機能であるならば、2割程度高くても環境に配慮した商品を購入する。ファンの心理に敏感なディカプリオをはじめとするスターの多くが、アカデミー賞の授賞式に、トヨタのプリウスに乗って現れるのもうなずける。

 具体的な商品・サービスとしては、環境に配慮したエコ商品に始まり、ヨガなど心と体の自己啓発、自然食レストラン、ハーブなどによる代替医療、エコツーリズム、風力発電に至るまであらゆる分野にわたり、全米の市場規模は35兆円と試算される。


“LOHASネーション”日本

 日本への紹介は、環境コンサルティング会社のイースクエア(東京都港区、ピーター・D・ピーダーセン社長)が、2002年にレイ氏をセミナーに招いたのが最初だといわれる。それを、スローフード運動を日本で初めて取り上げたことでも知られる、月刊誌「ソトコト」(木楽舎、小黒一三編集長)が毎号大きく紹介し、全国的に広まってきた。

 イースクエアの調査(02年2月)によれば、日本のLOHAS層は29・3%でアメリカと同様に約3割おり、少しアメリカよりも多い。高所得者が多く、世帯年収600万円以上が47・3%(回答者全体では40・4%)、900万円以上も21・6%(回答者全体では17・6%)もいた。彼らの4割以上が、環境にやさしい商品であれば2割価格が高くても買うと答えた。また、日経産業消費研究所の調査結果(02年6月)では、LOHAS層の27・8%が、安全性が証明された自然のままに近い食材ならば3割以上高くても買うとしている。

 このLOHAS市場を捉えようと、日本でもさまざまな業種の企業やセクターが動き出している。LOHASを謳った、雑誌や番組、衣料品・雑貨・食品の製造販売、飲食店、ヨガ教室などが燎原の火のごとく全国各地に増殖している。
 滋賀経済同友会はLOHAS志向の観光を提言、東京ガスはLOHASを研究するサイト「MakeLOHAS」を開設、三菱地所は坂本龍一をキャラクターにLOHASがテーマのマンションをPRしている。また、8月24日に開業する「つくばエクスプレス」沿線は豊かな自然に囲まれたLOHAS沿線であるとも言え、都市機構茨城支社が「ツクバ・ロハスな生き方」を特集したムック本「つくばスタイル」を出版したり、三井不動産は柏の葉キャンパス駅にLOHASをコンセプトにした商業施設をオープンする計画だ。

 古来より自然と共生してきた瑞穂の国、日本はまさにLOHASネーション。今こそ世界の健康と環境の先進国を目指すべきである。

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西川りゅうじん  [マーケティングコンサルタント]

1960年神戸市生まれ。商業開発研究所レゾン所長。マーケティングコンサルタント。本格焼酎マーケティング研究会座長として昨今の焼酎ブームを演出するなど、官公庁や森ビルはじめ、さまざまな企業への実践的コンサルには定評あり。アッシー、ジモティー、コヤジなど流行語の造語でも知られる。

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2005 09 18 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.09.17

[フィナンシャル i ] 日本での敵対的買収防衛策

 国内企業が国内企業に仕掛ける敵対的買収が現実化する中で、敵対的買収予防策といえば、米国のポイゾンピル型の防衛策(買収者が一定の株式を買い占めた場合、自動的に新株が発行され買収者の株式取得割合を低下させる仕組み)を指す場合が多い。
(経済産業研究所 上席研究員 鶴光太郎)

 しかし、ポイゾンピルの制度自体、米国の企業の過半が法令上の根拠にするものの、デラウェア州という一つの裁判所での判例の積み重ねによってできてきたものである。そのため、企業誘致の視点から経営者寄りのルール作りがされてきたとの指摘もある。
 その中でポイゾンピルという制度が米国で有効に機能してきたとすれば、バランスをとるべく経営者の保身を許さないような強力な仕組みが存在していることを忘れてはならない。つまり、機関投資家などの「モノ言う株主」、経営判断の節目、節目において株主への説明責任を要求される経営者、株主利益を代表する独立的な社外取締役などの存在である。一方、日本に目を転じれば、いずれのインフラも整っているとは言いがたい状況である。

 日本にとって移入が容易なのは、むしろ、イギリスの「シティー・コード」と呼ばれるTOB(株式公開買い付け)規制による買収防衛であろう。2004年に成立した欧州連合(EU)の統一的な企業買収指令も「シティ・コード」の枠組みを原則としている。また、マレーシア、シンガポールといったアジア諸国でもこうした制度が採用されており、米国のポイゾンピルよりもむしろ「グローバル・スタンダード」といえる仕組みである。
 「シティ・コード」では防衛策の導入は株主総会の承認を得ることを原則としており(「中立義務」と呼ばれ、平時に防衛策を導入していても有事の際の発動には株主総会の承認が必要)、取締役会で広く防衛策を導入できるアメリカに比べ、防衛策に対しては非常に厳格である。

 一方、部分的なTOBが原則として禁止されており、買収者が議決権の30%以上取得した場合は、残り全部の株式を(原則として現金で)買付けなければならないとする、「全部買付義務」が定められている。こうした規制により、敵対的買収の中でも、株主や企業の利益を損なうことが明らかな、二段階買収(二段階目の買付条件を不利にすることで最初の買付に応じるよう株主に売り急ぎを強制する手法)や被買収企業に株を高値で買い戻させることを前提としたグリーン・メールなどの資金の裏付けのない買収を排除できる。
 コロンビア大学法科大学院のミルハプト教授も「シティ・コード」の方が、ポイゾンピルよりも単純で分りやすいルールであるので、日本への制度移入や実施も行い易いと主張している。
 また、「パネル」と呼ばれる自主機関が「全部買付義務」免除のケースなどを判断しており、司法ではなく公的機関が企業買収の是非にかかわる判断するという面でも、日本の伝統的な経済規制のアプローチとの共通点がみられる。
 米国発の「グローバル・スタンダード」から日本への制度移入という固定観念に陥るのではなく、他の諸国の代替的な仕組みや制度のメリット・デメリットを丹念に検討することが重要なのは、敵対的買収防衛策の場合でも変わりないのである。

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鶴 光太郎 (つる こうたろう)
経済産業研究所上席研究員。1984年東京大学理学部数学科卒。オックスフォード大学Ph.D. (経済学)。経済企画庁、OECD経済局エコノミスト、日銀金融研究所を経て現職。著書に『日本的市場経済システム:強みと弱みの検証』、『日本の財政改革』(共著)など。

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2005 09 17 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.09.10

[フィナンシャルi] 日本経済は踊り場から脱却したか

 政府は8月9日の月例経済報告で景気の基調判断を上方修正し、竹中担当相は記者会見で景気の現状を「踊り場的状況を脱却している」と評価した。また、同日の金融政策決定会合後の記者会見では、福井日銀総裁が景気の現状認識について「踊り場をほぼ脱却したと判断しうる」と述べ、政府、日銀が揃って景気の踊り場脱却を宣言した。
 一方、一部のメディアやエコノミストなどからは、「踊り場脱却宣言」は時期尚早との指摘もある。果たしていずれの判断が正しいのか、主要な経済指標を再点検することで、その答えを見出してみたい。
(みずほ総合研究所 シニアエコノミスト 武田 淳)

鉱工業生産が主流

 そもそも、景気の「踊り場」という言葉に明確な定義はない。関連するコメントなどを見ると、判断材料に用いられている経済統計は、実質GDP、鉱工業生産、景気動向指数、日銀短観など、まちまちである。したがって、踊り場が始まった時期についても、昨年後半から年末にかけて幅広く分布している。
 これらの統計のなかでは、生産指数や情報化関連生産財の在庫循環など、鉱工業生産統計に属する諸指標が目安にされるケースが比較的多いようだ。生産指数は今年1~3月期に前期比1.7%プラスと3四半期ぶりに上昇したものの、続く4~6月期は同0.4%マイナスと再び低下し、足踏み感が払拭されない状況が続いている。7月も前月比1.1%マイナスと改善の兆しが見られず、踊り場脱却と判断しかねるのも無理はない。
 しかし、非製造業もカバーした全産業活動指数は、1~3月期に前期比1.3%プラスと生産指数同様3四半期ぶりに上昇した後、続く4~6月期も同0.3%プラスと小幅ながらも上昇し、昨年暮れ頃からの回復トレンドを維持している。4~6月期の実質GDP成長率も前期の高成長に続きプラス成長を記録しており、これらの指標によると、既に踊り場を脱却しているように見える。

景気回復の主役は非製造業に

 いずれに軍配を上げるべきかは、それぞれのカバレッジを考えれば明らかであろう。景気は昨年までの輸出主導から、今年に入り個人消費中心の回復に移行している。製造業の回復が遅れているのは、景気回復の主役交代を映じたに過ぎない。以下にその理由を述べる。
 産業連関表によると、輸出に伴って産み出される付加価値の過半(約55%)は電気機械や輸送機械などを中心とする製造業からもたらされている一方、個人消費における製造業の割合は約15%に過ぎず、卸売・小売、不動産、サービスといった非製造業の割合が非常に高い。輸出が低迷するなかで景気が持ち直した年明け以降、景気全体の動きに反して製造業の生産が減少したとしても、何ら不思議ではない。
 景気がすでに踊り場を脱却していることは、経済を幅広い側面から捉えたとされる景気動向指数において、一致CIの上昇トレンドが強まっていることからも示されている。また、「景気」を経済実態ではなくマインドと定義付けるのであれば、日銀短観の業況判断DI(全産業規模合計)は、3月調査の▲2から6月調査では+1に改善している。こうしてみると、政府による「踊り場脱却宣言」は、むしろ遅すぎたということもできるのではないだろうか。

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武田 淳 (たけだ あつし) 
みずほ総合研究所
調査本部 経済調査部 シニアエコノミスト

1990年大阪大学工学部卒。第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。
93年第一勧銀総合研究所(現みずほ総合研究所)に出向。
日本経済研究センターへの派遣を経て2004年5月からマクロ経済調査総括。
著書に「日本経済の明日を読む2005」(東洋経済新報社、共著)など。


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2005.08.27

[フィナンシャルi] 負債圧縮行動は終息へ

 民間非金融法人企業と金融機関をあわせた資金余剰(貯蓄超過額)は2004年度でも41兆8000億円に達する。1990年代後半以降における企業部門の大幅な資金余剰は主として企業の債務返済を反映している。資金が経済のエンジンである企業の有効な支出として活用されず、政府の財政赤字に向かう延長線上にあるのは、活力のない沈滞した経済社会である。
(大和総研 主任研究員 鈴木準)

 企業部門にみられた継続的な債務返済と設備投資抑制行動の最大の原因は、土地資産デフレであると考えられる。
 資産価格である地価は、フローの収益やその見通し、リスクプレミアムを反映した割引率などで本来決まるものだろう。だが、わが国の場合、土地バブルがあまりにも大規模だったため、その自律的調整がフローの動向とは別の要素として90年代以降の地価動向を規定した。企業はバブル期に家計部門から土地を高値で譲り受けるなど、資産デフレ分に相当する負債圧縮を回避することは困難だったと思われる。
 具体的にいうと、民間企業は91-03年の13年間に、土地に関して約430兆円(単純平均で毎年30兆円余)のキャピタルロスを被った。これほど巨額の資産価値を継続的に喪失すれば、純資産が毀損されて営業取引や金融取引上のコストが高まる。個々の企業は自己資本比率の低下を食い止めるため債務返済に励むことになり、また、それによる需要の収縮が新たな不良資産を生み出す悪循環を生じさせた。
 実際、企業の資金過不足は時価ベースの純資産の動向に沿っている。純資産は、株式持ち合いなどを考慮しつつ、保有資産時価総額と負債の差額として企業部門全体のエクイティを評価したものである。80年代後半では資産価格高騰による純資産の増加と資金不足幅(投資超過幅)拡大とが軌を一にしており、90年代はその逆である。純資産の大きな振幅を招いたのが土地資産要因だった。
 だが、純資産は既に99年に底を打った。これまでの企業努力も理由の一つだが、バブルの調整である資産デフレが落ち着いてきた効果が大きい。各種の地価統計では、最近になるほど明るさが確認されている。
 もっとも、資金過不足の方向転換は純資産に多少遅行する傾向がある。これは地価動向や倒産状況など財務や信用を取り巻く環境を経営者が認識した上で、進行中の投資案件や資金繰りを調整し、財務構成の修正を中小企業も含めて完了させるには、一定の期間を要するからだろう。今回はタイムラグが少し長いが、それだけ資産デフレが大きかったということだろう。現在の資金余剰は2-3年前の地価や倒産状況を反映したものととらえることが可能だ。

 90年代の日本経済の低迷を需要サイドから振り返れば、設備投資の停滞が最大の要因である。その結果、生産設備はヴィンテージが高まり、老朽化している。土地資産デフレの終息がはっきりしたものとなれば、日本経済は設備投資が本格的に主導する局面を迎えるだろう。
 ただし、資金余剰幅縮小の速度と程度は予測が難しい。それが比較的スムーズに進むとすれば、それに合わせて政府の財政収支が改善しなければ整合的でないからだ。この意味において、財政再建は企業部門の異常な資金余剰状態からの脱却と表裏一体であり、経済政策はその両にらみで進められる必要がある。


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鈴木 準(すずき・ひとし)
1966年福島県生まれ。東京都立大学法学部卒。
90年大和総研入社。法律制度、経済政策、景気動向の調査担当を経て、2004年から資本市場調査部で中長期の経済見通し、経済構造分析を担当。


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2005.08.20

[フィナンシャル i ] 中南米で存在感増す中国

 中国の中南米地域におけるプレゼンスが増している。2004年11月には、中国の胡国家主席が中南米4か国(ブラジル、アルゼンチン、チリ、キュ-バ)の歴訪を行っている。国内経済が急拡大を続ける中で安定した資源・食料供給先を確保し、かつ政治的な分野で影響力の拡大を狙いたい中国の思惑と、巨大輸出市場の確保や米国への牽制から中国との関係を強化したいという中南米の国々の思惑が一致したと言える。
(国際通貨研究所上席研究員 松井謙一郎)

 ただし、中南米諸国にとり、中国とのプレゼンス拡大が持つ意義は必ずしも一様ではなく、国ごとに相応に異なっているが、主要な国を中心に留意点を見ていくと以下の通りとなろう。

 ブラジルにとっては、中国は米国・アルゼンチンに次ぐ第三の輸出先となり今後も成長が期待できる市場となっている。一方で、中国にとっては、ブラジルは鉄鉱石等の資源や大豆等の食糧確保の戦略的に重要な存在である。また、現在国連の常任理事国入りを目指しているブラジルにとり、中国の支持は政治的にも大きな意義がある。
 アルゼンチンは、今後増大する大豆等の食料の供給先の確保の多様化を迫られている中国にとって安定した供給先となる事が期待できる。一方で、アルゼンチンは、近年同国の対外債務再編において債権者に一方的に負担を転嫁する強引な手法に対しては欧米諸国から強い批判の中で同国は孤立していた。この状況で中国がこの問題に関して沈黙を守る事で同国を影ながら支えてきたとも言えよう。
 メキシコは、生産物の内容が類似している中国と基本的に競合関係にある。メキシコは、北米自由貿易協定(NAFTA)の枠組みで守られているにもかかわらず、主要輸出先の米国市場への輸出は2003年に中国に追い越された。また、自国市場においても中国からの輸入が急激に増加しており、輸出拡大を続ける中国は潜在的に大きな脅威として受け止められている。
 また、チリはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の加盟国の中でもFTA(自由貿易協定)を推進してきたが、中国は重要な輸出先であり、本年に入ってから両国は中南米で初めてとなる自由貿易区の設立に向けた交渉を開始している。さらに、昨年国家主席が訪問したキュ-バや、昨年大統領が中国を訪問したベネズエラのように、米国と対立関係にある国々にとっては、中国との関係を深める事は米国への牽制を強める意味で、国家戦略上非常に重要であると言える。
 今後も中国からの直接投資が増加して協力がより深い段階へ発展していく可能性を秘めている一方で、中南米諸国のナショナリズムとの対立の可能性も孕んでいる。昨年のECLAC(国連ラテンアメリカ委員会)の報告書でも、中国は重要な一次産品の輸出市場である反面、中国製品が国内市場及び第三国市場(特に米国)で脅威となりうる事が指摘されている。例えば、前述したように中国と良好な関係を保っているブラジルにおいても、中国からの工業製品の輸入急増に対して、セ-フガ-ドなどの輸入制限措置を政府に求める動きが産業界に起きている。

 人民元の切り上げ問題に象徴されるように、中国経済の問題は米国やアジアとの関係で専ら論じられる事が多いように思われるが、距離的に離れている中南米地域にとっても重要な問題となっているのである。更に、米国の影響が圧倒的に強い中南米地域において、米国への対抗上のために中国カ-ドが占める戦略的な意義は重要である。
 今後の中国を考えていく上では、複数の地域との関係から考える複眼的な視点が求められているといえよう。

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松井 謙一郎(まつい けんいちろう)
1964年4月東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ロンドン大学修士号。88年4月三菱銀行入行。外務省出向、国際審査部を経て、2004年9月から現職(東京三菱銀行から出向中)。著書に「パリクラブ」(財経詳報社)他。専門は、国際金融。


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2005 08 20 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.08.13

[フィナンシャル i ] 05年度の減益は回避できるのか

3年連続で2桁増益

 徹底したリストラが進められる中、輸出の拡大も追い風となり、企業収益は好調を続けてきた。日銀の起業短期経済観測調査(短観)6月調査によれば、2004年度の経常利益(全規模・全産業)は前年度比20.3%と3年連続で二桁の伸びとなった。05年度は同2.7%と伸びは鈍化するものの、4年連続の増益計画となっている。
(ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 斎藤太郎)

 ただし、年度上期(4-9月)に前年度比6.7%減といったん減益になった後、下期に同11.4%とV字回復を見込んでいる点は気になるところだ。上期の減益については、昨年度までの高い伸びの反動による一時的なものに過ぎないとの見方もあり得るだろう。しかし、日銀短観の過去の例を振り返ってみると、厳しい事実に突き当たる。

減益確率は75%?

6月調査現在の短観(短観調査月が2,5,8,11月だった96年以前については6月調査を5月調査に置き換えている)で経常利益の年度上期、下期(10-3月)、年度計画が調査されるようになった84年度以降の例を見ると、今年度のように6月調査時点で上期計画が減益だったことはこれまでに8回。このうち、実際に上期実績が減益となったのは6回である。つまり年度を通して減益となったのも6回である。つまり、6月調査時点で年度上期が減益計画だった場合、当年度の実績が減益となる確率は75%と非常に高いのである。
 しかも、最終的に減益を回避した2回は、前年度が減益だった場合に限られる。今年度と同様に前年度が増益だった2度のケースでは、いずれも最終的に減益となっている。
 前年度が増益の場合、企業はそのまま当年度上期も増益が続くことを見込むことがほとんどだ。それにもかかわらず、減益計画になっているということは、企業が年度初めの段階で、すでに前年度までとは違う何らかの変調を認識していたということだろう。いずれの場合も下期の反転により年度では増益を見込んでいたが、実際には企業の期待通りにはならず、最終的に大幅な減益となった。一度方向が変わってしまうと、その流れはそう簡単には止められないということかもしれない。

01年度と同じ

 もちろん過去の例が今回も当てはまるとは限らない。今年度と同じパターンは、直近では01年度だが、当時と現在とでは外部環境が大きく異なっており、単純な比較はできない。01年当時は世界的なITバブル崩壊により海外への輸出が急速に落ち込んでいた時期に当たる。現在、輸出は停滞が続いているものの、かろうじて横這い圏内に踏みとどまっている。
 しかし、原油価格高騰に伴う原材料費の上昇は、すでに企業収益を圧迫し始めている。企業の計画では、原材料費の伸びは下期には鈍化する見込みとなっているが、原油価格の上昇はいまだ止まっておらず、さらなるコスト増をもたらす恐れもある。企業の下期V字回復の計画はやや楽観的と考えざるを得ない。
 政府、日銀は企業収益について比較的強気な見方を示している。ともに05年度が4年連続で増益計画となっていることを重視しており、上期の減益計画はあまり問題とは考えていないようだ。しかし、ここで見たように過去の例を参考に考えれば、現時点での上期減益計画はそれなりの重みを持って受け止めるべきで、あまり軽視してよいものとは思われないのである。

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略歴
斎藤 太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト
京都大学卒業後、1992年日本生命保険入社。96年よりニッセイ基礎研究所。
担当は日本経済の分析、予測。

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2005.08.06

[本のソムリエ]  「ギャン理論 ~最後まで勝ち抜いた男が遺した究極の相場理論~ 新版」

MJ05060341

 今週の丸善丸の内本店 壹岐直也副店長がお薦めする本です
 「ギャン理論 ~最後まで勝ち抜いた男が遺した究極の相場理論~ 新版
青柳孝直・著 
総合法令出版刊
定価2520円(税込)

 本書は、20世紀前半のアメリカ相場界において、驚異の勝率を誇った伝説の相場師、W.D.ギャンの生涯とその相場理論に迫ったものである。
生涯を通じて9割超という勝率を維持したギャンは、数多くの名言と相場理論を「ギャン理論」として現在に残している。
 それは一般的には難解とされるが、ギャン理論研究の第一人者である国際金融アナリストの青柳孝直氏が、現代日本人の理解を助ける配慮をしながら本書を書き下ろしている。
 特にギャンの「相場をする時の心構え」や、「テクニカルに関する28ヵ条のルール」といったものは、相場に臨む者は是非おさえておいてほしい内容のものである。
 現在は株式運用を始めとする資産運用ブームとも言える状況であるからこそ、情報に振り回されることのない、付け焼刃でない自らの相場スタイルを確立する必要がある。その上で、生き馬の目を抜くといわれた相場の世界で最後まで勝ち抜いた男であるギャンの相場理論は無視できないものとなっている。


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2005.07.30

[フィナンシャルi] 第三分野保険に外的リスク

 死亡保障市場の縮小に歯止めがかからないなかで、生保業界では医療や介護など、いわゆる第三分野の商品に営業の軸足を移す動きが一段と強まってきた。
(格付投資情報センター シニアアナリスト 植村信保)

 保険の第三分野とは、第一分野(=死亡保障)でも、第二分野(=損害保険)でもない商品で、具体的には医療や介護、傷害保険などを指す。少子高齢化を踏まえ、近年、各社は第三分野や個人年金など「生きるための保障」に力を入れている。
 死亡保障では歴史の長い大手・中堅生保が圧倒的な地位を保っているのに対し、第三分野ではアメリカンファミリー生命やアリコジャパンなどの外資系生保が上位を占めている。大手生保がこの分野に参入できるようになったのは2001年からで、それまでは特約を除き、販売が認められていなかったためだ。

 日本の第三分野商品は終身保障タイプが多く、保障期間が超長期にわたる。大半が入院日額○○円といった定額給付型の商品だ。病歴があっても加入できる商品の登場や通信販売の台頭など、商品や販売チャネルの多様化も急速に進んでいる。
 ところが、第三分野の商品は死亡保障に比べ、将来のリスクを合理的に見積もるのが難しい。例えば医療技術が発達し、かつてであれば死亡していた患者が入院すれば治るようになったり、がんの早期検診が急速に普及した結果、がん保険の給付が急増したりというように、第三分野の商品には過去のトレンドに基づかない外的要因に伴うリスクがある。
 死亡保障の場合、将来の支払いに備えた積立金(責任準備金)の計算には業界共通の「標準死亡率」の使用が義務付けられており、各社の健全性を確保している。だが、第三分野には統一的な「標準発生率」はなく、予測困難なリスクへの対応は各社の判断に委ねられている。比較的安定している死亡率とは違い、入院日数など第三分野の統計は振れが大きいのも特徴だ。
 リスク対応の最後の切り札として保険約款に盛り込まれている基礎率変更権(将来の不確実性に備え、行政当局の認可を前提に、保険会社が基礎率を事後的に変更する権利)を本当に発動できるかどうかも疑問である。そもそも基礎率変更権の存在が契約者に周知徹底されていないうえ、発動基準も明確ではない。

 これに対し、金融庁は業界内外の専門家による「第三分野の責任準備金積立ルール・事後検証等に関する検討チーム」で第三分野のリスク管理のあり方について議論を重ね、報告書を発表した。
 データが不十分ということもあり、標準発生率は当面導入されないが、責任準備金の積立ルールや事後検証の方向性が示された。
 とりわけ今回の報告書では「情報開示」がポイントになっている。ルールそのものは引き続き個社の判断に委ねられるが、責任準備金の積立ルールや商品の収支状況、事後検証の実施状況などを開示することで、市場規律を効かせようという発想だ。
 金融庁はこの報告書に基づき、来年度から新しい健全性ルールの適用を目指しているが、個社のリスク管理体制の厳格さが一層問われることになるだろう。

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植村信保 (うえむら のぶやす)
1990年東大文卒。安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)を経て、97年、日本公社債研究所(現R&I)入社。生損保を中心に金融機関の格付けを担当している。
著書に「生保のビジネスモデルが変わる」(東洋経済新報社、03年)など。

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2005 07 30 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.07.23

[フィナンシャル i ] 広さと流通性の改善が進まない日本の住宅

 J-REIT残高の急速な拡大や東京都心区部における住宅地価の上昇など、住宅市場の周縁では明るいニュースが増えている。しかし、日本の住宅市場の課題として指摘され続けてきたことは何ら変わっていないのが現実だ。
 近年の住宅・土地政策における基本理念を表すキーワードは「ストック重視」である。その本質は住宅の質的改善と流通性の向上であり、具体的には中古市場と賃貸市場の活性化が不可欠である。しかし、5年毎に実施される総務省の「住宅・土地統計調査」の結果に基づいて過去30年間を顧みると、持家と比べた借家の広さ、中古住宅の流通頻度のいずれも、顕著な改善は見られない。(ニッセイ基礎研究所 石川達哉)

 2003年調査における平均122㎡という持家の床面積は、米国と比べれば見劣りするが、欧州諸国と比して何ら遜色のない水準である。これに対して、借家は平均46㎡と持家の4割を下回っている。他の国々では、借家にも持家の6~7割の広さはあり、日本の借家の狭さは極めて特異である。しかも、30年前の平均面積と比べて平均9㎡拡大したに過ぎず、現在でも100㎡以上の借家の戸数は全体の3%にも満たない。
 他方、住宅全体の量的な面では、総世帯数の1.14倍に相当する総戸数は充足という段階を超え、空家率が12%にも達している。米国・英国では、1年の間に既存住宅の5%が中古市場で売買されるが、日本の持家の最新実績値は0.6%に過ぎない。
 この値は過去30年間0.5~0.8%の範囲にとどまっている。新築持家着工戸数との対比においても、日本の中古持家取引が25%の割合しかないのに対して、米国の中古住宅取引は新築住宅の3.8倍、英国にいたっては7.5倍という水準である。
 これらの事実からは、日本の住宅市場が新築の持家に偏重し、借家は狭いままで、既存ストックは回転せず、空家は増加の一途と言うことさえできる。しかし、逆に言えば、住宅ストックの有効活用への誘因は十分過ぎるほど高まっている。中古取引に不可欠な履歴情報の蓄積と開示、取引に伴う課税の縮減・廃止、持家に比して重い賃貸住宅課税の中立化、定期借地や定期借家の制度要件緩和を進めれば、ストック市場の活性化が急速に進む可能性はあるはずである。
 そうした市場変革の担い手として最も期待できる存在は、実は、高齢者世帯である。参考になるのは、米国の高齢者世帯の行動である。引退後も持家率が8割を維持する構造は日米に共通しているからである。実際、米国の高齢者は資産としての持家を有効活用しているが、売り切ってしまうケースは少ない。単身か夫婦二人という世帯人員に見合った小規模な持家へ住み替えることを通じて、売買差額を金融資産化するか、生活資金として使うという形で、「持家資産の一部取り崩し」を実現している。
 日本の持家世帯の3割強は65歳以上の世帯であり、75歳以上の世帯だけでも1割を超えている。より豊かな老後生活を実現するために、小規模な持家への住み替え行動を起こす世帯が増えれば、数の上で十分な影響力を市場に及ぼすはずである。
 将来、遺産という形でこどもの世代に残す場合も、継承する世帯の大半は、既に7~8割が持家取得を済ませている現在50歳代の世代である。すなわち、親の持家の相続を通じて複数の住宅を保有する「若い高齢者」となって、片方を賃貸住宅へ転用したり、中古市場で売却したりする誘因は一層高まるであろう。両方の意味で、市場変革の鍵を握るのは高齢者世帯だと言える。

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石川達哉(いしかわ たつや)
ニッセイ基礎研究所経済調査部門主任研究員。
1958年、静岡県生まれ。東京大学経済学部卒。日本生命保険相互会社、経済企画庁経済研究所(派遣)を経て、現在に至る。2003年4月より明治学院大学非常勤講師を兼務。専門は、税制・貯蓄・住宅。主な著書に『日本経済21世紀への展望』(共著、有斐閣、1993年)、『賃貸住宅市場の実証分析』(共著、財団法人 日本住宅総合センター、1997年)などがある。


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日時:7/30(土) 14:30-16:00 丸ビル
参加費: 非会員 5000円(ご参加者全員へ木村剛サイン入り新刊本プレゼント)
定員: 先着100名様 (定員になり次第締切らせていただきます)
お問い合わせ: kficlub@kfikk.co.jp

2005 07 23 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.07.06

[フィナンシャル i ] 「再生ファイナンス」の世界に新潮流

 再建をめざす企業に資金提供する「再生ファイナンス」の世界に新潮流が起きている。大手銀行の不良債権問題“終結宣言”を受けて、多くの債務過剰企業は銀行の管理下を離れた。代わりにサービサーや事業再生ファンドが大口債券者となったが、民事再生法などを使う法的整理前に運転資金が不足するなどの事態が多発。そんな企業に融資するファンドが急速に成長している。(ジャーナリスト 和田勉)

 再生ファイナンスではこれまで、民事再生法などを申請し、裁判所に認可されるまでの企業を対象につなぎ融資をするDIP(占有継続債務者)ファイナンスが注目されてきた。申請の準備が整った段階であれば、スポンサーの存在など再生計画の確実性がチェックしやすいため、DIPファイナンスは大手銀行も手がけている。
 実際には、経営不振企業は再生計画を作る前の段階で資金が不足気味になることが多い。従来であれば、メイン銀行が再生可能性のある企業にはつなぎ融資もしてきた。
 だが、銀行が不良債権問題を終結させるため債権の売却を急いだ結果、つなぎ融資を受けられない企業が増えた。サービサーは債権回収、再生ファンドは債権や株式への投資を事業としており、法的整理前のつなぎ融資は資金提供の空白地帯となった。
 この空白地帯の需要に対応し、ソフトバンク・インベストメントの子会社ヱスビーアイ・キャピタル(SBIキャピタル)が運用している「SBIメザニン・ファンド」が急拡大している。昨年八月に立ち上げ、六月末までの十カ月ほどで二十八件の融資を実施した。
 一件当たりは小口だが、株式投資のようなダウンサイド・リスクが小さく、これまでのところ十数%の利回りを確保しているという。SBIグループの出資した第一号ファンド(約三十億円規模)は使い切り、四月から第二号ファンド(目標七十億円)を募集中。地方銀行や保険会社から良い反応が返ってきているそうだ。
 融資の仕組みは、売掛金・在庫・不動産などで多めの担保を設定したうえで、数日の短期から四、五年の期間まで数%以上の利息で貸す。場合によっては、新株予約権を取ることもある。
 同ファンド急成長のポイントは、事業精査のスピードと、再生ビジネスの世界での人脈。同ファンド事業を率いる木下玲子常務が前職の東京スター銀行でのDIPファイナンス担当以来、精査のノウハウと人脈を培ってきたのが奏功した。
 一部の金融機関やノンバンクも同種の融資をするケースがある模様だが、専門のファンドはめずらしい。
 大手銀行が〇五年三月期決算で不良債権比率の半減を達成したことから、今年五月の時点で政府・金融庁は一応の不良債権問題終結宣言を出した。しかし、華々しい宣言の裏では、多くの経営不振企業がメインバンクなしで再建に取り組まざるをえなくなったのが実情だ。
 また、債権や株式へ投資するファンドや投資銀行は多いが、高いリターンを求めるため、中堅・中小企業へ回りにくい。企業再生の重心が、中堅・中小あるいは地方企業へ移る中、新たな資金需要を埋めるファイナンス・ビジネスが今後も登場するだろう。

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和田 勉(わだ つとむ)

1966年京都府生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。日本経済新聞社に入社。産業部や国際部などの記者を経て、98年から3年間、テレビ東京に出向して経済部記者を務めた。01年からフリーのジャーナリストに。著書に『買収ファンド』(02年4月、光文社新書)、『企業再生ファンド』(03年4月、同)、『事業再生ファンド』(04年8月、ダイヤモンド社)がある。


(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に7月4日に掲載したものです。


2005 07 06 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.06.29

[フィナンシャルi] 控除縮小・廃止拍車へ

 政府税制調査会は、6月21日に2006年度以降の税制改正のたたき台となる「個人所得課税に関する論点整理」(以下「論点整理」と略)を発表した。主な内容は、①給与所得控除の見直し、②配偶者控除・扶養控除の見直し、③退職所得課税の見直し、④所得税から住民税への税源移譲に対応した税率変更、⑤定率減税の残り半分の全廃―という項目が大きな柱になっている。(第一生命経済研究所主席エコノミスト 熊野 英生)

 この論点整理から窺えるのは、今後の税制改正では控除の縮小・廃止の範囲が大きく広がりそうだということである。今までの税制改正は、1994年以降景気配慮を目的に実施されてきた定率減税、配偶者特別控除といった優遇措置を外し、課税ベースを広げることに主眼が置かれていた。一旦低下した所得税の担税力を「復元」することが建前だったと理解できる。
 ところが、今回の論点整理では、1994年以前への「復元」という範囲を超えた見直しが散りばめられている。この点はあまり指摘されていないが、従来と質的に大きく異なることを確認しなくてはなるまい。
 個別に論点整理の内容をみると、最大のインパクトがあるのは給与所得控除の見直しである。所得税に諸控除が存在することによって約15兆円の税収減につながっており、その中で給与所得控除が占める金額は6.8兆円分と言われている。政府税調は、サラリーマンに適用されている所得比平均28%のみなし必要経費率が高すぎると指摘し、一方で職務遂行上の経費の対象範囲は別途拡大しつつ、一律のみなし課税控除を縮小していこうと議論を進めている。
 しかし、現在でもサラリーマンが特定支出を確定申告で控除できる仕組みはあるが、それを利用するのは年間10人に満たないのが実情だ。給与所得控除を切り込むと、最低課税限度は大幅に引き下がるが、サラリーマンだけが大幅な負担増を強いられる。
 子育て支援についても、恩恵を考えるうえでの重要な点が抜けている。論点整理では、扶養控除の恩恵を所得控除から税額控除に切り替えるアイデアが出ているが、肝心の税額控除の金額である。そこはまだ詰められていない。
 また、子育て支援と同時に議論されている配偶者控除の縮小についても、これがそもそも子育てをする専業主婦の負担を高める意味でマイナスなのではないかという疑問だある。主婦の労働供給を増やそうとして配偶者控除を縮小しようとする思惑は、かえって子供を育てにくい経済環境をつくりはしないか。この点も詰めた方がよい。


 もうひとつ、あまり議論にならない不思議なことがある。これまで検討事項とされてきた定率減税の全廃がいつの間にか既定路線になったことだ。以前、定率減税全廃は2006年度の抜本的な所得税改革の中で、プラスとマイナスのバランスを取るとされていたはずだ。
 「景気に配慮しつつ、縮減額を減額する」という弾力条項の話もどこに行ったのかわからない。
 筆者は、所得税の担税力を上げなければ、財政赤字の削減は容易に進まないという原理原則には同意するが、そのタイミングには慎重を期し、さらに決定プロセスは公明正大に議論されなくてはならないと考える。
 過去の所得税減税の復元の範囲を越えた給与所得控除の縮小は、過去の控除廃止とは区別して議論を深めるべきであるし、その際の最大の論点は、事業者とサラリーマンの税負担の不公平感であると考える。

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熊野 英生(くまの ひでお) 第一生命経済研究所主席エコノミスト。金融政策、財政政策、為替・長短金融市場を担当。横浜国立大経済卒。67年7月、山口県生まれ。90年4月、日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、00年7月退職。同年8月より現職。主な著書に「籠城(ろうじょう)より野戦で挑む経済改革」(東京経済新報社)、「どうすればリスクに強くなれるか」(近代セールス社)

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に6月27日に掲載したものです。


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2005.06.22

[フィナンシャルi] 誰のための人民元改革?

 人民元を巡る国際的な世論が一段と熱を帯びている。中国に向けられた、海外からのメッセージにこめられたキーワードの一つは「柔軟性」である。切り上げろというよりは、穏やかで便利な言葉である。問題は柔軟性の中身であるが、予想されるのは前日仲値比±0.3%と決められている値幅制限の緩和である。
 ただし、こうした制度変更が人民元の上昇を自動的に生むわけではないことには注意しなければならない。人民元騒ぎの帰趨を占う上で押さえるべきは、何より中国の為替市場の実態である。それは、多様な参加者による売買が価格を決めるという、一般にイメージされる市場の姿からは遠いところにあるのである。(児玉 卓)

 外国為替市場」とは、同国唯一の為替市場、外貨取引センターを指すが、そこでの月間出来高が中国の外貨準備の月間変動額とほぼパラレルに動いている。
 これは同国の為替市場が、市中銀行が企業等から受け入れた外貨を中央銀行である人民銀行に受け渡す場であること、言い換えれば政府が民間から外貨を吸い上げるための場であることを意味している。市場の参加者が極端に少なく、民間同士の売買は殆ど成立していない。買い手はほぼ専ら人民銀行である。人民銀行、従って、中国政府の価格支配力が圧倒的に強いということである。
 このような条件の下では、値幅制限を緩和しようが、変動相場制に移行しようが、レートが実際に動くかどうかは人民銀行次第となる他はない。こうした事情にもかかわらず、世の中には、人民元レートの硬直性は値幅制限など「制度」の結果だという誤解が流布している。
 これは中国政府にとっては実に都合のよいことである。例えば値幅制限を5%に拡大させることで、政府は「市場は柔軟性を獲得した、レートは市場の需給で決まるようになった」と公言することが可能となるからである。
 実際、為替市場改革は、中国政府にとって一石二鳥・三鳥の政策である。まず、前述の「誤解」を利用し、外圧を封じ込めることが出来る。政府管理下における「切り上げ」であれば、その幅に対して米国等からクレームがつくかもしれない。

 しかし今や政府は価格支配力をがっちり握りながらも、レートは市場に聞いてくれと突き放すことが可能になる。中国の経済政策は、すぐれて政治的利害調整の産物であり、また同国はこれまでの「漸進的実験主義」に自信をもっているから、当初の為替レート調整は小幅に留まるだろう。その際、調整が不十分という不満に対しては、「市場が求めた均衡の結果」という答えが用意されているのである。
 人民元レートを現行水準で維持することも容易であるが、それでは制度改革の効果がなかったという評価につながるから、ある程度の元高は演出しなければならない。しかも、昨今の外貨準備の異常な膨張ぶりなどから、人民元が過小評価されているという見方は政府内でも共通認識になっていよう。早晩為替レートを動かさざるを得ないのであれば、余りに窮屈な値幅制限は、政府にとっても邪魔である。
 一見すると中国は外圧等によって為替制度改革を迫られているかに見える。だが実際のところ、中国政府こそが改革の最大の受益者となり得るのである。

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略歴
児玉 卓(こだま たかし)
大和総研資本市場調査部主任研究員
1987年慶応義塾大学卒業、同年大和証券入社、債券部、大和ヨーロッパ(ロンドン)、大和総研経済調査部、大和総研香港などを経て現職

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2005.06.01

[フィナンシャル i ] 中国「世界の消費地」への道のり

 2004年の中国のGDPは実質9.5%増と高い伸びが続いているが、しばしば指摘されるように数多くのひずみや問題点も抱えながらの高成長であると言える。
(三菱証券 経済調査部エコノミスト 戸内 修自)

 昨年は電力などエネルギー不足の発生に加え、無尽蔵とされていた農村からの出稼ぎ労働者不足が顕在化した。これらは今年も根本的な解決には至らず、電力不足は昨年の比べれば幾分緩和されたとはいえこの夏も2500万キロワットが不足すると見込まれている。また出稼ぎ労働者については待遇改善等も奏効し、広東省の珠江デルタ地区で約8割の企業が昨年より状況は改善したと認識しているものの、なお15%の企業が不足感を訴えている。
 今年に入っても、エネルギー不足に対応するための石炭増産が炭坑事故の頻発を招いているほか、一部都市で顕著である不動産価格の高騰に対応するため、政府は住宅ローン引き上げや譲渡益課税の導入を打ち出し、投機の鎮静化に本腰を入れてきている。目下の中国経済の焦点は人民元制度に集中している感があるが、当局者にとってはあくまでワン・オブ・ゼムに過ぎないようにも見受けられる。
 GDPを需要項目別に分解すると、2004年は民間消費が全体の41.9%に対し、企業の設備投資や政府の公共投資も含む固定資本形成が43.6%と、統計が利用可能な1952年以降で初めて投資が消費を上回った。投資・消費の逆転もさることながら40%を上回る高水準の投資比率も他国では過去にあまり例がない。
 中国は安価で優秀な労働力によって海外からの直接投資を惹きつけ、まさに「世界の工場」として機能しているわけで、その結果としての投資比率の高さ自体をことさらに問題視することは適当ではないが、それがさまざまな問題の原因となっていることも否定できない。政府は今年の投資の目標値を昨年よりおよそ10%ポイント低い16%に設定するなど抑制姿勢を明確にしている。
 投資の拡大は過剰貯蓄、すなわち過少消費の裏返しである。都市部世帯の消費の伸びが所得を下回る状態(消費性向の低下)がほぼ一貫して続いており、この背景には社会保障制度の未整備、消費者ローンの滞りといった要因も指摘されている。2004年も一世帯あたりの可処分所得は2004年中も11.2%増加したが消費支出は10.3%の増加にとどまり、この結果消費性向は76.2%と2003年を下回った。
 一方所得の低迷が続いていた農村部では、現政権による農村振興策もあって2004年の食糧生産が前年比9%増加、農家収入も8年ぶりに2ケタの伸びを記録し、都市部との所得格差拡大にもひとまず歯止めがかかった。農村部の消費も昨年終盤以降好調であり消費全体の底上げに寄与、一方で投資抑制策も続いているため、この傾向が続けば現在の投資依存での経済成長の姿も修正に向かうことになる。
 しかしながら、農村部での増収効果が一巡すれば現在の所得・消費の伸びが続くとは限らず、都市部においても一連の消費抑制要因が残る状況では、投資主導型から消費主導型の成長へ、あるいは真の意味での「世界の工場」から「世界の消費地」への移行は直ちには難しいようにもみえる。
 
 ただし12億人の人口を抱える中国の消費の潜在力は疑いのないところであり、最近では香港が中国人の個人旅行解禁に伴う観光客増加を追い風に景気回復軌道に乗ったことが象徴的である。仮に今後人民元の制度改革でレートが切り上がることになれば、消費にとってはプラス材料となる部分も大きい。また2004年末に流通業に関する外資規制が大幅に緩和され、日本企業による現地進出の動きも活発化しているが、現地企業に提供できない商品やサービス、あるいはブランドイメージなどを武器に消費を喚起するという役割も期待される。

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戸内 修自(とのうち しゅうじ)三菱証券 経済調査部エコノミスト
1968年生まれ。91年、東京大学教養学部卒業、東洋信託銀行(現:UFJ信託銀行)入社。経済企画庁(現:内閣府)出向等を経て2001年国際証券(現:三菱証券)入社。経済調査部にてアジア経済調査を担当。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に5月23日に掲載したものです。

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2005.05.25

[フィナンシャルi] 米国金融市場の動揺

 日本の大型連休の谷間にあたる5月6日に発表された米国の雇用統計は、米景気の基調が思いのほか底堅い様子を示した。4月の新規雇用者数は、市場予測の平均値であった18万人を大幅に上回る27.4万人の増加となった。そればかりか、2月や3月のデータも遡及して9.3万人上方修正された。確かに、シリコンサイクルの調整の影響で製造業の雇用は減少しているものの、全体として見れば米国経済は減速しつつも緩やかな拡大が続いている。(BNPパリバ証券会社 投資調査部長 チーフストラテジスト 島本 幸治)

 ところが、米国の金融市場を見ると、景気実態とは裏腹に、先行き不安感が膨らんでいる。株価の低迷が続いている他、ヘッジファンドの破綻の噂が絶えない。
 景気実態と金融市場がミスマッチを起こしているのは何故か。その背景を考える上では、米国の金融政策を振り返る必要がある。FRBは、2000年から始まったITバブル崩壊の影響を食い止めるために2001年に大幅な利下げを実施した。更に2004年の大統領選挙に向けて景気を刺激する目的もあり、複数年にわたり超金融緩和政策を継続した。
 その結果、ドルの過剰流動性が金融市場に供給され、金融市場はリスク選好を強めた。ヘッジファンドが乱立し、特に2003年以降は、世界の株価や事業債、商品市況、REIT、高金利通貨など多くのリスク資産の価格が押上げられた。
 その後FRBは、インフレが発生しバブルが膨張する事態を避けるべく、2004年後半から政策金利の中立化を進めている。もっとも、2004年後半は米国の「双子の赤字」問題が市場で脚光を浴びたこともあり、ドル安トレンドは継続した。それが2005年に入ってから、逆流を始めている。米国の金融引締めの累積的効果により、ドルの過剰流動性が収縮を始めたのだ。
 その結果、2002年から3年間続いたドル安トレンドはドル高トレンドへと転じつつあり、また、株価など世界のリスク資産は一様に不安定化している。こうしたなか、ヘッジファンドのパフォーマンスも軒並み悪化している。
 金融市場におけるリスク回避姿勢の強まりは、社債の価格下落などにも観測される。例えば、米国を象徴する大企業であるGMは、社債の格付けが投資不適格と評価され、市場に衝撃を与えた。ところが、GMの社債は価格が急落するなかで、株価は底堅く推移している。
 現在、米国ではM&Aがブームとなっている。これまでバランスシートの改善を進めてきた米企業は、その余剰資金を増配や自社株買いで株主に還元し始めているばかりか、買収や合併などの資本戦略も積極的になっている。今次局面における金融市場の混乱は、短期的には企業のファイナンス環境を悪化させるものの、企業の再編などを通じて、中期的には企業の体質強化を促す可能性がある。
 ドルの過剰流動性の収縮が、世界経済に与える影響を考える上で重要なのは、米国のマクロ景気そのものは底堅く、ドル相場が持ち直しているという事実である。世界経済はグローバライゼーションを背景とするディスインフレの状況にある。従って、よほどドルが急落でもしない限り、米国がスタグフレーションに至り世界恐慌に至る展開は想定し難い。
 現在の金融市場の動揺は、必ずしも景気の先行き不透明感を示すものではない。寧ろ、ミクロの新陳代謝を促すメカニズムに目を向けるべきであろう。


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島本 幸治 (しまもとこうじ)

BNPパリバ証券会社 投資調査部長 チーフストラテジスト
1990年 東京大学 教養学部 基礎科学科(理論物理専攻)卒業後、日本興業銀行に入行
91年、同行 証券投資室調査班に配属。イールドカーブを中心とする国内金融市場の分析を担当、96年、同行 調査部経済調査班に配属。シニアエコノミストとして日本のマクロ経済調査を担当、2000年3月より現職

日本アナリスト協会検定会員、週刊エコノミスト 2004年(2004年10月)アナリスト・エコノミスト ランキング債券ストラテジストの部 第1位、日経公社債情報 2005年(2005年3月)債券アナリスト・エコノミスト ランキング 債券アナリストの部 第2位(2年連続)、著作に、「企業金融面から見た設備投資動向」(IBJ98年8月号)「過剰設備廃棄論への批判的検討」(IBJ99年7月号)「円高の影響に関する三つの誤解」(IBJ99年11月号)など

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2005.05.18

[フィナンシャルi] 世界経済に巨大なリスクの中国

 2005年には中国が最大の波乱要因にことを本年1月発売の中央公論2月号で指摘した。最近の反日デモや日本製品ボイコットに表れているのは、日中両国間の歴史問題を理由とする単なる政治問題ではなく、世界経済が抱える巨大なリスクである。(山崎養世)

 1979年に始まった中国の改革開放は、政治体制を堅持しながら経済成長を目指し、富むことによって国民を満足させようとした。しかし、1989年の天安門事件を契機に、中国政府は、政治優位・経済従属の体制を明確化した。これに対し中国は欧米から経済制裁を受け、開放路線がつまづき、経済危機に直面した。
 そこで、鄧小平が1992年に経済特区などをテコにした外資の導入を行い、経済成長を促した。先に豊かになれるものから豊かになり、それから全体を牽引すればいいではないかとする「先富論」を唱え、格差の拡大には目をつぶった。
 沿岸部を中心に経済発展は広がり、世界の先進国が中国に進出するようになったものの、非常に格差の大きい社会ができた。この間、官僚の腐敗も進んだ。
 「平等社会の実現」は、共産党の党是である。党是を実現できなかったことに対する人々の不満の矛先を党からそらすために、中国政府は反日運動を利用しているといえよう。今年は抗日戦争勝利60周年にあたる。党が「日本の支配から人民を解放した」ことを前面に出し、党の正当性回復を狙っているのだ。

 次に経済に目を転じると、世界経済のエンジンである中国経済は、バブル状態にある。最大の問題は、巨額の不良債権だ。中国金融は、その大部分を国営銀行が占め、主たる貸付先も国営企業であり、未だに改革開放のない社会主義体制である。改革開放経済に伴い進出してきた外資が、国営企業の経営を圧迫し、不良債権を増加させている。
 また、貸付残高がGDPの1.5倍(170兆円)と、規模が非常に大きい。こうした不安は株価にも表れている。日本や韓国の経済成長期は、GDPの成長とともに株価も上昇した。
 しかし、中国では、上海A株指数はピーク時から4割も下落、B株は3分の1である。最近、アメリカの金利が上がっている。元がドルに連動しているので、中国の金利も上昇傾向にあり、バブル崩壊のリスクが高まっている。

 中国経済に依存する世界経済に、30年ぶりにオイルショックの危機が迫っている。当時と共通するのは、長引くアメリカの戦争、アメリカ財政の悪化、新興工業国の登場(当時のドイツと日本、今の中国)、石油・一次産品価格の上昇、アメリカの国際収支の悪化、新興通貨への切り上げ圧力である。30年前との決定的な違いは、グローバリゼーションが進み、不均衡が拡大しやすい構図になっていることである。
 従って、中国経済の混乱が顕現化してしまったときに、それをいかに迅速にどうやって軟着陸させるかが、世界にとっての課題となる。アメリカが今要求しているように元が変動相場制に移行すれば、為替の乱高下によって中国の危機が一気に表面化する恐れすらある。

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山崎養世(やまざきやすよ)
1958年、福岡市出身。東京大学経済学部卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営学修士(MBA)。大和証券(株)を経て、94年ゴールドマン・サックス社入社。以後、ゴールドマン・サックス投信(株)社長などを歴任。2002年に同社を退社し、山﨑養世事務所を設立。現在は、金融、財政、農林水産業、国際経済問題等に関する調査・研究、提言活動を行っている。著書に、「勝つ力~ビジネスの勝ち方は学ぶことができる」(ダイヤモンド社刊)、「大逆転の時代~日本復活の最終処方箋」(祥伝社刊)などがある。 URLはhttp://www.yamazaki-online.jp/


(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に5月9日に掲載したものです。

2005 05 18 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.05.11

[フィナンシャルi] 不動産投資はリスク踏まえて

 私は、1996年から個人向けにインターネットを通じて、不動産のコンサルティングを行う会社をやっております。現在では、毎日全国からあらゆるご相談が寄せられています。  
 一般消費者に代わって購入前に不動産を調査することも行なっておりますが、これはあくまでも自宅としての購入を前提としたものでした。しかし、ここ数年、一般のサラリーマンの方々から不動産投資に関するご相談や調査依頼が急増しています。(長谷川 高)

 将来の年金に対する不安も大きいのでしょうし、昨今、書店へ行けば、「誰でも簡単に大家さんに成れる」といった書籍が多く並んでいます。実際に弊社の相談者と接して感じることがあります。皆さん真剣に不動産投資に興味をもって勉強していますが、不動産固有の「リスク」に関する基本的な認識が足りないのではと感じる時が多いのです。
 現在の低金利の状態では、余剰資金を国債や定期預金等で運用しても充分な運用益が得られません。そこで、相対的に利回りが高く、ある程度の収益を実際に得られるのは「不動産投資」ではないかと。確かに、新築にワンルームマンションでは、「利回り5%」前後をうたう物件もありますし、地方や郊外の中古アパートでは表面で 10%前後の利回りの物件も存在します。
 またリートと呼ばれる不動産投資信託(リート)に関する相談も最近増えておりますが、このリートの特徴は数十万円程度の資金で不動産を証券化したものを購入できるというものです。市場に上場しているものであれば、購入も売却も即座に行うことができます。このリートの利回りもおおよそ3%~4%ですから、やはり個人国債や定期預金に比べれば、見かけ上充分に高利回り商品であると言えるでしょう。
 しかし、これら不動産や不動産投資信託を買う上での「リスク」をしっかり認識し、理解した上で購入することが必要です。

 まず第一に「流動性(換金性)のリスク」です。上場している不動産投資信託(リート)以外の実物不動産投資は他の金融商品投資に比べ著しく流動性が低いということです。急に事故や病気によりお金が必要になっても直ぐに売却して換金することは、現実的ではありません。よって、あくまでも余剰金で投資を行う必要があります。一般のサラリーマンやOL・主婦の方々がなけなしの預金を注ぎ込んで投資するには適さない投資です。

 次に「金利上昇のリスク」です。現在、公定歩合は実質0%で、国債等の長期金利は約1.5%程度です。この状態は異常と言えますので、今後日本経済が復調してきた場合、当然、徐々に金利は上がっていくでしょう。その場合、不動産の市場で期待される利回りは、どうなるでしょうか。仮に長期金利が3%になった場合、例えば現状のリートの利回りでは当然市場は満足しないでしょう。+2%程度の当5%前後の利回りを当然要求されことでしょう。ここで、賃料が上がらなければ、リートの価格自体が下落します。マンションやアパート投資も同様です。より高利回りが要求され、その分、賃料が上がらなければ物件価格が下がり、この場合、購入時の価格を時価が下回る「キャピタルロス」が発生する可能性が出てきます。また金利が上昇すれば、変動金利でローンを組んで購入している場合の月々の利払いの額も上昇しますので、当然手取り額は減ることになります。

 次に「空室のリスク」です。日本の人口構成を見る明らかですが、これから大量の団塊の世代の方々が退職される時代が来ます。オフィスの需要減退はマクロ的には避けられないでしょう。またワンルームマンションの需要者である単身者(20代から30台前半の世代)は、ボリュームゾーンである「団塊ジュニア」以降の若年人口が激減していることにより今後は厳しい時代になってきます。

 こういったいくつかのリスクを充分に踏まえた上で、不動産関連の投資については判断をすべきです。
 その他「地震に対するリスク」や「将来の修理・修繕費用のリスク」といったエンジニアリング的な観点も必要です。つまりこのような様々なリスクがある故、不動産は他の金融商品より高い利回りなのです。
 そして、この他の金融商品との利回りの「差」がいわゆる「リスクプレミアム」なのです。現在の表面的な高い利回りだけに注目した投資は、決して賢い投資行動とは言えません。リスクを踏まえた総合的な評価が必要であり、立地も含め上記リスクができるだけ低い物件を厳選に厳選し投資する必要があります。

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長谷川 高 (はせがわ たかし)

1963年生まれ。東京都出身、立教大学経済学部卒。株式会社リクルートコスモスにて都市開発・ビル開発部、マンション企画開発部等にてデベロッパー業務全般に従事。1996年デジタル不動産コンサルタントLTD.設立。日本で初めて、インターネットを利用した消費者サイドに立った建築・不動産のコンサルティング事業を開始。他にコーポラティブハウスや老朽化ビル・マンションの再生事業を行う。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に5月2日に掲載したものです。

2005 05 11 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.04.27

[フィナンシャルi] 長期低迷脱した国際商品市況

 2001年末以降、世界景気の回復や、買い手として存在感を強める中国やインドの需要拡大を背景に国際商品市況が上昇している。
 代表的な国際商品指数であるCRB先物指数は、ほぼ一貫して上昇を続け、1980年のオイルショック期の最高値水準に迫っている。
 主な商品の動向をみると、原油や金・プラチナ等の貴金属が、需要拡大と中東情勢緊迫、ドル安などを背景とした投機資金の流入に影響されて大きく上昇しているほか、銅、ニッケル等の非鉄金属が世界的なIT関連需要の回復にともなって上昇している。
 また、中国の自動車生産拡大を背景にタイヤ用途が需要の約8割を占める天然ゴムも上昇基調にある。
(UFJ総合研究所 調査部研究員 丸山俊)

 今回の国際商品市況高騰の特徴として重要なポイントは、過去20年にわたる一次産品価格の低迷に対する、供給サイドの生産調整や国際的な企業再編といった構造的な変化がある。
 採算性の悪化と厳しい国際競争によって、供給サイドでは合併・買収による業界再編や減産による生産調整が進展し、一次産品の需給改善に寄与している。ここ数年の間で川上産業の鉄鉱石、石炭産業が世界三大グループに集約されたほか、鉄鋼、アルミ圧延、石油、紙・パルプで寡占化が進展した。
 また、アジア通貨危機後から市況低迷が続いた銅、ニッケルなどの非鉄金属では、輸出削減、減産、鉱山閉山といった供給抑制の効果が在庫減少となって表れてきており、需給が引き締まって市況を押し上げている。
 国際商品市況を巡る構造的な変化は、わが国企業にも影響を及ぼしている。原材料の約6割を輸入に依存するわが国製造業にとって、国際商品市況の上昇はコスト上昇につながる。
 これまでコスト上昇の影響を主として被っていたのは国内需要の縮小と過剰設備の問題に直面していた鉄鋼、石油製品、紙・パルプ・木製品、繊維といった素材業種である。素材業種では、原材料価格上昇にともなうコストアップ分を販売価格に転嫁できずに固定費削減や自らの利益を削ることで対応してきた。

 しかし、今や業界再編による設備集約と中国・アジア向け輸出の拡大をテコに、これら素材業種が価格転嫁力を取り戻している。
 その一方で、これまで素材メーカーの過剰設備を背景に原材料を安く調達していた電気機械、一般機械、輸送用機械、精密機械といった加工業種は、業界再編を終えた川上の素材業種からの値上げ攻勢と中国・アジアからの安価な輸入品との競合という両面から収益が圧迫されている。
 このように、国際商品市況上昇の背景にある構造変化は、わが国に原材料インフレと製品デフレとも呼べる状況をもたらし、企業収益にも影響を与えている。
 一方、世界全体で見ると、国際商品市況の上昇は消費国から一次産品国へ所得移転をもたすだけでなく、一次産品国の購買力が高まることによってそれらの国への輸出が拡大する。
 実際、わが国からも原油高で潤う中東産油国へ自動車や電機機械などを中心に輸出が急速に拡大している。  需給両面の構造変化を背景に、国際商品市況は長期的な低迷を脱した感があるが、わが国経済に与える影響は強弱両面がある。

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丸山俊 UFJ総合研究所 調査部研究員
2001年、早稲田大学政経学部卒。三和総合研究所(現UFJ総合研究所)入社、調査部研究員としてマクロ経済調査を担当。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に4月11日に掲載したものです。


2005 04 27 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.04.20

[フィナンシャルi] 鋼材価格上昇で中国にインフレ圧力

 近年、ブラジルやオーストラリアなど鉄鉱石の有力産地で輸出が急増している。背景には、世界最大の鉄鉱石の消費国である中国で鉄鋼の生産が増加していることがある。
 中国では、国内需要が盛り上がるなか、自動車や船舶を生産するための鋼板、オフィスビル・マンションを建設するための建材など、各種鋼材の生産活動が活発になっている。中国政府は、過熱気味の投資を抑制するための引き締め政策を強化しているが、その効果はこれまでのところ限定的なものにとどまっており、鋼材生産が減退する気配はみられない。
 鋼材については、ある程度中国国内で生産できるが、原料となる鉄鉱石については供給能力が圧倒的に不足しており、海外からの調達に頼らざるを得ない状況だ。(第一生命経済研究所 主任エコノミスト 門倉 貴史)

 中国の通関統計によると、2004年の鉄鉱石輸入額は前年比+161.5%と急伸した。鉄鉱石の輸入の6割をブラジルとオーストラリアに頼っているため、2004年はシェアの大きい両国から中国に向けた鉄鉱石の輸出が急伸したとみられる。
輸出が好調であるため、ブラジルやオーストラリアでは鉄鉱石の採掘・生産が大幅に拡大している。有力鉄鉱石メーカーの間では生産能力の増強を図る動きも出始めてきた。鉄鉱石メーカーが生産能力の増強を開始したことで、いずれは需要の超過が解消されることになろう。
 もっとも、メーカー各社の投資が生産能力に転じるまでには数年の期間を要するため、鉄鉱石の需給が均衡してくるのは早くとも2007年以降になる。
 
鉄鉱石業界ではメーカーの寡占化が進んでいるため、国際市場で鉄鉱石の需給が逼迫した場合、供給側の価格交渉力が強まりやすい。実際、最近では需給の逼迫を背景として、メジャー3社とも各国の鉄鋼メーカーとの価格交渉でかなり強気の姿勢を示すようになった。

 たとえば、ブラジルの大手鉄鉱石メーカーと日本の鉄鋼メーカーとの間で今年3月に妥結された2005年度の鉄鉱石・基準取引価格は、前年比+71.5%と過去最高の伸びを記録した。中国の鉄鋼メーカーとの交渉においてもほぼ同様の伸びで落ち着くもようである。
 鉄鉱石価格の急騰による日中鉄鋼メーカーのコスト負担は大きく、鋼材への価格転嫁は避けられない。日中の鉄鋼メーカーは鉄鉱石の価格が71.5%引き上げられれば、鋼材価格は10%から20%程度値上がりするとしている。
 産業連関表を使って、鋼材価格が値上がりした場合に日中の物価に最大限どれだけの上昇圧力が生じるかを試算すると、日本については、鋼材価格が20%上昇すると国内企業物価が+0.23%p押し上げられ、消費者物価が+0.10%p押し上げられる。
 一方、中国については、鋼材価格20%の上昇で生産者物価が3.01%p押し上げられ、消費者物価には1.03%pの上昇圧力がかかる(図表)。
鋼材価格上昇がもたらす潜在的なインフレ圧力は日本よりも中国で強く現れる。これは、各種の経済活動における鋼材の投入割合が日本に比べて圧倒的に高いためだ。中国のインフレ率は、食料品価格の沈静化により足下で鈍化傾向にあるが、素材価格全般の上昇を受けて、今後は食料品の要因とは別にインフレ懸念が強まる可能性が高い。

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門倉貴史(かどくら たかし)
第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト
1971年神奈川県生まれ。95年慶應義塾大学経済学部卒業後、(株)浜銀総合研究所入社。
99年に日本経済研究センター、2000年にシンガポールの東南アジア研究所に出向。2002年4月より現職。マクロ経済、アジア経済などを担当。主な著書に「中国経済大予測」(日本経済新聞社、2004年)、「少年犯罪と地下経済」(PHP研究所)など。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に4月4日に掲載したものです。

2005 04 20 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.04.13

[フィナンシャルi] 求められる原料確保戦略

 産業インフラを支える電線、メッキ、合金などに広く利用されている銅、亜鉛などのベースメタル価格が一昨年秋以降軒並み世界的に高騰している。その要因は、中国の急激な需要増と米国、日本の金属消費がIT関連需要を中心に急回復したのに対し、生産が追いつかず、需給バランスが大幅な供給不足に陥っているためだ。
(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 金属資源開発調査企画グループ 調査チーム チームリーダー 西川 信康)

中国の資源事情

 銅市場をはじめ、1990年代の国際非鉄金属市場は着実に拡大した(1990年から2003年にかけて銅、亜鉛消費とも約40%増加)。その背景には中国の経済成長に伴う金属消費量の急拡大がある。中国の銅及び亜鉛の2003年の消費量はそれぞれ、約300万トン、200万トンと世界最大の消費国になっており、1990年以降、市場規模がそれぞれ、6倍、4倍に拡大している。
 こうした旺盛な需要に対し、中国は、国内の資源不足のためこれら金属原料の多くを海外からの輸入に依存しているというのが実状である。急激な消費拡大に伴い、銅生産も大きく増大しているが、中国の銅原料調達の内訳は、国内鉱石、輸入鉱石、輸入地金及びスクラップからなり、これらの原料を中長期的にバランス良く確保することが中国の基本的な原料確保戦略である。
 しかしながら、中国の国内鉱山生産は頭打ちで、海外依存率((海外鉱石+輸入地金)/国内消費量)が年々高まっている。また、亜鉛も2004年から純輸入国に転じており、海外からの鉱石輸入及び地金輸入などの原料調達が拡大している。
 そのため、中国は、こうした金属原料の安定確保のために積極的な資源外交を繰り広げている。例えば、昨年10月の中国五鉱集団公司(中国国営の金属資源商社)によるカナダ最大の非鉄企業・ノランダ社買収交渉はその象徴的なニュースとして世界の資源関係者を驚かせた(その後本年3月に買収を断念したが、今後は個別の鉱山開発プロジェクトに資本参加する方向で協議中)。
 また、世界最大の銅生産企業であるチリ・コデルコとの提携や世界第3位のニッケル埋蔵量を誇るキューバでのニッケル資源開発に関する協定、さらに、世界有数の銅資源国であるチリ、ペルーと自由貿易協定交渉が進行中と言われている。
 一方、中国国内では、資源ポテンシャルが期待されている西部地域開発振興の奨励や、外国企業への門戸開放を拡大しているが、インフラの問題や鉱業権の許認可制度が不透明(特に外資が問題視)であるなど、鉱業投資の進展が遅く、一部(新彊ウイグル自治区や雲南省など)で銅鉱山開発の動きもあるが、実現には至っていない。
 現在、中国の一人当たりの銅消費量は2.3kgと言われている。これは、先進国(日本:9.5kg/人、米国:8.0kg/人)と比べて、依然低水準で、日本の1950年代のレベルである。中国経済は、短期的には景気循環に伴う変動はあっても、中長期的には持続的に成長が続き、今後も金属市場に大きな影響力を及ぼしていくものと予想される。

インドの影響も

 また、その他のBRICs諸国の動きも注視していく必要がある。特にインドは中国以上に国内の銅資源が不足しており、銅の自給率は1割にも満たないため、豪州やザンビアなど海外の銅鉱山権益の獲得に積極的だ。当面は中国ほどの資源消費の急拡大はないものの、将来的には資源獲得競争に影響を及ぼしてくる可能性が高い。
 一方、我が国は、世界第3位の銅消費国かつ銅地金生産国であるが、その原料鉱石はすべてチリやインドネシアなど海外から輸入している。しかしながら、昨今の中国や韓国などのアジア勢の台頭により、我が国の世界の銅精鉱の貿易シェアが年々低下している。その結果、我が国のバーゲニングパワーが減少しており、探鉱・開発を含めた安定的な原料確保等の展開が急務となっている。


(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に3月28日に掲載したものです。


2005 04 13 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.04.06

[フィナンシャルi]  "二極分化”で読み解く地価公示

 23日に公表される2005年1月1日時点の地価公示は、東京都心部での地価上昇ポイントの増加と首都圏全域での下落ポイントの減少、および地価下落率の縮小傾向が示されるものと思われる。また、大阪や名古屋など首都圏以外の都市圏中心地にもようやく同様の兆しが現れているとの見解も示される可能性がある。毎年発表される地価公示の推移を詳細に見れば、このような傾向についておおむね予測可能である。
(株式会社東京カンテイ 市場調査室 主任研究員 中山登志朗)

 例年、地価公示の前後には、今後の不動産を取り巻く環境について様々な予測が公表されるものだが、近年の論調は概ね二つに大別される。一つは東京都心部の経済状況に基づく不動産価格の推移(つまり下げ止まりから上昇へというベクトル)が他の地域にも徐々に波及し、今後は業務性の高い地域に関しては地価が徐々に上昇するであろうとのやや楽観的・好意的な状況を示唆するもの、もう一つは東京都心部の価格動向は波及せず、地方都市の地価や不動産価格が依然として下げ止まらないとの論旨を展開するものである。
 これらは、いずれも東京都心部の不動産市場の現状をコアにしつつ、その読み解き方の違いを反映したものと言える。その意味では多分に心理的な要素も含まれているとも考えられるが、筆者の所属する東京カンテイが保有するデータを読み解くと、ひとつの状況が浮き彫りになる。
 それはビジネス集中・資本集中を背景とした不動産市場を有し、その象徴的な存在である「東京」と、集中化傾向が弱い、もしくはそれを持たない「東京以外」の市場構造の違い、つまり“市場構造自体の二極分化”が背景にあるという事実である。

 不動産は“所有”から“使用・収益”へと発想を変えることで新たな価値を見出すことができるとは繰り返し言及されてきたことだし、収益還元法の導入が需要者の意識に影響を与えていることも事実だが、それを実践し、結果的に不動産市場を下支えしているのは、国内外の機関投資家および地方富裕層を中心とした個人投資家の旺盛な需要であり、住居以外の使用目的を持つ事業者のニーズなのである。
 端的に言えば、「東京」は“実需”と“投資”の二段重ねの市場構造となっており、「東京以外」は専ら“実需”のみと言い換えることもできる。したがって、「東京」に隣接していても投資マネーの流入がなければ、その地域での不動産市場は、事実上個人や小規模事業者のニーズを対象としたもののみとなってしまう。

 不動産投資信託(J-REIT)の登場から約4年、上場銘柄は確実に増加し2005年3月現在16銘柄、時価総額は1兆8700億円を超える。この間、私募ファンドの組成も活発化し、不動産ファンドに関連したニュースを耳にしない日はないと言っても良い。
 まさしく不動産投資市場は急成長を遂げており、東京都心部においては不動産に対するリスクプレミアムも薄れつつあることから物件の取引価格は上昇傾向にあって“ファンドバブル”と形容される状況すら訪れている。
 しかし、これらはほぼ「東京」を対象としたものであり、「東京以外」へ目が向けられる割合は極めて少ないと言わなければならない。
 “不動産への投資”が容易になったことが、もともとキャッシュフローのポテンシャルを有していた東京都心部の市場を刺激し、実需物件へもシナジーとして表れる。
 つまり、「東京」と「東京以外」では、不動産をコアビジネスに据えるプレイヤーの意識が全く異なり、その意識の違いが投資マネーの流入の有無に表れるという現状認識こそ、不動産を取り巻く様々な“二極分化”を読み解くためのキーなのである。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に3月21日に掲載したものです。

2005 04 06 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.03.23

[フィナンシャルi] 素材産業に3つの追い風

 日本の製造業の中で成熟産業とされてきた素材産業が、このところ存在感を強めつつある。日銀短観(2004年12月調査)によれば、大企業製造業の2004年度の経常利益は前年比24%増となる見通しだが、うち素材業種の増益率は同37%と加工業種の同17%を大きく上回っている。
(東レ経営研究所 チーフエコノミスト 増田貴司)
 

 素材産業復活のキーファクターとして誰もが指摘するのは、中国の高成長とデジタル家電需要という2大要因である。しかし、日本の素材復活の背後には、もう一つ「アナログ的要素の復権」という要因があることも見逃すべきではない。

 まず中国については、2004年の中国向けの鉄鋼輸出は前年比23%増、化学製品輸出は同29%増となり、中国は日本の鉄鋼輸出の21%、化学製品輸出の19%を占める重要市場となっている。
 素材メーカーが中国の成長の恩恵を享受できたのは、国際分業の進展のおかげだ。日本の製造業は国内の空洞化を回避するために、「最終製品の組み立てを中国など東アジアで、基幹部品・素材の生産を日本で」といった工程間分業体制を構築してきた。この結果、中国などでの海外生産が拡大すればするほど日本の素材供給メーカーは中国向け輸出で潤う構図となっている。

 次にデジタル家電については、2003年以降、デジタル機器の市場拡大を背景に電気機械メーカーが内外で生産・投資を活発化させたことが、半導体材料や液晶用材料を供給する日本の素材メーカーの業績の牽引役となっている。
 半導体材料、液晶用材料の分野で日本企業は世界市場において圧倒的なシェアを誇っている。液晶用材料の中でも、偏光膜保護フィルム、視野角補償フィルム、カラーフィルター用顔料分散材料などは日系企業がほぼ100%のシェアを握っている。
 また、デジタル家電の最終製品が予想を上回る価格下落のために低い利益率に苦しんでいるのに比べると、これらデジタル関連部材は収益面での貢献も大きい。

 しかし、日本の素材復活の背後には、もう一つ「アナログ的要素の復権」という要因があることも見逃すべきではない。
しかし、素材産業の好調が前述した中国特需とデジタル家電ブームの恩恵だと片付けてしまうと、底流で起きている重要な構造変化を見逃す恐れがある。
 素材産業が最近競争力を強めている背景には、IT(情報通信技術)が社会に浸透したことで、製品・部品の差別化のポイントとしてアナログ的な要素の重要性が増したことがある。その結果、材質に対するこだわりと熟練、素材の「作り込み」といったものが付加価値の源泉になりつつあるのだ。
 「IT革命」初期の頃には、ITの活用によって完成度の高いモジュール(半製品)の販売・調達が世界規模で可能になった結果、製品の生産をモジュールごとに最適地に分散して組み合わせてつくるやり方が強みを発揮した。
 しかし、ITが社会に浸透するにつれ、デジタル化による機能の進化では目に見える差をつけにくくなり、材質や風合いといったアナログ的な要素が見直されてきたのである。
 一例をあげれば、目下大ヒット中の商品であるアップル社のiPodの背面のステンレス鏡面仕上げは、研磨技術に定評のある新潟県燕市の町工場で熟練職人の手作業で加工されているという。
 アナログ的要素の復権は、日本の素材メーカーにとって既存の技術・技能の蓄積と「擦り合わせ」の強みを活かして高付加価値な素材を供給する事業機会が拡大していることを意味する。

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増田 貴司 (ますだ たかし)
1983年京都大学経済学部卒。同年日本債券信用銀行入社。マクロ経済調査、金融マーケット調査、経済社会調査等を担当し、97年調査部経済調査課長。2000年東レ経営研究所入社。2002年6月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員。メーカー系のエコノミストとして、日本経済新聞夕刊「十字路」など新聞、雑誌等への寄稿多数。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に3月7日に掲載したものです。


2005 03 23 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.03.02

[フィナンシャルi] 「観光立国」は「日本立国」

 日本への外国人観光客(インバウンド観光客)の数は、日本人海外旅行客の約三分の一に過ぎず、世界的にも31位と非常に低い順位に甘んじている。この、国内総生産(GNP)に比してまだまだ小さいインバウンド観光の潜在力に目を向け、政府は、2007年までに外国人観光客数を現在の倍に増やし、15万人以上の雇用を創出して「観光立国」を果たそうともくろんでいる。(慶応大学教授  中条 潮)

 この方向性にはさほど異論はない。しかし、その促進策は、郷土観光の振興とか親善観光大使の派遣といった現行施策もさることながら、国自体の活力を高める施策に重点が置かれるべきである。
 意外なことに、国を問わず外国人観光客が高い関心をもつ日本の観光資源の1-3位は、「ファッション」、「ショッピング」、「大都市」といった「現代日本」であり、伝統遺産への興味は低い。
 特に今後のインバウンド振興のターゲットとなるべき東アジアについては、その若年層が抱き始めている「カッコイイ日本」のイメージは、ポップ・シンガー、アニメ・キャラクター、ゲームなどが代表する現代日本であって、神社仏閣や郷土芸能では決してない。
 言うまでもなく、現代的魅力を生み出すのは国自体の活力である。活力をうしなえば、これまでの経済成長で作り上げてきた「カッコイイ日本」というイメージの継続は不可能となる。

 したがって、活力を損なう障壁をとりはずすことこそ、観光立国を成功させる秘訣である。具体的には、第一に、「閉ざされた日本」をオープン化すること、すなわち、ヒト、モノ、カネの流入を積極的に認めることである。
 これらの障壁の除去は、日本のインバウンド観光がふるわない理由としてしばしばあげられる「低い外国語能力」、「厳しい外国人流入規制」、「高物価」といったマイナス面を結果的に是正するうえでも効果がある。
 国が開かれていなければ、外国語の能力向上の必要性も機会も、外国人受け入れのホスピタリティも育たない。外国人が自由に流入できなければ、観光客も居住外国人の親族・友人の来日数も抑制される。日本の高物価も、労働力オープン化の後れと、輸入規制および国内における規制緩和と競争促進の後れがあいまって、日本経済の効率化・活性化が阻害された結果である。
 付言すれば、外国人労働力の自由な流入が犯罪の増加をもたらすという批判は、有意な統計的考察に基づくものではない。
 第二に、観光政策の重点は大都市に置かれるべきである。現代的魅力は大都市において発生する魅力であるし、国の活力の源は大都市だからである。地方自治体の多くは年間数千万から数億円をソウルへの航空路線に補助しているが、そのような対策より、大都市の社会資本整備と環境改善に重点を置くほうが観光政策上も公共政策上も効率的である。

 地方は、補助金に頼らず、観光事業者と地域間の競争促進によって価格低下と需要獲得を図らねば、公共事業と同様の憂き目をみる結果となろう。
 観光立国とは、すなわち、日本立国であることが理解されるべきである。

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中条 潮 (ちゅうじょう うしお)
慶応大学商学研究課博士課程修了、慶大商学部助教授を経て1992年より教授。公共問題・社会問題を経済学の視点から研究。米「TIME」誌で、"Deregulation Warrior"(改革派の勇士)と紹介され、みずからもスカイマーク航空の設立に参加した規制改革論者。著書に『規制破壊』(東洋経済新報社)ほか。


(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に2月21日に掲載したものです

2005 03 02 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.02.09

[フィナンシャルi] 保険会社経営は多角化時代へ

 生保の伝統的なビジネスモデルといえば、大規模な営業職員組織による死亡保障を中心とした商品の訪問販売である。他方、損保は実質的に自動車保険会社であり、収入保険料の六、七割を自動車保険と自賠責保険が占める。
 ところが近年、保険会社が主力としてきた分野の不振が著しい。生保の個人保険保有契約高(=死亡保障を示す)は一九九八年度をピークに減り続け、損保の自動車保険は三期連続でマイナス成長となる可能性が高まってきた。 (植村 信保)

 このような中、成長性の高い分野や地域に経営資源を投入し、勝ち残りを果たそうという動きが目立ってきた。
 多角化戦略では生保よりも損保が先行している。自動車保険の減収傾向に加え、損保は外国人株主の比率が高いこともあり、投資家から余剰資本の有効活用を強く求められているのも一因だ。
 損保各社はまず生保事業に参入し、最近では終身医療保険や個人年金にも積極的だ。新設の子会社として出発した東京海上日動あんしん生命はすでに中堅生保に成長。三井住友海上が米シティグループと合弁で設立した三井住友海上シティ生命は、外資系のハートフォード生命とともに変額個人年金の二強である。
 海外での保険引き受け事業にも力が入ってきた。従来は海外に進出した日系企業の支援が中心だったが、今回は現地企業や個人とのビジネスが視野に入っている。三井住友海上は昨年、英アヴィヴァグループからアジアの損保事業を買収し、東南アジア地域の外資系損保としてトップクラスの地位を築いた。
 生保でも死亡保障に特化するのではなく、医療や介護保障など第三分野に軸足を移す動きが目立ってきた。なかでも朝日生命は、二年前から死亡保険金の目標を廃止し、第三分野を重視した業務運営に切り替えた。その結果、今上半期に獲得した新契約のうち、八割以上が第三分野のものだった。そこまで極端ではないが、大手生保も既契約者のミドル・シニア層を中心に医療、介護保障を提供するようになってきた。

 ただ、多角化戦略は新たな成長機会を探るのと同時に、新たなリスクを抱えることでもある。平均寿命が安定している死亡保障商品や、事故データが豊富な自動車保険とは違い、これまで以上に保険引き受けリスクの管理が重要になってきた。
 例えば損害保険は一年契約が中心だが、生保や医療保険は大半が長期契約である。生保の逆ざや問題に見られるように、一度リスクが顕在化してしまうと、そう簡単には修正が効かない。
統計面や規制面の問題もある。第三分野では入院などのデータが必ずしも安定しておらず、どのデータを使うかによって料率が大きく変わってしまう。規制面でも、死亡保障のような将来の保険金支払いに備えた準備金の明確なルールがなく、各社の判断に任されている。
 日本の保険会社は右肩上がりの市場と厳しい規制環境のなかで、売り上げを伸ばすことに集中してきた。
 しかし、多角化時代の保険経営は、販売イコール利益ではないという当たり前のことを再確認する必要があるだろう。

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植村 信保(うえむら のぶやす)
格付投資情報センター(R&I)シニアアナリスト。
1990年、東大文卒。
安田火災海上保険(現損保ジャパン)を経て、97年、日本公社債研究所(現R&I)入社。
生損保を中心に金融機関の格付けを担当している。
書著に「生保のビジネスモデルが変わる」(東洋経済新報社、03年)などがある。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に1月24日に掲載したものです。

2005 02 09 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.01.26

[フィナンシャルi] 不良債権問題は終わったのか

 大手銀行の公表不良債権は、新規発生の減少などから早いペースで縮小しており、2004年度末までに2003年3月の水準から半減させるという政府の目標も実現できそうである。銀行経営陣からは「不良債権問題はほぼ解決した」というコメントも聞かれる。確かに2年前に比べて銀行の財務内容が改善しつつあるのは事実であるが、これは危機的な状況から脱したという程度であり、不良債権問題が終わったとみるのは時期尚早と考える。(根本直子)

 第一に不良債権は過去の水準からみて低下したとはいえ、海外先進国の銀行と比べると依然高い。不良債権の貸出しに占める比率について、日本の大手銀行と海外行とを比較すると、邦銀はグロスでも、引当金控除後のネットの比率でも依然として高めである。不良債権がバランスシートに残る限り、景気の悪化や地価の下落に伴い追加損失が生じる可能性がある。邦銀の場合、損失を吸収する自己資本や利益率が相対的に弱い点を考慮すると、楽観できる状況ではない。
 第二に、不良債権の減少は、2003-4年度の高い成長率に支えられていたが、景気減速下でそれが継続するのかは不透明である。例えば2003年以降、多くの銀行で不良債権処理額がマイナスとなっている。これは、借り手企業の業況改善により、一旦損失に備えて積んだ引当金の戻りが発生したため、と説明されている。しかし、格上げされた企業が抜本的に改善したといえるのか、景気回復の中で企業審査がやや甘くなっていないか、についてはなお検証が必要であろう。
 第三に、過剰債務を抱える企業の再生について、銀行は引き続き負担を背負っている。最近、銀行が債務株式化などの金融支援を行うケースが増えているが、取得した株式は不良債権には通常含まれない。
 UFJグループは再生支援のため取得した優先株式が2004年9月末時点で3800億円と公表しているが、これは全貸出額の0.9%に上る。一般に貸出に比べて株式のほうがリスクは高い。
 例えば銀行が2002年以降ダイエーに対して拠出した優先株式等はほぼゼロに減額されるとみられている。支援先企業が健全化し、銀行が保有する株式を市場で売却できる状況になるまで、問題が解決したとはいえないだろう。
 第四に、金利の適正化と利益強化が進んでいない。不良債権問題がここまで深刻化した原因は、リスクに応じたリターンをとっていなかったという点にある。邦銀も金利の適正化をスローガンに掲げているが、最近は利益率よりも貸出の量を追及する動きがみられる。
 また住宅ローンなど比較的利ざやの厚いリテール貸出でもダンピング的な動きが広がっており、将来発生するコストを十分カバーできるかが懸念される。銀行の行動の背景には、預金が増加する一方、貸出低迷が続くという、構造的な資金余剰の問題もある。
 以上のように不良債権は根の深い問題であり、半減目標が達成されれば解決するものではなく、むしろ今後2-3年が将来の動向を決める重要な時期とみるべきではないだろうか。
 また、過去の問題を繰り返さないために、銀行はリスク管理方針を厳格に適用し、リスクとリターンを重視した行動をより徹底させていく必要があるだろう。

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根本 直子(ねもと なおこ)
早稲田大学法学部卒(1983年)、シカゴ大学MBA(94年)。
日本銀行を経て、94年にスタンダードアンドプアーズ社に入社。
日本、韓国の銀行、証券、保険、金融会社の格付けを所轄する金融サービスグループのディレクター、チームリーダー。著書に「韓国モデルー金融再生の鍵」(中公新書ラクレ)、共著に「日本の金融業界2005」(東洋経済新報社)。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に1月17日に掲載したものです


2005 01 26 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2005.01.13

[フィナンシャル i] 一大転換点迎えた05年金融行政

 2005年は日本の金融システムにとって大きな節目になりそうだ。大手行の不良債権比率半減目標が3月期末に達成できそうであるし、4月からペイオフ(預金など払戻保証額を元本一千万円とその利息までとする措置)解禁が普通預金等にも拡大される。
 これは、金融行政がこれまでの不良債権問題処理・金融システム安定至上主義から転換することを意味している。ペイオフ解禁拡大以後は、ペイオフを前提として預金者の自己責任や預金者による銀行選別(市場規律)を重視されることになる。こうした金融行政の節目に当たっては、「不良債権問題を完全に解決した上で、ペイオフ完全解禁を行う」というのが理想であったはずだ。
 

 しかし、地域金融機関の不良債権問題処理は、地域金融機関の特殊性を強調する余り、大手行にくらべて遅れてしまった。また、ペイオフの完全解禁は実現されず、4月以降も「決済性預金」(無利子、要求払い、決裁サービスの提供を要件)に限り全額保護が継続する。

 金融危機が発生した際に、日本のように預金の全額保護が導入されることは珍しくないが、金融システムが安定化すれば、市場規律を弱め、銀行のモラルハザード(倫理の欠如)を誘発する全額保護は速やかに解除することが望ましい。かつて全額保護を導入した北欧諸国や韓国などは既に部分保護に移行しており、日本はOECDの中でペイオフ完全解禁を行っていないのは唯一の国なってしまった。
 また、決済性預金の永続的な全額保護は、世界でもチリに例をみるぐらいで、国際標準からかなりかけ離れた政策と言わざるを得ない。
 ただし、「決済性預金」の全額保護の影響は限定的かもしれない。金融機関や預金者が負担する様々な「決済性預金」の導入コストや将来の金利上昇を考慮すると、金融機関を選択できる預金者は金利がつかない「決済性預金」よりも安全な銀行の普通預金を選ぼうとするであろうし、優良な銀行であればあるほど「決済性預金」の導入には消極的であると思われるからだ。
 「決済性預金」の導入に向けた各金融機関の取り組みをみても、導入済みの割合は、信用金庫では比較的高いが、銀行ではまだ21%であり、取り組みにも温度差がみられる。「決済性預金」を選ぶ預金者は、当該地域において金融機関の選択の余地の少ない場合、また、マンションの管理組合や地方公共団体などのようにその公的な性格を反映して、安全性が第一であり、預け先も固定化したいというニーズを持つ場合などに限定されると思われる。

 ペイオフ解禁拡大を契機に預金者が「決済性預金」という制度を頼まず、金融機関を選別することは、市場規律を高めることにつながるため望ましい。しかし、その際、優良な銀行のみならず、破綻し難いという意味で単に大きな銀行を選ぶ傾向も強くなってきている。バブル崩壊以降の十数年の間に銀行業の生じた最も大きな変化は、金融機関の破綻、合併・統合に伴う市場構造の寡占化である。
 メガバンクも3グループに集約されることになり、信金・信組の数なども大幅に減少している。こうした状況で懸念されるのは、金融機関の寡占化、競争低下による利用者の利便性の低下である。例えば、合併による支店の統合も銀行側にとってはコスト削減に資するが、利用者側にとって不便になるのは明らかだ。また、寡占化の進行が、利用者にとって不利な金利、手数料の設定に繋がっていないか目を光らせることが重要だ。
 緊急時から平時への対応に力点の移った2005年の金融行政は、「金融重点強化プログラム」に盛り込まれたコングロマリット化推進によって、金融機関を更に大きくして国際競争力を強化することよりも、むしろ寡占化の弊害を認識し、国内での健全な競争促進に努めるべきである。

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鶴 光太郎(つる こうたろう)
経済産業研究所上席研究員。1984年東京大学理学部数学科卒。オックスフォード大学Ph.D. (経済学)。経済企画庁、OECD経済局エコノミスト、日銀金融研究所を経て現職。著書に『日本的市場経済システム:強みと弱みの検証』、『日本の財政改革』(共著)等。

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2005 01 13 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2004.12.12

[フィナンシャルi] 銀行貸出増加へのハードル

 2003年に5%程度だった銀行貸出の対前年比減少率は2004年9月末で3%にまで縮小した。02年初来の循環的景気回復、ゼロ金利政策長期継続という追い風もあって銀行部門の不良債権処理は着実に進展しており、信用リスク許容度の拡大とともに銀行の貸出スタンスも個人・中小企業向けを中心に積極姿勢に転じている。ただ、今後の貸出動向の鍵を握るのはむしろ貸出需要サイド、つまり企業部門資金需要の強弱いかんである。(白石誠司)

 98年度以降、非金融法人部門の資金余剰が続いている。これは企業がバブル崩壊後の過剰債務問題に対処するため借金返済を優先し続けてきたことに対応する。
 04年の全産業売上高・有利子負債残高比率はほぼ88年水準にあり、マクロ的にみて過剰債務問題が終息したとは必ずしもいえない。企業の債務圧縮の動きはそのペースこそ鈍化してもまだ数年は継続する公算がある。
 さらに銀行の貸出増加を阻む二つの構造的要因が存在する。一つは企業部門の極めて潤沢なキャッシュフローの存在であり、もう一つは企業の構造的人件費抑制スタンスを背景に内需主導の自律的景気回復が期待しにくい点である。
 財務省の法人企業統計によれば、04年4~6月期の非金融法人部門の設備投資/キャッシュフロー比率は昨秋来の力強い設備投資拡大傾向にも関わらず史上最低圏の66%にとどまった。企業は銀行借入をしなくても極めて高水準の設備投資を実施出来る財務状況にある。
 しかも、この構図は、技術革新を背景とした半ば構造的な資本財物価デフレのもとで今後も根強く継続する可能性がある。
 キャッシュフローの過半を占める減価償却費は過去の設備取得原価に基づいて計上される。一貫した資本財物価デフレ下においては、昔の高い設備取得原価に基づいて計上される減価償却費が潤沢となる一方で、当該キャッシュフローの設備購買力は高まり続けるという循環が働くためである。
 また、日本の製造業は経済のグローバル化という流れの中で、低廉な労働力を有する新興工業国との競争激化を余儀なくされており、景気回復下においても人件費抑制スタンスを大きくは崩していない。非製造業もパート比率引き上げによる人件費抑制に余念が無い。
 こうした企業部門の労働分配率引き下げは個人消費、延いては内需主導の自律的景気回復の障害となり、延いては企業の能力増強投資抑制につながる。実際、最近の設備投資動向をみると、外需・IT関連などの一部特需業種で能力増強投資がみられるものの、全体的にはこれまで抑制されていた更新投資が顕在化している色彩が濃い。
 一方、貸出金利の動きをみると新規貸出平均金利が残高ベースの貸出平均金利より0.2%程度低い状態が続いている。全体平均よりも低いものを加えて平均値を出すと全体平均が低下するという意味において、残高平均金利の低下傾向は今後も続く。
 このことは、貸出残高と残高貸出平均金利の積である銀行の貸出受取利息額がまだ根強い減少トレンドにあることを意味する。銀行は引き続き(価格変動リスクに留意しながらも)債券投資による期間収益獲得を重視せざるをえない環境に置かれているといえる。

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白石誠司
早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1988年4月中央信託銀行入行。91年4月日本経済研究センター出向、92年4月に中央信託に戻り調査部、資金証券部(債券ディーラー)。98年1月大和総研入社、経済調査部。01年4月から大和証券SMBC債券調査部チーフマーケットエコノミスト。日経公社債情報第9回債券アナリスト・エコノミスト人気調査(2004年3月8日発表)エコノミスト部門第7位。

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2004 12 12 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2004.12.07

[コラム] 「金融サービス立国」は実現するか?

 皆さん、こんにちは。木村剛です。本日は金融先物取引法の改正について書いてみようと思います。


 12月1日、証拠金さえ預け入れればその数倍の為替売買ができる「外国為替証拠金取引」を包括的に規制する改正金融先物取引法が成立した。このところ、悪徳業者が急増し、被害者が続出していただけに、関係者の努力を多としたい。
 「金融ビッグバン」を合言葉に実施された1998年の外為法改正を契機に、外国為替業務の参入規制が撤廃されたため、事業者が急増。今では証券会社22社、商品取引業者50社、独立系事業者230社程度が参入を果たしており、証拠金残高は二千億円を越える。10万近い口座数があるという試算もある。
 これまでは事実上野放し状態だったのだが、今後は最低資本金を義務付けるほか、自己資本規制比率が導入され、財務体力のない業者は多数排除されることとなる。これで、被害者の数は減少に向かうことが期待されよう。
さらに注目されるのは、行為規制だ。電話勧誘が禁止され、顧客宅を訪問する飛び込み営業も禁止される。押し売りまがいの強引な勧誘や取引停止に応じないというトラブルが続出していただけに、顧客が望まない電話や訪問による勧誘(不招請勧誘)が他の金融取引に先んじて禁じられることとなった。
 しかもこれからは、証券取引等監視委員会の検査が入ることとなる。今後は、広告やセミナーやインターネットを通じた勧誘が主流となるはずだ。
 金融市場の最前線では、こうした厳しい規制が導入されることを受けて、事業をストップする商品先物会社がでてきたり、資本増強に追われる会社が出てきたりしている。
 もっとも、不招請勧誘を禁じた当ルールは、銀行や証券、保険等における金融取引と比較しても厳しく、外国為替証拠金取引の業者からすれば、これまでの自由奔放な空き地から、鎖でがんじがらめの檻の中にいきなり閉じ込められた感がするのではないか。
 多くの投資家が外貨リスクに対する過度なアレルギーをなくしつつあるので、外貨に慣れた後には、株価リスクに対する抵抗感を相当無くしてくれるのではあるまいか、そうすれば株式市場もさらに活況を呈するのではないか、という前向きの期待があっただけに、悪質業者が跋扈したことは極めて残念であった。わが国金融市場は、絶好の拡大チャンスを逃した格好だ。
 しかしだからこそ、悪質業者が駆逐された後には、他の金融取引に関する行為規制と十分に比較した上で、フェアな環境を整えるべきである。そうでないと、裾野を広げつつあるわが国金融市場は窒息して縮小に向かうかもしれない。
 そういう意味では、金融重点プログラムの中間論点整理において検討対象とされた「投資サービス法」の出来具合が注目されよう。金融庁は現行の規制を総点検した上で、不要な規制は撤廃するとも宣言している。状況が好転した場合には、今回の改正金融先物取引法を冷静に再考することについてもためらうべきではあるまい。
 金融行政においては、わが国金融市場を魅力的にするための工夫を絞って、世界に誇れる「金融サービス大国」を実現してもらいたいと心から願っている。


(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に12月6日に掲載したものです

2004 12 07 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2004.12.05

[フィナンシャルi] 富裕層囲い込みに相次ぎ新手法

 経済の発展とともに世界的に資産家が増えている。日本も例外ではない。不況が続く中、企業は総花的で低収益の事業から集中的で高収益なものへと転換することを迫られているが、富裕層への集中的なアプローチは一つの有力な着眼点だ。(マーケティングコンサルタント 高端 眞人)

 メリルリンチが今年5月に発表した調査結果によると、2003年末時点の日本で100万ドル(約1億1000万円=当時のレートで計算)以上の金融資産を持つ富裕層は前年末より5.8%増えて131万2000人。年収100万円程度のフリーターが増え続ける一方で、お金持ちも増えている。こうした富裕層を囲い込もうと、新たなサービスや販売手法をスタートさせる試みが続々と登場している。

 金融機関のプライベートバンキング(PB)はその代表例だ。PBとは、富裕な個人のために資産管理・運用から不動産の相続対策など、マネーに関する要望に総合的に応えるサービス。対象となるのは通常、金融資産1億円以上の富裕層だ。日本の富裕層を狙って、欧米の大手銀行のPB部門が活発に顧客獲得に乗り出しているほか、日本の銀行などの金融機関もその成長性に注目し、体制強化を図っている。
 こうした取り組みは金融機関だけではない。
 トヨタは今年5月、これまで「完璧な高級車」として米国で販売し、好評を得てきたレクサスを来年、日本市場に投入することを発表した。開発から販売まで、トヨタブランドと切り離した別ブランド組織を構築するというまったく新しい戦略を打ち出した。その思想も「最高の商品」を「最高の販売・サービス」で提供することにより、「高級の本質」を追求すること。人材も「レクサスの思想を共有し、実践できる人」を採用するという。ホテルのコンシェルジュを連想させる。
 米国でもレクサスは1989年のスタートからトヨタとのつながりを見せない別ブランドで販売されてきた。そして今では「格好いいクルマ」の代名詞だ。当時の米国ではトヨタのイメージが現在ほど良くなかったため、もしレクサスがトヨタブランドで売られていたら、決して成功しなかっただろうといわれる。今回は、米国でとった手法を日本に持ち込む作戦である。

 一方、全日本空輸(ANA)は今年10月、医師、歯科医師を顧客層として囲い込むため、医療系人材に特化したユニークな人材紹介会社キャリアブレインと提携を結んだ。医師などがこの会社に登録したり、転職が成立する度に、登録・転職者にANAマイレージクラブのマイルが貯まる。医師や歯科医師は収入が高いうえ、学会出席などで航空機の利用頻度が多い。このような特定の消費者層を対象とした会員獲得の試みは、日本の航空会社では初めてという。
 富裕層がハワイへの旅行・滞在を好むことはよく知られている。子供の米国籍を取得するため、ハワイでの出産を望む富裕層のカップルが増えていることに着目したのが、ハワイ出産をサポートするコンサルティングを3年前から提供する東京・世田谷区の時任英陽さん(36)。時任夫妻は自らもハワイで二子を出産し、その経験を生かしてハワイ出産を希望するカップルに病院や国籍取得手続きなどのノウハウを授ける。1年に約20件の相談を受けるが、滞在費などで費用がかさむことから「ほとんどは年収3000万円以上の富裕層」。職業は実業家や芸能人が多いという。

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高端眞人(たかはし・まさと) マーケティングコンサルタント。1990年、早稲田大学政経学部経済学科卒、読売新聞社に入社。2003年、マーケティングとPRに関する総合コンサルティングを行う日本メディアストラテジー株式会社を設立、代表取締役を務める。大手企業などのマーケティングコミュニケーション戦略のプロジェクトを統括する傍ら、月刊誌などに執筆。著書に『宣伝費ゼロの新しいPR術』(河出書房新社)など。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に11月29日に掲載したものです。

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2004.11.29

[フィナンシャルi ] 経済・物価・日銀のシナリオ

 10月29日に日銀が公表した「経済・物価情勢の展望」(通称「展望レポート」)は、2005年度の日本経済について、景気拡大傾向が続くとともに、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)が8年振りにプラスに転じるとの見通しを示した。こうした見通しは、日銀の今後の金融政策を占う上で意義深いものといえる。

全般に強気な見通し
 日銀は、毎年 4月と10月の年 2回、展望レポートにおいて、経済・物価情勢に対する見通しを公表している。見通しは、金融政策の方針を決定する金融政策決定会合のメンバーである政策委員によって行われる。
今般、公表された展望レポートをみると、実質国内総生産(GDP)、国内企業物価指数、消費者物価指数(除く生鮮食品)について、次のとおり、04年度については4月時点の見通しよりも全般に上振れとなった。
 さらに、05年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)について、政策委員見通しの中央値が8年ぶりのプラスに転じるとの見通しを示したことが、金融関係者の間で注目を集めた。
 日銀は、03年10月、量的緩和政策と呼ばれている現行の超金融緩和政策について、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続するという方針を打ち出しているからだ。
 消費者物価指数が上昇に転じるということは、金融政策の変更が視野に入ってきたことを意味する。

政策変更に慎重姿勢
 ところが、福井日銀総裁は最近の講演の中で、「生産性の向上を基本的な背景として物価が反応しにくいという状況が続いていくのであれば、金融政策運営の面で余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられる」という、やや"禅問答的表現”を用いるなど、金融政策の変更については非常に慎重な言い振りをしている。
 こうした説明振りに終始せざるを得ない背景にある経済見通しは、次のようなものだ。
 展望レポートでは、04 年度下期から05 年度までの日本経済について、海外経済が拡大を続け国内の構造調整圧力も和らいできている中で、景気は回復を続けると予想している。
 すなわち、海外経済の先行きについては、原油価格の上昇がブレーキをかけるものの、米国や中国を中心に拡大が続いていくとみている。
 景気の下押し要因として一頃は懸念されていたIT(情報技術)関連財の在庫調整に関しても、デジタル家電市場が成長期にあることなどから、基本的には軽度の調整で終わる可能性が高いとみている。
 また、国内経済をみても、設備投資については内需関連分野も含めて増加を続ける可能性が高いとみているほか、企業収益の増加などを背景に、雇用者所得は緩やかな増加に転じる可能性が高く、個人消費は緩やかに増加していくと予想している。
 このような景気回復を反映して、物価の基調的な動きに影響するマクロ的な需給バランスは改善が続いていくことから、消費者物価指数(除く生鮮食品)についても、前述のとおり05年度はプラスに転化するというのが展望レポートのメインシナリオだ。
 ただ、物価の下振れ要因の一つとして、ユニットレーバーコスト(1単位の生産に対して支払われる賃金)を挙げている。すなわち、パート利用の拡大や生産性の上昇によりユニットレーバーコストが低下を続けた場合には、消費者物価指数が下押しされる可能性を指摘している。
 「景気回復と言われても、職場での労働強化(生産性向上)やパート利用の拡大が止まらないという我々の厳しい職場環境が是正される兆しは一向にない」という私たちの景況感にあったリスクシナリオともいえる。


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2004 11 29 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2004.11.22

[フィナンシャルi] 急増する地方の再生ファンド

 都道府県単位など地方レベルでの事業再生ファンド(基金)が急増している。県をまたぐ広域のファンドも含め、すでに二十五件以上のファンドが設定(予定)もしくは運用開始されており、ほぼ全国をカバーした。ファンド急増の背景には、地銀レベルでも不良債権処理の最終段階を迎え、融資先企業の再生へ本腰をいれ始めたことがある。

 地域レベルの事業再生ファンドは、地方銀行など地域金融機関と投資会社が共同で設計したファンドで、その地銀の融資先企業を対象に債権を買い取り、再生を助けるのが目的だ。
 具体的には、ファンドは一部の債権放棄も含めて対象企業の財務健全化を実現し、事業領域の見直しなどを指導する。主として、その企業の収益力向上を通じた債権回収額の増額により投資を回収する。

再生実績を重視
 地銀主導のケースが多いため、県単位の企業を投資対象とするファンドが多いが、中には近隣の県の金融機関が共同で企画したファンドもある。中堅・中小企業が対象のため、大手企業対象のファンドほど投資利回りは期待できないが、地銀同士で他の地域のファンドへ出資するなど、利回りより再生実績重視の投資家を集めてファンド組成している。
 十月には、沖縄海邦銀行が投資会社リサ・パートナーズ運用の「かいほう事業再生ファンド」をスタートさせたほか、東京都が「東京チャレンジファンド」(運用は大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツ)を作った。また、足利銀行など栃木県内の金融機関が今夏作った「とちぎ地域企業再生ファンド」(運用はとちぎインベストメントパートナーズ)は十月末に、産業再生機構が支援している皮革メーカーの栃木レザーを第一号投資先に決めた。
 日本政策投資銀行のまとめによると、地域型の事業再生ファンド(計画の公表ベース)は十月までで二十五件ある。複数県対象のファンドがあるので、すでにほぼ全国をカバーしている。その他にも設立の動きは盛んで、地域型再生ファンドは年内にも三十件に到達する勢いだ。
 地域型の再生ファンドが登場したのは昨年の秋以降のことだ。急増の背景には、まず、体力のある地銀が引当金不足の解消など抜本的な不良債権処理の準備を終え、しっかりしたコア事業を持ちながら過剰債務に悩む企業の再生を助ける段階に入ったことがある。
 それに、金融庁が昨春出した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」で、事業再生ファンドを例示して、地域の中小企業の再生支援策を求めていることも各地域金融機関の動きを後押ししている。 また、日本政策投資銀行や中小企業基盤整備機構からの出資という公的な資金支援を受けるケースもある。

登場1年で課題も

 そんな地域型の再生ファンドだが、登場から一年で早くも課題も見えてきている。ファンド業界によると、ファンドを設けたけれども対象企業が見つからない事例や、ファンドが地銀の希望する企業向けの債権を買い、地銀側の不良債権オフバランス化が進んでも、その対象企業の再建策が作りにくいケースなどが出ているという。
 逆に、再建策がはっきりしている企業の場合、ファンドの投資から一、二年で、「卒業」することが多い。
 六件のファンド運用を獲得しているリサ・パートナーズの田中敏明常務は「各地銀はいろんな仕組みを試しており、有力地銀は複数のファンドを持つことになりそうだ。我々としてもニーズに応えたファンドの提案をしていく」と言う。同社は、対象企業ごとにファンドを作り、投資家も募集する方法により、最近、ファンド運用受注を増やしている。
 地域金融機関の間では、この一年、とにかく再生ファンドを作るのがブームの様子だった。今後は、対象企業の再建に適した仕組みを考えてのファンド企画が増える見通しで、地域の中堅・中小企業の再生を通じた地域経済の活性化へ向け、金融機関の試行錯誤はまだまだ続く。


(ジャーナリスト 和田勉)
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1966年京都府生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、日本経済新聞社に入社。産業部や国際部などの記者を経て、1998年から3年間、テレビ東京に出向して経済部記者を務めた。2001年からフリーの経済ジャーナリストに。著書に『買収ファンド』(2002年4月、光文社新書)、『企業再生ファンド』(2003年4月、同)、『事業再生ファンド』(2004年8月、ダイヤモンド社)がある。


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2004.11.15

[フィナンシャルi] 専門性向上求められるFP技能士

 日本でも、金融アドバイザーの存在が確固たる地位を獲得しつつある。金融アドバイザーの代表ともいえるFP(ファイナンシャル・プランナー)資格が、日本で創設されたのは一九八七年。プラザ合意の翌年にスタートしたアメリカンモデルの資格は、バブルによる資産膨張と軌を一にするように成長した。以来二十年弱、定着したFP資格の現状と将来を探る。(資格コンサルタント 高島徹治)

象徴的なエピソードをひとつ。生保業界においていわれていた俗言に、「顧客勧誘の決め手はGNP」というのがある。GNP、すなわち義理(giri) 、人情(ninjyo)、プレゼント(present) 。しかし、いまやそれは「GDP」にの座を譲った。業務男子、データ、プロの知識である。いってみれば、情に訴える営業から専門性による営業への転換である。こうした金融業界のトレンドの象徴的存在がFPである。
先進的な業界企業は、社員の専門性を涵養するため多くの力を注いでいる。たとえば大和証券では、専門□の取得を奨励し、ファイナンシャル・プランナーのひとつであるCertifed Financial Planner (CFP)や、証券アナリスト、税理士などの取得を昇進の条件にすることを計画中だ。この種の事例は、枚挙にいとまがない。
 付随的に一つ付け加えれば、福井銀行では、国家認定の有力資格に、最大十万円までの補助金を支給して、社員の自己啓発意欲を喚起している。有力資格とは、一級ファイナンシャル・プランナー、中小企業診断士、社会保険労務士などの四資格。

累計18万人超す

そもそもFP資格は、個人金融資産の運用に敏感なアメリカに端を発した。中でも、有名な団体は CFP試験の実施団体であるCFP Boardと、IAFPだが、いずれも国家資格でも州の資格でもない。このほかにも、FPとしてのスキルアップを目的として結成されている団体は数しれず、実態は把握しにくいほどだ。
日本におけるFP資格も、黎明期以降、公的資格である社団法人・金融財政事情研究会認定資格と、民間資格である日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定資格(AFPおよびCFP)に二分されていた。しかしこれが、二〇〇二年に統一され、FP技能士という国家資格に昇格し、FP資格新時代を迎えている(ただし、後者は固有資格も残存させている)。
現在、国家資格の受験者は年間延べ約十六万人いる。受験者数ランキングでは、全資格のうちベスト10前後に入る。また、これまで前述の二団体の資格の合格者は、累計十八万人を優に越える。
ただし、この中で本来業務である相談業務を主にしている独立ファイナンシャル・プランナーは、一割にも満たない。その他の多くは、金融機関の企業内資格者である。その意味で、FP技能士が自立した職業として成立するためには、いま少し日本社会の成熟とともに、FP技能士自身の専門性の向上が必要だ。

強い倫理観必要

 独立プランナーにしても、収入源をフィー(相談料)に依拠するか、コミッション(手数料)に依拠するかの問題がある。前者は、顧客の立場に立った相談業務への対価であり、後者は顧客の資産運用に役立つ商品を紹介することによって、販売者側から得る手数料である。
後者は、建前上は「顧客のため」であるが、実態的には顧客と販売者の利益相反をめぐるプランナー自身の倫理感
の問題を内包する。FP技能士試験でも、関連業法とともに倫理の項目を必須科目としているのは、そのためだ。
 金融先進国アメリカでも、一時FPビジネスに陰りが見えたことがあるが、生き残ったのは安易なセールス型のFPではなく、強い倫理観のもと、トータルに顧客の立場にたつコンサルタント型のFPであった。
 日本では、かつての「安全と水はタダ」という神話が崩れつつある。「相談は無料」という風土も変化している。個人金融資産が一千四百二十六兆円( 日銀資金循環統計速報・六月末)にのぼる環境、複雑な金融商品の増加、不安定な老後など、中立的で独立したFPの活躍の土壌は整た。国民へのFPサービスの定着に今ひとつ飛躍が必要なときだ。

・・・・・・・・・・・・・
高島徹治(たかしま てつ)早稲田大学政治経済学部中退。週刊誌記者、出版会社経営などの後、資格評論ほか多分野で活躍する。社会保険労務士、行政書士。著書『社会人の「勉強の技術」』ほか多数。

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2004.10.25

[フィナンシャル i ] "ピザパン化”する地価の姿

 先月二一日に国土交通省が発表した二〇〇四年の基準地価は、「東京都区部を中心として下げ止まりの傾向が強まるとともに、(中略)近接する地域に広がりを見せ始めている」として、地価の下げ止まり感が都心から郊外へ波及しつつある姿を示した。

自らの価値観で

 〇四年の基準地価においては、東京二十三区の住宅地で、「上昇」と「横ばい」に、下落率一%未満の「ほぼ横ばい」を加えた地点の割合が六二%となり五割を超えた。さらに下げ止まり感は東京近郊の都市にも波及し、千葉県浦安市などでも上昇地点が現われた。戦後、都心部の地価が上昇しドーナツの中心に穴があくように人々は郊外へと移った。いわゆる「ドーナツ化現象」である。
 ところがバブル崩壊後の十年間は都心の地価が下がり、逆に郊外から都心に居を移す人が増えた。マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は、この現象を人々があんパンの「あん」のように詰まっていくので、「あんパン化現象」と名付けた。
 一方、都心の地価が下げ止まりつつあるなかで、最近は都心離れの動きも確認される。人々の価値観が多様化したことで、感性や趣味によって好まれるエリアが選別され始めた。西川氏はこの現象を「ピザパン化現象」と命名した。ピザパンに点在するサラミやトマトなどの具の中で好きなものから食べるように、自分の価値観に従って住む場所を決める傾向が強まりつつあるということだ。
 不動産情報サービス会社の東京カンテイ市場調査室の中山登志朗主任研究員は、郊外で地価が上昇に転じた地点に共通する特徴として、「事業集積地としての利便性、周辺の住環境、ブランドイメージの良さ」を指摘する。

距離には比例せず

 住宅地の価格が単純に都心からの距離に比例しない例として、東京都世田谷区二子玉川が指摘できる。このエリアの地価は九九年の坪一七五万円から〇三年には二〇一万円に上昇したが、より都心に近い駒沢大学は同期間にほぼ横ばいにとどまっている。二子玉川は商業集積地として利便性が高く、ブランドイメージの良さや、近隣に高級住宅街が存在することが地価を押し上げているもようだ。
 一方で都心では、単身者やDINKS(子どもにいない共働き家庭)を主な対象とした「都市型コンパクトマンション」の供給が拡大している。コンパクトマンションの供給増加は、狭くとも都心の利便性を享受したいと思えば、それを満たす物件も選択できることを意味する。これらの事例は、西川氏の造語に例えれば、さしずめピザパンのサラミやトマトに相当するのかもしれない。
 「こだわり消費」という言葉もあるように、消費に関する個人の価値観が多様化していると指摘されて久しい。
 住まいの選択にも、住環境のいい郊外を選択するか、利便性の高い都市部を選択するか、個人の価値観が顕著に現われはじめた。多様化する個人の価値観を背景に、地価の「ピザパン化現象」は、今後も続くものとみられる。

(追伸)「週刊!木村剛」は、総合ビジネス月刊誌誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に10月18日に掲載したものです。

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2004.10.18

[フィナンシャルi] 刑事告発とUFJのガバナンス改革

 金融庁は七日、検査忌避を理由にUFJ銀行を銀行法違反容疑で東京地検に告発した。マスコミは刑事告発に対するUFJの真摯な対応を求める論調一辺倒だ。ただその割には、UFJが打ち出した検査忌避対策の内容についてはあまり知られていないように見える。

 すでに二ヶ月以上前の七月二十八日、UFJ銀行は「金融庁検査における対応等に関する業務改善計画について」というプレスリリースを出し、大胆なガバナンス(企業統治)改革を打ち出している。
 じつは、UFJ銀行が打ち出したガバナンス改革は、経営陣に対する厳しい内容を含んでおり、わが国におけるコーポレート・ガバナンスの手本ともいうべきものとなっている。わが国の銀行において、ここまで徹底したガバナンスを整備した事例はなく、少なくともガバナンス改革の「器」に関するかぎり、高い評価を与えてよい。

 外部専門家のみで

 その中でも中核となるのが、業務監視委員会である。
 まずUFJ銀行は、社外取締役を複数名新たに任用するのだが、その取締役は業務監視委員会委員長と委員に就任する。その業務監視委員会は、外部専門家のみで組織されることとなっており、独立性については厳格に担保される工夫が凝らされている。
 例えば、業務監視委員会には、内部監査部門を監督・指揮する全ての権限が付与されるほか、経営陣から独立した立場で、取締役会および金融庁に対し、リスク管理、コンプライアンスならびに内部監査の状況について報告する権限を持っている。さらに、頭取を含む執行取締役および執行役員は、法令等遵守に関し「宣誓書」を業務監視委員会に提出する扱いになっており、法令違反等があれば辞任することとなるという。
 つまり、今後のUFJにおいては、業務監視委員会がガバナンスのスーパーパワーとして、経営陣の監督を行い、不備がある場合には、金融庁に直接報告するというわけだ。ここまでの厳しいガバナンスは、欧米銀行においても見られないのではないか。
 もっとも、コンプライアンス違反をする日本企業の得意技は、「仏作って魂入れず」というパターン。「器」は立派にできているのに、その器に入る「人」が機能しない場合が往々にしてある。実際に業務監視委員会のメンバーが決まって、具体的な活動をはじめるまでは何とも評価のしようがない。

 これからが正念場

 業務監視委員会委員長には法曹界から迎えるとか、委員として腕利きの公認会計士を招聘するとか、色々な噂が駆け巡っているが、果たして、「器」倒れに終わるのか、それとも「器」に魂を吹き込んで、わが国銀行界におけるコーポレート・ガバナンスの新しいスタンダードを形成することになるのかが問われている。
 その意味で、UFJ銀行のガバナンス改革はこれからが本当の正念場。
 だからこそ、伊藤達也金融担当相は、「今回の告発は旧経営陣の下、過去に行われた行為に対して行ったもの」と明確に指摘した上で、「新経営陣の下、ガバナンス態勢の充実・強化に取り組んでいるものと承知しており、金融庁としては、新経営陣には、これらの着実な推進を期待している」と語っているのだ。
 刑事告発でアク抜けするのか、それとも新たな試練の始まりとなるのかー。それは、業務監視委員会によるこれからの獅子奮迅の働きぶりにかかっている。UFJ銀行の再生に期待したい。
刑事告発でアク抜けするのか、それとも新たな試練の始まりとなるのか――それは業務監視委員会のこれからの働きぶりにかかっている。UFJ銀行の再生に期待したい。

(追伸)「週刊!木村剛」は、10月21日創刊の総合ビジネス誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に10月11日に掲載したものです。
 今月21日に総合ビジネス誌「フィナンシャルジャパン」を創刊するとともに、28日に新著「おカネの発想法」を上梓することを記念して、今月26日にタカシマヤタイムズスクウェア紀伊国屋書店新宿南店7Fの紀伊国屋サザンシアターにて記念講演を無料にて催します。お時間のある方は是非お立ち寄りください。申し込みはコチラまで。

2004 10 18 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック

2004.10.11

[フィナンシャルi] 日銀金融政策 出口見えるか

 日本の景気回復の持続力に関して、市場が揺れている。一日に発表された九月の日銀短観(企業短期経済観測調査)では、大企業製造業の業況判断DIがプラス二六と六期連続の改善となった。しかし足元、株価は低迷し、長期金利も低下傾向が続いている。
 この背景には、市場における「景気が変調をきたしている」との思惑がある。このような状況の下で、金融政策における「出口論議」も今年前半と比べて下火となりつつある。

 実際、同じく一日に発表された八月の消費者物価(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比〇.二%と前年水準を下回り、年初来、前年同月比横ばい、または小幅の下落が続いている。
 原油価格の高騰や原材料価格の上昇などを受けて、「川上」の国内企業物価の上昇率が高まっているが、その影響は今のところ「川下」の消費者物価には波及しておらず、「緩やかなデフレ」状態が持続している。
 金融政策の変更は、中央銀行が景気や物価の動きを総合的に判断した上で行われる。しかし、日銀は二〇〇一年三月に、デフレ経済に対処するため、思い切った金融緩和に踏み切ることが必要と判断。ゼロ金利政策を「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続する」という異例な措置を講じている。
 福井俊彦総裁は、「出口政策はそんなに至近距離で考えていない、かなり遠い先の話」と強調する。二〇〇五年三月限月の円金利先物(三ヵ月物)の金利は〇・一%強と、来年三月時点でも短期金利が現行水準程度にとどまる可能性を示している。
 ただし、今年に入ってからの市場における景況感は、過度に楽観に触れた感も否めない。四-六月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率一・三%にとどまったが、これには、中国の需要に伴う鉄鋼業の復権やアテネ五輪を控えた新三種の神器(デジタルカメラ、DVDレコーダー、薄型テレビ)人気などを背景にした、昨年十~十二月期(同七・六%)および一~三月期(同六・四%)の高すぎた成長の反動という面もある。
 多くのエコノミストは景気がデフレを脱却しうる力を維持できるかという点に確信が持てないでいるが、堅調な個人消費や設備投資の推移をみれば、四~六月期のGDPをもって景気が減速局面に入ったとみるのは早計かもしれない。
 問題は、景気回復が確実となったときに何が起こるかにある。先進各国において最悪の状態にある日本の財政赤字の現状を見れば、景気が回復するなかで長期金利が自然な水準以上に跳ね上がるリスクは常に存在する。
 景気回復自体は望ましいことであるが、原油や原材料価格の上昇が、今後「緩やかなデフレ」に終止符を打つ可能性がある。デフレからの脱却が見え隠れする一方で、長期的な財政赤字削減の処方箋が見えない現状において、日本銀行にとっての新たな試練がこれから始まる。


(追伸)「週刊!木村剛」は、10月21日創刊の総合ビジネス誌「フィナンシャルジャパン」(年間購読はココ)および「フジサンケイビジネスアイ」(購読希望はココ)とメディア・コラボレーションしています。本日の記事は、「フジサンケイビジネスアイ」に10月4日に掲載したものです。

2004 10 11 [14. フィナンシャルi ] | 固定リンク | トラックバック